はじめに 〜 AIがもたらす物流革命の背景
物流業界は、EC市場の急成長や労働力不足、環境問題など、多くの課題に直面しています。これらの課題を解決し、効率的かつ持続可能な物流を実現する鍵として注目されているのが、AI技術です。
AIの導入により、従来の物流が持つ限界を打破し、まさに「物流革命」と呼べる変革が進んでいます。
背景にあるのは、配送需要の急増です。特にECの普及により、小口配送が増え、従来の物流網では対応しきれない状況が続いています。また、少子高齢化による労働力の減少や、カーボンニュートラルの達成に向けた環境負荷の軽減も、物流業界が解決すべき喫緊の課題です。
AIは、配送ルートの最適化や需要予測、倉庫内作業の自動化など、多くの場面で革新的なソリューションを提供します。これにより、効率性と柔軟性を兼ね備えた「スマートロジスティクス」が現実のものとなりつつあります。
本記事では、AIがもたらす物流業界の未来を解説し、その可能性を探っていきます。
AIで実現する物流のスマート化
AIを活用した物流のスマート化とは、物流プロセス全体において、AI技術を導入することで効率化、コスト削減、スピード向上、そして柔軟な対応を実現する取り組みを指します。以下では、具体例を交えながら、AIがどのように物流をスマート化するのかを分かりやすく解説します。
配送ルートの最適化
渋滞や事故が発生した場合、AIが即座に代替ルートを提案したり配送先の場所や優先度を考慮し、最短距離で効率的に配送するなど、AIが最適なルートを算出します。また、燃料消費を抑え、配送時間を短縮することで、コスト削減と環境負荷の軽減を実現します。
在庫管理の効率化
AIが過去の販売データや季節要因、トレンドを分析し、次月の需要を正確に予測し、センサーやIoTと連携して、倉庫内の在庫をリアルタイムでモニタリングすることで、適切な在庫量を維持し、在庫過剰や欠品を防ぐことができます。また、倉庫スペースの効率的な利用にも繋がります。
倉庫作業の自動化
AIがロボットを制御し、商品のピッキングや仕分け、梱包を自動で行ったり、AIとIoTセンサーが在庫の位置と数量をリアルタイムで追跡する、スマート棚卸しなどにより、労働力不足の解消に寄与し、作業スピードと正確性が向上します。
リアルタイムの状況監視
食品や医薬品の輸送で、適切な温度が維持されているかをAIがリアルタイムで確認したり、商品が輸送中に破損した場合、画像データから即座に検知するなど、AIがセンサーやカメラデータを分析して、物流中の異常を検知・対応します。これにより、品質管理が向上し、クレームや返品コストの削減に繋がります。
カーボンフットプリントの削減
ドライバーの運転データをAIが分析し、燃費効率の良い運転方法を提案したり、配送トラックの空きスペースを最小化する計画をAIが作成するなど、AIが物流プロセス全体でのCO2排出量を分析・最適化することで、環境負荷を軽減します。これにより、環境への配慮と企業イメージの向上と、コスト削減と持続可能性の実現に繋がります。
AIの導入による物流のスマート化は、効率性と持続可能性を両立し、業界に新たな競争力をもたらします。今後さらに普及が進むことで、物流業界全体の変革が期待されています。
AI活用の成功事例と効果
株式会社ファミリーマートと株式会社ローソンの共同配送
2024年4月8日、株式会社ファミリーマートと株式会社ローソンは、物流課題への対応として、初の共同輸送を開始することを発表しました。この取り組みは、ドライバー不足やCO2排出量削減を目的としており、4月11日から東北地方の物流拠点間で実施されます。
両社は、宮城県・岩手県の在庫拠点から秋田県の配送拠点への輸送便を共同で運行します。具体的には、冷凍商品の輸送において、輸送車両にスペースが生じた場合、1台のトラックに両社の商品を混載し、共同輸送を行います。これにより、車両台数の削減とCO2排出量の削減を目指しています。
この共同輸送は、物量が比較的安定する4月から6月、および9月から11月の火曜日、木曜日、金曜日に実施されます。対象商品はアイスクリーム、氷、冷凍食品などの冷凍商品で、10トントラック1台を使用します。1回あたりのCO2排出削減量は約56kgと見込まれています。
ファミリーマートとローソンは、2020年8月と2022年2月に大手コンビニエンスストア3社による共同配送実証実験に参加しており、今回の取り組みはその延長線上にあります。
出典)
https://www.family.co.jp/company/news_releases/2024/20240408_01.html
アスクル株式会社
2023年11月、アスクル株式会社は、物流センターと補充倉庫間の商品輸送(横持ち)計画にAIを活用した需要予測モデルを導入し、全国の物流拠点で展開を開始しました。
このAI需要予測モデルは、物流センターとその近郊に位置する補充倉庫間での「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶべきか」をAIが指示するものです。従来は担当者が経験や知見を基に手作業で計画を立てていましたが、AIの活用により予測精度が向上し、作業工数の削減にもつながりました。
具体的な成果として、ALP横浜センターでは以下の効果が得られています。
・商品横持ち指示の作成工数:約75%減/日
・入出荷作業:約30%減/日
・フォークリフト作業:約15%減/日
出典)
https://www.askul.co.jp/kaisya/dx/stories/00147.html
スマートロジスティクスがもたらすメリット
スマートロジスティクスとは、AIやIoT、ロボティクスなどの先進技術を活用して、物流の効率化と柔軟性を高める取り組みです。この革新によって、物流業界にはさまざまなメリットがもたらされています。以下に、項目別にその効果を解説します。
コスト削減
AIを活用することで配送ルートを最適化し、燃料費や時間を削減できるほか、倉庫作業を自動化することで人件費の削減も実現します。
効率的な在庫管理
AIで過去のデータを基に需要を精度高く予測することで、過剰在庫や欠品のリスクを防ぎます。また、IoTセンサーを活用して在庫状況をリアルタイムでモニタリングすることで、必要な補充を適切なタイミングで行うことが可能になります。
顧客満足度の向上
配送遅延を最小限に抑える迅速な配送が可能になり、顧客の期待に応えるサービスを提供できます。また、配送追跡システムにより、顧客が荷物の状況をリアルタイムで確認できるようになり、安心感と利便性が向上します。
環境負荷の軽減
AIで輸送経路や車両の稼働を最適化することでエネルギー効率を高め、CO₂排出量を削減することが可能です。そして共同配送や積載効率の向上により、物流リソースを最大限に活用し、環境への負荷を大幅に軽減します。
スマートロジスティクスは、効率と持続可能性を両立させる未来型物流システムです。企業にとっては競争力の向上、消費者にとっては利便性の向上、そして環境にとっては負荷の軽減につながる、極めて重要な取り組みといえます。
AI導入の課題と解決策
初期投資のコスト
AIの導入には、システム開発やインフラ整備に高額な初期投資が必要です。中小企業にとっては特に大きな負担となります。
解決策: クラウド型AIサービスやサブスクリプションモデルを活用することで、導入コストを抑えつつ必要な機能を利用できます。
また、すべてを一度に導入するのではなく、倉庫管理や配送ルート最適化など、影響が大きい部分から始める段階的導入も検討できます。
データの品質と管理
AIが正確に機能するためには、大量で正確なデータが必要で、物流現場ではデータの収集・整備が不十分な場合があります。
解決策: IoTセンサーやバーコードスキャナーなどのデジタルツールを導入し、リアルタイムで正確なデータ収集を行う体制を整えることが重要です。
セキュリティリスク
AIが扱う物流データには顧客情報や配送ルート情報が含まれるため、セキュリティリスクが高く、データの漏洩や不正アクセスが発生した場合、顧客信頼を損ねる可能性があります。
解決策: データ暗号化やファイアウォールの導入してセキュリティ対策を強化したり、AWSやAzureなど、セキュリティに強いクラウドサービスを利用したりします。
既存システムとの統合
従来の物流システムやERP(基幹業務システム)と新しいAIツールが統合されていない場合、データ連携がスムーズにいかなくなったり、システム間でデータの互換性がない場合、手作業が増えるリスクもあります。
解決策:異なるシステム間の連携を可能にするAPIを利用したり、段階的にAIを組み込む、専門のITコンサルタントやベンダーを活用するなどの手段があります。
未来のスマートロジスティクスの展望
完全自動化された物流プロセス
未来の物流では、ほぼすべてのプロセスが自動化されると期待されています。
完全自動倉庫や、ドローン配送と自動運転車により、効率性が向上し、配送スピードが飛躍的にアップし、人的エラーやコストの大幅削減が期待されます。
持続可能なエコロジー物流
環境問題が重視される中、物流業界もカーボンニュートラルを目指して進化します。
トラックや配送車が電動化し、水素燃料を利用した長距離輸送が普及します。AIが輸送プロセスのCO2排出量をリアルタイムで追跡し、削減方法を提案し、循環型物流が可能になることで、環境負荷が劇的に軽減され、サステナブルな物流が主流になるでしょう。
超個別化された物流サービス
顧客のニーズや行動に応じた超個別化サービスが可能になります。
顧客が指定した時間・場所に柔軟に配送したり、AIがリアルタイムで最適な配送スケジュールを調整するオンデマンド配送や、顧客の購入履歴や行動データを分析し、最適な配送方法やタイミングを提案します。顧客満足度が向上し、物流がより顧客志向になるでしょう。
リアルタイムで最適化される物流ネットワーク
物流ネットワーク全体がリアルタイムで動的に管理されます。
AIとIoTが物流の需要と供給をリアルタイムで予測し、ネットワーク全体を最適化するスマートサプライチェーンや、スマートグリッドとの連携、天候、災害、交通状況などの障害対応の迅速化が実現し、ロスが減少し、効率的かつ柔軟な物流システムが構築されるでしょう。
デジタルツインによる物流の仮想化
物流全体をデジタルでシミュレーションし、最適な運用が可能になります。
倉庫、配送ルート、車両などをデジタルツインに仮想空間で再現し、最適な配置や運用方法を試験したり、AIが需要変動や災害の影響をシミュレーションし、最適な計画を作成することが可能になるでしょう。
これらの進化により、物流業界は効率性、柔軟性、そして持続可能性の高いモデルにシフトします。未来の物流は、環境や社会と調和しながら、顧客満足を最大化するものになるでしょう。
まとめ
今回は物流業界におけるAI活用についてご紹介いたしました。いかがでしたでしょうか?
これからの物流業界では、技術革新をいかに活用するかが成功の鍵を握ります。スマートロジスティクスの進化は、業界全体の成長を加速させるとともに、より良い社会の実現に寄与するでしょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。