フィジカルインターネットとは?
フィジカルインターネットは、デジタル情報の代わりに「もの」をトラック、貨物列車、船、航空機などの輸送手段によって各地の物流センターを順次リレーして送るビジネスモデルのことを言います。
トラック等が持つ輸送スペースと倉庫が持つ保管・仕分スペースをシェアすることによって、物流リソースの稼働率を向上させ、より少ない台数のトラックで荷物を運搬することで、消費燃料を抑制し、地球温暖化ガス排出量を削減します。
持続可能な社会を実現するための革新的な物流システムのコンセプトです。
パケット交換、回線の非占有など、インターネット通信の考え方を物流(フィジカル)に適用しているため、フィジカルインターネットと呼ばれています。
このシステムでは、商品は標準化されたコンテナに格納され、ネットワーク全体を通じて最適なルートで自動的に輸送されます。このプロセスは、データ駆動型で、リアルタイムの情報に基づいて決定が行われるため、効率性が大幅に向上します。
フィジカルインターネットの主な目的は、物流の効率を最大化し、環境への影響を最小限に抑えることです。このシステムを採用することで、企業は輸送コストを削減し、輸送時間を短縮できるだけでなく、エネルギー消費やCO2排出量も削減できます。
また、モジュラーなコンテナを使用することで、異なる輸送手段間での積み替えが容易になり、さらなる柔軟性とスケーラビリティが実現します。
フィジカルインターネットは、物流業界における次世代のインフラとして注目されており、持続可能な未来を支える重要な役割を担うことが期待されています。そのため、物流業界の未来を切り拓くキーテクノロジーとして、その導入と展開に向けた戦略が求められています。
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フィジカルインターネット導入における主な課題
フィジカルインターネットの導入は、物流業界に革命をもたらす可能性を秘めていますが、その実装にはいくつかの重要な課題が伴います。以下に主な課題を挙げ、それらにどのように対処すべきかを考察します。
標準化の必要性
フィジカルインターネットを効果的に機能させるためには、使用されるコンテナやパレット、その他の物流機器の国際的な標準化が必要です。フィジカルインターネットを実現するためには、荷物サイズや物流資材の標準化が不可欠です。
物流システムの共有化
物流リソースを効果的に活用するには、どのトラックや倉庫が空いているのかをリアルタイムで確認できるプラットフォームの開発が求められ、企業間で物流リソースを共有し、統一されたシステム上で情報を交換することで、効率的な物流運営が可能となります。
これにより、無駄な空車や空き倉庫の発生を防ぎ、全体の物流効率を大幅に向上させることができます。
プライバシーとセキュリティの懸念
フィジカルインターネットにより、膨大な量のデータが生成されるため、これを安全に管理することが不可欠です。データ保護とプライバシーの規制に適合するシステムの構築が求められます。
物流工程・システムの見直し
物流業界では、効率化と省人化が求められており、フィジカルインターネットを実現するための物流工程とシステムの見直しには新しい技術やシステムの導入が不可欠です。
フィジカルインターネット導入の成功戦略とは?
フィジカルインターネットの導入は、物流業界において持続可能で効率的なシステムを実現するための重要なステップです。成功への戦略は、計画的かつ段階的なアプローチが必要とされます。以下に、フィジカルインターネット導入の成功戦略を詳述します。
技術基盤の強化
フィジカルインターネットを実現するためには、高度な技術インフラが必要です。データのシームレスな流通を保証するために、互換性のあるソフトウェアとハードウェアの開発に注力することが必要です。
ステークホルダー間の連携
業界内のさまざまなステークホルダーとの協力は、フィジカルインターネットの成功に不可欠です。このためには、企業、政府、学術機関が共同でフレームワークと規範を策定し、業界全体での標準化を推進することが求められます。
教育とトレーニングの提供
従業員や関係者に対して、新しいシステムとテクノロジーに関する十分な教育とトレーニングを提供することが、スムーズな移行とシステムの効率的な運用を保証します。
リスク管理の徹底
導入初期の障害や予期せぬ問題に備えるために、リスク管理計画を策定し、定期的なレビューと更新を行うことが重要です。これにより、プロジェクトの各段階でのリスクを最小限に抑えることができます。
段階的な導入
全システムの一斉切り替えではなく、段階的に導入を進めることで、各段階の評価と調整が可能となり、最終的な成功につながります。小規模なパイロットプロジェクトから始め、徐々に規模を拡大していくことが望ましいです。
これらの戦略を通じて、フィジカルインターネットの導入は、物流業界にとって革新的な変革をもたらし、より効率的で持続可能な未来を創造する手段となります。
フィジカルインターネット導入を進めている企業事例
欧州では2013年に欧州委員会の意向を受け、ロジスティクス分野における研究開発・イノベーション政策の意思決定を支援する目的で、ALICE(Alliance for Logistics Innovation through Collaboration in Europe)という非営利団体が設立されています。
ALICE設立の背景には、ロジスティクスやサプライチェーンの生産性向上のためには、荷主と物流企業との緊密な連携が必要との課題認識があり、2019年にロジスティクス領域でのゼロエミッションのロードマップを、2020年にフィジカルインターネットのロードマップを策定し、産業界でフィジカルインターネットの普及促進を図っています。
日本においては、まだ広く普及しているわけではないため、具体的な日本企業の導入事例は限られています。しかし、日本国内でフィジカルインターネットに関連するイニシアチブや実験を進めている例はあります。以下にそのような取り組みをいくつか紹介します。
ヤマトホールディングス株式会社
大手物流会社のヤマトホールディングス株式会社は、フィジカルインターネット実現のための研究をいち早く開始しています。2019年9月に米国ジョージア工科大学、2020年8月にはパリ国立高等鉱業学校とフィジカルインターネットに関する情報交換を行い、相互協力する覚書を締結しました。
ヤマト総研内にフィジカルインターネットを研究するための専門組織を立ち上げ、物流サービス需要者側および物流サービス提供者側の問題を把握し、課題解決の方向性を明らかにするための研究や日本の物流事情をふまえたフィジカルインターネットのシステム設計・構築を推進するための活動を進めています。
株式会社ローソン×株式会社ファミリーマート、初の共同輸送
株式会社ローソンと株式会社ファミリーマートは、2024年4月から東北地方の一部地域において、アイスクリームや冷凍食品などを対象とした両社の物流拠点間の輸送を行っています。
両社の商品を同じトラックに混載し、共同で輸送することで車両台数およびCO2排出量削減を目指します。
全国に店舗網を持つコンビニエンスストアとして、持続可能な供給体制構築の為、今後は他エリアへの拡大も視野に検討を進め、更なる効率化に取り組んでいます。
JR西日本とJR九州、佐川急便株式会社の協業
JR西日本とJR九州の山陽・九州新幹線に佐川急便が受託した荷物を載せる「貨客混載輸送」の取り組みが始まっています。佐川急便は、請け負った荷物を積み込みする駅まで輸送し、そこから新幹線で目的の駅まで輸送。駅内の宅配サービスカウンターで佐川急便が引き受けます。
JR九州区間では、JR九州商事が、佐川急便から受け渡された荷物の新幹線車内への積み込み、新幹線車内から駅への荷下ろしを担当します。
JRは新幹線車内の余剰スペースの有効活用により収入アップし、佐川急便は集配効率を高められるメリットが期待できます。実証実験は2021年から開始されており、現在は事業化を目指している段階です。
また、2024年5月には、伊藤忠商事株式会社、KDDI株式会社、株式会社豊田自動織機、三井不動産株式会社、三菱地所株式会社の5社が、2024年度中のフィジカルインターネットの事業化に向け共同検討し、業界を横断したパートナー5社で物流改革を推進し、国内における物流の2024年問題の解決を含む持続可能な物流の実現を目指すと発表しました。
事業化のおもな目的は物流リソースの有効活用で、荷主や運送会社とも連携して物流網を整備し、将来的には、フィジカルインターネットの活用による物流業務の効率化に加え、同サービスによって生み出されたコストメリットを荷主・運送会社等の利用者が享受できる仕組みをつくるとしています。
フィジカルインターネットの今後の未来展望
フィジカルインターネットは、物流業界の課題を解決し、効率的かつ環境負荷の少ない未来を目指します。
経済産業省と国土交通省は、2040年までを目標にフィジカルインターネットを実現させたい考えで、フィジカルインターネットが完成すると、11.9〜17.8兆円の経済効果が期待できると見込んでいます。さらに、温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の2050年の実現にも貢献すると予想されています。
輸送効率の向上とコスト削減
フィジカルインターネットは、物流の共有を通じ、輸送効率の向上とコスト削減を目指します。複数の企業が倉庫や輸送車両を共同で利用することで、トラックの積載率を高め、空車走行を減少させます。また、無駄な配送を排除することで物流ネットワーク全体の効率が向上します。
デジタル化とスマート物流
リアルタイムで物流を管理し、最適な配送ルートをAIが自動で選定するシステムが整備されると、物流業務がよりスマートに進化します。
また、デジタルツイン技術を活用することで、物流拠点や輸送経路のシミュレーションが可能になり、迅速な判断が行えるようになるでしょう。
環境負荷の軽減とカーボンニュートラル
物流の効率化が進むことで、CO2排出量の削減が期待されています。
トラックの運行回数を減らし、電動車両の導入を促進することで、2050年のカーボンニュートラル達成に貢献し、また、再生可能エネルギーを活用したインフラ整備も進められるでしょう。
アイディオットの取り組み
株式会社アイディオットは、JPIC 一般社団法人フィジカルインターネットセンターに参加しています。
JPIC 一般社団法人フィジカルインターネットセンターとは、フィジカルインターネットの実現により、物流の安定供給と環境負荷の削減に貢献することを目的とし、ニューノーマル時代に適合した物流のあるべき姿を築くことを目標に掲げ、物流の大改革によって人々から歓迎される業界となり、物流そのものの地位を上げるためにフィジカルインターネット実現に向けた組織を設立されました。
(JPICの紹介より引用)URL:https://j-pic.or.jp/
当社は国家重点プロジェクトとして内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(以下「SIP」)の1つである「スマート物流サービス」において物流標準化のためのデジタルツインの研究開発を行ってまいりました。
その結果、現在『ADT(アイディオット・デジタルツイン)』という製品として多くの荷主企業様、物流企業様にご活用いただいております。
一方で2024年問題や物流革新緊急パッケージにも挙げられている通り日本が直面している物流・サプライチェーンの課題はより根深いものとなっております。
そこでJPICは内閣府主導SIPの後続団体として発足し、研究開発から社会実装フェーズへの架け橋をしています。
JPICを通じて、会員企業様との情報交換、連携強化を図り、積極的な参加を目指して参ります。
また、JPICの趣旨に協調し、業界や企業の垣根を越えた最適化、フィジカルインターネットの実現へ努めて参ります。
まとめ
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。