脱炭素化戦略を推進!サプライチェーン全体でのCO₂排出量可視化と削減手法

脱炭素化戦略を推進!サプライチェーン全体でのCO₂排出量可視化と削減手法

サプライチェーンにおけるCO₂排出の現状と課題

サプライチェーン全体では、原材料調達から製造、輸送、保管、販売、廃棄に至るまで、さまざまな段階でCO₂が排出されています。

特に、輸送や物流部門はCO₂排出量が大きく、トラック輸送、航空輸送、海上輸送などの方法によって排出量が異なります。加えて、工場や倉庫でのエネルギー消費も高く、再生可能エネルギーの導入や省エネ技術の活用が必要とされています。

また、近年はカーボンフットプリントの可視化が進んでおり、企業ごとに排出量の算定や削減努力が求められていて国際的な規制強化や環境配慮を重視する消費者の増加により、企業はサプライチェーン全体のCO₂排出削減に取り組む必要が高まっています。

※カーボンフットプリント(CFP) とは、製品やサービスのライフサイクル全体で排出される CO₂などの温室効果ガス(GHG)排出量を数値化する 手法のこと

課題

CO₂排出量の可視化が難しい
サプライチェーンは複数の企業が関与するため、統一された方法で排出量を測定・管理することが難しく、排出データの収集・分析に課題があります。

削減のためのコスト負担
低炭素型の物流や製造プロセスに切り替えるには、設備投資や技術導入が必要ですが、中小企業にとっては負担が大きく、導入が進みにくいのが現状です。

企業間の連携不足
CO₂削減にはサプライヤー、物流業者、小売業者などが協力する必要がありますが、それぞれの事情やコストの問題から、スムーズな連携が進んでいません。

これらの課題を解決し、サプライチェーン全体でのCO₂排出削減を進めるには、デジタル技術の活用、規制の明確化、業界全体での協力体制の構築が不可欠です。

 

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CO₂排出量を可視化する重要性

サプライチェーン全体でのCO₂排出量の可視化は、企業の脱炭素化戦略を推進する上で重要な要素です。特に以下の点が理由として挙げられます。

・規制強化

企業の環境負荷削減を求める国際基準(例:SBTi、TCFD)が導入され、スコープ1~3の排出量把握が義務化される傾向にある。

・消費者・投資家の関心の高まり

サステナビリティを重視するESG投資が増加し、企業の環境負荷低減への対応が評価基準になっている。

・コスト削減と競争力強化

CO₂排出量を削減することで、燃料コスト削減やサプライチェーンの最適化を実現し、企業の利益向上につながる。

CO₂排出量の可視化における最新技術の活用

最新のデジタル技術を活用することで、サプライチェーン全体のCO₂排出量をリアルタイムで把握し、効率的な削減施策を実行できます。

IoT(モノのインターネット)

・トラックや倉庫のエネルギー使用量をリアルタイム測定し、燃費効率や稼働状況を最適化。

・スマートセンサーを活用し、倉庫や製造ラインの電力消費データを収集・分析。

AI(人工知能)とビッグデータ分析

・過去の物流データをAIで分析し、CO₂排出量を最小化する最適な輸送ルートを導出。

・在庫管理や需要予測をAIで最適化し、無駄な輸送・廃棄を削減。

ブロックチェーン

・サプライチェーン全体のCO₂排出データを安全に管理・共有し、透明性の高い情報提供が可能に。

・企業間でのカーボンクレジット取引をスムーズに実施し、排出量の削減に貢献。

デジタルツイン

・仮想空間にサプライチェーンのデジタルモデルを構築し、CO₂排出量のシミュレーションや削減シナリオを検証。

・物流センターや配送ルートの最適化をリアルタイムで管理。

クラウドベースのカーボントラッキングシステム

・CO₂排出量をリアルタイムで収集・分析し、企業間でデータを統合。

・企業の環境目標に応じて、排出削減策を自動提案するダッシュボードを活用。

 

CO₂排出量の可視化は、企業の環境戦略だけでなく、コスト削減や業務効率化にも貢献する重要な取り組みです。

IoT、AI、ブロックチェーン、デジタルツインなどの最新技術を活用することで、サプライチェーン全体でのリアルタイム監視と最適化が可能になります。各企業は、脱炭素化の目標達成に向け、今後さらにデジタル技術を活用した可視化と削減施策を強化していくことが求められています。

CO₂排出量の測定・管理の具体的な手法

CO₂排出量の可視化とは、企業のサプライチェーン全体における温室効果ガス(GHG)排出量を数値化し、管理することを指します。製造業、物流、販売、小売に至るまで、あらゆる工程でCO₂が排出されており、その量を正確に把握することが求められています。

近年、企業は環境負荷を測定するために「スコープ1・2・3」という基準を活用しています。

出典)

https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/estimate.html

スコープ1:直接排出量

企業自らが直接排出する温室効果ガス。
企業が自社の施設や工場、車両で燃料を燃焼させた際に発生するCO₂などの排出ガスです。自社で管理できる範囲で、削減対策も自社努力で進めやすいのが特徴です。

例:

・工場でのボイラー燃焼によるCO₂排出

・社用車やトラックの燃料消費による排出

・発電機によるエネルギー生産時の排出

スコープ2:(間接排出量)エネルギー使用由来

購入した電力・熱・蒸気によって発生する間接排出。
自社で直接排出しているわけではありませんが、消費する電力の生成過程で発生する温室効果ガスがカウントされます。再生可能エネルギーの導入によって削減が可能です。

例:

・電力会社から購入した電気の使用による排出

・冷暖房設備の使用による間接的な排出

・購入した熱エネルギーの利用による排出

スコープ3:その他の間接排出(サプライチェーン全体)

企業のバリューチェーン全体で発生するその他の間接排出。
サプライヤーや顧客、物流業者など、企業活動に関連する外部から発生する排出量が含まれます。企業の努力だけでは対策が難しく、サプライチェーン全体の協力が不可欠です。

例:

・製品の原材料調達時の排出

・輸送・物流過程で発生するCO₂排出

・販売した商品の使用・廃棄による排出

CO₂排出量の可視化は、持続可能なビジネスの基盤となる重要な取り組みです。企業はデータの標準化やデジタル技術の活用を進め、サプライチェーン全体でのCO₂削減に向けた連携を強化することが求められています。

 

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CO₂排出量可視化の実例と活用法

株式会社日立システムズ

株式会社日立システムズは、CO₂排出量の可視化に関する取り組みを積極的に進めています。同社は、バリューチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を可視化するプロジェクトに取り組み、取引先からのデータ収集やGHG排出量の可視化を実践しています。

具体的には、炭素会計プラットフォームサービス「Persefoni」を活用し、サプライチェーン全体の排出量を算定しています。この取り組みにより、日立システムズは自社および取引先のGHG排出量を正確に把握し、効果的な削減策の立案・実行を可能としています。

出典)

https://www.hitachi-systems.com/campaign/gxwp/

https://www.hitachi-systems.com/ind/carbon_neutral/solution/persefoni/index.html

Terrascope

​Terrascopeは、企業がサプライチェーン全体の温室効果ガス(GHG)排出量を正確かつ包括的に測定・管理し、脱炭素化を推進するためのエンドツーエンドのSaaSプラットフォームです。2023年6月、Terrascopeは日本法人を設立し、三菱商事、日本テトラパック、みずほ銀行などと戦略的パートナーシップを結び、日本市場でのサービス提供を開始しました。

サービスの主な特徴

・データ統合と管理の効率化
AIと機械学習を活用し、データの収集、検証、変換プロセスを効率化し従来と比較して最大80%の測定サイクルの短縮を実現しています。

・データギャップの補完
不明なデータをデータサイエンス技術で補完し、92%の精度を達成しプロセス全体で透明性と追跡性を確保しています。

・排出係数のマッチング
AIを活用して排出係数の精度を向上させ、森林、土地、農業(FLAG)セクターを含む排出データの監査を容易にし、脱炭素化計画の策定や実行を効率化します。

・製品カーボンフットプリントの測定
統合されたデータを単一のソフトウェアで管理し、サプライヤーとの連携をスムーズに。従来のライフサイクルアセスメント(LCA)に比べて98%の時間を短縮し、約70%の精度を達成しています。

・シナリオ分析とレポート作成
「What-if」シナリオ分析を通じて、脱炭素化の促進を支援。経営陣やステークホルダーに対し、適切なプロジェクトへのリソース投入をサポートし、KPIや進捗をリアルタイムで確認できるツールを提供します。さらに、監査対応済みのデータは、SBTiなどのグローバル基準の認証団体への報告と開示を効率化します。

https://www.terrascope.com/ja/

富士通株式会社

富士通株式会社は、2040年までにバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量をネットゼロにすることを目指し、2024年10月から国内外のサプライヤー12社と連携し、製品ごとのCO₂排出量(製品カーボンフットプリント、PCF)のデータを共有する取り組みを開始しました。

各社が「ESG Management Platform」でPCFを計算・連携し、より正確な排出量の可視化を実現し、カーボンニュートラルに向けた具体的な施策立案が可能になりました。

課題

・脱炭素化の実現には、サプライヤーとの連携による削減施策が必要。

・従来の排出量算定方法では、企業の削減努力が正確に反映されない。

・サプライヤーの中には、データ共有による競合他社への情報漏洩を懸念する声もある。​

解決策

・富士通の「ESG Management Platform」を活用してデータ連携を実施。

・国際的なデータ連携仕様「PACT」に準拠し、国内外の様々な企業が参画可能なシステムを構築。​

・指定した連携先企業にのみPCF最終値が公開される機能を導入し、データ共有の安全性を確保。

効果

・サプライチェーン全体のCO₂排出量の可視化が進展。​

・実データを用いた分析やシミュレーションが可能となり、具体的な施策の効果測定が実現。

この取り組みにより、富士通はサプライチェーン全体でのCO₂排出量削減に向けた具体的な施策立案を進めています。

出典)

https://www2.fujitsu.com/jp/customer-stories/cs-fujitsu-esgmgmtpfm-20250131/

セイコーインスツル株式会社

セイコーインスツル株式会社は、製造ラインごとのエネルギー使用量を可視化し、CO₂排出量の削減と省エネを推進しています。​各製造ラインに電力量モニタと電力モニタノードを設置し、使用電力量をリアルタイムで把握しています。​

さらに、水量、蒸気、ガスなどの流量計とIOノードを組み合わせることで、電力以外のエネルギー使用量も可視化して、CO₂原単位や総排出量を算出し、無駄を発見して省エネ対策を実施、コスト削減を達成しています。

出典)

https://www.sii.co.jp/wsn/example/case-co2.html

サプライチェーンでのCO₂排出削減手法

サプライチェーン全体でのCO₂排出削減は、企業の持続可能な成長に不可欠です。ここでは、具体的な削減手法として「輸送手段の効率化」「再生可能エネルギーの導入」「製造・流通プロセスでの省エネ施策」の3つの観点から解説します。

①輸送手段の効率化(モーダルシフト、共同配送など)

トラック輸送から鉄道や船舶へ切り替える「モーダルシフト」や、複数企業が物流網を共有する「共同配送」により、燃料消費を抑えながら効率的な輸送を実現します。例えば、大手物流企業では鉄道貨物の活用を進め、CO₂排出量を大幅に削減しています。

また、ディーゼルトラックをEVトラック・水素トラックに置き換えることで、CO₂排出を削減できます。

②再生可能エネルギーの導入

工場や物流拠点の電力を、太陽光や風力といった再生可能エネルギーに切り替えることで、CO₂排出を削減できます。自社の施設に太陽光発電システムを設置したり、PPA(電力購入契約)を活用する企業も増えています。

③製造・流通プロセスでの省エネ施策

工場の省エネ機器導入、物流センターのLED照明化、AIを活用した最適な在庫管理など、無駄なエネルギー消費を削減する工夫が求められており、企業のコスト削減と環境負荷低減を両立できます。

サプライチェーン全体でのCO₂排出削減には、企業単独ではなく業界全体での協力が重要です。

サプライチェーン全体の連携が生む効果

サプライチェーン全体でのCO₂排出量削減には、企業間の連携が不可欠です。個々の企業が単独で取り組むよりも、供給元から配送先までの関係企業が協力することで、より大きな削減効果が期待できます。ここでは、連携がもたらす主なメリットを紹介します。

物流の効率化によるCO₂削減

・企業間で共同配送を実施し、トラックの積載率を向上させることで、走行距離と燃料消費を削減。

・モーダルシフト(鉄道・船舶輸送の活用)を推進し、CO₂排出量の少ない輸送手段へ移行。

・配送ルートを最適化し、無駄な輸送や積み下ろしの回数を減らす。

データ連携による無駄の削減

・企業間で生産・在庫データをリアルタイム共有し、過剰生産や不必要な輸送を削減。

・CO₂排出量の可視化ツールを活用し、排出の多いプロセスを特定して改善策を検討。

・需要予測データを活用し、生産・流通の無駄を最小限に抑える。

再生可能エネルギーの活用拡大

・サプライチェーン全体で再生可能エネルギーの導入を推進し、CO₂排出量を大幅に削減。

・工場・倉庫での太陽光発電電動フォークリフトの導入など、エネルギー効率の向上を図る。

コスト削減と企業競争力の向上

・燃料コストの削減や、物流効率化によるコスト最適化が可能。

・環境負荷の低減を通じて、企業のブランド価値を向上し、ESG投資の対象として評価されやすくなる。

サプライチェーン全体の連携は、CO₂削減だけでなく、コスト削減や物流の安定化にもつながります。

まとめ

サプライチェーン全体でのCO₂排出削減は、持続可能な社会を実現するために欠かせない取り組みです。現在、多くの企業がカーボンニュートラルを目指しており、CO₂排出量の可視化がその第一歩となっています。可視化することで、どの工程でどれだけの排出があるのかを把握し、具体的な削減対策を講じることが可能になります。

最新技術の活用により、排出量のデータをリアルタイムで取得し、分析・管理することが容易になりつつあります。IoTやAIを活用した測定システムやブロックチェーンを使った透明性の高い管理手法などが進化しており、企業がより精緻なCO₂管理を行える環境が整ってきました。

また、可視化されたデータを活用し、物流・生産・調達の各段階で効率化を図ることで、排出量の削減が可能となります。具体的には、モーダルシフトの推進、再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率の高い設備投資など、業界ごとに最適な施策が求められています。

サプライチェーン全体での連携も不可欠であり、企業間の情報共有や共通の排出管理基準の設定が進むことで、より効果的なCO₂削減が実現できます。

今後、企業が競争力を維持しながら環境負荷を低減するためには、単独での取り組みだけでなく、パートナーシップを強化し、サプライチェーン全体での脱炭素化を推進することが求められるでしょう。

 

この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

 

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