グリーン物流とは?
グリーン物流とは、物流業務を行う際に環境への負担を最小限に抑えながら、効率的で持続可能な物流システムを構築する取り組みのことを指し、これは、企業の物流活動が持続可能な社会の実現に向けて果たすべき役割を意識したものです。
グリーン物流が注目される背景とは?
グリーン物流は、環境負荷を軽減しながら物流業務を効率化する取り組みとして、世界中で注目されています。その背景には、環境問題や社会的要請、経済的課題など、さまざまな要因が関係しています。以下に、その具体的な背景を解説します。
物流業界効率化の必要性
・ドライバー不足
高齢化や若年層の物流業界への就業率低下により、トラックドライバーの人手不足が深刻化しています。効率的な物流網や鉄道・船舶を利用したモーダルシフトを推進することで、労働力不足の問題を解決する必要があります。
・コスト削減
燃料価格の高騰や配送コストの上昇に対応するため、輸送効率の向上が求められています。グリーン物流の取り組みは、環境負荷を減らすだけでなく、長期的なコスト削減にも寄与します。
技術革新の進展
・デジタル技術の活用
AIやIoT、ビッグデータを活用することで、輸送ルートの最適化や積載効率の向上が可能になり、また、デジタルツイン技術を活用した物流のシミュレーションも、環境負荷削減に役立っています。
・新しい輸送手段の登場
電動トラックや燃料電池トラックの普及が進み、従来の化石燃料に依存しない輸送が現実化しています。また、モーダルシフトや自動運転技術の導入も、物流業界全体の効率化を加速させています。
地球環境問題の深刻化
・温室効果ガス排出の増加
物流業界はトラックや船舶、航空機を利用するため、大量の二酸化炭素(CO₂)を排出しています。日本のCO₂排出量の約20%が運輸部門に関連しており、特にトラック輸送がその多くを占めています。
・持続可能な社会への移行
地球温暖化を抑制するため、パリ協定(※)などの国際的な枠組みに基づき、脱炭素化が求められており、物流業界も、温室効果ガス削減の目標を達成するための具体的な行動が必要とされています。
(※)パリ協定とは?
パリ協定は2015年に採択された気候変動対策の国際的な枠組みで、温室効果ガスの削減を目指す各国の努力を締結国に義務付けています。
法規制と政策の強化
世界各国で、排出ガス規制やカーボンプライシング(炭素税や排出権取引)が強化されています。日本でも、「物流総合効率化法」に基づく税制優遇や補助金など、グリーン物流を推進するため、各国政府が補助金や税制優遇などの支援策を打ち出しています。
グリーン物流が注目される背景には、物流業界の効率化の必要性や技術革新、地球環境問題の深刻化や法規制の強化が大きく影響しています。これらの要因を受けて、物流業界全体が環境負荷の低減と効率化を両立するための取り組みを加速させています。
グリーン物流を実現するための具体的な取り組みとそのメリット
モーダルシフトの推進
モーダルシフトとは、鉄道・内航海運等、環境負荷の小さい輸送モードに転換することにより、CO2排出量削減等の環境負荷軽減を図ることを指します。
CO2排出量原単位(1トンの貨物を1km輸送した時に排出するCO2の量)を比較すると、トラックに比べて内航海運は4分の1、鉄道は7分の1。モーダルシフトはCO2排出量削減に有効とされています。
鉄道輸送は、長距離輸送を鉄道コンテナで行い、環境負荷を軽減し、海上輸送は、船舶を利用した国内・国際輸送で、トラック輸送を削減します。
メリットとして、CO₂排出量がトラック輸送に比べ大幅に少ない点と、渋滞による輸送遅延リスクを軽減できる点になります。
共同配送の導入
複数の企業が連携し、同じ地域やルートの配送を一括して行う方法です。
具体例には、コンビニエンスストアチェーンが異なるメーカーの商品を共同配送する仕組みや、地域内での生鮮食品や日用品の共同配送ネットワークが挙げられます。
メリットとして、トラックの積載効率向上による輸送回数が削減される点と、燃料消費量とCO₂排出量の削減になります。
燃料効率の高い車両の導入
最新のエコ車両を導入し、燃料消費量を抑える取り組みです。近距離配送に適した電動トラックの導入や、水素をエネルギー源とするトラック燃料電池車(FCV)でCO₂排出をゼロにします。
メリットとして、燃料コストの削減や、ゼロエミッション化による環境保護が挙げられます。
デジタル技術の活用
AIやIoT、デジタルツインなどを活用して物流業務を効率化し、環境負荷を削減します。
具体例には、AIを活用し、最短経路での配送を実現する輸送ルートの最適化やIoTセンサーで積荷の状態をリアルタイムで把握し、積載率の最大化させます。また、デジタルツインで物流全体を仮想環境でシミュレーションし、効率化を図ることができます。
メリットとして、無駄な輸送の削減、作業効率の向上により、CO₂排出の抑制に繋がります。
倉庫のエネルギー効率化
物流拠点でのエネルギー消費を抑えるための取り組みです。
具体例には、太陽光発電や風力発電を導入したグリーン倉庫の設置や、AIロボットや自動仕分け機の導入、LED照明などエネルギー消費を抑える設備への切り替えが挙げられます。
メリットとして、運営コストの削減、持続可能な物流拠点の構築があります。
リバース物流の促進
リバース物流とは、使用済み製品や資材の回収・再利用を効率的に行う取り組みです。
商品のリサイクルやリユースを目的とした回収ネットワークの構築や、包装材の回収・再利用のシステム化が挙げられます。
メリットとしては、資源の無駄を削減、リサイクル率の向上による廃棄物削減があります。
エコドライブの推進
急発進・急加速の抑制や、最適な速度を保つ運転技術など、ドライバーに燃費効率の良い運転方法を徹底することで、燃料消費を抑える取り組みです。
メリットとして、燃料コストの削減、トラック寿命の延長とCO₂排出量の削減があります。
カーボンニュートラルな物流ネットワークの構築
物流全体をカーボンニュートラルに近づけるため、倉庫や配送拠点で再生可能エネルギーを使用したり、サプライチェーン全体でカーボンオフセットを実施します。
メリットとして、脱炭素目標の達成、環境に優しい物流モデルの構築があります。
グリーン物流を実現するための具体的な取り組みは、モーダルシフトや共同配送、燃料効率の高い車両の導入、デジタル技術の活用など多岐にわたります。これらの施策を実践することで、環境負荷を低減しつつ物流業務の効率化を図ることが可能です。企業はこれらの取り組みを積極的に採用することで、持続可能な社会の実現に貢献できます。
企業がグリーン物流に取り組むメリット
企業がグリーン物流の取り組みに積極的に参加することで、環境保護に貢献するだけでなく、多くのメリットを享受することができます。以下に、主なメリットを具体的に解説します。
コスト削減
・燃料費の削減
燃料効率の高い車両(電動トラック、燃料電池車)やエコドライブの導入により、燃料消費量を削減し、共同配送や輸送ルートの最適化による運行効率の向上で、輸送回数を減少。
・エネルギーコストの削減
グリーン倉庫の活用で再生可能エネルギーを利用し、電力コストを削減。
・廃棄物処理コストの削減
リバース物流の導入で、使用済み資材を再利用し、廃棄物処理費用を抑えます。
競争力の向上
・差別化によるブランド価値向上
環境意識の高い消費者や企業パートナーからの支持を獲得し、グリーン物流の取り組みを積極的にアピールすることで、競合との差別化を実現します。
・ESG投資の対象としての評価
環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)の観点で評価されるESG投資で、環境に配慮した企業として投資家から注目されます。
環境保護への貢献
・温室効果ガスの削減
脱炭素社会の実現に向けて、CO₂排出量を削減し、地球温暖化の進行を抑制。
・地域社会との共生
環境負荷を低減することで、地域社会の住環境の改善や信頼関係の構築に貢献。
イノベーションの促進
・デジタル技術の導入
AIやIoT、デジタルツイン技術の活用により、物流の効率化を図り、新しい価値を創出。
・サステナブルな技術の開発
再生可能エネルギーの活用や低公害車両の導入で、業界全体の技術革新を牽引。
グリーン物流への取り組みは、環境保護だけでなく、コスト削減や競争力向上、イノベーションの促進など、多くのメリットを企業にもたらします。消費者や投資家からの信頼を得るだけでなく、長期的には持続可能な社会の構築に寄与します。これからの物流業界で成功するためには、グリーン物流を戦略の一環として積極的に取り入れることが重要です。
グリーン物流とDXの融合
グリーン物流とDXの融合は、物流業界における持続可能性の向上と効率化を同時に実現する鍵となっています。デジタル技術を活用して環境負荷を軽減しつつ、業務効率化やコスト削減を図る取り組みは、物流の未来を変える大きな可能性を秘めています。以下では、その具体例やメリットについて解説します。
DX技術を活用したグリーン物流の具体例
・AIによる輸送ルートの最適化
AIを活用して輸送ルートを最適化し、走行距離を短縮することで、燃料消費量とCO₂排出量を削減します。配送効率も向上し、コストも削減できます。
・IoTを活用したトラックのモニタリング
IoTデバイスで車両の運行状況や積載状況をリアルタイムで監視することで、運行データを基に効率的な運用を実現します。ドライバーのエコドライブを促進し、燃料効率を向上させます。
・デジタルツインによる物流シミュレーション
仮想環境で物流プロセス全体をシミュレーションし、改善点を分析することで、計画段階での無駄を削減でき、最適な倉庫配置や配送ルートを導きます。
・ビッグデータ分析による需要予測
消費者データや市場動向を分析し、需要を予測することで、過剰在庫や欠品を防ぎ、在庫管理効率を向上させ、無駄な輸送や保管を削減します。
・再生可能エネルギーの導入
太陽光発電や風力発電を利用して、物流拠点のエネルギーをグリーン化することで、倉庫やオフィスの運営での環境負荷を低減し、自家発電によるエネルギーコストの削減につながります。
融合によるメリット
環境面では、効率化と省エネ技術により、物流業界全体の環境負荷を大幅に軽減し、再生可能エネルギーやリサイクルを推進し、持続可能な社会へ貢献します。
経済面では、輸送効率の向上やエネルギーコストを削減でき、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資の観点で高い評価を獲得できます。
デジタル技術で無駄を省き、生産性を向上させ、データ活用による予測精度も向上します。合わせて、配送スピードの向上や選択肢の多様化で顧客満足度も向上し、データによる可視化でサプライチェーン全体の透明性も上がります。
グリーン物流とDXの融合は、物流業界の持続可能な未来を実現するための重要な鍵です。AIやIoT、デジタルツインといった技術を活用し、環境負荷を削減すると同時に業務効率を向上させる取り組みは、企業の競争力を高め、消費者や投資家の期待にも応えるものです。これらの技術を取り入れることで、物流の新しいスタンダードが確立されていくでしょう。
まとめ
グリーン物流は、環境への負担を軽減しながら、効率的で持続可能な物流システムを構築する新しいアプローチです。本記事では、グリーン物流が注目される背景や、具体的な取り組み、そのメリット、さらにDXとの融合による可能性について詳しく解説しました。
企業がグリーン物流に取り組むことは、地球環境を守るだけでなく、コスト削減や競争力の向上、社会的信頼の獲得にもつながります。また、デジタル技術の活用は物流の効率化を一層促進し、脱炭素社会の実現に向けた重要な鍵となるでしょう。
持続可能な物流の実現は、一企業だけでなく、社会全体での取り組みが求められる時代です。グリーン物流は未来に向けた責任ある選択であり、物流業界全体がその可能性を最大限に引き出すことで、環境・経済・社会の三方良しを達成する道筋が描けるのではないでしょうか。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。