なぜカーボンニュートラルを目指すのか
今世界中でカーボンニュートラルを目指す動きが見られますが、これにはもちろん理由があります。CO2の濃度が、産業革命前と比べて4割も増加しているからです。CO2が増加したことで、1900年頃と比べ地球全体の平均気温が約1度も上昇しています。たった1度と侮ってはいけません。地球全体の気温上昇がきっかけでさまざまな異常気象が頻発していることは、多くの人が感じていることでしょう。
地球温暖化がこれ以上進行しないように、世界中がカーボンニュートラルを目指すようになりました。2021年8月には、国連機関が「地球温暖化の原因は人間の活動だ」と断定しています。カーボンニュートラルを実現しなければ、もしかしたら地球に人が住めなくなってしまうかもしれません。それを防ぐために世界中が一丸となって努力しています。
印刷におけるCO2排出量について
この記事でスポットを当てるのは、印刷業界のカーボンニュートラルについてです。まず最初に、印刷におけるCO2排出量を確認していきましょう。
パッとすぐにはイメージできないかもしれませんが、印刷業界はあらゆる過程でCO2を排出しています。実際の印刷作業はもちろんですが、それ以外にも用紙やインキの製造、印刷物の運搬などの過程でCO2を排出しています。印刷するページ数にもよりますが、本を1部制作するのに約2㎏ものCO2が排出されるケースもあります。
今は情報を伝える手段が徐々に電子化しているとはいえ、書籍・新聞・雑誌などの紙媒体がなくなったわけではありません。しかも印刷は世界中で毎日おこなわれているので、印刷業界がカーボンニュートラルを世間から強く求められるのはしかたのないことでしょう。印刷におけるCO2排出量は決して少なくないので、早急に対策する必要があります。
印刷業界はカーボンオフセットを実施
印刷におけるCO2排出量が少なくないことを受け、印刷業界はカーボンオフセットを実施
しています。カーボンニュートラルという時代の流れに乗り、各会社がさまざまな対策を始めています。カーボンオフセットの具体的な事例を紹介します。
カーボンオフセットとは
CO2を排出した会社などが他のところでCO2削減に取り組む団体を支援することを、カーボンオフセットと呼びます。排出した分を他で相殺することが目的の取り組みです。印刷業界は、日本WPA協会の主導によってカーボンオフセットが積極的に実施されています。
たとえばとある印刷をおこなってCO2が2㎏排出されたら、排出した2㎏分を植林や省エネ・再エネの普及に対して金銭などでサポートします。
また、サポート先が地方で活動していることもあるため、環境面だけに限らず地域の活性化というメリットもあります。
東洋美術印刷
東洋美術印刷株式会社は、カーボンオフセットを積極的に実施しています。日本WPA(日本水なし印刷協会)からクレジットを購入し、証明書の発行を受けています。日本WPAは、排出権仲介業者のクレジットを購入し、無効化通知を受けています。
こうしたクレジット購入の流れは環境省などが承認しているJ-クレジット制度の一環で、クレジットの売上は環境整備や再エネ導入の資金になります。間接的ではあるものの、CO2削減に貢献しているのは間違いありません。結果的に環境負荷の低い印刷物を利用者に提供しています。
エムアイシーグループ
エムアイシーグループは、印刷による売上の一部を植林事業に寄付するカーボンオフセットを実施しています。カーボンニュートラルを目指し、具体的な取り組みをおこなっているのです。カーボンオフセット印刷を利用者が希望した場合、支払金額の0.2%分が植林事業に寄付される仕組みです。寄付が完了したら、NGOから発行される植林証明書をもらえます。また、印刷物にカーボンオフセット印刷だとわかるようにロゴが表記されるため、カーボンオフセットのPRにもなります。
大川印刷
大川印刷は2016年にCO2年間排出量の総量となる180トンを、あらかじめカーボンオフセットしました。さらに2019年には、完全再エネの印刷工場を誕生させています。これらの取り組みからわかるように、カーボンオフセットに対してとても積極的な印刷業者です。
カーボンニュートラル実現に効果的なバイオマスインキについて
バイオマスインキは、印刷業界がカーボンニュートラルを実現するのに欠かせないといわれています。バイオマスインキとは、いったいどんなインキなのでしょうか。バイオマスインキについて紹介します。
資源が植物に由来している
バイオマスインキは、綿・米ぬか・種などといった植物が資源のインキです。植物から抽出した成分でインキを製造するため、きちんと管理さえすれば継続的に使えます。石油由来だと将来的に枯渇するリスクがありますが、植物由来なら枯渇しません。持続可能な資源だといえるでしょう。
CO2量が増えない
原料が成長過程でCO2を吸収する植物なので、たとえ捨てる際に燃焼してCO2を排出したとしても、全体的なCO2量は増えません。これはまさしくカーボンニュートラルの理論そのものです。石油由来だとCO2は吸収されないので、バイオマスインキのほうが環境に優しいのは明らかです。
印刷物にロゴマークを入れることでアピール
もしもインキにバイオマスインキを選んだ場合、印刷物にロゴマークを入れて環境に配慮していることをアピールできます。環境に配慮しているかどうかが商品を選ぶ際の条件になりつつある時代なので、アピールする効果は大きいといえるでしょう。管理する協会に申請することで、ロゴマークを入れられるようになります。
CO2排出量を可視化できるカーボンフットプリント
カーボンフットプリントは、CO2排出量の可視化において注目されています。最近よく聞くようになった言葉の1つですが、カーボンフットプリントとは何でしょうか。意味・使い方・目的について解説します。
カーボンフットプリントとは
カーボンフットプリントとは、商品やサービスを提供する際のCO2排出量を可視化することです。たとえば缶ジュースを1本製造して販売する場合、原材料の仕入れ・運搬・製造・流通・廃棄・缶の再利用などでそれぞれCO2が排出されます。何がどれぐらいの割合でCO2を排出しているのかわかるように可視化したのが、カーボンフットプリントです。
CFPマークを商品に印刷して示す
カーボンフットプリントの認定を受けた商品は、CFPマークを印刷して示すことができます。CFPマークには、CO2の総排出量と割合が円グラフで表示されています。消費者がCFPマークを見れば、商品がどれだけCO2を排出しているのかを正確に把握できます。
各企業と消費者にCO2排出量削減を促すのが目的
カーボンフットプリントは、カーボンニュートラルの一環でおこなわれている取り組みです。カーボンフットプリントを実施することで、各企業と消費者にCO2排出量削減を促せます。国内ではCFPプログラムからエコフリー環境ラベルプログラムへと引き継がれ、CO2排出量だけでなく酸性化や資源消費など、より多くの情報を知らせるカーボンラベリングとなりました。
こうしたCO2削減を喚起させるラベルを商品に印刷することで、各企業や消費者の意識が自然と高まります。
まとめ
カーボンニュートラルを目指している、印刷業界のさまざまな取り組みについて紹介しました。印刷によるCO2の排出を環境団体へのサポートなどで相殺するカーボンオフセットや、植物を資源としたインキのバイオマスインキの使用などで、カーボンニュートラルを目指しています。印刷は思いのほか多くのCO2を排出するため、印刷業界は危機感を募らせています。
また、CO2排出量を可視化できる取り組みのカーボンフットプリントについても紹介しました。CO2排出量や過程ごとの内訳を商品に印刷することで、各企業と消費者にCO2排出量削減を促しています。危機感を募らせている印刷業界は、カーボンニュートラルの実現に向けて積極的に取り組んでいます。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。