物流の未来を変える!フィジカルインターネットが荷主・物流会社にもたらすメリットとは?

物流の未来を変える!フィジカルインターネットが荷主・物流会社にもたらすメリットとは?

物流業界が直面する人手不足、積載率の低下、CO₂排出規制といった構造課題に対し、欧州を中心に注目されているのが「フィジカルインターネット」という新たな物流モデルです。

インターネットのように“つながる”仕組みを物流にも取り入れ、貨物やスペース、情報をオープンに共有することで、これまでの常識を覆す効率化が可能になると言われています。

本記事では、そんなフィジカルインターネットの基本と、荷主企業・物流会社が得られる具体的なメリットをわかりやすく解説します。

 

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フィジカルインターネットとは?

フィジカルインターネットは、一見、インターネット上を連想させる言葉ですが、実際には、物理的な商品の輸送にインターネットの仕組みを応用し、物流の仕組みを通信ネットワークのように標準化・共通化することで、より効率的で持続可能なグローバル物流ネットワークを構築しようという新たな物流のコンセプトです。

トラック等が持つ輸送スペースと倉庫が持つ保管・仕分けスペースをシェアすることによって、物流リソースの稼働率を向上させ、より少ない台数のトラックで荷物を運搬することで、消費燃料を抑制し、地球温暖化ガス排出量を削減します。

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フィジカルインターネットが必要とされる背景

日本の物流業界はいま、大きな転換期を迎えています。慢性的な人手不足燃料費や人件費の高騰、そして「物流2024年問題」など、従来型のやり方では立ち行かなくなる課題が次々に表面化しています。そんな中、注目されているのが“フィジカルインターネット”です。ここでは、なぜ今この考え方が必要とされているのか、背景を整理してお伝えします。

ドライバー不足と「物流2024年問題」

トラックドライバーの時間外労働が制限されることで、輸送力そのものが不足しています。限られたリソースでより多くの荷物を効率よく運ぶためには、企業の垣根を越えたネットワーク共有が不可欠です。フィジカルインターネットは、その解決の糸口になり得ます。

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空車率の高さと非効率な物流構造

日本国内では、トラックの平均積載率が50%を切る水準にとどまっています。つまり、半分以上の空間がムダになっているということです。改善するには、荷物や輸送手段を他社と共用する発想が求められます。

サプライチェーンのレジリエンス強化

コロナ禍や自然災害などで明らかになったのが、サプライチェーンのもろさです。拠点やルートが限定的だと、ひとたびトラブルが起きたときに流通が止まってしまいます。フィジカルインターネットでは、荷物がルートや事業者に依存せず、最適な経路を選んで流れるため、より強靱なネットワークが構築できます。

脱炭素・環境対応の必要性

CO₂排出量削減が求められる中、物流も例外ではありません。空荷の削減、ルートの最適化、モーダルシフトの促進など、環境負荷を抑える手段としてもフィジカルインターネットの思想は有効です。

荷主企業が得られるメリット

フィジカルインターネットの導入は、物流事業者だけでなく、荷主企業にとっても大きな価値をもたらします。これまで企業ごとに閉じていた物流網をオープンにし、柔軟かつ効率的に共有することで、単なる輸送コスト削減にとどまらない“強い物流”が実現可能になります。以下では、荷主企業にとって特に注目すべき3つのメリットを解説します。

配送コストの削減

従来の専属便や個別手配では、積載率の低下や車両の空回送によるムダが発生していました。フィジカルインターネットでは、複数企業が共通の配送リソースを共有し、貨物を最適に組み合わせて輸送するため、無駄な走行が減り、コストの圧縮が実現します。特に中小企業にとっては、大手並みのスケールメリットを享受できるチャンスにもなります。

複数業者とつながることで柔軟な輸送手段を確保

ネットワーク上で複数の物流パートナーと接続されるため、繁忙期や災害時など、従来なら対応が難しかったタイミングでも代替輸送手段を確保しやすくなります。単一業者に依存せず、多様な選択肢の中から“今、最適な手段”を選べるという点は、非常に大きな強みです。

安定供給・BCP(事業継続)体制の構築

サプライチェーンの寸断リスクが高まる中、どこか1か所にトラブルが生じても、他の経路や事業者で対応できる冗長性を持っておくことが重要です。フィジカルインターネットのネットワーク設計は、こうした“迂回性”や“切り替え可能性”を前提にしており、自然災害・パンデミック・社会情勢の変化など、さまざまなリスクに対して強い事業継続体制を構築できます。

物流会社が得られるメリット

フィジカルインターネットは、「モノの流れ」にITと共有の発想を取り入れた、次世代の物流ネットワークです。その可能性は荷主企業にとどまらず、物流事業者にとっても極めて実用的かつ戦略的な価値を持っています。ここでは、物流会社が得られる主な3つのメリットを紹介します。

積載率の向上 → 空車の削減

フィジカルインターネットの中核は「つながる物流」。複数の荷主企業や配送業者の貨物を組み合わせることで、これまで空車で走っていた区間にも荷物を載せられるようになります。これにより積載率が向上し、無駄な走行が減ることで燃料費や人件費の削減にもつながります。空車削減はそのまま利益率の改善にも直結します。

拠点・車両・人材を他社と共有 → 稼働率向上

従来の個社完結型モデルでは、繁閑差や一時的な波動に対して柔軟な対応が難しいという課題がありました。フィジカルインターネットでは、拠点や車両、ドライバーといったリソースを他社と相互に補完し合える仕組みをつくることで、リードタイム短縮や繁忙期対応も効率化。

データ連携により効率的なルート設計とリスクの平準化が可能に

物流会社が抱える課題の一つに、「予測が立てづらい」という問題があります。荷量の波や交通状況、天候など外部要因に左右されやすい物流業務において、各社が保有するデータをつなぎ、ルートや便数を最適化することで、無駄やリスクを平準化できます。複数のプレイヤーと連携することで、突発的なトラブル時の迂回対応やバックアップ体制の構築も容易になります。

フィジカルインターネット実現に向けての課題

フィジカルインターネットは、物流をより効率的かつ持続可能に変える大きな可能性を秘めた構想です。しかし、その実現には乗り越えるべき壁も少なくありません。とくに現場での運用レベルに直結する「荷姿の標準化」と「物流システムの共有化」は、フィジカルインターネット普及に向けたカギを握る要素です。

荷姿の標準化

フィジカルインターネットの基本思想は「モノの輸送をネットワーク化し、誰でも・どこでも・同じ規格で扱えるようにする」こと。その前提となるのが、パレットやコンテナなどの荷姿(梱包単位)の統一です。

現在は企業ごと、業界ごとにパレットサイズや荷物の積み方が異なっており、共同輸送や混載において非効率を生んでいます。

荷姿が標準化されていれば、異なる企業の荷物でも共通の設備や車両で一括して運べるようになり、積載効率の最大化や作業の省力化が図れます。JIS規格や業界横断での統一ルールづくりが今後の重要課題です。

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物流システムの共有化

もう一つの大きな課題が、情報基盤の統合です。現在、多くの企業がそれぞれ異なるWMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)を利用しており、企業間のシステム連携が進まない要因となっています。これにより、積載状況の共有や配送ルートの最適化が困難になり、「つながる物流」の実現を阻んでいます。

フィジカルインターネットの実現には、共通プラットフォームの構築や、API連携によるデータ互換性の確保が不可欠です。また、セキュリティやアクセス権の管理といった運用ルールの整備も求められます。

その他、フィジカルインターネットは、「競合企業間でも輸送や拠点を共有する」ことを前提としていますが、日本の物流業界ではまだまだ、荷主ごとの専用便や、他社との共同輸送に対する抵抗感が根強く、“全体最適”より“自社最適”を優先する傾向が残っています。発注者である荷主側の理解と協力が、変革の鍵となります。

フィジカルインターネット実現に向けた取り組み事例

共同配送で実現するフィジカルインターネット〜最新の事例をご紹介〜

まとめ

フィジカルインターネットは、物流業界が抱える人手不足・積載率の低下・CO₂排出といった複合的課題に対し、構造的な変革をもたらす可能性を秘めた次世代の物流モデルです。荷主にとっては配送コスト削減やBCP強化、物流企業にとっては積載率向上やリソースの有効活用といった多くのメリットがあり、業界全体の競争力強化にもつながります。

一方で、荷姿の標準化や物流システムの共通化など、実現に向けた課題も多く、真の導入には業界全体の意識改革と協働が不可欠です。企業の垣根を越えて“つながる物流”を実現するためには、個社最適から全体最適への視点の転換が求められます。

フィジカルインターネットは単なる技術革新ではなく、物流のあり方そのものを再定義する挑戦です。これからのサプライチェーン設計において、中核となる考え方として注視すべきトピックであることは間違いありません。

 

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この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

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