CO₂削減と効率化を実現!モーダルシフトの基本と企業の導入事例

CO₂削減と効率化を実現!モーダルシフトの基本と企業の導入事例

モーダルシフトとは?

モーダルシフトとは、トラック輸送に頼っていた貨物輸送を、環境負荷の少ない鉄道や船舶などへ切り替えることを指します。特に長距離輸送を鉄道や船舶に切り替えることで、環境負荷を軽減しながら、物流の効率化を進めることが可能です。

本記事では、モーダルシフトが求められる背景や、主な輸送手段とその特徴、メリットや課題などについて詳しく解説していきます。

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モーダルシフトが求められる背景とは?

モーダルシフトとは、貨物輸送をトラックから環境負荷の少ない鉄道や船舶へ転換する取り組みを指します。近年、このモーダルシフトが求められる背景には、以下の最新動向が影響しています。

ドライバー不足の深刻化

少子高齢化に伴い、トラックドライバーの高齢化と新規参入者の減少が進行しています。特に、2024年以降は働き方改革関連法により、ドライバーの時間外労働時間が年間960時間以内に制限される、いわゆる「2024年問題」が顕在化し、長距離輸送の担い手不足が懸念されています。

モーダルシフトを導入することで、最寄りの転換拠点まで、もしくは最寄りの転換拠点からの運転だけで済むため、業務の効率化が可能となり、労働力不足の解消・働き方改革の対策に有効と言えるでしょう。

コスト増加への対応

トラック輸送に依存する物流は、ドライバー不足や労働時間規制の影響でコストが上昇しています。この背景には、トラックドライバーの不足や、短期間に少量を頻繁に配送する多頻度小ロット配送の増加が挙げられます。

モーダルシフトにより、大量輸送が可能な鉄道や船舶を活用することで、コスト削減と効率化が期待されています。

CO₂排出量削減の必要性

地球温暖化対策として、物流分野でのCO₂排出量削減が急務となっています。

2022年度における日本の二酸化炭素排出量(10億3,700万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億9,180万トン)は18.5%を占めています。自動車全体では運輸部門の85.8%(日本全体の15.9%)、うち、旅客自動車が運輸部門の47.8%(日本全体の8.8%)、貨物自動車が運輸部門の38.0%(日本全体の7.0%)を排出しています。

貨物輸送において、各輸送機関から排出される二酸化炭素の排出量を輸送量(トンキロ:輸送した貨物の重量に輸送した距離を乗じたもの)で割り、単位輸送量当たりの二酸化炭素の排出量を試算すると下図のようになります。

出典)https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

トラック輸送(営業用貨物車)は他の輸送手段に比べてCO₂排出量が多く、鉄道や船舶への転換が環境負荷軽減に有効とされています。

モーダルシフト倍増目標

国土交通省は、鉄道や内航海運の輸送量・分担率を今後10年程度で倍増させる目標を掲げています。これに伴い、フェリー・RORO船の積載率向上や新規需要の創出に向けた支援が強化されています。

出典)

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001758846.pdf?utm_source=chatgpt.com

これらの背景から、モーダルシフトは物流の効率化や人手不足の解消、環境負荷の軽減など、多面的な課題解決の手段として注目されています。政府や企業が連携し、インフラ整備や制度改革を進めることで、持続可能な物流システムの構築が期待されています。

モーダルシフトの主な輸送手段とその特徴

鉄道輸送

国土交通省では、貨物鉄道輸送の主な特性として、①長距離輸送、②大量輸送、③低環境負荷を挙げています。

①長距離輸送

日本の貨物鉄道輸送の大部分は日本貨物鉄道株式会社(JR貨物)が担っていますが、同社におけるコンテナの平均輸送距離は900kmを超えており、中長距離帯における輸送を得意としています。

②大量輸送

日本の貨物鉄道輸送においては、首都圏~福岡間(東海道・山陽線など)における輸送需要が最も大きくなっていますが、同区間では、現在、コンテナ車を最大で26両連結した列車が運転されています。この列車には、標準タイプの5トン積みコンテナ130個を積載することができ、1編成あたり650トンの荷物を一度に輸送することが可能です。このように、貨物鉄道では、一度に大量の物資を輸送することを得意としています。

③低環境負荷

貨物鉄道輸送は環境負荷の小さい輸送手段ですが、そのことはあまり知られていないのが実情です。貨物鉄道輸送の輸送単位あたりの二酸化炭素排出量は営業用トラックの約11分の1となっていることから、モーダルシフトは、二酸化炭素排出量の削減に効果的であることが分かります。

 

日本貨物鉄道(JR貨物)の2018年度のコンテナ輸送実績(2,027万トン)の内訳をみると、食料工業品(342万トン)、紙パルプ(267万トン)、宅配便等(264万トン)、農産品・青果物(177万トン)などのように、私達の生活に密着した様々な物資を輸送していることが分かります。

また、車扱の輸送実績(895万トン)の約7割は石油類が占めており、特に、臨海部から内陸への石油類の輸送には鉄道が多く使われており、石油類の安定供給に欠かすことのできない存在となっています。

出典)

https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000015.html

https://www.mlit.go.jp/tetudo/tetudo_tk2_000016.html

最近では、政府や鉄道事業者が、貨物専用列車の増発や新型車両の導入など、鉄道輸送力の強化に取り組んでおり、また、IoTやAIを活用した貨物追跡システムの導入が進み、輸送の効率化と可視化が図られています。

船舶輸送

①大量輸送とコスト効率

船舶は一度に大量の貨物を輸送でき、長距離輸送においてコスト面で有利です。

②環境への優しさ

船舶輸送のCO₂排出量は、トラック輸送の約5分の1とされています。

③柔軟な輸送

多様な貨物に対応でき、港湾を活用した広範囲な輸送が可能です。

 

最近では、2024年問題への理解が浸透し、特に九州発着を中心に、フェリー航路の利用が増加しています。

出典)

https://www.mlit.go.jp/seisakutokatsu/content/001765089.pdf?utm_source=chatgpt.com

モーダルシフトの推進には、これらの輸送手段の特性を理解し、適切に組み合わせることが重要です。特に、鉄道や船舶の大量輸送能力と環境負荷の低さを活用し、トラック輸送の機動性と組み合わせることで、効率的で持続可能な物流システムの構築が期待されています。

モーダルシフトがもたらすメリット

モーダルシフトにより、環境負荷の軽減物流の効率化ドライバー不足の解消など、多くのメリットが生まれます。以下で詳しく解説します。

環境負荷の軽減

先に述べたように、トラック輸送と比較し、鉄道・船舶は、鉄道輸送はトラックの約11分の1、船舶輸送はトラックの約5分の1とCO₂排出量が大幅に少なくなります。

また鉄道は電力で運行できるため、化石燃料の使用を削減でき、船舶はLNG燃料や電動船などの大規模な燃費改善技術の導入が進行中です。

物流の効率化とコスト削減

1回の輸送でより多くの貨物を運搬でき、荷物の積み替え作業を減らし、物流の最適化が可能になります。

鉄道・船舶輸送は長距離輸送に適しており、ガソリン・軽油価格の高騰によるトラック輸送コストの上昇リスクを回避できるため、燃料費や人件費などの輸送コストを抑えることが可能になります。

ドライバー不足の解消

2024年以降、ドライバーの時間外労働は年間960時間までという長時間労働の規制強化により、ドライバー不足が深刻化しています。モーダルシフトにより、長距離輸送を鉄道・船舶に置き換えることで、ドライバーの負担軽減・労働環境の改善します。

また、近距離輸送に集中できるため、より安定した物流網が構築可能になります。

交通渋滞の緩和と安全性向上

長距離トラックが減少することで、高速道路や一般道の渋滞が解消し、幹線道路の混雑を緩和します。物流の遅延リスクが減り、安定した輸送が可能になり、長距離トラックの走行が減ることで、高速道路の事故リスクが低下します。鉄道・船舶輸送の利用は、より安全な輸送手段とされるでしょう。

災害時のリスク分散

トラック輸送だけに依存せず、鉄道や船舶を活用することでリスクを分散します。震災・台風で道路が寸断されても、鉄道・船舶で代替輸送が可能になります。

モーダルシフトの課題とは?

モーダルシフトは、環境負荷の軽減や物流の効率化を目指す重要な取り組みですが、導入には多くの課題が存在します。ここでは、最新の動向を踏まえて、モーダルシフトの主な課題を解説します。

インフラ整備の遅れ

・鉄道貨物の輸送能力の不足

貨物専用路線が少なく、新幹線や旅客列車の影響で運行本数が制約され、荷役設備の老朽化や、コンテナ取扱施設の不足により、荷役作業が効率的に行えない。

・港湾・内航海運の活用が進まない

港湾の自動化やデジタル化が遅れており、海運はコスト削減の面で有利だが、港湾施設の物流効率が低いと時間がかかってしまう。

船舶輸送は長距離向きだが、最終目的地への配送(ラストワンマイル)の仕組みが未整備です。

コスト面の課題

・初期投資が高い

モーダルシフトを導入するには、鉄道コンテナや港湾設備の利用契約、輸送管理システムの導入など、初期コストがかかり、中小企業にとっては導入ハードルが高い。

・運賃が安定しにくい

鉄道貨物や船舶は、トラックよりも輸送コストが安定しておらず、需要と供給の変動により、繁忙期には輸送費が高騰するリスクがあります。また、航路の運航スケジュールが限られており、緊急輸送には向いていないという面もあります。

悪天候や自然災害の影響が大きい

船舶・鉄道輸送は「自然環境の影響を受けやすい」という共通点があります。

特に 船舶は海象(風・波・潮流)、鉄道は地象(豪雨・地震・積雪)の影響 を受けやすいのが特徴です。

複数の輸送手段を組み合わせる(例:船舶→鉄道→トラック)ことでリスク分散する対策が必要です。

物流の柔軟性の低下

・「Just in Time」との相性が悪い

製造業では、必要な時に必要な量だけを生産・供給することで、在庫を最小化する「ジャストインタイム(JIT)」方式が一般的ですが、鉄道や船舶はトラックに比べて柔軟性が低く、JITに対応しにくい。

・ラストワンマイルの課題

モーダルシフトを導入しても、最終配送でトラックが使われるため、完全なCO₂削減になりません。また、鉄道や港湾から都市部への中継拠点が少なく、荷物の集配がスムーズに行えないという点も課題です。

企業間の協力が不十分

・共同配送が進みにくい

モーダルシフトを成功させるには、異業種・競合企業間での共同配送が必要になります。しかし、自社便の確保や情報共有の壁があり、企業間の連携が進みにくいという懸念があります。

・データ標準化の遅れ

鉄道・海運・トラックのリアルタイムの貨物追跡システムが整備されておらず、シームレスな輸送が難しいとされています。デジタルツインやブロックチェーンを活用した「フィジカルインターネット」構想が進行中です。

 

モーダルシフトを成功させるためには、単に輸送手段を変えるだけでなく、「鉄道+トラック」「船舶+トラック」などのハイブリッド輸送の最適化が必要です。
また、フィジカルインターネットやAI・IoTを活用した貨物追跡・管理のデジタル化も、物流全体の課題解決に向けた鍵となるでしょう。

今後、政府の支援策や企業間の連携強化が進めば、モーダルシフトはさらに加速し、持続可能な物流の実現へと向かっていくと期待されます。

モーダルシフトの最新事例

アスクル株式会社

アスクル株式会社は、ASKUL LOGIST株式会社、マリネックス株式会社、および東京九州フェリー株式会社とともに「東京九州フェリーモーダルシフトアスクル協議会」を設立し、拠点間輸送の船舶モーダルシフトを開始しました。この船舶モーダルシフトによって、ASKUL三芳センターからASKUL Logi PARK 福岡への輸送行程におけるCo2排出量は従来比で68.3%削減、トラックドライバー運転時間は従来比で84.5%削減という効果が得られる見込みです(船舶モーダルシフト転換前との比較、2024年8月~2025年2月累計期間での推計)。

今後の船舶モーダルシフト推進にあたり、アスクルのラッピングシャーシの走行を2025年1月中に開始します。

出典)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000431.000021550.html

鈴与株式会社

鈴与株式会社および鈴与カーゴネット株式会社は、富士フイルムロジスティックス株式会社とともに、2024年12月、海運クラブにて開催された「令和6年度第1回モーダルシフト優良事業者大賞表彰」の「効率化・省人化部門」において優良事業者賞を受賞しました。

この案件は、大阪市から神奈川県南足柄市への輸送において、陸上輸送およびJR貨物での輸送からRO-RO船(※主に貨物を積んだシャーシや一部有人大型車を積む貨物輸送に特化した船)輸送へ転換することでモーダルシフトを実施したもので、この取り組みにより、運転手の運行時間はモーダルシフト実施前に比べ3,444時間(60%)の大幅な削減を実現。輸送の効率化、および運転手の運行時間削減に寄与したことにより、今回の受賞に至りました。

出典)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000354.000075524.html

日本通運株式会社

NIPPON EXPRESSホールディングス株式会社のグループ会社、日本通運株式会社は、「第1回モーダルシフト優良事業者大賞表彰」で4つの取り組みが大賞と奨励賞を受賞しました。大賞を受賞した案件は、関東~九州区間をトラック輸送から海上輸送へモーダルシフトしたもので、効率化・省人化と、輸送品質の向上、環境負荷の低減を実現しました。トラック輸送の際は、滋賀地区で中継輸送を行っていましたが、海上輸送にモーダルシフトしたことで中継輸送が不要となり、また、荷量に応じて海上12ftコンテナとシャーシを柔軟に使い分けることが可能となり、繁忙期の輸送能力向上にもつながりました。

積み荷をバラ積みからパレット積みに切り替えたことで、荷役時間を含めたドライバー拘束時間と荷物のダメージリスクの低減も実現し、関東〜九州の長距離区間でのモーダルシフトにより、CO2排出量削減に大きく貢献しました。

出典)

https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000042.000136897.html

モーダルシフトが拓く物流の未来

国土交通省は、令和5年6月2日にとりまとめられた「物流革新に向けた政策パッケージ」を受け、「官民物流標準化懇談会」の下にモーダルシフトの推進及びコンテナ等の導入促進について重点的に議論・検討する「モーダルシフト推進・標準化分科会」を令和5年7月に設置しました。

その後の分科会での議論等を踏まえ、2030年度に不足する輸送力34%の解消をより確かなものとすべく、従来のトラック輸送から鉄道と内航海運へのモーダルシフトに加えて、陸・海・空のあらゆる輸送モードを総動員して、トラックドライバー不足や物流網の障害などに対応するための「新たなモーダルシフトに向けた対応方策」をとりまとめました。

①鉄道と内航海運へのモーダルシフトの取組みの更なる強化

・鉄道と内航海運における小口貨物の混載輸送やパレット化への支援

・大型コンテナやシャーシ等の確保の支援

・輸送余力等をより広い対象に見える化したシステムの導入

・鉄道:輸送需要の高まることが見込まれる貨物駅において、コンテナホームやコンテナ置き場の拡幅、線路改良、路盤強化などの施設整備への支援

・内航海運:新船の投入や船舶の大型化、新規需要の創出への取り組み支援や内航フェリー・RORO船ターミナルの機能強化の促進

②多様な輸送モードの活用

・1台で通常の大型トラック2台分の輸送が可能な「ダブル連結トラック」導入支援

・自動運転トラックの高速道路におけるレベル4自動運転に向けた実証実験への支援

・航空貨物輸送の更なる活用に向けた取り組みの支援や受け入れ体制の確保

出典)

https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001843346.pdf

まとめ

モーダルシフトは、鉄道や船舶などの輸送手段を活用することで、CO₂排出量の削減と物流の効率化を両立する重要な取り組みです。本記事では、モーダルシフトの基本概念から、導入が求められる背景、主な輸送手段とその特徴、そして企業の最新事例までを詳しく解説しました。

近年、環境規制の強化や人手不足の深刻化を背景に、多くの企業がモーダルシフトに注目し、導入を進めています。鉄道や海上輸送を活用することで、CO₂排出量の削減やドライバー不足の解消、長距離輸送のコスト削減といった多くのメリットを享受できます。一方で、輸送リードタイムの管理やインフラ整備の課題も存在しており、官民一体となった取り組みが求められています。

今後、フィジカルインターネットの導入やデジタル技術を活用した輸送最適化が進むことで、モーダルシフトはさらに発展し、持続可能な物流の実現に貢献するでしょう。企業の競争力を高めると同時に、環境負荷を軽減するモーダルシフトは、物流業界の未来を支える鍵となる取り組みです。

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この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

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