2024年の改正物流効率化法の施行により、一定規模以上の荷主企業は「特定荷主」として指定され、物流の効率化に向けた取り組みや報告義務が課せられることになります。
本記事では、「特定荷主」に指定された場合に何をしなければならないのか、報告義務の内容や違反時の罰則、対応マニュアルのポイントまでをわかりやすく整理しました。
荷主企業が法令対応とサステナブルな物流構築を両立させるための実践ガイドとしてご活用ください。
そもそも特定荷主とは?
▼特定荷主についてはこちらをチェック
特定荷主に指定されると何が求められる?
物流効率化法の改正により、一定の取扱貨物量を超える企業は「特定荷主」に指定され、物流改善の主体として新たな責任を担うことになります。単に“運送会社に任せる”のではなく、自らが物流の効率化に取り組む必要が出てきたのです。ここでは、特定荷主に指定された場合に課される主な義務について詳しく見ていきましょう。(※2025年4月の検討状況)
中長期計画の作成
「一回の運送ごとの貨物の重量増加」、「運転者の荷待ち時間・荷役等時間の短縮」に関する実施措置や実施時期、目標などを記載する必要があります。毎年度提出することを基本としつつ、中長期的に実施する措置を記載することを踏まえ、計画内容に変更がない限りは、5年に一度提出することとなります。
記載内容は、判断基準を踏まえつつ「運転者一人当たりの1回あたりの運送における貨物の重量の増加」「運転者の荷待ち時間の短縮」「運転者の荷役等時間の短縮」 の3つが定められました。それぞれに対し、①実施する措置 ②具体的な措置の内容・目標等 ③実施時期等 ④参考事項の4点の記載が必要となります。
物流統括管理者(CLO)の選任
物流効率化に向けては、トラックドライバーの荷待ち時間等の短縮及び積載効率の向上等を促進するための関係部門(調達、生産、保管、販売等)や取引先等との調整が求められます。そこで、自社における物資の流通全体を統括管理し、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を経営幹部から選任する必要があります。
物流統括管理者の業務内容としては、①中長期計画の作成②トラックドライバーの負荷低減と輸送される物資のトラックへの過度の集中を是正するための事業運営方針の作成と事業管理体制の整備③その他トラックドライバーの運送・荷役等の効率化のために必要な業務になります。
特定荷主及び特定連鎖化事業者が物流統括管理者を選任しないときには、百万円以下の罰金が科せられます。また、選任の届出を怠ったときは、20万円以下の過料に処せられます。
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定期報告の作成
特定荷主の指定を受けた翌年度から、毎年度、物流効率化法で定められている努力義務の実施状況に関して国に報告する必要があります。
定期報告の記載内容は主に以下の予定です。
◼国が省令で定める判断基準についての事業者の遵守状況(チェックリスト形式)
◼判断基準に関して、物流事業者や納品先など他事業者と連携した取組状況(自由記述)
◼荷待ち時間等の状況
特に、荷待ち時間等の状況の報告については、特定荷主又は特定連鎖化事業者自身が荷待 ち時間等の現状を計測・把握し、どの程度改善する必要があるかを認識してもらうことが狙いとなっています。
勧告及び命令、報告徴収及び立入検査について
特定荷主は、「積載効率の向上」や「荷待ち・荷役時間の短縮」など努力義務として課せられる措置に関する取組状況が、国が示す判断基準に照らして著しく不十分である場合、国から当該措置を取るべき旨を勧告されることがあります。
報告徴収
「積載効率の向上」や「荷待ち・荷役時間の短縮」の努力義務として課される措置に関する取組状況が著しく不十分な場合、勧告・命令をするために必要な限度で報告徴収や立入検査を行う場合があります。
公表・命令
勧告に従わなかったときはその旨が公表され、さらに、正当な理由なく措置をとらなかったときは、当該措置を取るべきことを命令されることがあります。
命令に違反したときには、百万円以下の罰金が科せられます。
特定荷主になったときの対応ステップ
体制整備(担当部署・データ収集方法の明確化)
物流の最適化と報告体制を整備するために、社内の体制づくりが必要です。報告には、積載率・荷待ち時間・CO₂排出量などのデータが必要です。これらをスムーズに集めるには、社内のどの部門がどの情報を管理するかを明確にし、責任の所在を整理する必要があります。
・物流統括管理者の選任(法律上の義務)
物流全体を把握・改善できる立場の人材を任命
・物流業務を担う部門の明確化と業務分担の整理
データ収集→物流部門、対外調整→調達部門
・報告に必要なデータの把握・整備
荷待ち時間、荷役時間、積載率、輸送距離などの定量データの準備。
各拠点・取引先からの情報収集ルートを確保し、定型化することが理想です。
物流会社との連携体制の見直し
特定荷主としての責務を果たすには、自社だけでなく物流会社との連携が欠かせません。定量データの収集や、荷待ち時間の可視化など、協力が必要な場面は多々あります。報告義務を機に、情報共有の仕組みやKPIの確認フローなど、連携体制を再構築することをおすすめします。
・荷待ち時間の削減、積載効率の改善などに関して、物流会社との定期的な協議の場を設置
・倉庫や工場での着荷・出荷オペレーションの見直し
・共同配送やモーダルシフトなどの取り組み検討
報告書・計画書の作成と提出準備
最後に、国が定めるフォーマットに則って、年次定期報告書と中長期計画書を作成します。
定期報告書(年次)
・実際の取り組み内容・結果・改善状況をまとめて提出。
→提出期限を守らない場合は勧告・命令・罰則対象になる可能性も。
中長期計画
・荷待ち・荷役時間の短縮、積載効率の向上、モーダルシフトなど、3〜5年を見据えた改善方針を記載
→数値目標やスケジュール、体制図も求められるケースがあります。
対応を支援するツール・外部サービス
特定荷主に該当すると、データ収集から報告書の作成、中長期計画の策定まで、通常業務とは別の対応が求められます。とくに初めて指定を受けた企業にとっては、「何から始めればいいか分からない」という声も少なくありません。そこで注目したいのが、可視化支援ツールや外部パートナーの力。ここでは、実務をスムーズに進めるために活用できるサービスを紹介します。
報告・可視化支援SaaS
積載率や荷待ち時間、CO₂排出量などのデータを収集・集計・分析できるSaaS(クラウド型サービス)が登場しています。
多くは、トラックの動態管理や物流KPIの可視化が可能で、報告用のフォーマット出力機能も備えています。一部ツールでは、国の提出様式に準拠したレポート生成や、改善計画のテンプレート支援まで可能です。
コンサルティング・士業による支援内容
物流コンサルタントや、中小企業診断士・行政書士などの士業による支援も有効です。法的な要件の整理や、現場への落とし込み方、改善計画の構成案など、制度対応に精通した専門家がアドバイスを提供します。
特に、複数の物流会社と取引している企業にとっては、現場との橋渡しを担ってくれる第三者の存在が大きな助けとなるはずです。
中小企業向けの補助制度・支援施策も確認
国や地方自治体では、特定荷主制度への対応を支援するための補助金・助成金を用意している場合があります。
例えば、「省エネ対策支援事業」や「物流効率化モデル事業」などが該当することも。
導入予定のSaaS費用やコンサル費用が補助対象になるケースもあるため、活用可能な制度は事前に確認しておきましょう。
義務対応をチャンスに変える!
「特定荷主」に指定されると、報告義務や中長期計画の策定といった新たな対応が求められます。一見すると負担に思えるかもしれませんが、視点を変えれば、それは自社の物流を見直す絶好のタイミングでもあります。対応の先にあるのは、効率化、コスト削減、そして物流現場との新しい関係づくり。ここでは、その可能性について考えていきましょう。
データの可視化による物流改善・コスト削減
日々の輸送にかかる積載率やCO₂排出量、荷待ち時間などのデータは、これまで感覚に頼っていた部分も多かった領域です。しかし、報告義務により定量的に把握する機会が増えれば、無駄な輸送やムリな配車の“見える化”が進み、改善ポイントが明確になります。結果として、運送コストの削減や納品業務の効率化といった成果につながる可能性も高くなります。
持続可能な物流体制の再設計
ドライバー不足や燃料高騰、環境負荷の増大など、物流を取り巻く外部環境は厳しさを増しています。こうした中で、単に義務を果たすだけでなく、データをもとに中長期的な物流戦略を描くことは、自社にとっても大きな武器になります。持続可能な輸送体制や、リスクに強い配送ネットワークの構築は、いまや経営課題のひとつです。
荷主×物流事業者の「共創」が競争力を生む時代
報告や計画の実行は、荷主企業だけで完結できるものではありません。実際に輸送を担う物流事業者との連携が不可欠です。従来の「依頼・受託」だけの関係から一歩進んで、共に改善を模索し、データを共有し合える関係になる必要があるでしょう。こうした協働の中から生まれる創意工夫や現場提案こそ、競争力を高める原動力になっていくはずです。
データから未来を予測するサービス「ADT」で物流自動化を実現!
「ADT」とはアイディオットデジタルツインのことで、物流に関わる在庫管理や配送などのデータをリアルタイムで可視化・分析するシミュレーターです。このツールは、数十種類のデータセットを集約し、物流業務の最適化と効率化を支援します。膨大なデータを用いて行うため、限りなく現実に近いシミュレーションをすることができます。
「ADT」では、可視化、シミュレーション、物理空間の実装が可能です。「ADT」を利用し、物流での自動化をシミュレーションし、車両情報の可視化や人員のシミュレーションなどにより、いきなり行う危険性を減らし、スムーズな物流自動化に踏み出すことができます。

まとめ
本記事では、特定荷主に指定された際に企業が知っておくべき義務、罰則、そして実務上の対応ステップまでを解説しました。制度の目的は単なる規制ではなく、持続可能な物流への転換を促すものです。報告や計画提出は確かに手間がかかりますが、同時に物流の実態を把握し、改善の糸口をつかむチャンスでもあります。
罰則リスクを避けるだけでなく、物流現場との連携強化やコスト最適化にもつなげる視点が重要です。対応を「守り」だけで終わらせず、「攻め」の経営戦略にどう活かすかが、これからの荷主企業の分かれ道になるでしょう。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。