物流におけるデータ分析の重要性とは?
物流業界では、効率的な運営を支えるためにデータ分析が欠かせない存在となっています。膨大な物流データを適切に活用することで、配送の遅延や在庫不足といった問題の予測・解消が可能になります。
たとえば、需要予測では過去の配送データや季節変動をもとに需要傾向を分析し、効率的な運行計画をたてます。輸送ルートの最適化では、交通状況や運行履歴を分析することで燃料消費の削減や配送スピードの向上が期待できます。
これらの取り組みは、顧客満足度の向上や業務の無駄を省く効果だけでなく、競争優位性を確保するうえでも重要です。データ分析の導入が物流の未来を考えて、いま改めて見直すべき時期が来ています。
主な分析方法の紹介〜基本的な分析手法〜
物流業界では、効率化とコスト削減を目指すために、さまざまなデータ分析方法が活用されています。
ABC分析
ABC分析は、在庫や顧客を重要度で分類し、効率的な管理を目指す手法です。主に「売上」や「利益額」などのデータを基に、次の3つのグループに分けます。
・Aグループ(最重要):全体の約70~80%の価値を占める上位20%の商品や顧客。最優先で管理する対象です。
・Bグループ(中程度の重要性):全体の約15~25%の価値を占める中間60%。安定した運用が必要です。
・Cグループ(低重要性):全体の約5~10%の価値を占める下位20%。コストを抑えた効率的な管理が求められます。
Aグループ(最重要)に分類される商品やサービスは最も重要度が高いため、物流センターでは在庫が切れないように管理することがポイントです。
また、Bグループ(中程度の重要性)に関しては定期的な発注や、在庫が切れたタイミングでの発注を行います。
そして、Cグループ(低重要性)は、重要度が高くないため、在庫が切れてからの発注で問題ないということになります。
この分析により、どの商品や顧客に注力すべきかが明確になり、売上や効率の最大化につながります。限られたリソースを効率的に配分でき、収益性の高い商品の欠品を防ぐことが可能になります。
物流業界では、例えば、各商品の出荷頻度に基づいてABC分析を行い、ABCの各グループに分類します。その分類に応じて商品の保管場所を検討するといったことが可能になります。
例えば、物流センターの保管業務を例にとると、Aグループの定番商品はピッキング動線が最短になるように保管配置を見直します。出庫頻度が高いAグループ品目は出入口付近に配置することで荷役の効率を上げることができるためです。
Bグループ品目はAグループ品目より出庫頻度は低いので、Aグループ品目の奥に配置し、Cグループ品目は倉庫の奥に配置し、作業効率よりもスペース効率を優先することができます。
PSI分析
PSI分析は、「生産(Production)」「販売(Sales)」「在庫(Inventory)」の3つの要素を総合的に分析し、供給と需要のバランスを最適化する手法です。主に在庫管理や生産計画に活用されます。
・P(生産):製品がどの程度生産され、供給されるかを把握します。生産計画の調整に役立ちます。
・S(販売):販売状況を分析し、需要動向を正確に把握します。販売予測や戦略策定の基盤となります。
・I(在庫):現在の在庫量を管理し、過剰在庫や欠品を防ぎます。
PSI分析の目的は、生産、販売、在庫のバランスを取り、需要と供給を調整し、欠品や過剰在庫を防ぎ、物流コストを削減することと、過剰な生産や不要な在庫保管を回避し、リソースを効率的に活用する業務効率の向上です。
KPI分析
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)分析とは、物流業務のパフォーマンスを定量的に評価し、目標達成に向けた進捗を管理するための分析手法です。物流業界では、効率化、コスト削減、顧客満足度向上を目指して、具体的なKPIを設定し、継続的な改善を図ります。
物流業界で重要なKPIとして、配送パフォーマンスや、在庫管理関連、倉庫運営関連、環境関連が挙げられます。
KPI分析は、まず企業の戦略や顧客ニーズに基づいて具体的なKPIを設定します。IoTセンサーや物流管理システム(TMS)を利用してリアルタイムでデータを収集し、ダッシュボードやBIツールを活用してKPIを視覚的に表示(可視化)します。
その後、KPI達成状況をモニタリングし、定期的に見直しを行い、分析結果に基づき、業務プロセスやシステムを改善していくという活用方法になります。
主な分析方法の紹介〜配送効率化のための分析〜
配送ルート最適化分析
配送ルート最適化は、荷物を効率的に届けるために、最適なルートやスケジュールを計画する手法です。
交通状況や配達先の順序、荷物の種類などを考慮して、移動距離や時間、コストを最小限に抑えることを目指します。
具体的には、GPSやAI技術を活用し、リアルタイムで道路状況を把握したり、複数の配送先を効率的に回る順番を算出することにより燃料費や労働時間の削減だけでなく、迅速で正確な配送が実現します。
配送ルート最適化は、企業のコスト削減だけでなく、環境負荷の軽減や顧客満足度の向上にも大きく貢献します。
モーダルシフト分析
モーダルシフト分析は、物流の効率化や環境負荷軽減を目的に、トラック輸送から鉄道や船舶などの輸送手段に切り替える際の効果や課題を評価する手法です。特に長距離輸送で用いられ、CO₂排出量削減やコスト削減の可能性を見極めます。
この分析では、輸送距離や荷量、コスト、時間などのデータを基に、最適な輸送手段を選択します。例えば、一定の距離以上であれば鉄道や船舶が効率的であることが多く、これによりトラック輸送に比べて環境への負担を大幅に減らせます。
モーダルシフト分析は、持続可能な物流を実現するために欠かせない手法として、企業や自治体で注目されています。
主な分析方法の紹介〜在庫管理のための分析〜
需要予測分析
物流における需要予測分析は、荷物の量や配送需要を予測し、効率的な運行計画を立てるための手法です。過去の配送データや季節変動、地域ごとの需要傾向を基に分析を行います。
例えば、特定の時期に配送量が増える商品や地域を事前に把握することで、配車計画やドライバーのシフトを最適化できます。また、需要が減少する時期には余剰リソースを他の業務に活用するなど、運営の効率化も図れます。
この分析を活用することで、配送の手配や運行の無駄を減らし、燃料や人件費の削減にもつながります。さらに、顧客への安定したサービス提供にも貢献します。需要予測分析は、現代の物流業務における重要な戦略ツールです。
ロケーション分析
ロケーション分析とは、物流業界において、倉庫や配送センター、店舗などの物流拠点の最適な配置を決定するために行われる分析手法です。
配送拠点を適切に配置することで、移動距離を短縮し、燃料費や人件費を削減し、顧客に迅速に商品を届けるため、配送時間を最小限に抑えます。また、顧客ニーズに応じた迅速な対応が可能となり、満足度を向上させます。
AIとIoTが進化させる物流分析の次世代モデル
物流の現場では、AIとIoTの進化によって、従来の分析手法が次々とアップデートされています。これまで膨大なデータを扱うことが難しかった物流業界ですが、AIの高い計算能力とIoTによるリアルタイムデータの収集が可能になったことで、分析の精度とスピードが飛躍的に向上しました。
AIがもたらす進化
物流分析において、AIの導入はデータ処理能力を飛躍的に向上させました。需要予測や輸送データを分析し、最適な配送ルートを瞬時に計算します。
これにより、燃料消費や配送時間を大幅に削減するだけでなく、コスト効率も向上します。さらに、異常値の検知やリスク管理にもAIが活用され、より安全で安定した物流運用が実現しています。
IoTによるリアルタイムの把握
IoTは、物流現場からのリアルタイムデータ収集を可能にします。トラックや倉庫に設置されたセンサーからは、車両の位置情報や温度、湿度といった詳細な情報が即時に取得されます。
このデータをもとに、配送状況の可視化や、輸送中の商品状態の管理が実現できます。温度管理が求められる食品や医薬品の輸送では、IoTセンサーが適切な環境を維持する役割を果たします。IoTの進化は、物流の精度と信頼性を飛躍的に高める重要な役割を担っています。
AIとIoTを活用した次世代物流分析モデルは、物流業界における効率化と持続可能性を両立する革新的な手法です。リアルタイムデータ、予測分析、自律型システムが組み合わさることで、業界全体がより柔軟かつスマートに進化しています。技術の進化とともに、物流の未来はさらなる高効率化と環境負荷軽減が期待されています。
物流分析を成功させるポイント
物流分析を効果的に活用するためには、いくつかのポイントをおさえる必要があります。
1,明確な目標設定
物流分析を行う際には、まず達成したい目標を明確にすることが重要です。コスト削減や配送時間の短縮、在庫管理の効率化など、具体的な課題を設定することで、分析の方向性がぶれることを防げます。
2,データの正確性と収集方法
正確なデータの収集は、物流分析の土台となります。IoTセンサーやGPSを活用してリアルタイムデータを集めることで、最新の状況を把握でき、分析結果の信頼性を高められます。
3,適切な分析ツールの選定
目的に応じたツールやソフトウェアを選ぶことも重要です。需要予測にはAIを、配送ルートの最適化には専用のアルゴリズムを活用するなど、最適な技術を取り入れることで精度が向上します。
4,チーム内の連携強化
物流分析は複数の部署が関わる場合が多いため、関係者間の連携が欠かせません。データの共有や進捗確認を定期的に行うことで、分析結果を効率的に活用できます。
5,継続的な改善
物流環境は変化し続けるため、分析結果をもとに施策を実行した後も、定期的に見直しを行う必要があります。改善のサイクルを回すことで、効果を最大化できます。
これらのポイントをおさえることで、物流分析をより効果的に活用し、競争力のある物流体制を築くことが可能です。
まとめ
物流業界で活用される分析方法は、多岐にわたります。ABC分析やPSI分析といった基本的な手法から、AIやIoTを活用した需要予測や配送ルートの最適化、さらにはモーダルシフト分析や、倉庫や配送センターのロケーション分析など、技術の進化とともにその幅を広げています。
これらの分析方法は、効率的な運営やコスト削減だけでなく、環境負荷の軽減や顧客満足度の向上にも寄与します。
物流の複雑な課題を解決するためには、これらの分析を適切に選び、現場で活用できる仕組みを構築することが重要です。物流分析の力を活かして、より持続可能で効率的な物流を目指していきましょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。