物流現場の人手不足が深刻化する中、注目を集めているのが「ゼロタッチ物流」という新たなアプローチです。本記事では、ゼロタッチ物流についてや最新動向、導入のポイントを整理し、自社で何から取り組むべきかを考えるヒントをお届けします。
ゼロタッチ物流とは?
ゼロタッチ物流とは、人の手を介さずに物流業務を完結させる仕組みを指します。具体的には、荷物の入出庫、仕分け、搬送、積み降ろしといった工程を、機械やシステムによって無人で処理することを目指す取り組みです。
従来、人が対応していた工程に対し、自動搬送ロボット(AGV・AMR)や無人フォークリフト、AIカメラによる検品、ゲート操作の自動化などの技術を組み合わせることで、作業者の負担を大幅に減らし、安定した物流体制を実現します。
特に、トラックドライバーの到着から出発までの一連の流れを自動化する「ゼロタッチ着荷」「ゼロタッチ荷下ろし」などは、長時間の待機や煩雑な受付を回避できる手法として、導入を検討する企業が増えています。
このような取り組みは、労働力不足への対策だけでなく、ミスの削減、作業スピードの向上、安全性の強化といった面でも効果を発揮します。
なぜ今「ゼロタッチ物流」が注目されているのか?
物流現場の自動化や省人化はこれまでも取り組まれてきましたが、ここ数年で「ゼロタッチ物流」への関心が一気に高まっています。背景にあるのは、単なる効率化ではなく、物流インフラそのものの持続可能性が問われる状況です。
とくにドライバー不足や現場作業員の高齢化が深刻化する中で、「人手に頼らない物流」はもはや選択肢ではなく、企業の生産・供給を守るための必須条件になりつつあります。
以下では、ゼロタッチ物流が注目される主な理由を4つの視点から整理します。
1. ドライバー不足が常態化している
トラックドライバーの高齢化と若年層の担い手不足により、輸送力の確保が年々難しくなっています。働き方改革関連法による時間外労働の上限規制(年間960時間)2024年問題も加わり、従来通りの運用では対応しきれない現場が増えています。
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このような状況下で、トラック到着から荷降ろし・受付・出発までを人手をかけずに進められる「ゼロタッチ」の仕組みは、貴重なドライバーの時間を無駄にせず、効率的な運用を可能にします。
2. 長時間の荷待ち・荷役作業が課題になっている
物流センターや工場では、トラック到着後の待機や荷役作業に時間がかかることが多く、ドライバーにとって大きな負担になっています。
ゼロタッチ物流では、受付の無人化や自動ゲートの導入、無人フォークリフトによる積み下ろしなどにより、トラックの滞在時間を大幅に短縮できます。
「待たせない」環境づくりが、現場全体の生産性向上と人材確保の両面で求められています。
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3. 安全・品質への要求が高まっている
物流現場では、人手による作業ミスや事故をどう減らすかが重要な課題です。
ゼロタッチ物流では、作業工程をシステムで制御するため、ヒューマンエラーの発生率が低下します。また、作業データの記録やトレーサビリティの確保にもつながり、品質管理の強化にも貢献します。
自動化は単なる省人化ではなく、「安全性」と「標準化」の手段としても注目されています。
4. DXの推進と設備投資の後押し
物流DXの流れが加速し、政府の支援策や補助金も活用しながら、自動化技術を導入する企業が増えています。
以前に比べて、自動搬送ロボットやスマートゲートといった設備も選択肢が広がり、コストや導入ハードルが下がってきている点も追い風となっています。
「今なら導入できる」「今こそ変えるべき」という機運の高まりが、ゼロタッチ物流への注目をさらに強めています。
ゼロタッチ物流の主な仕組み〜自動化・無人化・システム連携の全体像〜
ゼロタッチ物流の実現には、機械設備だけでなく、デジタル技術やシステム同士の連携が欠かせません。現場作業の自動化に加え、入出荷情報の事前連携や在庫のリアルタイム管理など、業務全体をつなぐ設計が求められます。
このゼロタッチを実現するためには、大きく3つの要素「自動化・無人化・システム連携」が必要です。以下、それぞれの特徴と役割を詳しく見ていきます。
1. 自動化:繰り返し作業を機械に任せる
物流現場には、時間がかかるうえに人手を必要とする作業が多く存在します。
荷物の仕分け、棚入れ、搬送、検品といった工程は、あらかじめ定義されたルールに従って繰り返し行われるため、自動化に適しています。
無人搬送車(AGV)、ピッキングロボット、自動仕分け機などを活用することで、作業精度とスピードが安定し、人員に依存しない体制を構築できます。
また、自動ゲートや受付端末の導入によって、トラック到着後の流れも効率化され、ドライバーの待機時間を減らす効果があります。
2. 無人化:人を配置しなくても動く現場をつくる
無人化は、自動化よりも一歩進んだ状態です。
「一部作業を機械に置き換える」だけでなく、「人が現場にいなくても回る」状態をつくることが目的です。
たとえば、トラックの到着をセンサーが感知し、自動でバースが開き、無人フォークリフトが荷下ろしを行い、そのまま搬送ロボットが所定の位置まで運ぶといった流れです。
こうした仕組みが整えば、入出荷のピーク時間帯でも人手不足に悩まされず、夜間や休日の稼働も可能になります。
安全性を確保しながら無人化を進めるには、現場の動線やリスクを十分に検証したうえでの段階的な導入が効果的です。
3. システム連携:現場とデータをリアルタイムでつなぐ
自動化・無人化の土台として欠かせないのが、WMS(倉庫管理システム)やTMS(輸配送管理システム)を活用したシステム連携です。
ドライバーの到着予定時刻や配送内容がTMSで事前に共有されていれば、現場では出荷準備や搬入体制を整えたうえで自動対応が可能になります。
WMSと連動した入出荷情報により、どの荷物をどのルートで、どのタイミングで処理するかといった指示も自動で行えます。
これにより、現場作業とデータ管理がひとつの流れでつながり、無駄や属人化を減らすと同時に、ミスやロスの発生も抑えることができます。
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ゼロタッチ物流導入によるメリット
ゼロタッチ物流は、「人手を減らす」ことが目的ではなく、「人手に頼らなくても現場が回る」仕組みをつくることに本質があります。
その結果として、省人化だけでなく、リスク管理や業務品質、コスト構造の見直しといった面でも多くのメリットが期待できます。ここでは、ゼロタッチ物流を導入することで得られるメリットを4つ紹介します。
・省人化
最もわかりやすい導入効果は、やはり人手の最適化です。
搬送、仕分け、荷降ろしといった作業を自動化・無人化することで、従来必要だった人員を他の業務に振り分けることが可能になります。特に人手不足が深刻なエリアや時間帯においては、大きな助けとなります。繰り返し作業を機械に任せることで、作業者の負担軽減にもつながり、定着率や安全性の向上にも寄与します。
・感染症対策
人の接触を最小限に抑えるゼロタッチ物流は、感染症対策としても有効です。
受付を無人化することでドライバーと現場担当者の接触を避ける、荷降ろしや積み込みを自動で行うことで庫内の密集を回避するなど、パンデミック下でも安定した運用が可能になります。
企業のBCP(事業継続計画)という観点からも、接触を前提としない物流体制の構築は重要な要素になっています。
・ミス削減
作業の一部を人の判断に頼っていた従来の現場では、伝達ミスや検品ミス、荷下ろしミスなどが少なからず発生していました。
ゼロタッチ物流では、作業手順がシステム化され、各工程における情報処理が自動化されるため、人的ミスの発生率が大幅に低下します。作業履歴の記録やログ管理も自動で行えるため、問題が発生した場合の原因特定や改善もスムーズに進めることができます。
・コスト効率化
初期投資が必要とはいえ、中長期的には人件費や作業時間の削減により、コスト効率が改善されるケースが多く見られます。
無人で夜間の荷受けが可能になれば、ピーク時間の集中を避けて稼働を分散できるようになり、全体の運用コストが下がる可能性もあります。誤出荷や納品遅れといったトラブルによる再配達・再作業も減るため、間接的なコスト削減効果も見込めます。
導入時の課題とハードル
ゼロタッチ物流は、省人化やコスト削減、業務の標準化など、多くのメリットが期待される一方で、導入にあたってはいくつかの現実的なハードルも存在します。
特に「すぐには踏み切れない」と感じる理由として挙がりやすいのが、初期投資の負担やデータ基盤の未整備、既存システムとの連携の難しさといった要素です。
ここでは、実際に導入を検討する際に企業が直面しやすい3つの課題について、それぞれ詳しく見ていきます。
・費用
ゼロタッチ物流を構成する機器やシステムには、それなりの導入コストがかかります。無人フォークリフトや搬送ロボット、スマートゲート、各種センサーなど、機材の価格だけでなく、設置やカスタマイズ、システム開発にも費用が必要です。
中長期的な視点ではコストメリットが見込めるとはいえ、短期での回収を前提にすると導入判断が鈍るケースも少なくありません。補助金の活用や、段階的な導入で初期負担を抑えるといった工夫が求められます。
・データ整備
ゼロタッチ物流を機能させるためには、「誰が・いつ・どこで・何を」扱うのかといった情報が、正確かつリアルタイムで可視化されている必要があります。
しかし現場によっては、まだ紙ベースの管理や属人的な運用が残っていることも多く、まずは業務フローや作業内容をデジタル上に整備することが第一歩になります。
導入前に業務プロセスを棚卸しし、どの情報をどう取得・蓄積・連携するのかを設計する作業が欠かせません。
・システム連携の壁
TMS(輸配送管理システム)やWMS(倉庫管理システム)、基幹システムなど、すでに稼働している仕組みとの連携がうまくいかないケースもあります。
各システムごとに仕様やデータ形式が異なるため、統一された環境がないと、データのやりとりや処理に不整合が生じやすくなります。
そのため、ゼロタッチ物流を成功させるには、「現場の機器」と「上位のシステム」を橋渡しするインターフェースや連携基盤の構築が重要になります。既存のIT部門や外部パートナーとの調整も含めたプロジェクト設計が必要です。
ゼロタッチ物流が切り拓く未来の物流とは?
ゼロタッチ物流の導入は、人手不足や業務効率の課題を解決する“手段”であると同時に、物流のあり方そのものを進化させる“きっかけ”にもなっています。
単なる自動化ではなく、データとテクノロジーを軸にした新しいオペレーションモデルとして、今後の物流の姿を大きく変える可能性を秘めています。ゼロタッチ物流が切り拓く未来像を、3つの視点から整理します。
1. 持続可能なサプライチェーンの実現
ドライバー不足や作業員の高齢化が進む中、人に依存しない仕組みはサプライチェーン全体の“止まらない体制”づくりにつながります。
とくに繁忙期や災害時など、リソースが限られる局面でも安定した物流を維持できるようになれば、企業の信頼性や事業継続力も大きく向上します。
2. 非接触・非対面化が当たり前の現場へ
ゼロタッチの仕組みは、トラック受付から荷役、入出庫処理までを無人化・非接触で行うことを可能にします。
感染症や衛生面のリスクがある時代において、物流現場の“安全設計”は今後ますます重要になります。
また、接触機会を最小限にすることで、働く人の安心感や職場環境の改善にもつながります。
3. データドリブンな物流経営の加速
センサーやシステム連携を通じて蓄積される現場データは、単なる業務記録にとどまりません。
作業の進捗、滞在時間、在庫の動き、出荷予測といった情報がリアルタイムで可視化されれば、判断や改善のスピードも格段に上がります。
今後は、人の経験や勘ではなく、データを根拠とした物流マネジメントが企業の競争力を左右する時代に移っていきます。
まとめ
本記事では、ドライバー不足や人手不足といった業界課題に対し、「ゼロタッチ物流」がなぜ注目されているのか、その仕組みや導入メリット、直面しやすい課題、そして今後の可能性までを幅広く解説しました。
ゼロタッチ化は一気に実現するものではなく、まずは一部工程から小さく始めることが現実的なアプローチです。人手に頼らずに業務を回せる仕組みは、物流の安定運営と将来の競争力確保に直結します。今後の物流改革を見据え、検討の第一歩としてお役立ていただければ幸いです。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。