物流は「見えなければ最適化できない」
物流現場の課題は、現場だけで完結するものではなくなってきました。人手不足、輸送コストの上昇、再配達問題、そして脱炭素対応。これらの課題に共通するのは、現状を正確に把握しきれていない“見えない物流”の存在です。
今、企業が本当に必要としているのは、物流全体の状況を把握し、根拠ある改善策を打てる仕組み「見える化」です。
本記事では、物流DXの第一歩として注目されている“見える化”について、背景や重要性、今後の展望を解説します。
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サプライチェーンの複雑化と、見える化の必要性
多品種・少量生産や即日配送への対応など、物流はますます複雑化しています。商品がどこにあって、いつ動き、どこで止まっているのか…そうした基本的な情報すら把握できていない企業も少なくありません。属人的な運用に頼ってきた物流の現場では、情報の分断や伝達ミスがボトルネックになりがちです。これを打開する手段として注目されているのが、物流工程全体を“見える化”し、データとして管理・活用する仕組みです。
なぜ今、“物流の流れ”に注目が集まっているのか?
背景には、2024年問題や環境規制の強化など、物流の持続可能性が問われる状況があります。限られたリソースで最大の効果を出すには、現場の勘や経験に頼るだけでは不十分です。デジタルツールを活用して物流の流れを可視化し、ボトルネックを特定して改善につなげる。それが次世代の物流設計に不可欠な視点となっています。
現場で起きている「見えない物流」の弊害とは?
多くの企業が抱える課題が「物流の見えなさ」です。日々の業務が回っているように見えても、在庫の流れ、配送状況、滞留の原因などが把握できていない状態では、本質的な改善は進みません。ここでは、現場でよく見られる「見えない物流」の典型例を3つ挙げて解説します。
拠点間在庫の不透明さ
複数の倉庫や拠点を持つ企業にとって、どこにどれだけ在庫があるのかを瞬時に把握できないというのは、珍しい話ではありません。紙やエクセル、属人的な管理に頼っている場合、在庫の“見える化”は難しくなり、結果として不要な発注や在庫過多、在庫切れが頻発します。これは販売機会の損失や物流コストの増加にも直結する重大なロスです。
荷待ち・滞留の属人的処理
配送トラックが到着しても荷受けができずに何時間も待たされる「荷待ち」問題の多くは、現場で個別対応されており、体系的なデータが残っていないのが実情です。また、倉庫内に荷物が長時間滞留していても、その理由や発生頻度が見えなければ、対策の打ちようがありません。情報の記録が残らないまま、いつもの事として処理されてしまう構造が、非効率の温床となっています。
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配送遅延やムダな往復輸送の発見が困難
「荷物は届いていないけど、どこで止まっているのかわからない」「帰りの便は空車のまま」これらは典型的な“見えない物流”の弊害です。GPSやTMS(配車管理システム)などを導入していない現場では、どの配送ルートが非効率か、どこで遅れが発生しやすいかといった分析が困難です。結果として、ムダな輸送やコスト高が常態化し、企業全体の収益性に悪影響を及ぼします。
見える化を実現する物流DX技術とは?
物流業務の“見える化”を実現するには、現場で何が起きているのかをリアルタイムかつ客観的に把握できる仕組みが不可欠です。
従来の勘や経験だけに頼るやり方では限界があり、データを軸にした判断と改善が求められる時代に突入しています。ここでは、見える化を支える主なDX技術を具体的に紹介します。
IoTセンサーで車両・荷物・温度などをリアルタイム追跡
トラックの走行状況や、荷物が今どこにあるか。あるいは冷蔵・冷凍品の温度が適切に保たれているか。こうした情報を、IoTセンサーによってリアルタイムで把握できる仕組みが広がっています。センサーが発信するデータはクラウド上に蓄積され、どこからでも状況確認が可能で異常が発生すれば即座に通知されるため、品質維持やリスク対応にもつながります。
WMS・TMS・SCMシステム連携による統合可視化
倉庫管理(WMS)、配車管理(TMS)、サプライチェーン全体の最適化(SCM)といった個別システムが、クラウドやAPI連携によって統合されることで、物流全体の流れをひとつの画面で“見える化”することが可能になります。これにより、たとえば「倉庫に入荷予定の商品が、どの配送トラックに積まれているか」まで追えるようになり、業務間の分断が解消されていきます。
BI/ダッシュボードでのKPI管理とアラート通知
物流拠点の稼働率、積載率、リードタイム、荷待ち時間などのKPIを、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールで可視化する企業が増えています。現場の進捗をグラフやチャートで把握できるだけでなく、異常値や目標未達が発生した際にアラートを出す仕組みを組み込めば、早期対応が可能になります。経営層と現場の情報格差を埋める有効な手段としても注目されています。
デジタルツインが実現する“仮想物流の設計図”
物流現場で「これまでのやり方」で通用しなくなってきた今、感覚や経験だけに頼らない意思決定が求められています。
そんな中で注目されているのが「デジタルツイン」という考え方です。これは、現実の物流ネットワークをそっくりそのままデジタル上に再現し、事前に問題点や改善の余地を“見える化”できる仕組みです。ここでは、デジタルツインがもたらす新しい物流設計の可能性を、3つの視点から紹介します。
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実際の物流ネットワークをデジタルで再現
デジタルツインは、倉庫、配送ルート、在庫、トラックの動きまで、実際の物流オペレーションをリアルタイムまたは時系列で可視化します。単なる地図やフローチャートではなく、現場の挙動をそのまま仮想空間に反映することで、現実の課題を手に取るように把握できるようになります。
在庫配置、拠点数、輸送ルートの最適化を事前にシミュレーション
たとえば「倉庫をもう1拠点増やしたらどうなる?」「幹線輸送ルートを変えるとコストは?」といった問いに対して、デジタルツインなら実際に変更を加える前に仮想空間でシミュレーションできます。物流戦略の“試運転”ができることで、勘や経験ではなく、データにもとづく判断が可能になります。
感覚ではなくデータで語る物流設計が可能に
これまで「現場感」で決めていた拠点設計や輸配送の見直しも、デジタルツインを用いれば、数値根拠にもとづいた説明や意思決定が可能になります。経営層や他部門との合意形成も進めやすくなり、全社的な物流改革の土台としても注目が集まっています。
成功企業に学ぶ!物流の見える化導入事例
パナソニック コネクト株式会社×トヨタモビリティパーツ株式会社
2022年4月、パナソニック コネクト株式会社はトヨタモビリティパーツ株式会社に「配送見える化ソリューション」と頑丈ハンドヘルド端末「TOUGHBOOK(タフブック)」を納入しました。最初に栃木支社から稼働をはじめ、全国展開を開始しています。
トヨタモビリティパーツ株式会社は、ドライバー不足やCO₂削減といった課題を背景に、異なる自動車メーカー間での補修用部品の共同配送を進める中で、パナソニックの「配送見える化ソリューション」を導入しました。このシステムは、PCとドライバー端末をクラウドサーバーを通して連携し、配送状況をリアルタイムに把握可能にするものです。システム導入により、自社の配送管理システムで管理ができ、作業の効率化や品質の担保が可能となりました。
出典)
https://news.panasonic.com/jp/press/jn220614-1
GROUND株式会社×株式会社シーエックスカーゴ
2025年5月 GROUND株式会社は物流施設統合管理・最適化システム「GWES(ジーダブリューイーエス)」を、生協物流の株式会社シーエックスカーゴに導入しました。
2024年8月に埼玉県の桶川第2流通センターで稼働を開始し、2027年までに全13拠点で本稼働を予定しています。
導入により、作業の進捗や生産性がリアルタイムで可視化され、現場で全員が同じ情報を共有することで、生産性の向上に向けた判断や改善の取り組みがしやすくなりました。
出典)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000100.000019139.html?utm_source=chatgpt.com
デジタルツール導入時のポイントと注意点
物流の“見える化”に注目が集まる中、やみくもにデジタルツールを導入すれば成果が出るわけではありません。現場にフィットする形で設計・運用するためには、いくつか押さえておきたいポイントと注意すべき課題があります。ここでは、スムーズな導入を実現するための視点を整理します。
1. 「見たい情報」を明確にする
どんなKPIを可視化したいのか、何を“判断”に使いたいのかを事前に明確にしておくことが重要です。在庫推移を見たいのか、配送状況を追いたいのか、トラックの滞在時間を減らしたいのか、目的が曖昧なままでは、システムが使われない状態になりがちです。
2. 既存業務フローとの整合性を確認する
見える化ツールを入れることで、かえって現場が混乱するケースもあります。特に、紙やExcel主体の業務をそのまま残した状態では二重管理の手間が生じ、かえって負担が増すこともあるので、現場の業務フローをあらかじめ見直し、運用に馴染む形で進める必要があります。
3. データ入力の仕組みを整える
リアルタイムで情報が見える状態を実現するためには、データの取得元が肝になります。IoT機器やWMS、TMSなどの既存システムとの連携、現場でのスキャン・入力手順などを丁寧に設計することが、後々の精度と使い勝手を左右します。また「入力する側の負担が増えすぎない設計」が必要です。入力や操作が複雑すぎると、システムが定着しません。
4. 教育・定着まで見据えた導入を
導入初期は「慣れない」「使い方がわからない」といった声が必ず出ます。こうした壁を乗り越えるためには、現場向けの説明会や、管理者層の巻き込み、段階的な導入など、伴走型の展開が不可欠です。
データから未来を予測するサービス「ADT」で物流自動化を実現!
「ADT」とはアイディオットデジタルツインのことで、物流に関わる在庫管理や配送などのデータをリアルタイムで可視化・分析するシミュレーターです。このツールは、数十種類のデータセットを集約し、物流業務の最適化と効率化を支援します。膨大なデータを用いて行うため、限りなく現実に近いシミュレーションをすることができます。
「ADT」では、可視化、シミュレーション、物理空間の実装が可能です。「ADT」を利用し、物流での自動化をシミュレーションし、車両情報の可視化や人員のシミュレーションなどにより、いきなり行う危険性を減らし、スムーズな物流自動化に踏み出すことができます。
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まとめ
本記事では、物流DXにおける「見える化」の重要性と、それを実現するための技術や導入のポイントについて解説しました。物流の流れが可視化されることで、在庫の最適配置や配送ルートの改善、業務の属人化解消といった多くのメリットが生まれます
今後は、単なる可視化にとどまらず、予測・最適化・自動化へと進化が求められます。現場との連携や運用負担のバランスを意識しながら、戦略的に取り組むことが、次世代物流設計への第一歩となるでしょう。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。