デジタル化社会において欠かせないのがAI技術です。
近年、AIは目覚ましい成果を遂げながら開発が進められています。中でも注目を浴びているのが強化学習です。機械学習の1つである強化学習は、身近な生活の中でたくさん活用されています。しかし具体的にどんなところで使われているのか、どういった技術なのか知らない人も多いはずです。
この記事では、そんな強化学習について活用事例とともに詳しく解説していきます。またメリットとデメリットも紹介しているので、最後までご覧ください。
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強化学習とは
AIやコンピューターなどの「エージェント(学習者)」にデータを与えて学習させる「機械学習」の手法のひとつです。
人間でいうと、机に向かってじっと考えるのではなく、実際に走り続けながら考えることと同じです。
では強化学習とは具体的にどういうことなのか、もう少し詳しくみていきます。
強化学習はどんな機械学習?
強化学習は、「試行錯誤を通じて、最適な行動を学習する」タイプの機械学習です。他の学習手法と異なり、正解データ(ラベル)を与えるのではなく、「報酬」を与えることで学習を促すのが特徴です。
強化学習は、ある環境の中で「どう行動すれば報酬が最大になるか」を学ぶ機械学習です。ゲームのプレイヤーやロボットのように、自分の行動が未来の結果に影響する場面に向いています。
主な構成要素は以下です。
要素 | 説明例 |
---|---|
エージェント(Agent) | 学習・行動するAI本体 |
環境(Environment) | エージェントが行動する対象空間 |
状態(State) | 今の環境の状況(例:現在地や残り時間) |
行動(Action) | 状態に対して選ぶ選択肢 |
報酬(Reward) | 行動結果として得られる数値(評価指標) |
教師あり学習・教師なし学習との違い
比較項目 | 教師あり学習 | 教師なし学習 | 強化学習 |
---|---|---|---|
入力データ | 入力+正解ラベル | 入力データのみ | 状態、行動、報酬 |
学習の目的 | 正しい答えを当てる | データ構造を理解する | 報酬を最大化する行動を学ぶ |
典型的な用途 | 画像分類、需要予測など | クラスタリング、次元圧縮 | 自動運転、ゲームAI、在庫管理 |
学習方法 | 答えと比較して誤差最小化 | パターン抽出・分類 | 試行錯誤による方策改善 |
フィードバック形式 | 正解との誤差 | なし | 行動の結果(報酬) |
以下、わかりやすいイメージで説明すると、
教師あり学習は、
「これは犬です」と教えてもらい、犬を認識できるように学ぶ(=答えが最初からある)。
教師なし学習は、
動物の画像を見せられて、「似ているグループに分けて」と言われる(=答えがない)。
強化学習は、
犬を見つけると報酬がもらえるゲームで、何度も挑戦して自分でルールと行動を学ぶ(=成功と失敗を通じて学ぶ)
強化学習の活用事例
ここからは強化学習の活用事例をまとめました。実は、強化学習は身近なものにも活用されています。
ゲーム
囲碁やチェスのような戦略ゲームでは、数十手・数百手先までを見据えた長期的な判断と戦略構築が求められます。強化学習は、対戦を繰り返しながら、自分の戦略の良し悪しを学習していきます。
代表例として、自己対戦を繰り返すことで、棋士を上回る判断力を獲得したAlphaGo(DeepMind)や、囲碁・チェス・将棋を“ルールのみ”で学習し、最強AIに成長したAlphaZeronがあります。
一手一手の選択が勝敗に大きく影響するため、長期的報酬の最大化が重要な点、自分自身と対戦することで、大量の試行データを自己生成できる点、状況が複雑かつ変化に富むため、戦略の柔軟性と適応力が求められる点が、強化学習に適している理由です。
自動運転・車両制御
自動運転車は、交差点・信号・障害物・歩行者などが絶えず変化する中で、安全かつ効率的な運転を求められます。強化学習を使うことで、「環境(交通状況)に応じて、どの操作(加減速・ハンドル操作)が最も望ましいか」を繰り返し学習できます。
正解が明確ではなく、結果(事故回避・到達時間・快適性)で評価する必要があり、状況が連続的に変化し、行動が次の状態に影響する「連鎖型判断」が求められる点が、強化学習に適している理由です。
ロボティクス
ロボットが歩いたり、物を掴んだり、移動したりする際、単純な命令だけではうまく制御できません。強化学習を使えば、何度も動きを試しながら、失敗から学び、最適な動作パターンを獲得できます。
動作の繊細なバランス(重心・摩擦・速度など)をリアルタイムに調整する必要がある点、試行錯誤によって得られる「身体感覚」的な学習に向いている点、人間の操作では困難な複雑な環境下の適応行動を自動化できる点が、強化学習に適している理由です。
物流倉庫内での棚入れ・出荷順序最適化
物流倉庫では、作業ロボットが複数の荷物を効率よく拾い、必要な棚に配置したり、順番に出荷したりする必要があります。ここで強化学習を活用すると、「時間を短縮しつつ、誤出荷を防ぐ最適な動作・ルート・順序」を学習できます。
配置・動作・順序が複雑に絡み合う問題に対し、長期的な報酬(効率)を最大化する判断が可能な点、注文数、荷物の場所など、毎回状況が異なるため、環境に応じた柔軟な対応力が必要な点、試行錯誤しながら動作精度や順序を改善していく点が、強化学習に適している理由です。
機械学習のメリットとデメリット
機械学習は多くのデータを分析して、最適なパターンを見つける方法のことです。
「教師あり学習」「教師なし学習」「強化学習」の3つのカテゴリがあり、AIを支えていく重要な技術として活用されています。さまざまなことができる機械学習ですが、メリットもあればデメリットもあるので、それぞれ詳しくまとめました。
機械学習のメリット
①人間では困難なパターンを自動的に発見できる
大量のデータの中から、直感では見抜けない複雑な相関関係を見つけることができます。
②処理のスピードと精度が高い
学習済みモデルは、人間よりも高速かつ正確に分類・予測を行うことができます。
③経験を積むごとに精度が向上する
新しいデータで再学習することで、モデルがどんどん賢くなり、継続的な改善が可能です。
④自動化・省力化につながる
チャットボット、品質検査の自動化など、人手をかけて行っていた判断作業を自動化できます。
機械学習のデメリット
①多くの「良質なデータ」が必要
不適切なデータでは誤学習や偏った判断が起きてしまうため、データ収集や前処理に時間とコストがかかります。
②ブラックボックス問題
特にディープラーニングなどでは、「なぜその答えを出したか」が説明しにくく、金融・医療・法務などでは透明性が求められるため問題になることもあります。
③バイアス・差別・フェイク生成など
偏ったデータにより、差別的な判断を学習する恐れがあり、生成AIとの連携で、フェイク画像・偽情報の自動生成といったリスクもあります。
強化学習への課題
ロボット自身が学習する強化学習は先端技術ですが、ビジネスでは完璧に実用されていなかったり、産業へ導入するのが難しかったりと課題もあります。では、なかなか実用化されない強化学習の課題とは一体何なのでしょうか。
複雑な環境への対応
行動を繰り返して最適化をはかる強化学習は、複雑な条件を必要とする環境が苦手です。例えば強化学習が適用されている自動運転は、標識や信号機といったさまざまなルールが存在しています。また歩行者や自転車など、状況が変化する要素が盛りだくさんです。
周囲の事態から判断の良し悪しを決定するためには実際のデータが必要ですが、その学習モデルに依存してしまう可能性があるでしょう。安全に運転を進めるためにも、精度を高める研究が行われています。
機械学習の不信感の払拭
機械学習は分析の過程がわかにくいブラックボックス化が課題です。
ブラックボックス化とは内部の構造がわかりにくいことをいいます。仮に正しい結果が出たとしてもプロセスが間違っている場合があるのです。結論に至った根拠が不明確だと不信感を抱く原因となります。
深層強化学習への期待
深層強化学習はディープラーニングと強化学習を組み合わせた技術です。
2016年に登場したAlphaGoという囲碁AIに活用されていました。現状を把握し行動、評価を繰り返して学習していきます。このときのロボットが試行錯誤する回数は人間と桁違いです。何度も学習しながら、最適な行動を見出していきます。
ディープラーニングとの融合による複雑な活用環境への対応
ポーカーや麻雀などの不完全情報ゲームにも対応できるように、研究が進んでいます。不完全情報ゲームは相手の情報が把握できないゲームのことで、AIにとって苦手な領域です。
しかし事実、囲碁AIはプロ棋士に勝利しています。また運の要素もあるポーカーでもAIが勝てるように、TuomasSandholm氏が率いる研究チームではポーカーAI「Libratus」を開発しました。トッププレイヤーたちを打ち破ることで、複雑な活用環境への対応が進んでいます。
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まとめ
強化学習はさまざまな分野において活用されていて、私たちの身近なところにも存在しています。まだ課題が多くあり、産業業界ではなかなか強化学習は進んでいません。しかし、今後上手く活用されることで業務の効率化が実現されていき、より豊かな生活が送れるでしょう。
またAIと人間がお互いに高め合って成果を出していくことで、さらなる発展が期待できます。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。