自動物流道路とは?
国土交通省は、トラックドライバーに対する時間外労働の上限規制の適用や、担い手不足などの物流危機への対応、温室効果ガス削減に向けて、新たな物流形態として、道路空間を活用した「自動物流道路」の構築に向けた検討を進めるため、「自動物流道路に関する検討会」を設置しています。
2024年7月に「自動物流道路のあり方中間とりまとめ」を公表し、長期的には東京-大阪間を対象とした長距離幹線構想を実現するために、2027年度までの新東名高速道路の建設中区間での実験実施と、2030年代半ばまでの第1期区間での運用開始に取り組むことが提言されています。
参照)
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/pdf/chu-gaiyo.pdf
自動物流道路とは、自動運転技術やスマートインフラを活用して、物流効率を最大化するために設計された専用道路やシステムのことです。貨物輸送専用のインフラとして、トラックや配送車が効率的かつ安全に移動できる環境を提供し、物流業界の課題である人手不足や輸送効率の向上、温室効果ガスの削減を目指します。工費は1kmを整備するのに7億~80億円かかることが見込まれています。
参照)
https://www.mlit.go.jp/road/ir/ir-council/buturyu_douro/mks/01.pdf
自動物流道路の基本的な特徴とは?
自動運転車両専用の利用
高度な自動運転技術を備えたトラックや配送車両を利用し、ドライバーの負担を軽減します。AIが運転を制御し、車両同士の間隔や速度を自動で調整し、車線変更や追い越しもAIが適切に判断します。
専用レーンまたは専用道路
一般の交通とは分離された道路やレーンが設けられることで、混雑の影響を受けずにスムーズな運行が可能です。
スマートインフラとの連携
雨や雪などの天候、渋滞などの路面状況を車両に通知したり、車両位置や速度を道路管理システムが把握し、適切なルートを指示するなど、道路インフラにIoTセンサーが設置され、車両とのリアルタイムデータ共有を可能にします。
環境負荷の低減
電動トラックや水素燃料車などの脱炭素技術と組み合わせることで、輸送によるCO₂排出量の削減が期待されます。
自動物流道路の技術的な特徴とは?
高精度な地図情報
自動運転のために、道路上の標識、車線、信号、勾配などの詳細な情報を持つ高精度マップが利用され、車両が正確な位置情報を取得し、スムーズな運行が可能になります。
V2X通信(車車間通信・車路間通信)
車両間で急ブレーキ情報を共有したり、道路の渋滞や障害物の情報を前方車両が後続車両に通知するなど、車両同士や道路インフラと通信することで、リアルタイムで情報を共有できます。
自動隊列走行
複数の自動運転トラックが数メートルの間隔で走行し、空気抵抗を削減するので、燃料効率が向上し、CO2排出量が削減が期待できます。
リアルタイム監視と管理
緊急時に車両を安全に停止させるなど、管理センターが道路と車両の状況を監視し、異常発生時に迅速に対応します。
自動物流道路の背景とその必要性
自動物流道路は、物流業界が抱える課題を解決し、効率的で持続可能な物流を実現するために登場した新しい取り組みです。その背景を具体的にわかりやすく解説します。
自動物流道路の背景にある課題
・ドライバー不足
2024年問題(少子高齢化や働き方改革に伴う時間外労働の規制)により、トラックドライバーの人材不足が深刻化しています。それにより、配送遅延やコスト増加が発生する影響が出ています。
・配送需要の増加
EC(電子商取引)の普及により、配送需要が急増し、特に都市部では、配送トラックの交通渋滞が顕著で、再配達や小口配送が増え、物流効率が低下しています。
・環境負荷への対応
現状、トラック輸送がCO2排出量の大部分を占めており、持続可能な社会の実現に向けて、環境負荷削減が求められています。脱炭素目標に向けた対応が物流業界の急務となっています。
自動物流道路の社会的必要性
・持続可能な物流の実現
環境規制が強化される中、CO2削減とエネルギー効率化が不可欠であり、自動物流道路は電動車両や燃料効率の高い配送を可能にするとされています。
・経済活動の安定化
効率的な物流網を構築することで、商品配送のコストを削減し、サプライチェーンの停滞を防ぎ、経済全体の活性化に貢献します。
・地方・都市間の物流格差の解消
地方でも自動物流道路を導入することで、人手不足や配送時間の課題を解消でき、地域経済の発展を支援します。
自動運転技術とIoTが支える自動物流
物流の効率化と最適化を目指す中で、自動運転技術とIoT(モノのインターネット)は、画期的な解決策を提供しています。これらの技術は、輸送の自動化を進めるだけでなく、リアルタイムでのデータ管理や分析を可能にし、物流の全体的な効率向上に寄与しています。
自動運転技術を搭載したトラックや配送車は、専用の自動物流道路を活用することで、人間のドライバーだけに頼らない輸送が可能になります。これにより、配送時間の短縮や燃料消費の最小化が実現し、コスト削減や環境負荷の軽減にもつながります。
さらに、IoTセンサーを通じて、車両や貨物の位置情報、状態、温度管理などをリアルタイムで把握することができます。このデータはクラウドで一元管理され、最適な輸送ルートの計算や在庫の自動補充など、物流全体の効率化に活用されます。
自動運転技術とIoTの融合は、物流業界における次世代のスタンダードを築き上げるでしょう。この革新は、人手不足や輸送コスト増といった課題を解決し、より持続可能な物流モデルを実現する鍵となります。
自動物流道路の具体的なメリット
輸送効率の向上
自動物流道路は、自動運転トラックや配送車が専用レーンを使用することで、渋滞や交通規制の影響を受けずにスムーズな輸送を実現するため配送時間が短縮され、燃料コストの削減も期待できます。
また、自動運転車両は、人間の休憩が不要なため、夜間や休日も稼働可能で、道路の利用時間を最大化でき、配送時間の短縮が期待されます。
労働力不足への対応
ドライバー不足が深刻化する中、自動運転技術を活用することで、24時間体制の無人輸送が可能になるので労働力への依存を減らし、持続可能な物流体制を構築します。
人間が運転を補助する場合でも、運転時間の短縮や過酷な労働環境の改善が可能になります。
環境負荷の軽減
自動物流道路では、電動トラックや水素燃料車などの脱炭素技術が効果的に活用されます。効率的なルート設計や最適化された車両稼働により、CO₂排出量を大幅に削減し、カーボンニュートラル達成に寄与します。
また、自動物流道路では、道路上での充電や再生可能エネルギーによる電力供給が可能になります。
コスト削減
専用道路を利用することで、事故リスクや車両のメンテナンスコストが軽減され燃費改善や輸送効率の向上により、全体的な物流コストの削減が可能です。
自動運転技術により、トラックドライバーの人件費が不要または大幅に削減でき、長距離輸送での交代要員が不要になります。
安全性の向上
自動運転技術とスマートインフラの連携により、交通事故のリスクを最小限に抑えます。さらに、リアルタイムでのモニタリングと管理により、輸送中のトラブル発生を迅速に検知・対応することができます。
配送ネットワークの柔軟性
分散型の自動物流道路ネットワークにより、災害発生時でも代替ルートを迅速に確保可能になり、AIが被災地までの最適ルートを計算し、迅速な物資輸送を支援します。
また、自動物流道路が地方まで整備されることで、過疎地でも効率的な物流が可能になり、小規模な配送拠点でも、無人車両や自動運転車が荷物を届けることが可能になります。
自動物流道路のメリットは、物流効率の向上、コスト削減、環境負荷の軽減、安全性の向上、そして労働力不足の解消にあります。また、災害対応といった社会的メリットも提供します。これらの特徴により、自動物流道路は次世代の物流基盤として大きな期待を集めています。
自動物流道路の最新事例
スイス
スイスでは、物流専用道として主要都市を結ぶ地下トンネルを建設し、自動運転カートを走行させる物流システムの構想や新技術を活用した物流形態についても検討されています。
【概要】
主要都市間を結ぶ総延長500㎞の自動運転専用カートによる 地下物流システム。
【工費】
2045年までに全線開通予定。総工費約5兆円
【背景】
スイスでは、2040年までに貨物の交通量が約40%増加すると予測されており、現在のトラック輸送ではその需要を支えきれない状況にあります。また、貨物車の積載効率は年々低下しており、配送も各社が個別に対応しているため、全体として非効率な運用が課題となっています。
【計画】
スイスでは、地下20~100メートルの深さに直径6メートルの貨物専用トンネルを総延長約500キロメートルにわたって構築する計画が進められています。このトンネル内では、自動運転専用カートが3本のレーンを利用し、時速30キロメートルで24時間体制で走行します。また、将来的には、この自動カートを100%再生可能エネルギーで運転することを目指しています。
貨物は物流ターミナル(ハブ)を通じてトンネルに垂直輸送され、ハブでは他の交通システムと接続される仕組みです。さらに、デジタルマッチング技術を活用することで、貨物配送の効率化が図られています。このシステムにより、環境に配慮した持続可能な物流が実現します。
出典)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620632.pdf?utm_source=chatgpt.com
自動物流道路の実現に向けて〜課題とリスク〜
技術的課題
自動運転技術やスマートインフラの整備は、まだ発展途上のため、高度な自動運転システムの安全性確保や、複雑な交通環境でのスムーズな運行を実現するには、さらなる技術革新が必要になります。IoTセンサーや通信インフラの信頼性も重要な要素です。
自動物流道路には、V2X(車車間通信・車路間通信)や5G通信が不可欠ですが、全国的なインフラ整備が進んでいない地域もあります。
経済的リスク
自動物流道路の建設や運営には膨大な費用がかかります。特に、地下物流システムや専用レーンの構築は高額な初期投資が必要であり、収益性を確保するためのビジネスモデルが求められます。企業や自治体間での費用負担の調整も課題となります。
社会的課題
新しいインフラの導入には、地域住民の理解と協力が欠かせません。地下トンネルの掘削や専用道路の建設が地域に与える影響について、十分な説明と合意形成が求められます。また、既存の交通インフラとの連携も課題です。
また、自動運転技術の普及により、トラックドライバーの仕事が減少する可能性があり、物流従事者の雇用減少が地域社会に悪影響を及ぼすかもしれません。
環境面でのリスク
持続可能性を重視する自動物流道路ですが、建設時の環境負荷や、技術導入による新たなエネルギー需要の増加が懸念されます。再生可能エネルギーの活用やエネルギー効率の向上が課題解決の鍵となります。
データとセキュリティの課題
自動運転車両や道路インフラが生成する膨大なデータを企業間で共有するには、プライバシーや競争意識の課題があります。情報不足によるルート最適化の失敗や無駄な運行が発生する可能性があります。
また、自動運転システムや通信ネットワークはサイバー攻撃のリスクにさらされ、ハッキングによるシステム停止や配送妨害、データ漏洩の危険性もあります。
自動物流道路の実現は、物流業界に革新をもたらす一方で、多くの課題やリスクを伴います。これらの課題を解決するためには、官民連携や技術開発の加速、法整備、市民の理解促進が重要です。課題への対応が進むことで、自動物流道路は物流の未来を切り拓く革新的なインフラとしての役割を果たすでしょう。
まとめ
自動物流道路は、物流業界が直面する人手不足や輸送効率の低下、環境負荷といった課題を解決し、新しい物流のスタンダードを築く可能性を秘めています。
自動物流道路は、物流業界の効率化と脱炭素社会への貢献を両立させる象徴的なプロジェクトです。次世代の物流を支えるこの取り組みが、業界全体の持続可能な成長につながることが期待されています。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。