物流需要予測の最前線 ― AI・データ活用で輸送力不足を乗り越える

物流需要予測の最前線 ― AI・データ活用で輸送力不足を乗り越える

物流業界はいま、「需要予測の精度」が企業の競争力を左右する時代を迎えています。2026年問題による輸送力不足が現実味を帯びる中、過剰在庫や欠品、無駄な輸送を防ぐには、感覚や経験に頼らない科学的な需給マネジメントが不可欠です。

本記事では、AI需要予測がもたらす物流改革の最前線を追いながら、企業がいま取り組むべきデータ活用の方向性を分かりやすく解説します。

 

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はじめに ― なぜ需要予測が物流の生命線なのか

物流を支える現場では、モノが「動く」タイミングを見誤ることが、すぐにコストと機会損失に直結します。

需要が集中すればトラックやドライバーが足りず、逆に読みを外して在庫を抱えれば保管費や廃棄リスクが膨らむ。こうした“需給のズレ”が、2026年問題を背景にさらに深刻化しています。いまや需要予測は、単なる経営管理の一部ではなく、物流を維持するための「生命線」と言える存在になっています。

荷動きの変動と輸送力不足の二重リスク

近年、消費行動の多様化やEC市場の拡大により、商品の出荷タイミングや数量の変動幅がかつてないほど大きくなっています。加えて、ドライバーの高齢化や労働時間規制による輸送力不足が進行中です。

つまり、「動きが読めない」×「運ぶ力が足りない」という二重のリスクが重なり、計画通りの配送が難しくなっています。

正確な需要予測は、このボトルネックを解消し、限られたリソースを最も効率的に活かすための鍵となります。

コスト高と在庫過多・欠品のトレードオフ

需要を見誤ると、在庫を積みすぎても足りなくても損失につながります。余剰在庫は倉庫スペースを圧迫し、在庫切れは販売機会を逃し、さらに燃料費や人件費が上昇する中で、輸送や保管の一つひとつの判断ミスが利益を削ります。

このコストと供給の綱引きを制するには、データを基盤とした精度の高い需要予測が不可欠です。AIや機械学習を活用し、トレンド・気象・販売計画などを加味することが企業に求められています。

物流における需要予測とは

物流の現場では、「どの商品を・いつ・どれだけ・どこに運ぶか」を正確に把握することが、安定した供給と効率的な運用の前提になります。その出発点となるのが需要予測です。単に販売数量を推計するだけではなく、サプライチェーン全体の生産計画、在庫配置、輸送計画を決める役割を果たします。

需要予測の定義とサプライチェーンにおける位置づけ

需要予測とは、過去の販売実績や市場動向、季節要因、キャンペーン計画などをもとに、将来の需要量を予測する取り組みを指します。特に物流分野では、この予測結果をもとに輸送計画・倉庫稼働・在庫配置などを調整することで、余分なコストや作業負荷を抑えることが可能です。
販売・生産・物流の各部門をデータでつなぐことで、企業全体のリードタイム短縮や欠品防止にもつながります。

従来型の「経験・勘・過去実績」とデータドリブン型の違い

これまで多くの現場では、担当者の経験や前年実績をベースにした勘と経験から来る予測が主流でした。

しかし、市場の変化が早く、多様な販売チャネルが並立する今、その手法だけでは精度を保つことが難しくなっています。

一方で、近年注目されているのがデータドリブン型需要予測です。AIや機械学習を活用し、POSデータや天候、SNSトレンド、イベント予定など多様な要因を統合的に分析します。人の勘では読みづらい変化を先読みすることで、在庫の最適化や輸送の平準化を実現できます。

経験と勘に加えて、データによって補完・強化することが、これからの物流需要予測に求められる姿勢と言えるでしょう。

需要予測の主な手法

ここでは、需要予測を大きく分けて三つの手法を整理し、それぞれの特徴・利点・実務上の留意点を掘り下げます。

統計モデル

統計モデルとは、過去販売データや季節変動、トレンド変化などを基に数学的に需要を予測する方法です。

過去の一定期間のデータの平均値を計算して需要を予測する方法の移動平均法や過去の時系列データを用いた時系列分析などが典型です。

利点としては、構造が明確で理解しやすく、導入障壁が比較的低い点が挙げられます。ただし、急な販促や外部ショック(災害・キャンペーン等)への対応力が弱いため、変動幅の激しい現在の市場では“補助的な手法”として位置づけられることが多いです。特に物流では「突発的なイベント」「天候の影響」「法制/規制の変化」が予測誤差の原因になりがちです。

AI・機械学習による高精度予測

AIを活用した予測モデルは、多数の変数を同時に分析し、パターンを自動抽出できます。例えば、複数SKUの販売データ、店舗立地の属性、競合状況などを学習させることで、「来週はこの地域でこの商品が通常の1.3倍売れる可能性がある」というような予測が可能になります。

精度向上が期待でき、物流効率化・在庫最適化・配送ルート設計等、次段階の最適化にも活かすことが可能です。

導入の際には、データの質・量・整備体制がキーとなります。また、ブラックボックス化しやすい点も留意すべきで、実務では説明可能なモデル設計と“現場理解”を併せ持つことが成功の分かれ目です。

天候、イベントなど外部要因データとの連動

従来の予測モデルに加えて、天候、祝日・大型イベントの実施、経済指標やSNSトレンドといった外部データを連携することで、より実状に近い予測が可能になります。外部環境変化を予測に織り込無事で、異常値・ピーク発生時にも耐性のあるモデルを構築可能で、例えば天候悪化予測を物流量の抑制・車両手配に事前反映すれば、遅延リスク・余剰コストを抑制できます。

また、経済・イベント変動を捉えることで、需給ミスマッチや輸送キャパの過少計画などを回避可能になります。

ただし、外部データの入手・整理・リアルタイム反映には体制整備が必要です。費用対効果を考慮し、まずは導入可能な範囲から段階的に取り組むことが現実的です。

需要予測がもたらす3つの効果

AIやデータ分析を用いた需要予測は、単に「精度を上げる」ための仕組みではありません。企業にとっての価値は、物流コスト削減・業務効率化・働き方改革の推進といった経営課題の解決に直結する点にあります。ここでは、需要予測がもたらす三つの代表的な効果を整理します。

過剰在庫・欠品の削減 → キャッシュフロー改善

需要予測の精度が上がれば、「売れない在庫」を抱えるリスクを抑えつつ、欠品による販売機会損失も防げます。特に食品や日用品など回転率の高い商品では、在庫の最適化がキャッシュフロー改善に直結します。

過去実績だけでなく、天候・販促・地域ごとの消費傾向などを考慮することで、より精緻な補充計画が可能になります。結果として、倉庫スペースの有効活用や廃棄ロス削減にもつながります。

積載率向上・空車削減 → 輸送効率化とコスト低減

需要予測を物流計画に反映させることで、「どのタイミングで、どれだけの量を、どのルートで運ぶか」を精度高く決定できます。これにより、トラックの積載率向上や空車の削減が実現します。

需要の波を事前に把握すれば、繁忙期に合わせた配車体制を早期に構築でき、無駄な運行や積み残しを防止できます。これらの最適化は、燃料費や人件費の抑制といったコスト削減効果をもたらすだけでなく、CO₂排出削減にも寄与します。

労務・車両計画の最適化 → 働き方改革と輸送力不足対策

2024年問題以降、ドライバーの労働時間上限や休日確保が求められる中、「どの時間帯・地域で輸送需要が発生するか」を先読みする仕組みが欠かせません。

需要予測データを基に運行シフトを組むことで、残業時間の抑制や休息時間の確保がしやすくなります。また、稼働計画を前倒しで立てられるため、外注依存の抑制や車両不足リスクの軽減にもつながります。

これは単なる効率化ではなく、持続可能な物流体制を築くうえでの“経営基盤強化”にも等しい取り組みです。

需要予測の活用事例

アスクル株式会社〜EC企業による出荷量予測と配送網の最適化〜

アスクル株式会社は、2023年11月に物流センターと補充倉庫間の拠点間で商品輸送を行う横持ち計画にAIを活用した需要予測モデルを導入、当社の全国物流拠点に展開を開始しました。需要予測モデルは、アスクル株式会社の「物流センター」とその近郊に位置する「補充倉庫」間の商品横持ち指示に活用し、「いつ・どこからどこへ・何を・いくつ運ぶべきか」をAIが指示するものです。従来は、物流センターや補充倉庫の担当者がこれまでの経験や知見を活かして手作業で計画を立てていたところ、AI需要予測モデルを活用することによりAIで予測した結果に基づいた商品横持ち指示が可能となり、需要予測の精度が向上しただけでなく、作業工数の削減につながりました。本モデルの導入により、ALP横浜センターにおいて商品横持ち指示の作成工数約75%減/日、入出荷作業約30%減/日、フォークリフト作業約15%減/日の実績を得て、全国の当社物流拠点に展開を拡大するとしています。

出典)

https://www.askul.co.jp/kaisya/dx/stories/00147.html?utm_source=chatgpt.com

株式会社セブン-イレブン・ジャパン〜小売業のプロモーション連動型需要予測〜

株式会社セブン‐イレブン・ジャパンは店舗運営の効率化と商品供給の安定化を目的として、AI発注システムを2023年より全店舗に導入しました。

従来の「設定発注」は、店舗従業員が手動で在庫数を設定し、在庫が一定数を下回った際にストア・コンピューター(SC)が発注数を計算・提案する仕組みでした。しかし、在庫が減ってから発注するため、品切れが発生するリスクや、入力作業の負担が課題となっていました。

AI発注システムでは、天候や曜日特性、過去の販売実績などのデータをもとに需要予測を行い、適正な在庫数を算出。在庫がなくなる前に発注が行われるため、品切れの防止につながるほか、店舗従業員による入力作業が大幅に削減され、発注業務にかかる時間を約40%削減することができました。

これにより、加盟店では発注業務にかかる時間を他の業務に充てることが可能となり、品揃えの見直しや売場づくりなど、店舗価値の向上に向けた取り組みがより充実しています。

出典)

https://sustainability.sej.co.jp/action/000107/?utm_source=chatgpt.com

アルフレッサ株式会社とヤマト運輸株式会社〜製造業の生産・在庫と連動した輸配送計画〜

アルフレッサ株式会社とヤマト運輸株式会社のAI配車計画システム

アルフレッサホールディングス株式会社傘下のアルフレッサ株式会社とヤマトホールディングス株式会社傘下のヤマト運輸株式会社は2020年7月21日に「ヘルスケア商品」の共同配送スキームの構築に向けた業務提携を発表しました。第一弾として、ビッグデータとAIを活用して、顧客毎に日々の配送業務量を予測する配送業務量予測システムと適正な配車を行う配車計画システムを開発し、このたび導入を開始します。

配車計画システムは配送業務量予測システムで得られた情報(注文数、配送発生確率、納品時の滞在時間など)を基に配車計画を自動的に作成します。これまでにヤマト運輸が蓄積した物流や配車に関するノウハウに加え、渋滞などの道路情報を活用することで、効率的かつ安定的な配車計画を作成することができます。また配送の業務量が多い時には、ヤマトグループの保有する配送リソースも機動的に活用することが可能であり、これまで以上に安定した配送を行うことができます。

出典)

https://www.yamato-hd.co.jp/news/2021/newsrelease_20210803_1.html?utm_source=chatgpt.com

導入にあたっての課題

データ不足・標準化の壁

AIによる需要予測は、どれだけ正しいデータを集められるかが成果を左右します。ところが現場では、下記のような課題が日常的に発生しているのが実態です。

・過去データが短期間しか残っていない
・拠点ごとにフォーマットが統一されていない
・販促や天候データが手入力・未管理で活用できない
・受注と出荷データが紐づかず分析できない

その結果、せっかくシステムを導入しても 「欲しい指標が作れない」「分析しても正しいか判断できない」といった状態に陥りがちです。とくに荷主企業では、販促施策の情報がシステム上に残らず、 “なぜ売れたのか”がブラックボックスになりやすい点が大きな障壁です

まずは、必要なデータを明確にし、フォーマット統一やSaaS・EDI/APIによる連携など、小さく始められるデータ整備から着手することが、成功への第一歩と言えます。

初期投資とROI算定の難しさ

需要予測導入で何より悩ましいのが、「投資に見合う効果が本当に得られるのか」という判断です。欠品による機会損失の削減、過剰在庫を抑えることでのキャッシュフロー改善、配送量の平準化による輸送コスト削減など、効果は幅広く期待できます。

一方で、ROIの算定には、導入しなかった場合を仮定する必要があるため、社内説明が難しいのも事実です。さらに、成果が現れるまで時間がかかることも多く、「本当に効いているのか?」と現場から疑問の声が上がるのもよくある話です。

そこで成功している企業の多くは、いきなり全体導入するのではなく、まずは1拠点・1商品カテゴリなど、小さな範囲でPoCを実施しています。そして、早期に成果指標を共有し、“効果が見える状態”を作ることで社内の合意形成をスムーズに進めています。

まとめ

需要の変動に対して、後追いで対応していてはコストは増える一方です。AIによる需要予測を活用すれば、在庫・輸配送の計画を先回りで最適化でき、欠品・過剰在庫の発生を抑えながら、キャッシュフローや利益率の改善にもつながります。

「早く気づき、早く動ける」体制をつくり意思決定のスピードを早めます。

需要予測の精度は、いまや物流の“守り”ではなく企業競争力を底上げする“攻め”の基盤です。2026年問題で輸送力が制約されるなか、感覚や前例に依存した計画は在庫・輸送・労務のあらゆるムダを増幅させます。

統計モデルで需給の骨格を捉え、AI/機械学習で複雑な変動を補正し、さらに天候・イベント・経済指標など外部要因を連動させる――この三層を組み合わせた科学的マネジメントこそが、欠品・過剰在庫・空車を同時に減らし、コストとCO₂の双方を削減します。

鍵はテクノロジーそのものではなく、データ整備と現場実装、そして継続的な検証運用にあります。

 

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この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

 

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