パンデミック・災害に打ち勝つ物流網〜サプライチェーンレジリエンスの新常識〜

パンデミック・災害に打ち勝つ物流網〜サプライチェーンレジリエンスの新常識〜

パンデミック、自然災害、地政学リスク――。企業の物流・調達網を脅かす“想定外”が常態化した今、かつて当たり前だった「届く」「運べる」が揺らぎ始めています。コストや効率だけを重視してきた従来型のサプライチェーンでは、もはや企業の持続的成長は見込めません。これからの企業に求められるのは、危機にしなやかに対応し、早期に回復できる力――すなわち「サプライチェーンレジリエンス」です。

本記事では、その基本的な考え方から、注目される企業の取り組み事例、そして今すぐ始めるべき実践ポイントまで、これからの“強い物流網”づくりに必要な視点を解説します。

 

物流のDX支援についてはコチラから物流のDX支援についてはコチラ

サプライチェーンレジリエンスとは

コロナ禍や自然災害、地政学リスクの高まりなど、サプライチェーンを揺るがす出来事が相次いでいます。従来の効率性重視の物流設計だけでは、突発的な事態に耐えきれない現実が明らかになりつつあります。そこで注目されているのが、サプライチェーンレジリエンスです。

サプライチェーンレジリエンスとは自然災害やパンデミック、地政学リスク、部材の供給遅延など、突発的なトラブルが起きた際にも、サプライチェーンにへの影響を抑えて、事業を継続できるように迅速に回復させる能力のことです。具体的には、次のような能力を指します。

1.柔軟性

たとえば、ある工場が止まっても別の生産拠点でカバーできる、物流ルートが分散されていて一部が止まっても他で運べる、といった「代替の選択肢を持っている状態」です。

2.回復力

何かしらの被害を受けた場合でも、いち早く状況を把握し、業務を再開するスピードや仕組みも重要です。ITシステムやデータ連携による即時対応がこれにあたります。

3.事前の備え

リスクが起きる前に、脆弱な部分を洗い出し、在庫の持ち方や調達先を多様化することで、被害を最小限に抑える対策もレジリエンスの一部です。

なぜ今、サプライチェーンレジリエンスが必要なのか

突然のパンデミック、記録的な大雨や地震、さらには国際的な紛争や貿易摩擦。ここ数年で、サプライチェーンを取り巻く環境は大きく揺らぎました。「止まらない物流体制」をどう築くか。それが今、企業にとって重要な経営課題となっています。サプライチェーンレジリエンスが必要な理由を以下にて紹介します。

パンデミックで露呈した「集中リスク」

2020年以降のコロナ禍では、特定国や特定企業への依存が、いかに脆弱かが明らかになりました。原材料や部品が届かず、生産ラインが止まる。そんな事態が各地で相次いだことで、「多元調達」や「地域分散」の必要性が再認識されています。

災害・異常気象による物流寸断の常態化

日本でも毎年のように水害や大雪、地震が発生し、道路や鉄道網が一時的に機能しなくなるケースが増えています。代替輸送網やBCP(事業継続計画)をあらかじめ準備していなければ、物流停止は長期化しかねません。

地政学リスクとサプライチェーンの複雑化

半導体不足、エネルギー高騰、戦争・経済制裁など、地政学の影響も企業活動に直結しています。グローバルに広がる調達・生産ネットワークは、強みである一方で、予期せぬ外的要因に左右されやすいというリスクも抱えています。

サプライチェーンレジリエンス強化の具体策

いざという時に物流が止まらないようにサプライチェーンを強くしなやかに保つには、事前の備えが欠かせません。ここでは、企業が実践できるレジリエンス強化の主な取り組みを4つに絞って紹介します。

拠点分散

製造や物流の拠点を特定地域に集中させていると、災害やパンデミックによって全体が止まるリスクが高まります。複数エリアに拠点を分散することで、仮に1つの拠点が機能停止しても、他の拠点でリカバリーが可能になります。地域ごとのリスク特性を見極めながら、分散戦略を検討することが求められています。

在庫最適化

「ジャストインタイム」の徹底だけでは、不測の事態に対応できません。かといって、過剰な在庫もコストを圧迫します。適切な“緩衝在庫”の設定や、需要予測に基づく在庫の動的管理が重要です。特に中間拠点や輸送途中のデポなどを活用した在庫再配置が、近年注目されています。

物流情報の可視化・共有

ロジスティクスダッシュボードを導入し、在庫や輸送状況を一元管理したり、サプライヤー・物流会社と情報共有するプラットフォームを構築するなど、どこに・何が・いつ届くかがリアルタイムでわかるようにすることで、異常を早期に察知し、判断・対応が迅速になります。

サプライヤーの多重化

特定のサプライヤーに依存しすぎると、ひとたび供給が止まった際に代替が利きません。複数の仕入れ先を持つ「多重調達」の仕組みを整えることで、供給の安定性を高めることができます。また、サプライヤーとの“連携強化・協力関係”の構築も重要になります。

代替ルートの設計

輸送ルートが限定されていると、道路や鉄道の不通で物流全体がストップしかねません。主要ルートに加えて、非常時に使えるサブルートの確保や、モーダルシフト(鉄道・船舶の活用)も重要です。ルートごとの輸送時間やコストを事前に可視化し、シナリオ別の輸送計画を立てておくことが鍵です。

成功企業に学ぶサプライチェーンレジリエンス実践事例

富士通株式会社・東京海上レジリエンス株式会社東京海上日動火災保険株式会社

富士通株式会社、東京海上レジリエンス株式会社、東京海上日動火災保険株式会社は、レジリエントなサプライチェーンの構築を目指して協業し、サプライチェーンにおけるリスクを可視化するサービス「Fujitsu Supply Chain Risk Visualization Service(SCRV)」の提供を2024年1月25日から開始しました。

「SCRV」により、お客様のサプライチェーンの正確な把握とリスク評価が可能となり、自然災害などの有事に備えたサプライチェーンの構築とリスク対策の立案、有事の迅速な影響把握と意思決定を支援します。また、物流の途絶を回避するための追加費用を補償する東京海上日動の保険が組み込まれており、より迅速な損害の未然防止を後押しします、としています。

出典)

https://pr.fujitsu.com/jp/news/2024/01/22.html

株式会社 日立製作所

調達レジリエンスは災害やリスクに対応できる柔軟なサプライチェーンの構築のことです。

社会インフラの維持と迅速な回復に寄与すべく、株式会社 日立製作所は「サプライチェーンの強靭化」を経営課題として位置づけ、調達パートナーとともに災害やリスクに対応できる柔軟なサプライチェーンの構築に取り組んでいます。

調達BCP

インシデントの発生によって事業が中断し、社会に甚大な影響を及ぼすことのないよう、グループグローバルで調達BCPの充実に取り組んでいます。調達パートナーとともに調達BCPシステムを構築することにより、早期に有事の際の調達影響を把握し対策を実施することで、事業影響の最小化に貢献します。

調達リスクマネジメント

SENSE「検知・特定 」多様なリスクの検知・調達インパクトの特定

THINK「評価・分析」事業インパクトの分析

ACT「軽減・最適化」調達方法・サプライチェーンの最適化

上記の調達リスクマネジメントシステムの実行により、各事業ごとにサプライチェーン上のリスクを可視化・定量化、優先順位付けし、最適な対策を事前に講じることで、リスクの発現を最小化し適切に対処できるレジリエントなサプライチェーンの構築をめざします。

出典)

https://www.hitachi.co.jp/procurement/csr/resilience/index.html

成功企業に共通するレジリエンス強化のポイント

パンデミック、地震、水害、戦争と近年、サプライチェーンを脅かすリスクは一段と多様化しています。こうした状況下でも、混乱を最小限に抑え、いち早く回復した企業にはいくつかの共通点があります。ここでは、その「強さの源」となる取り組みを解説します。

リスクの可視化と早期対応

まず前提として、どこにリスクが潜んでいるのかを把握しなければ、対策の打ちようがありません。成功企業は、サプライチェーン全体を見渡すリスクマップを整備し、「いつ・どこで・何が起きたらどうなるか」を明確にしています。そして、リスクが顕在化した際には、即座に判断・行動できる意思決定フローを社内に構築します。こうしたスピードと柔軟性の両立が、危機回避につながっています。

サプライヤーの多様化

特定の仕入れ先に依存する企業は、そこにトラブルが生じた瞬間に調達が止まってしまいます。成功企業は、複数のサプライヤーを持ち、地域・価格帯・供給能力のバランスを見ながら分散調達を進めています。中には、国内外で二重の供給ルートを確保している企業もあり、「どこかが止まっても、他が動ける」構造を作ることで安定供給を実現しています。

デジタル技術の活用

デジタルツインやAIを活用し、サプライチェーンの可視化・予測・シミュレーションを行っている企業は、変化への対応力が高い傾向があります。たとえば、在庫過多や物流遅延の兆候を早期に察知したり、複数の物流ルートを比較し最適な手配を自動で選定するなど、現場の判断負担を軽減するツールが導入されています。データドリブンな運用が、精度とスピードを両立しています。

柔軟な生産体制

需要の急減や急増にも対応できる体制を整えておくことも、レジリエンスの要です。設備の汎用化や生産拠点の役割分散、シフトの最適化などによって、生産ラインを止めることなく調整できる仕組みを持つ企業は、供給途絶のリスクを大きく下げています。また、外部パートナーとの協業による柔軟な外注体制も、急な変化への対応力を高めています。

データで支える未来のサプライチェーン

不測の事態に強いサプライチェーンを構築するために、いま企業が注目しているのが「データの力」です。どこで、何が、どれだけ動いているのか。将来どんな需要やリスクが待ち受けているのか。そうした情報を勘や経験ではなく、データに基づいて判断・対応していくことが求められています。ここでは、レジリエンス強化の鍵を握る「シミュレーション」「可視化」「AI予測」について詳しく見ていきましょう。

シミュレーション

災害、需給変動、輸送停止。実際に起きてからでは遅いリスクに対して、シミュレーションは強力な備えになります。調達先が止まったら?在庫が切れたら?拠点が被災したら?こうした「もしも」を仮想空間で再現し、あらかじめ打ち手を検証しておくことで、実際の危機時にもスムーズに対応できます。シナリオを事前に設計し、変化に備える準備が「止まらない物流」を支えます。

可視化

荷物がどこにあるのか、在庫がどれだけあるのか。これらの情報をリアルタイムで見える化することは、判断のスピードと正確さを左右します。サプライチェーン全体を俯瞰できるダッシュボードやモニタリングツールを導入すれば、異常や遅延の兆候を早期に発見し、先手を打つことが可能です。特に多拠点・多国間での物流を展開している企業ほど、可視化の効果は大きく表れます。

AI予測の活用

過去のデータと現在の動向をもとに、未来の需要やリスクをAIが予測する取り組みも広がっています。需要の急増や供給遅延、交通渋滞や天候リスクなど、複雑な要素を加味した予測は、人の勘では追いつけないレベルに進化しています。AIによる予測をもとに発注量や在庫を調整したり、輸送ルートを事前に見直したりと、より一歩先を見据えた意思決定が可能になります。

データから未来を予測するサービス「ADT」で物流自動化を実現!

「ADT」とはアイディオットデジタルツインのことで、物流に関わる在庫管理や配送などのデータをリアルタイムで可視化・分析するシミュレーターです。このツールは、数十種類のデータセットを集約し、物流業務の最適化と効率化を支援します。膨大なデータを用いて行うため、限りなく現実に近いシミュレーションをすることができます。

「ADT」では、可視化、シミュレーション、物理空間の実装が可能です。「ADT」を利用し、物流での自動化をシミュレーションし、車両情報の可視化や人員のシミュレーションなどにより、いきなり行う危険性を減らし、スムーズな物流自動化に踏み出すことができます。

お問い合わせはこちら

まとめ

本記事では、パンデミックや自然災害といった予期せぬ事態に備える「サプライチェーンレジリエンス」についてと、企業が今取り組むべき対策について解説しました。拠点の分散化やサプライヤーの多様化といった物理的対応に加え、AIやデジタルツインによる可視化・予測といったテクノロジーの活用が、これからの物流網の強靭化には欠かせません。環境の変化に柔軟に対応し、持続可能な事業運営を実現するためにも、自社のサプライチェーンを見直すきっかけとしていただければ幸いです。

サプライチェーンのDXをAI・デジタルツインなどの新技術で支援。カーボンニュートラルの実現に向けたCO2排出量の可視化・削減シミュレーションにも対応する物流特化のサービス。先ずは無料の資料請求から。
この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

物流・サプライチェーンカテゴリの最新記事