荷待ち・空車を減らす!ラウンド輸送導入で物流現場が変わる

荷待ち・空車を減らす!ラウンド輸送導入で物流現場が変わる

物流業界で深刻化する「荷待ち」「空車回送」の課題。これらは単なる非効率にとどまらず、ドライバーの拘束時間や燃料コストの増加、人材の定着難といった深い問題にもつながっています。こうした現場の負担を減らす手法として、近年注目を集めているのが「ラウンド輸送」です。発地と着地の双方で荷物を積むことができれば、空車の移動が減り、1台あたりの稼働効率が大きく向上します。

本記事では、ラウンド輸送の仕組みや導入メリット、成功事例や注意点までを分かりやすくご紹介します。

ラウンド輸送とは?

ラウンド輸送とは、トラックが一方向の輸送を終えたあと、戻りの便でも別の荷物を積んで運ぶ「往復稼働型」の輸送方法です。通常、配送後は空車で戻るケースも多く、これが“空車回送”と呼ばれる非効率な運行につながっていました。ラウンド輸送では、出発地と到着地の両方で荷物を積むことで、こうした無駄を削減します。

たとえば、関東から関西へ荷物を運んだトラックが、帰りに関西発の荷物を積んで関東へ戻る、といった形です。運行効率の向上はもちろん、ドライバーの拘束時間の削減燃料コストの抑制にもつながり、持続可能な物流体制の構築に貢献します。

物流の需給バランスが崩れやすい現在において、ラウンド輸送は空車率の改善や安定運行の有効な選択肢として注目されています。

【従来】片道輸送(往路のみ積載)

A地点 ─────【積載】────▶ B地点  

A地点 ◀────【空車】──── B地点

【改善】ラウンド輸送(往復とも積載)

A地点 ─────【積載①】────▶ B地点  

A地点 ◀────【積載②】──── B地点

なぜ今、ラウンド輸送が注目されているのか?

物流業界を取り巻く環境が急速に変化するなかで、「ラウンド輸送」という仕組みがあらためて注目を集めています。その背景には、ドライバー不足や輸送コストの上昇といった避けがたい課題があり、限られたリソースをどう効率的に活かすかが重要な経営テーマとなっています。ここでは、ラウンド輸送が必要とされる主な理由を整理します。

2024年問題に対応する手段として

時間外労働の規制強化により、ドライバーの稼働時間が年960時間に制限される中、空車回送をできるだけ減らすことが求められています。ラウンド輸送により、片道だけの輸送ではなく往復ともに荷物を運べる仕組みを構築すれば、1運行あたりの生産性を大きく高めることが可能です。

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高騰する輸送コストの抑制

燃料費や人件費、車両維持費の上昇が続くなかで、空車走行は利益を圧迫する要因となっています。ラウンド輸送は、車両の稼働効率を最大化し、同じ移動距離でより多くの荷物を運ぶことができるため、コスト削減に直結します。

SDGs・環境配慮への対応

空車回送の削減は、単に効率面だけでなく、CO₂排出量の抑制にもつながります。企業の環境配慮姿勢が問われる中で、ラウンド輸送は「選ばれる物流パートナー」としての信頼を高める取り組みにもなります。

協力企業とのネットワーク構築

異業種や異なる物流ネットワークとの連携によって成り立つラウンド輸送は、業界を超えたパートナーシップを促進する契機にもなります。持続可能な輸送体制を構築するうえで、こうした協業の動きがますます重要になってきています。

ラウンド輸送のメリット

ラウンド輸送は、行きと帰りの両方で荷物を運ぶことにより、輸送効率を高める取り組みです。ドライバー不足やコスト増といった業界全体の課題に直面する今、多くの企業が導入を進めています。ここでは、ラウンド輸送を取り入れることで得られる具体的なメリットを整理します。

積載率向上

ラウンド輸送では、帰りの便にも積荷を確保することが前提となるため、積載率が格段に上がります。これまで片道だけ荷物を積んでいたケースと比べて、車両1台あたりの「運んだ量」が大幅に増えるため、同じリソースでより高い成果が得られます。

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空車回避

通常の輸送では、目的地に到着後は空荷のまま戻る「空車回送」が避けられません。ラウンド輸送では、行き先近辺の集荷先とマッチングすることで、無駄な回送を減らすことができます。結果として、車両の稼働率が上がり、経済的な運行が可能になります。

CO₂排出削減

空車走行が減れば、それだけ無駄な燃料消費が抑えられ、CO₂排出量の削減にもつながります。輸送効率の向上と環境負荷の軽減を同時に実現できるため、SDGsや環境配慮型経営を目指す企業にとっても大きなプラスになります。

ドライバーの労働環境改善

ラウンド輸送の導入により、定時性の高い運行スケジュールを組みやすくなり、長時間の待機や非効率な運行が減少するため、ドライバーの拘束時間や精神的な負担が軽くなり、働きやすい環境づくりに貢献します。

ラウンド輸送の課題・デメリット

ラウンド輸送は、輸送効率を高める有効な手段として注目されていますが、導入・運用には一定のハードルも存在します。ここでは、実際に現場で直面しやすい課題やデメリットについて整理します。成功に向けては、これらのポイントへの理解と対策が不可欠です。

荷主間の調整の難しさ

ラウンド輸送では、出発地と到着地の双方で荷物を持つ荷主との調整が欠かせません。たとえば「行き」は冷凍食品メーカー、「帰り」は飲料メーカーというように、業種や取り扱い条件が異なるケースでは、荷扱いの方法や時間帯、積載条件のすり合わせが必要になります。

また、積載率や納品時間の都合など、お互いに妥協が必要な場面も出てくるため、信頼関係の構築や細かな調整力が問われます。

配車管理の複雑化

ラウンド輸送は従来の片道輸送と異なり、車両が「どこから出発し、どこで積み、どこへ届けるか」に加えて、「どこで次の荷物を積み、どこへ戻るか」まで一連の流れで最適化する必要があります。

これにより、配車業務は一段と複雑になります。急なスケジュール変更や遅延の影響が連鎖しやすく、マッチングの精度や調整スピードが求められます。システム化や人員体制の見直しなど、業務設計の更新も視野に入れる必要があります。

導入企業の成功事例

株式会社アイシン・ヤマト運輸株式会社、名古屋でラウンド輸送の本格運用開始

今回の取り組みでは、アイシンが生産した製品を工場から名古屋港へと輸送した後の復路便で、ヤマト運輸の荷物を輸送します。実証実験は2024年9月より実施されており、愛知県東部に位置する同社田原工場から名古屋港へアイシンの製品を輸送した後、復路便を活用してヤマト運輸の総合物流ターミナルで宅急便の荷物を積み込み、愛知県東部のヤマト運輸営業所へ輸送してきました。

実証は、同社工場と名古屋港を結ぶ定期輸送ルート上にヤマト運輸の総合物流ターミナルが位置し、同社工場とヤマト運輸の営業所が隣接していることに着目したもので、実証を経て輸送の効率性が確認できたことで、2025年1月からは、同社岡崎工場の定期便も加えて本格運用を開始しました。今後は、ラウンド輸送の対象地域拡大や、生活用品等の軽量荷物と同社製品を混載した共同輸送などの検討を進めていき、物流問題の解決に貢献していくとしています。

出典)

https://www.aisin.com/jp/news/2025/006312.html

日本石油輸送株式会社が所有する31フィートスーパーURコンテナを活用した鉄道によるラウンドマッチング輸送

2024年11月28日に株式会社ブルボン、株式会社ロッテ、株式会社曙運輸、全国通運株式会社、日本貨物鉄道株式会社、日本石油輸送株式会社は日本石油輸送株式会社が所有する31フィートスーパーURコンテナを活用した鉄道によるラウンドマッチング輸送を開始しました。

スーパーURコンテナとは、日本石油輸送が所有する真空断熱パネルを採用したコンテナです。冷蔵コンテナよりも高い断熱性能を備えているため、より一層の温度維持が必要な品物を運ぶのに最適です。

ブルボンの福岡県内物流センターへの納品後、同じコンテナをロッテ九州工場(福岡県)から大阪府内の倉庫向けへの輸送に活用するマッチングを行いました。

ブルボンは工場で生産した「アルフォート」「ルマンド」等の製品を福岡県内物流センターへ輸送し、ロッテ九州工場から大阪府内の倉庫へは「チョコパイ」等の製品を輸送します。同業2社による、物流部門でのコラボレーションを行うことにより、輸送にかかる総コストを削減できるだけでなく、労働力不足の解消等での物流効率化にも貢献できます。また、ロッテは同区間を鉄道輸送に切り替えることにより、CO2排出量を年間17.0トン(削減率80.3%)削減します。

出典)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000002383.000002360.html?utm_source=chatgpt.com

株式会社伊藤園と全農物流株式会社のラウンド輸送

株式会社伊藤園と全農物流株式会社は、新潟〜関東間で相互の車両を活用して飲料や米穀を運ぶ「ラウンド輸送」を11月から本格稼働しました。

往路は、群馬県にある伊藤園の出荷倉庫から新潟センターへ飲料を輸送し復路は、JA全農にいがた倉庫から関東の卸・営業倉庫へ米穀を輸送します。それぞれ週3回運行するうちの1回を、相互にラウンド輸送する循環型物流連携です。

空車で運行していた区間を共同輸送として活用できることから、トラックの使用台数は従来に比べ33%削減、CO2排出量も約16%削減できる見込みです。

両社は今後も連携を強化し、より幅広い領域での物流連携を検討していきます。

出典)

https://www.b-plaza.jp/news/detail.php?gid=t11roro40ft&n=7447&p=12&utm_source=chatgpt.com

今後の展望〜デジタル化・共同配送との融合で進化するラウンド輸送〜

ラウンド輸送は、ドライバー不足や輸送効率改善への有効な手段として注目されていますが、今後さらにその可能性を広げていく鍵となるのが、デジタル技術と異業種連携の強化です。単なる往復の実車化にとどまらず、共同配送やリアルタイムデータの活用によって、より柔軟で持続可能な物流の仕組みへと進化しています。

配車・マッチングの自動化

AIを活用した配車システムやマッチングプラットフォームの活用が進み、リアルタイムでラウンド相手を見つける仕組みが整いつつあるため、これまで人手に頼っていた交渉やスケジュール調整の手間が減り、よりスピーディな運用が可能になります。

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共同配送とのハイブリッド運用

ラウンド輸送は、同じエリアを走る複数の荷主の貨物を一括で運ぶ「共同配送」と相性が良く、両者を組み合わせることでさらに効率的なルート設計が可能になります。都市部でのラストワンマイル配送と、地方間の幹線輸送を分けて設計するケースが増えています。

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トレーサビリティと見える化の高度化

IoTやセンサー技術によって、車両位置や積載状況の可視化が進み、より正確な運行管理ができるようになっています。これは荷主側の不安軽減だけでなく、現場でのムダな待機時間削減にもつながります。

政策・制度の後押し

物流総合効率化法の認定を受けた企業が、ラウンド輸送や共同配送(モーダルシフト等)に取り組むと、計画策定費用や実運行経費が補助対象となります。
実施例として、鉄道+ラウンド輸送を組み合わせた物流が国交省で認定され、専用コンテナの導入にも補助金が活用されています。

まとめ

本記事では、物流業界が直面する荷待ちや空車といった課題に対する打ち手として「ラウンド輸送」の仕組みや導入メリット、そして実践時の課題について解説しました。単なる往復便の活用にとどまらず、積載率の向上やドライバーの労働環境改善、CO₂排出削減といった複合的な効果が見込める点が、今注目されている理由です。今後は、デジタル技術や共同配送との連携により、より柔軟かつ持続可能な形に進化していくと考えられます。自社の物流体制の見直しに向け、第一歩として検討してみてはいかがでしょうか。

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