物流DXとは?ビジネスに与える影響
物流DXは、物流業務にデジタル技術を取り入れることで、効率化や最適化を図り、業界全体の革新を目指す取り組みです。これにより、従来の手作業やアナログ的な管理から脱却し、スピードや正確性を向上させることができます。
物流DXがビジネスに与える影響は下記のように多岐にわたります。
労働力不足への対応
物流業界で深刻な課題となっている人手不足を補います。自動運転車やロボティクスなど自動化の導入で、労働力を補完し、単純作業の自動化により、従業員は付加価値の高い業務に集中することができます。
顧客満足度の向上
最適化された配送ルートと在庫管理により、商品が早く確実に届けられます。また、リアルタイムでの配送状況や到着予定の情報提供により、顧客満足度や信頼性が高まります。
データ活用による戦略的意思決定
物流業務の各プロセスで得られるデータを分析し、改善点を把握し、物流戦略や業務プロセスの最適化に活用できます。また、消費者の行動データや配送データを元に、顧客ニーズに合った新しいサービスを生み出すことも可能になります。
サプライチェーン全体の強化
サプライチェーン全体でのデータ共有や連携が進み、取引先や協力会社との連携が強化され、効率的な物流が実現します。また、トラブルが発生しても、リアルタイムデータに基づき柔軟な対応が可能となり、リスク管理が強化されるでしょう。
自動化の導入で実現する物流の効率化
自動化導入は、作業効率とコスト削減、環境負荷の軽減に大きく貢献しています。下記に自動化の導入によって実現する物流の効率化を具体的に説明いたします。
倉庫作業の自動化
ロボットやクレーンが商品を自動で収納・取り出しする「自動倉庫システム(AS/RS: Automated Storage and Retrieval System)」は、作業スピードが人間の数倍のため、少人数で倉庫を運営可能になり、作業ミスが減少します。
人間の代わりに指定された商品を棚から取り出す「ピッキングロボット」は、ピッキング作業の効率化を図り、24時間稼働が可能になります。
Amazonのロボット倉庫は、ロボットが棚ごと作業員のもとへ運ぶことで、人の移動時間を削減し、結果、1日の処理量が大幅に増加しました。
配送の自動化
AIが天候や交通状況をリアルタイムで分析し、最適なルートを提示してくれる、配送ルートの自動最適化により、遅延リスクが最小となり、燃料コストと配送時間の削減されます。
自動運転車やドローン配送は、人手不足を解消し、遠隔地や災害時でも迅速に配送可能になります。
UPSの配送最適化ソフト「ORION」は、配送ルートをリアルタイムで調整し、毎年 1 億マイル(約 1.6 億 km)もの走行距離の削減ができるようにな理、これにより約 10 万トン分もの二酸化炭素排出量が削減できたとしています。
在庫管理の自動化
在庫の残量をリアルタイムで検知してくれるlotセンサーの活用により、在庫状況を正確に把握し、過剰在庫や欠品を防止します。
商品に埋め込まれたRFIDタグをスキャンし、位置や状態を追跡することで、在庫管理の時間短縮や、人的エラーの排除を可能にします。
ウォルマートのスマート倉庫は、RFIDを活用し、商品補充が必要なタイミングを自動で通知。効率的な棚卸しを実現しています。
荷物の仕分け作業の自動化
ベルトコンベアや仕分けロボットが、荷物を行き先ごとに自動で仕分けし、大量の荷物を短時間で仕分け可能になり、人的ミスの削減に繋がります。
フェデックスのAIを搭載したインテリジェント仕分けロボットは、約40平方メートルの広さで、10Kgまでの荷物を運ぶことが可能で、同時に100か所以上の仕向地の仕分けをカバーしています。
顧客対応の自動化
チャットボットやAIアシスタントを活用し、配送状況の問い合わせや再配達依頼を自動で処理します。これにより、カスタマーサポートの24時間対応し、顧客対応の時間削減に繋がります。
以上のように、物流の自動化は、作業スピードが向上し、運営コストが削減でき、人的エラーを防ぎ、正確な業務遂行を行います。
さらに少人数での運営や24時間体制が可能になり、労働力不足の解消になり、企業は効率的で競争力のある物流体制を構築できます。
物流DXの成功事例
ヤマト運輸「EAZY」
主にEC事業者やネットショッピング利用者向けの配送サービスで、より便利で柔軟な受け取りを実現するための機能を備えています。以下に、EAZYの主な特徴と機能をご紹介いたします。
1,玄関前や宅配ボックスへの配達
荷物を玄関先や宅配ボックスに置いて配達完了とするサービス。対面での受け取りが不要なので、不在時でも安心して利用できます。
2,受取日時の指定
配送予定日時を指定したり変更できるので、利用者の都合に合わせた受け取りが可能です。
3,リアルタイムの配送通知
配送状況をリアルタイムで通知し、予定時間や配送完了をスマートフォンやPCで確認できます。これにより、配達予定の把握が簡単になります。
4,再配達の削減
利用者の都合に合わせた柔軟な受け取りオプションを提供することで、不在による再配達を減らし、環境負荷や配達員の負担を軽減します。
出典)
https://business.kuronekoyamato.co.jp/service/lineup/eazy/index.html
佐川グローバルロジスティクス株式会社「t-SortやRFIDシステム」
佐川グローバルロジスティクス株式会社は、東松山SRCの生産性向上を目的に次世代型ロボットソーター「t-Sort」とRFIDシステムを導入しました。
「t-Sort」は、繁閑に応じて使用するロボット台数を変更することで処理能力の調整やコストの流動化、また従来型のソーターと比べ導入までのリードタイム短縮や省スペース化が可能になり、これにより、ヒューマンエラーによる誤発送撲滅と、作業にかかる人員を27%削減され、同作業に従事していた人員を作業負荷が大きい出荷作業に振り替えることで全体の作業時間が短縮されました。
出典)
https://www.sg-hldgs.co.jp/newsrelease/2021/0804_4806.html
国際総合航空貨物輸送会社フェデックス エクスプレス「SenseAware」
輸送中の貨物に関するリアルタイムデータを提供するソリューションです。このサービスは、輸送状況を正確に把握し、リスクを最小限に抑えることを目的としています。下記が主な機能になります。
1,リアルタイムの貨物追跡
SenseAwareデバイスを使用して、輸送中の貨物の現在地をリアルタイムで追跡できます。また、位置情報だけでなく、貨物がどの施設や経路を通過しているかも詳細に確認可能です。
2,環境モニタリング
温度、湿度、衝撃、気圧、光の露出といった環境データを確認することが可能です。特に温度管理が重要な医薬品や高価な電子機器の輸送に適しており、規定条件外の環境変化があればアラートが発生します。その情報は第三者とも共有することができます。
出典)
DX推進で生まれる新しい物流モデル
物流DXの推進により、従来の枠組みを超えた新しい物流モデルが次々と誕生しています。
シェアリングエコノミーと共同配送の進展
物流DXを活用したシェアリングエコノミーは、複数企業が配送リソースを共有し、効率的な配送を実現するモデルです。
共同配送では、同一エリアへの荷物を複数社が一括して運ぶことで、トラックの稼働率を向上し、CO₂排出削減やコスト削減にも寄与します。
これは、車両や倉庫の稼働率を最大化し、コスト削減や、無駄な移動や空車走行を削減する環境負荷の低減などのメリットがあります。
フィジカルインターネットの可能性
「フィジカルインターネット」は物流資源をネットワーク化し、最適化するコンセプトです。
各輸送機関や倉庫を連携させ、荷物を効率的に移動させる仕組みを構築し、無駄を最小限に抑えます。これにより、グローバルな物流ネットワークの効率化が進み、より迅速かつコスト効率の高い輸送が可能になります。
究極の物流シェアリングといわれる「フィジカルインターネット」とは?
マイクロフルフィルメントモデル
都市部の近隣エリアに小規模な自動倉庫を設置し、顧客の近くから迅速に商品を届けるモデルのことで、小規模ながらも高度に自動化された物流センターで、都市部の狭いスペースにも設置可能で、これにより、オンライン注文の処理から配送までの時間を大幅に短縮し、顧客の即時性の高いニーズに応えることができます。また、在庫管理の効率化も実現し、商品の欠品や過剰在庫を防ぎます。
サプライチェーン全体のリアルタイム可視化
DXにより、IoTやAIを活用したリアルタイムの可視化が進んでいます。
荷物の位置や温度、在庫状況などが瞬時に把握できるため、遅延やトラブルへの迅速な対応が可能になり、データに基づいた需要予測や輸送計画の精度向上により、サプライチェーン全体の効率が大幅に改善します。
ラストマイル配送の再構築
配送の「最後の1マイル」を効率化する新しい配送手法で、遠隔地や郊外への配送を自動化した「ドローン配送」やラストマイルの効率化と人手不足解消するための「自動運転車」非対面配送の推進する「宅配ボックス」などが挙げられます。これにより、人件費や燃料費の削減、配送人員の負担を軽減し、配送時間の自由度が増し、顧客利便性の向上が期待されています。
これらのモデルは、物流プロセスを根本的に変革し、コスト削減、効率化、顧客体験の向上、環境負荷の低減を同時に実現します。物流業界が直面する課題に対応しつつ、新しい価値を提供する鍵となるでしょう。
物流DX導入の課題とその解決策
物流DXを導入することで大きなメリットが期待される一方、さまざまな課題も存在します。
導入コストの高さ
課題: AIやIoT機器、ロボットなどの導入には高額な初期投資が必要で、中小企業には負担が大きいとされています。
解決策: まずは在庫管理システムを導入し、その後配送管理に拡張するなど、段階的導入したり、国や地方自治体が提供する補助金や助成金を活用し、導入コストを軽減できる場合があります。また、サブスクリプション型のサービスを利用し、初期費用を抑える方法も有効です。
技術導入のハードル
課題: 新しいテクノロジーの導入に伴い、既存のシステムとの統合や運用が難しい場合があります。
解決策: 新しいシステムを導入する際には、実務に近いシミュレーションやトレーニングなどスタッフ向けの研修を行い、操作方法を徹底的に教育します。
ベンダーや技術サポートを活用し、問題が発生した際に迅速に対応できる体制を整えることも重要です。
人材不足とスキルギャップ
課題: デジタル技術を活用できる人材が不足しており、現場のスキルアップが必要です。
解決策: 従業員向けの教育プログラムやトレーニングを実施し、デジタルスキルを向上させる。また、専門人材の採用や外部パートナーの活用も検討します。
データの安全性とプライバシーの確保
課題: IoTやクラウドを活用することで、サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクが増加します。
解決策: 最新のセキュリティソリューションを導入し、定期的なシステム監査を実施。従業員に対する情報セキュリティ教育も強化します。
需要予測の精度不足
課題:AIやビッグデータを活用した需要予測が正確でない場合、在庫不足や過剰在庫のリスクがあります。
解決策:過去の需要データや市場トレンドなど、正確で豊富なデータを収集し、データの質を向上させます。また、AIのモデルを定期的に学習させることで予測精度を向上させ、AIの予測結果を人間が補完するハイブリッドアプローチを採用します。
物流DXの導入は課題も多いものの、適切な対策を講じることで、そのメリットを最大限に活用することが可能です。効率化と競争力向上を目指して、計画的な導入が求められます。
未来の物流戦略 〜持続可能な物流とゼロエミッション〜
未来の物流戦略では、持続可能性と環境負荷の削減が重要なテーマとなっています。特に、ゼロエミッション物流の実現は業界全体の目標であり、企業はさまざまな取り組みを進めています。
持続可能な物流とは
持続可能な物流は、環境・社会・経済の3つの側面を同時に考慮した物流モデルで、具体的には、返品やリサイクル品の物流プロセスを効率化する「リバースロジスティクスの強化」や、再利用可能な梱包材の採用や、リサイクルシステムの構築する「循環型物流の推進」、地産地消の物流モデルを促進し、都市部に小規模な拠点を設置し、配送距離を短縮する「地域物流の最適化」などが挙げられます。
ゼロエミッション物流とは
具体的には、ゼロエミッション物流は、物流プロセスでのCO2排出をゼロに近づけることを目指します。電気トラック(EV)や水素燃料電池車(FCV)などのカーボンニュートラル車両の導入や、倉庫や配送センターを太陽光発電や風力発電で稼働させたり、再生可能エネルギーの導入、AIを活用した配送効率化、排出量削減が難しい領域には、植林プロジェクトや再生可能エネルギーへの投資で相殺する「カーボンオフセット」が挙げられます。
持続可能な物流とゼロエミッションのメリット
企業側のメリット:
・エネルギー効率向上や廃棄物削減でコストを抑制します。
・環境に配慮した企業イメージで顧客や投資家からの支持が得られます。
・環境規制の強化に備え、競争力を維持します。
社会的なメリット:
・温暖化防止や資源の有効活用。
・地産地消型の物流拠点整備による雇用創出。地域活性化。
持続可能な物流とゼロエミッション物流は、未来の物流戦略の柱です。これらを実現するには、以下のポイントが重要です。
・IoT、AI、EVなど新しい技術の積極導入。
・データを活用した効率的な物流プロセス。
・環境負荷を考慮したサステナブルな取り組み。
物流業界は、単なる効率化だけでなく、地球環境や社会への貢献を意識した方向へシフトすることで、次世代の持続可能な社会を支える重要な役割を果たすでしょう。
まとめ
物流DXは、ビジネスの現場に革命をもたらし、物流業界全体の効率化と持続可能性を推進しています。自動化技術やAI、IoT、デジタルツインの導入により、業務の精度が向上し、労働力不足やコスト増大といった課題に対応できる新しい物流モデルが構築されています。
物流DXは単なる技術革新にとどまらず、顧客満足度の向上や持続可能な社会の実現に向けた大きな一歩です。未来の物流戦略を見据え、業界全体での取り組みを加速させることが、次世代のビジネス成功の鍵となるでしょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。