モーダルシフトの取組み強化・多様な輸送モードも活用した新モーダルシフトとは?

モーダルシフトの取組み強化・多様な輸送モードも活用した新モーダルシフトとは?

2023年6月にまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」を受け、7月に「モーダルシフト推進・標準化分科会」が設置され、11月には具体的な施策がまとめられました。

その後の議論を踏まえ、2030年に予測される輸送力不足(34%)を解消するため、従来のトラック輸送から鉄道や内航海運への切り替え(モーダルシフト)に加え、陸・海・空のすべての輸送手段を活用する新たな対策が策定されました。

本記事では、新モーダルシフトについて、その背景や特徴、導入のメリット・課題について解説します。

 

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モーダルシフトとは?

モーダルシフトとは、トラックによる貨物輸送を 鉄道や船(内航海運) に切り替えることで、物流の効率化や環境負荷の軽減を目指す取り組みのことで、その背景には、トラックドライバー不足(2024年問題)への対応、CO₂排出削減、長距離輸送の効率化などがあります。

ドライバーの負担を軽減し、大量輸送が可能で、安定した物流の実現、燃費効率が良く、環境にやさしいといったメリットがあります。

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モーダルシフトの主な輸送手段と特徴

モーダルシフトは、鉄道・船・航空・トラックを組み合わせることで、物流の効率化と環境負荷の低減を目指します。

それぞれの輸送手段の特徴についてまとめました。

輸送手段 特徴 適した用途
鉄道輸送(コンテナ列車) 大量輸送・定時運行・環境負荷低 長距離輸送(食品・製紙・自動車部品)
内航海運(国内の船舶輸送) 低コスト・CO₂削減・大量輸送 長距離のバルク輸送(製紙・鉄鋼・自動車)
航空輸送(貨物便) 超高速・高コスト 医薬品・半導体・ECの即日配送
トラック輸送(補完的な役割) 柔軟な対応・短距離輸送に最適 ラストワンマイル配送・緊急輸送

新モーダルシフトの特徴とは?

国土交通省は、2023年6月にとりまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」を受け、「官民物流標準化懇談会」の下にモーダルシフトの推進及びコンテナ等の導入促進について重点的に議論・検討する「モーダルシフト推進・標準化分科会」を同年7月に設置しました。

その後の分科会での議論等を踏まえ、2030年度に不足する輸送力34%の解消をより確かなものとすべく、従来のトラック輸送から鉄道と内航海運へのモーダルシフトに加えて、陸・海・空のあらゆる輸送モードを総動員して、トラックドライバー不足や物流網の障害などに対応するための「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」をとりまとめました。

①鉄道と内航海運へのモーダルシフトの取組みの更なる強化

・鉄道と内航海運における小口貨物の混載輸送やパレット化大型コンテナ・シャーシ等の確保けん引免許の取得の支援輸送余力等をより広い対象に見える化したシステムの導入

・鉄道による貨物輸送について、輸送需要の高まることが見込まれる貨物駅において、コンテナホームやコンテナ置き場の拡幅、線路改良、路盤強化などの施設整備への支援。また災害時に迅速かつ安定的に代行輸送を実施できる体制を確立するため、代行輸送の拠点となる貨物駅での円滑な積み替えが可能な施設の整備の推進

さらに、新幹線用の貨客混載により車両スペースの有効活用に向け、在来線を含めたビジネス拡大や新幹線による高速・多量輸送の事業化の推進の検討。

・内航海運について、フェリー・RORO船・コンテナ船の利用拡大に向けた、新船の投入や船舶の大型化、新規需要の創出への取り組み支援や、モーダルシフトに対応するためのコンテナやシャーシ置き場、岸壁の整備など、内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化の促進

また、モーダルシフトの受け皿をして期待されている内航海運については、自動運行船の本格的な商用運行の実現に向けた環境整備を進め、海技人材確保のための海技士資格の取得ルートの多様化や制度の改善等への取り組み。

②多様な輸送モードの活用

従来、モーダルシフトとは、トラック等の自動車で行われている貨物輸送が環境負荷の小さい鉄道や船舶へ転換することを指す用語とされてきましたが、近年の物流の技術確認等により、従来環境負荷が高いとされていたトラックや航空機なども、その運用条件によっては環境負荷の低減に資するケースが見られるようになってきています。

例えば、

・1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」は、荷主と物流事業者が連携したトラック輸送の省エネ化によるCO2排出量の削減が進められています。

自動運転トラックについては、レベル4自動運転時の運行効率向上によるCO2排出量の削減が期待されています。

航空物流についても、定期便の空きスペースの活用によりトラック輸送にかかるCO2排出量の削減が可能とされています。

こうした物流情勢の変化を踏まえ、多様な輸送モードも活用した新たなモーダルシフトの推進に向けた対応策を講じる必要があります。

③地域の産業政策・地域制作等との連携

新モーダルシフトの促進に向け、地域の貨物需要を取り込む際、一定規模以上の輸送ロットを確保するため、地方自治体等による企業誘致との連携、貨物駅・港湾等の輸送モード間の接続といった地域の産業政策との連携を図りながら、官民の多様な主体の参画の下で、地域物流の核となる拠点の整備が重要になります。

出典)

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001843346.pdf

モーダルシフト導入のメリットと課題

モーダルシフトを導入すると、企業・環境・社会にとって多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。詳しく解説します。

モーダルシフト導入のメリット

・CO₂排出削減

鉄道輸送・海上輸送はCO₂排出量が少なく、トラック輸送と比べると、CO₂排出量が約1/10に抑えられると言われています。また、企業のESG経営(環境対策)にも貢献します。

・長距離輸送のコスト削減

鉄道・海運の方が燃費効率が良いため、燃料費の削減になります。長距離ドライバーの負担が軽減されるため、ドライバーの人件費も削減できます。また、コンテナ輸送で一括輸送できるので、大容量輸送が可能になります。

・天候や道路渋滞の影響を受けにくい

道路渋滞の影響を受けず、安定した輸送が可能で、鉄道・海上輸送は定時性が高いとされています。

モーダルシフト導入の課題と解決策

課題 解決策
① 輸送時間の増加(リードタイムの長さ) 物流DX・共同輸送・ハブ拠点の活用
② インフラの制約(鉄道・港湾の少なさ) 鉄道貨物ターミナル・港湾施設の整備、政府補助金活用
③ 荷役・積み替えコストの増大 コンテナ規格統一・自動化・共同配送活用
④ 柔軟性の低さ(急ぎの荷物に対応しにくい) ハイブリッド輸送・ラストワンマイル最適化

①輸送時間の増加(リードタイムの長さ)

トラック輸送に比べ、鉄道・海運は輸送時間が長く、荷物の積み替えが必要なため、リードタイム(輸送時間)が長くなる課題があります。発着スケジュールが固定されているため、緊急輸送には不向きとされています。

【解決策】

・AIを活用した輸送計画の最適化

物流AIを活用し、最も効率的なルート・スケジュールを自動生成したり、需要予測を行い、最適な輸送手段を選択したりできます。

・IoTを活用し、リアルタイムで輸送状況を監視

トラック・鉄道・船舶の位置情報をリアルタイムで把握し、遅延リスクを最小化します。

・共同輸送の活用

異業種・同業種の企業と協力し、共同で鉄道コンテナを利用することで、輸送回数を増やし、納期短縮が可能になるなど、効率的な輸送ネットワークを構築できます。

・ハブ拠点(中継倉庫)の活用

主要都市に中継倉庫を設置し、ラストワンマイル配送を効率化できます。

② インフラの制約(鉄道・港湾の少なさ)

鉄道貨物ターミナルや港湾の拠点が少ない、最寄りのターミナルや港までのアクセスが悪いなど、インフラ面での制約があります。鉄道・船舶へのアクセスが悪く、輸送ルートが限られています。

【解決策】

・インフラ整備の推進

政府・自治体が主導し、鉄道貨物ターミナルや港湾施設を拡充したり、企業も拠点を鉄道・港湾の近くに移転することで、輸送効率を向上します。

・政府補助金の活用

モーダルシフトを進める企業に対し、「鉄道輸送・海運輸送導入支援補助金」を活用し、初期コストを削減できます。

③ 荷役・積み替えコストの増大

鉄道や海運に切り替えると、コンテナの積み替え作業が必要になり、荷役作業や輸送の中継コストが増加し、また、荷物の破損リスクも増えます。

【解決策】

・コンテナの規格統一

トラック・鉄道・船舶で共通のコンテナを使用することで、積み替え作業を削減したり、「ユニットロードシステム(ULD)※」を活用し、荷役効率を向上します。

※さまざまな荷物をパレットやコンテナなどの単位にまとめ、輸送・保管・荷役を効率化する物流の方式

・自動荷役システムの導入

自動フォークリフトやAIロボットを活用し、荷役作業の省力化を実現します。貨物の仕分けを自動化することで、積み替え時間を短縮できます。

・共同配送の活用

異業種の企業と協力し、1つの拠点で荷物をまとめて配送することで、積み替え作業を削減し、物流の効率化を図ります。

④ 柔軟性の低さ(急ぎの荷物に対応しにくい)

トラックはフレキシブルに対応が可能なのに対し、鉄道・船便は発着時間が固定されているため、緊急輸送や特急便には不向きです。

【解決策】

・ハイブリッド輸送の導入

「モーダルシフト+トラック輸送」の組み合わせで、緊急時の対応を強化します。また、長距離輸送は鉄道・船舶、短距離輸送はトラックを活用するなど、ハイブリッド輸送を行います。

・ラストワンマイルの最適化

ドローン配送・自動運転車を活用し、短時間での配送を実現します。拠点間の輸送は鉄道、最終配送はトラックで対応します。

モーダルシフトの最新事例

ネスレ日本株式会社・日本貨物鉄道株式会社・全国通運株式会社、日本運輸倉庫株式会社

ネスレ日本株式会社は、日本貨物鉄道株式会社とそのグループ会社である全国通運株式会社、日本運輸倉庫株式会社と連携し、食品・飲料業界初の中距離帯での定期貨物鉄道輸送として、新たに貨物鉄道とトラック輸送を併用した中国・四国方面への新ルートを構築し、2025年3月31日(月)より運用を開始します。

これにより、1日あたりの輸送量は最大340トンとなり、年間での輸送量は前年同期比で約1.6倍に、また年間約7,000台分 のトラック輸送の削減につながり、二酸化炭素(CO2)排出量を約1,100トン削減できる見込みとしています。

出典)https://www.nestle.co.jp/sites/g/files/pydnoa331/files/2024-02/20240221_nestle.pdf

日本通運株式会社・株式会社ジェイアール東日本物流

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社のグループ会社、日本通運株式会社は、東日本旅客鉄道株式会社のグループ会社、株式会社ジェイアール東日本物流と連携し、新幹線を利用した貨物輸送サービス「NXスーパーエクスプレスカーゴ」を2月26日(水)より開始します。「NXスーパーエクスプレスカーゴ」は新幹線荷物輸送サービス「はこビュンQuick」、「はこビュン」を利用した即日配達サービスです。「はこビュンQuick」、「はこビュン」は、スピーディで定時制の高い新幹線等の列車を活用した物流サービスで、新幹線の即時性、定時性、安定性を最大限に活用し、生鮮品、医療機器、緊急保守パーツなど即時輸送が必要なお荷物を、NXグループの物流ネットワークを活用して集荷から配達まで一貫輸送を行います(対象は法人のみ)。また、CO2排出量の削減や2024年問題に起因するトラックドライバー不足など物流課題の解決にも貢献しますとしています。

出典)https://www.nipponexpress-holdings.com/ja/press/2025/20250220-1.html

株式会社ニトリホールディングス・福山通運株式会社

株式会社ニトリホールディングスとニトリグループの物流部門を担う株式会社ホームロジスティクス、福山通運株式会社は、物流2024年問題におけるドライバーの労働力不足への対策及び環境負荷軽減、両社の物流効率改善に向けた協業を開始しました。

ホームロジスティクスが運営する物流センター間の輸送に、福山通運のダブル連結トラックを導入。ダブル連結トラックを活用することで、大型トラック2台分をドライバー1人で搬送することが可能となり、商品配送におけるドライバーの労働力不足を解消します。また、CO₂排出量の削減による地球温暖化や大気汚染などの環境負荷軽減に貢献します。

今後はダブル連結トラック導入エリアの拡大だけでなく、鉄道など車輛以外の輸送手段を用いたモーダルシフトなどに積極的に取り組み、輸送効率の向上を図るとともに、持続可能な社会の発展に貢献していきますとしています。

出典)https://www.nitorihd.co.jp/news/items/faa1074c2d66b532e709b326fa6ef363.pdf

まとめ

物流業界を取り巻く環境が大きく変化する中で、トラック輸送に依存しすぎた従来の構造は限界を迎えつつあります。本記事では、持続可能な物流を目指す「モーダルシフト」の基本から、新たな発想による「新モーダルシフト」まで、その全体像と具体的な取り組みを紹介しました。

鉄道・海運・航空など多様な輸送モードを組み合わせることで、環境負荷の低減や人手不足への対応、輸送の安定化といったさまざまな課題解決に寄与します。一方で、導入にはインフラ整備や業務フローの見直しといったハードルもあり、計画的かつ段階的な取り組みが不可欠です。

今後の物流においては、単なる輸送手段の切り替えではなく、業界全体が連携し、効率と持続性を両立させる“新しい標準”をつくっていくことが求められています。モーダルシフトは、その第一歩として、今まさに注目すべきキーワードです。

 

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この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

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