異業種混載とは
これまでの物流は、「同じ業種・業態の荷物を同じトラックで運ぶ」ことが前提でした。
しかし近年、物流の人手不足や輸送効率の低下、環境負荷への意識の高まりを背景に、異なる業種の荷物を1台のトラックでまとめて運ぶという異業種混載が注目を集めています。
異業種混載とは、業界の垣根を越えて異なる業界が各々の荷物を同じ1つのトラックにまとめて運ぶ、効率化を図る配送手法です。
例えば、飲料メーカーと日用品メーカーの荷物を同時に運ぶようなケースが該当します。これにより、トラックの積載率が大きく改善されるだけでなく、配送回数や車両台数も減少し、CO₂削減やコスト削減といった効果も見込めます。
従来は「荷姿や温度帯が異なるから一緒に運べない」とされてきた荷物でも、最近では梱包や物流設備の工夫により、混載が現実的な選択肢となってきています。まさに物流の新常識として、今後さらに広がっていく動きと言えるでしょう。
異業種共同配送の背景とは
異業種共同配送の背景には、従来のやり方では立ち行かなくなってきた現場の切実な課題があります。下記にて項目別に説明いたします。
2024年問題とドライバー不足
時間外労働の上限規制が始まり、トラックドライバーの労働時間が制限されるなかで「荷物はあるのに運ぶ人がいない」という状況が深刻化。従来の自社単独で運ぶ前提では限界があるため、異業種間での協力による輸送効率の最大化が求められるようになりました。
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積載率の低さによる非効率
実は多くのトラックが「空気を運んでいる」と言われるほど、積載効率の低さが課題です。業種ごとにバラバラで動いていると、トラックの荷台が満たされないまま出発するケースも少なくありません。異業種が混載することで、空きスペースを活用し効率を引き上げることができます。
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カーボンニュートラルへの対応
環境意識の高まりから、企業にはCO₂排出削減の努力が求められています。輸送回数を減らし、積載率を上げることで環境負荷を抑える異業種共同配送は、企業のESG対応や持続可能なサプライチェーン構築の一環としても注目されています。
異業種混載のメリット・デメリットとは
「業界が違うから、物流も別々で当然」そんな常識が、いま大きく変わろうとしています。物流の効率化や環境負荷軽減を目的に、実証や導入が全国で進んでいます。ただし、すべてがうまくいくとは限りません。ここでは、そのメリットとデメリットを整理します。
メリット
1. 積載率の向上とコスト削減
異業種混載の最大のメリットは、「無駄な空間」を削減できることです。通常、単一企業・単一業種での輸送では、荷物の形状や量のバラつきにより、どうしてもトラックに空きスペースが生まれがちです。しかし、異なる業種の荷物をうまく組み合わせることで、荷台を隙間なく活用できます。
たとえば、軽量でかさばるアパレル商品と、重量があるがコンパクトな飲料や食品を同じ便で混載すれば、容積・重量のバランスが取れ、結果としてトラック1台あたりの輸送効率が向上します。これにより、車両台数を減らせるため、燃料代・高速代・人件費・車両維持費といったコスト全体の削減が実現します。
2. ドライバー不足対策に貢献
日本のトラックドライバーは、年々高齢化が進み、若年層の新規参入も少ない状況が続いています。さらに「働き方改革関連法」による時間外労働の規制(2024年問題)により、運べる量にも制限がかかるようになりました。
異業種混載は、「一社で満たせない荷量」でも他社と組み合わせてトラックを効率よく満車にできるため、1人のドライバーがより多くの企業の荷物を効率的に運べる仕組みです。ドライバー1人あたりの生産性が上がり、限られた人材で広範囲をカバーする体制が可能になります。
3. CO₂削減など環境対応にも寄与
異業種混載によりトラックの運行回数を減らせるということは、それだけCO₂排出量も削減できるということです。たとえば、従来5台のトラックで運んでいたものが3台で済めば、排出ガスは単純計算で約4割削減される可能性があります。
このような取り組みは、単なるコスト削減だけでなく、企業の環境経営・ESG(環境・社会・ガバナンス)評価の向上にも直結します。実際、異業種混載をESG戦略の一環として導入し、ステークホルダーや投資家からの評価につなげる企業も増えつつあります。
デメリット
1. 荷姿や温度帯の違いによる調整コスト
異なる業界の商品は、形状・大きさ・梱包単位・保管条件が多岐にわたります。飲料業界のパレット単位の荷物と、精密機器業界の個別包装品では積載方法や振動対策が大きく異なります。さらに、冷蔵・常温・冷凍など温度帯の違いがある場合は、同一車両での混載が困難になり、専用車両や仕分け体制が必要となるケースもあります。これらの課題を乗り越えるには、荷姿の標準化、共通ラベルの導入、搬送モジュールの統一など、多方面の調整が不可欠であり、初期コストや手間がかかります。
2. 納品先の時間・ルール調整が必要
小売店舗や物流センターによって、納品可能な時間帯、事前連絡の有無、搬入経路やセキュリティの手続きが異なります。異業種間で共同配送を行う場合、それぞれの納品先の条件に配送スケジュールを合わせる必要があり、調整に時間と労力を要します。特に「朝イチ納品」や「時間厳守」が求められる現場では、柔軟性に乏しくなり、配送の自由度を損なうリスクがあります。
3. 共同運用の体制構築が必要
共同配送は単にトラックを共有するだけでは成り立ちません。参加企業同士で配送スケジュール、コスト配分、荷物管理、トラブル対応ルールなどを事前に合意・設定しておく必要があります。さらに、荷主と物流会社、あるいは複数の荷主間での信頼関係の構築が求められ、関係性の構築には一定の時間がかかります。また、情報共有をスムーズに行うためのITシステムや標準化プロトコルの導入も必要になる場合があります。
異業種共同配送の事例
大日本印刷株式会社(DNP)グループの物流会社・株式会社DNPロジスティクスと王子グループの王子ネピア株式会社、王子物流株式会社の異業種混載輸送
大日本印刷株式会社(DNP)グループの物流会社・株式会社DNPロジスティクスと、王子グループの王子ネピア株式会社、王子物流株式会社は、両グループの包装資材と紙おむつを1台のトラックで同時に運ぶ異業種混載輸送を2025年5月中旬に開始します。
3社は2024年12月から、混載輸送の実現に向けて、福島県と東京都の間での共同輸送の実証実験に取り組んできました。その結果、従来と比較して、年間で両社の輸送トラックを約60台、CO2排出量を約50%削減できる見込みとなりました。こうした成果を踏まえて3社は異業種混載輸送を開始します。
3社は今後も異業種混載輸送の取り組みを通じて、CO2排出量の削減や物流の人材不足などの課題解決につなげていきます。また、この取り組みを他の業種・エリアに拡大することも検討しています。
出典)
https://www.dnp.co.jp/news/detail/20176685_1587.html?utm_source=chatgpt.com
ダイオーロジスティクス株式会社とサントリーロジスティクス株式会社の異業種混載輸送
2022年8月から大王グループは、サントリーグループと共同での長距離輸送効率化に向けた新たな取り組みを開始しています。
各グループの物流機能会社であるダイオーロジスティクス株式会社とサントリーロジスティクス株式会社が、関東・関西間の長距離輸送において、両社グループの製品を混載し、積載率 の向上や輸送効率化を進めます。
異なる業界で共同物流を行い、持続可能な安定輸送体制の構築に取り組むとともに、 SDGs のゴールに向けた取り組みの一環として、CO2 排出量削減にも取り組んでまいります。
出典)
https://www.daio-paper.co.jp/wp-content/uploads/20220818_1.pdf
江崎グリコ株式会社と株式会社キユーソー流通システムとNEXT Logistics Japan 株式会社の異業種混載輸送
2024年8月に江崎グリコ株式会社と株式会社キユーソー流通システムとNEXT Logistics Japan 株式会社はダブル連結トラックを活用した、グリコの菓子と異業種の荷物の同時輸送を、9月2日から開始すると発表しました。
関東‐関西間で江崎グリコの菓子を運ぶ一方、兵庫県と神奈川県のNLJクロスドックでトレーラーの連結・切り離しを行い、異業種の荷物も同時に輸送します。
中継地点として、中間に当たる静岡の浜松いなさインターチェンジ(IC)の中継拠点ほか、東京と兵庫のキユーソー拠点でもドライバー交替を行うことで、ドライバーの日帰り運行を可能にし、この輸送体制により、年間で20%のCO2排出量削減が見込まれています。
出典)
https://www.logi-today.com/649054
異業種共同配送の今後
かつては「業界が違えば、物流も別」と考えられていた時代がありましたが、その常識が大きく揺らぎ始めています。
深刻なドライバー不足、2024年問題に伴う労働時間の制約、そして環境対応への要請など、こうした複合的な課題に直面する中で、企業は競合ではなく「協業」によって物流を維持・強化する方向へと舵を切りつつあります。異業種共同配送はその象徴とも言える動きであり、今後ますます注目されていくことは間違いありません。
物流のプラットフォーム化とマッチング技術の進化
AIやデジタルツインなどの技術進化により、温度帯・配送頻度・荷姿といった条件が近い企業同士をつなぐマッチングの精度が向上しており、これまで難しいとされていた異業種混載のハードルが着実に下がっています。
「競合ではなく協業」時代の幕開け
物流をコストではなく社会インフラと位置づける企業が増え、業界を越えた協力体制が広がっています。今後は、メーカー・卸・小売といった流通段階を超えた混載や、自治体・公的機関との連携も加速していくと予想されます。
今後の課題は「標準化」と「信頼の構築」
異業種間の連携を進めるには、荷姿や伝票フォーマットの標準化、情報共有の透明性といった共通基盤づくりが不可欠です。また、長期的に信頼関係を築くパートナー選びも、共同配送の成否を分ける重要な要素となります。
まとめ
本記事では、異業種混載による共同配送の基本から背景、メリット・デメリット、そして今後の展望までを解説しました。ドライバー不足や環境負荷の軽減といった社会的課題を背景に、業界の垣根を越えた物流連携が現実味を帯びてきています。
積載率向上や配送効率の最大化といったメリットがある一方で、荷姿の違いや情報共有の課題も無視できません。しかし、技術の進化や共通基盤の整備により、こうした課題の解消も進みつつあります。物流を単なるコストではなく、企業同士を結ぶ共創の基盤と捉え直すことが、これからの時代には求められるのではないでしょうか。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。