物流とAR技術の融合
物流現場では、近年、AR(拡張現実)技術の導入が進んでいます。
ARは、「Augmented Reality」の略で、現実の世界にデジタル情報を重ねて表示する技術です。例としては、スマートフォンや専用のスマートグラスを通じて、実際の景色や物体の上に、案内や説明、ガイドラインなどのデジタル情報が見えるようにするものです。
AR技術の導入は、物流の効率化やコスト削減につながるだけでなく、作業の安全性向上にも貢献します。将来的には、AIやIoTと組み合わせることで、より高度な支援が可能となり、物流業界のさらなる革新が期待されています。今回の記事では物流現場におけるAR活用をご紹介いたします。
ARが物流現場にもたらす具体的な活用シーン
物流現場でAR技術を活用する場合、視覚情報を作業員の目の前に直接表示するため、効率性と正確性が求められる物流作業において大きな効果を発揮します。
ピッキング作業の支援
ARメガネやタブレットなどのARデバイスを使用して、ピッキング作業中に必要な商品情報や棚の位置を視覚的に表示します。ARが商品の位置や数量を指示するため、作業者は画面を確認するだけで効率的にピッキングを行えます。
ピッキングの正確性が向上し、作業効率も大幅に改善されます。作業ミスが減り、特に新しいスタッフや経験の浅いスタッフでもミスなく作業が可能になります。
Dynabookの「ピッキングソリューション」では、物流現場におけるAR(拡張現実)技術を活用し、ピッキング作業の効率化と正確性向上を実現しています。このソリューションは、スマートグラスを使用して作業員の視界にピッキングに必要な情報をリアルタイムで表示します。これにより、作業員は手を使わずに視覚情報を確認でき、商品を素早く探して取り出せるため、作業のスピードと精度が向上します。
参照)
https://dynabook.com/business/mecd/solution/picking.html
検品作業の精度向上
商品が梱包される前に、ARを使って商品の数量や品番が正確であるかを検査します。ARデバイスがバーコードやQRコードを読み取り、表示された情報と照らし合わせながら検品作業を行うことで、正確な検品が可能となり、ヒューマンエラーのリスクを軽減できます。
特に大量の商品を扱う場合でも、短時間で高精度な検品が可能になるため、物流現場での生産性が向上します。
倉庫内ナビゲーション
広い倉庫での作業では、商品棚の位置を探すのに時間がかかりますが、ARナビゲーションを使うことで、目的の場所までのルートが視覚的に表示されるため、新しい作業員が倉庫に慣れていなくても、指定された場所に迷わずたどり着けます。
移動時間が短縮され、作業効率が上がります。また、倉庫内の動線が最適化されることで、作業者同士の衝突リスクも低減し、安全な作業環境を提供できます。
メンテナンス作業のサポート
倉庫内の機器や設備のメンテナンス作業時に、ARを使用して点検手順や部品の取り扱い方法を表示します。ARで機器の分解手順やチェックポイントを視覚的に表示し、作業員がスムーズにメンテナンスを行えるようサポートします。
メンテナンスの精度と効率が向上し、機器の稼働時間を確保でき、また、専門的な知識がなくてもARガイドがあれば対応できるため、作業者のスキルレベルに左右されにくくなります。
このように、物流現場におけるAR技術の活用は、作業効率の向上やミスの削減、教育の効率化といったさまざまなメリットをもたらし、物流の未来を支える一助となっています。
AR導入による物流現場のメリット
物流現場でARを導入することは、作業効率や精度の向上、そしてコスト削減といった多くのメリットをもたらします。下記がメリットの詳細です。
作業のスピードと正確さが向上
ARでピッキング作業の案内が視界に直接表示されることで、作業員は商品を探す手間が省け、取り間違いも減らせます。これにより、物流現場全体の作業効率が大幅にアップします。
作業ミスの減少
視覚的に情報が表示されるため、作業員が次の行動を迷うことなく進められ、ミスが起きにくくなります。これにより、商品管理や在庫管理の精度が向上し、品質の高い物流サービスが提供できます。
教育やトレーニングの効率化
新人作業員が現場でARガイドを使えば、手順や注意点が視覚的に表示されるため、効率よく学習できます。これにより、短期間で現場に適応でき、教育コストも削減されます。
安全性の向上
倉庫内ナビゲーションや動線管理によって、事故や作業者同士の衝突リスクが軽減されます。
また、物流現場でARを活用することによって新人社員のための安全教育のトレーニングに繋がると考えられ、実際に体験できないことを体感できるため、より危険に対する意識が向上できるのではないかと期待されています。
このように、ARの導入は、物流現場にとって単なる効率化ツールにとどまらず、品質や教育コスト、全体的な生産性向上に貢献する価値ある技術といえます。物流の未来を支える一助として、今後も期待されています。
物流現場でのAR導入の成功事例
「佐川グローバルロジスティクス株式会社」と「エピソテック株式会社」が共同開発
2024年1月~3月の期間で佐川グローバルロジスティクス 久喜菖蒲営業所にて、佐川グローバルロジスティクス株式会社とAR/MRアプリケーションの企画・開発のエピソテック株式会社が『ヒトとARが融合する物流オペレーションの未来』の実現に向けて、両社で共同開発しているARを活用した物流業務支援システムの実証実験を実施しました。ルート可視化によるピッキング支援やAR技術を用いた動画による作業教育で活用されます。
参照)
https://www.sg-hldgs.co.jp/newsrelease/2024/0424_5291.html
ウォルマート
米小売大手のウォルマートが3,500店舗にAR導入し、倉庫のピッキング作業効率化を試みています。
ウォルマートの店頭には通常12万種類ものアイテムが並び、各店舗ではおよそ1万5,000箱の在庫を倉庫に保管していますが、手厚い在庫にも関わらず、店頭への商品補充の遅れは課題となっていました。
今回、倉庫の棚から目当ての商品を見つける機能を導入。作業者が在庫棚にスマートフォンを向けると、ピックアップしたいアイテムに緑色のチェックマークがつき、簡単に探し出すことができます。この機能により、商品1点を見つけるのに平均2.5分要していたところ、42秒と3分の1以下に短縮することができています。
参照)
https://www.moguravr.com/walmart-ar/
DHL
DHLは2017年からAR活用の実証実験をしていました。世界規模で実施した実証実験で成功したことで、世界中の庫内作業にAR対応のスマートグラスを標準採用し、ソリューションの有効性および安定性を確認しました。結果として生産性が平均15%改善、作業精度やピッキング作業員の支持率も向上しました。
参照)
https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP454777_U7A820C1000000/
導入時に考慮すべき課題
AR技術は物流現場で大きな効果をもたらしますが、導入時にはいくつかの課題も考慮が必要です。
設備と環境の整備
ARシステムを効果的に活用するには、スマートグラスやタブレット、通信インフラが安定していることが重要です。特に広い倉庫や電波の届きにくい場所では、接続やシステムが不安定になるリスクがあるため、Wi-Fi環境や5Gの整備が求められます。
作業者の教育とサポート
ARを活用するためには、新しいデバイスの使い方に習熟する必要があり、特にデジタルに慣れていない作業者には負担になる可能性があるため段階的な導入や、ARの基本操作に関するトレーニングを用意し、サポート体制を整えておくことが重要です。
導入コストが高い
ARシステムの導入には初期投資がかかり、デバイスやソフトウェアの維持費も継続的に発生します。特に大規模な物流拠点や複数拠点で導入する場合、機器費用、システム開発費、インフラ整備費など、導入初期に大きなコストが発生します。そのため、費用対効果をしっかりと見極め、どの業務にARを導入することで最大の効率化が図れるかを事前に検討することが必要です。
データの整備とシステム連携
ARが活用する情報は、在庫データや位置情報などがリアルタイムで正確に反映されることが必要ですが、既存のシステムとの連携が十分にできていない場合、データが更新されない、情報が不正確といった問題が発生します。
データが正しく連携されていないと、表示された情報が実際の在庫や商品位置と異なる場合があり、作業者の混乱を招きます。これにより、業務の効率や正確さが低下します。
これらの課題に対応することで、ARの導入効果を最大化し、物流現場のさらなる効率化や品質向上を目指すことができるでしょう。
AR技術が変える物流の未来
AR技術は、物流の未来を大きく変える可能性を秘めています。ARがもたらす視覚的な支援によって、物流現場ではこれまでにない効率化や品質向上が期待されます。
たとえば、ピッキング作業にARを導入することで、スマートグラスに商品情報やピッキングルートが表示され、作業者は即座に指示を確認しながら正確に作業を進められます。このような技術は、作業スピードを向上させるだけでなく、ミスの削減にも大きく貢献します。
さらに、ARによるリアルタイムの情報共有は、在庫管理や配送計画の最適化にもつながります。倉庫のどこに何があるかが視覚的に把握できるため、在庫の把握が正確に行えるほか、配送ルートの最適化も進みます。ARを活用した遠隔サポートにより、異なる拠点間での協力もスムーズになり、グローバルな物流ネットワークの強化が図れます。
また、ARは教育やトレーニングにも革新をもたらします。新人作業員でも、ARのガイド機能を通じて、即座に作業に必要な情報を確認し、効率的にスキルを身につけることができます。これにより、人材育成のスピードが向上し、現場の即戦力が増えるでしょう。
ARは、物流業界に新しい可能性をもたらし、未来の物流をより効率的で柔軟なものへと導く鍵となる技術です。
まとめ
今回は物流業界の現場におけるAR活用についてご紹介いたしました。いかがでしたでしょうか?
AR技術の導入は単なる業務改善にとどまらず、物流業界の未来を切り拓くカギとなっています。効率的で安全な物流サービスを提供するために、ARはますます重要な存在となるでしょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。