ゼロカーボンシティとは?
ゼロカーボンシティとは、温室効果ガスの一種である二酸化炭素の排出量と吸収量がプラスマイナス0の状態であるカーボンニュートラルな都市を指しており、ゼロカーボンシティは、2015年に採択されたパリ協定の目標「世界の気温上昇を2℃よりも低く、極力1.5℃までに抑えるよう努力する」から、名称が定められ、取り組みが始まりました。
パリ協定への参加を踏まえて日本で定められた「地球温暖化対策の推進に関する法律」では、「地方公共団体も温室効果ガス削減に向けた施策を策定し、実施するよう努める」と明記されています。
それを受け、環境省は下記をゼロカーボンシティとしています。
【2050 年に CO2(二酸化炭素)を実質ゼロにすることを目指す旨を首長自らが又は地方自治体として公表された地方自治体】
引用元)
https://www.env.go.jp/content/000155428.pdf
ゼロカーボンシティ実現のために越えるべき課題とその解決策
ゼロカーボンシティの実現は、技術、経済、社会の全方位的な課題に対応する必要があります。これらの課題を克服するためには、最新技術の導入、官民連携、市民の参加が不可欠です。詳しく解説していきます。
技術的課題と解決策
課題①
太陽光や風力発電などの再生可能エネルギーは天候や季節に依存し、供給が不安定になりがちで、夜間や無風時のエネルギー供給が課題となっています。
解決策:
蓄電技術の開発
大容量バッテリー(リチウムイオン電池やフロー電池)を導入し、エネルギーを貯蔵。
エネルギーミックスの推進
太陽光、風力、水力、地熱などを組み合わせ、多様な再エネ源を利用。
スマートグリッドの導入
AIを活用して電力需要と供給をリアルタイムで調整。
課題②
都市部のエネルギー供給設備や送電網が古く、新技術に対応できない場合があります。
解決策:
インフラのアップグレード
再生可能エネルギー対応型の送電網や配電設備を整備。
デジタル技術の活用
都市全体のエネルギー消費を監視・管理するデジタルツイン技術の導入。
経済的課題と解決策
課題①
再エネ設備やスマート技術の導入には、多額の初期投資が必要で、特に地方自治体や小規模都市では財政的な負担が大きい点が課題です。
解決策:
補助金や税制優遇
国や自治体による財政支援を拡充し、初期コストを軽減。
官民連携の促進
民間企業の投資を呼び込むためのインセンティブ(例えば、再エネクレジット制度の活用)。
長期的な費用対効果のアピール
再エネ導入により、エネルギーコストが削減されるメリットを強調。
課題②
先端技術開発には多額の研究費用が必要だが、十分な投資が行われない場合があります。
解決策:
産学連携の強化
大学や研究機関と企業が協力し、低コストで効果的な技術を開発。
グローバルな技術協力
他国との協力により、最新技術やノウハウを共有。
社会的課題と解決策
課題①
脱炭素への取り組みには、市民の理解と行動が不可欠だが、情報不足や関心の低さが障壁となる場合があります。
解決策:
啓発活動の強化
ゼロカーボンの意義をわかりやすく伝えるイベントや教育プログラムを実施。
市民参加型のプロジェクト
地域ごとの太陽光発電プロジェクトや省エネキャンペーンを通じて、市民が取り組みの主体となる。
経済的メリットの訴求
節電による光熱費削減など、市民にとっての直接的なメリットを示す。
課題②
都市部と地方では、技術や資金、人的リソースの格差が存在しています。
解決策:
地域特性に合わせたアプローチ
都市部は高効率ビルディング、地方は森林保全や小水力発電を推進。
広域連携の構築
地域間で再エネ資源や技術を共有し、互いに補完し合う仕組みを整備。
これらの課題を克服するためには、最新技術の導入、官民連携、市民の参加が不可欠です。持続可能で脱炭素化された都市は、環境保護だけでなく、経済成長や生活の質の向上にもつながります。共通の目標に向けて、すべてのステークホルダーが協力し、未来に向けた持続可能な都市づくりを推進することが求められます。
ゼロカーボンシティを支える交通インフラの再編
ゼロカーボンシティの実現には、交通インフラの再編が欠かせません。都市部では依然として多くのCO₂が交通機関から排出されており、この課題に対応するためには電動化や効率化が鍵となります。
電動化の推進
交通インフラのゼロカーボン化において、電動化は中心的な役割を果たします。電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)の普及を進めるとともに、充電ステーションや水素ステーションのインフラ整備を加速することで、化石燃料車からの転換を促します。これにより、都市部の交通におけるCO₂排出を大幅に削減できます。
公共交通機関の効率化
電動バスや電車の導入を進めるとともに、AIを活用した運行管理システムを導入することで、需要に応じた効率的な運行が可能になります。公共交通を利用しやすい環境を整えることで、車の利用を減らし、交通のゼロカーボン化を支援します。
マイクロモビリティの導入
短距離移動には、電動キックボードや電動自転車などのマイクロモビリティを利用することで車の利用を抑制し、都市部の環境負荷を軽減できます。専用レーンや駐輪場の整備も重要です。
スマートモビリティの実現
AIやIoT技術を活用したスマートモビリティサービスは、交通の最適化に寄与します。カーシェアリングやライドシェアサービスを拡充し、個人所有の車両に依存しない移動を推進します。
歩行者・自転車優先の都市設計
都市設計において、歩行者や自転車が快適に移動できるインフラを整備することも不可欠です。自動車への依存を減らし、都市の脱炭素化を加速します。
デジタルツインがゼロカーボンシティ実現に貢献する方法
デジタルツインとは、現実世界の物体やシステムをデジタル上に再現し、そのデータをリアルタイムで連動させる技術で、IoTやAI、ビッグデータを活用して、現実の状況を正確に反映し、効率化や問題解決、新しい価値の創造に役立ちます。
デジタルツインを活用すると下記のようなことが実現できます。
エネルギー効率の最適化
デジタルツインは、都市のエネルギー消費パターンを仮想空間で再現し、効率的なエネルギー配分をシミュレーションが可能なため、エネルギー使用量の削減や再生可能エネルギーの最適な利用が可能となります。
交通の最適化
都市内の交通状況をリアルタイムでモニタリングし、渋滞を予測することで、移動ルートの最適化が可能なため、燃料消費とCO₂排出を抑え、環境負荷を軽減します。また、公共交通の運行スケジュールを効率化することで、エネルギーの無駄遣いを防ぎます。
建築物のエネルギー管理
デジタルツインを活用することで、建物のエネルギー消費を詳細にモニタリングし、断熱性能や空調効率を改善できるので建築物全体のエネルギー効率を高め、ゼロカーボンシティ実現を支援します。
環境モニタリング
センサーから収集したデータを基に、大気汚染や温度変化をリアルタイムで監視し、環境改善に向けた迅速な対応が可能になることで都市全体の環境負荷を低減できます。
市民参加の促進
デジタルツインを用いて、ゼロカーボンに向けた取り組みの進捗や効果を視覚化することで、市民が取り組みの重要性を理解しやすくなります。これにより、市民の行動変容を促進し、都市全体で脱炭素化を推進できます。
先進事例に学ぶ〜国内のゼロカーボンシティの取り組み事例〜
ゼロカーボンシティは、国内外でその取り組みが加速しています。特に再生可能エネルギー、スマートインフラ、都市緑化の活用が鍵となり、世界中の都市が革新的な事例を生み出しています。以下に、国内外のゼロカーボンシティ事例を解説します。
北海道札幌市:「市街地再開発」+「カーボンニュートラル(エネルギーの面的利用)」
概要
積雪寒冷地における生活利便性の向上や災害時のレジリエンスの強化に向けて、都市のリニューアルの機会を捉え、地域熱供給の導入によるまちづくりと環境・エネルギー施策を一体的に展開する取組を進め、脱炭素先行地域活用により更に取組を進めています。
〇都心エネルギープランによる都心の熱供給ネットワークの形成
〇都心開発と連動した熱供給の活用促進
・札幌都心E!まち開発推進制度の運用による市と事業者での事前協議の実施
・脱炭素化に大きく貢献する取組は容積率を緩和
〇建物のZEB化・創エネ技術の導入、水素モデル街区整備ほか
札幌市は冬季の気温が低いため、暖房エネルギー消費が大きく、地域特性に応じた対策が課題でした。平成30年3月に「都心エネルギーマスタープラン」を策定し、低炭素で持続可能なまちづくりに向けて重点的な取組を掲げており、令和2年2月にゼロカーボンシティ宣言をし、2050年排出量実質ゼロを目指して、各取組みを進めています。
埼玉県さいたま市:「スマートシティ実装化」+「カーボンニュートラル(シェア型マルチモビリティ導入)」
概要
「市民のウェルビーイングな暮らしを実現する<スマートシティさいたま>」の構築に向け、駅を核としたウォーカブルでだれもが移動しやすい、人中心に最適化された都市空間・環境の形成の取組みに、脱炭素先行地域の補助を活用し、再エネを活用したシェア型マルチモビリティの導入を進めています。
〇モビリティサービスの充実
・シェア型マルチモビリティ実証実験
・AIオンデマンド交通サービス実証実験(郊外住宅地型モデル)
〇ライフサポート型Maas構築
・シェアサイクルと路線バスの乗継等の仕組み作り
〇移動の脱炭素化につなが るモビリティシステム構築
〇シェアEVの導入
〇バッテリーステーション・バッテリーマネジメントシステムの開発、導入
〇地域再エネの導入ほか
平成21年に運輸部門からのCO2排出削減対策として、電気自動車 普及施策「E-KIZUNA Project」を開始。令和元年7月には「SDGs未来都市」に選定され、令和2年7月には、「ゼロカーボンシティ」 を表明しています。
神奈川県小田原市: 「中心市街地の活性化」 + 「カーボンニュートラル(エネルギーと地域経済の好循環)」
概要
小田原駅周辺の再開発や公共施設整備、地域資源を活かした取組の展開による定住・交流人口の増加や今後の新病院建設による都市機能の強化を背景に、脱炭素先行地域の活用によりEVモビリティやエネルギーシステムの導入等を実施し、更に快適で賑わいあるコンパクトシティを目指します。
〇小田原駅周辺の再開発
〇公共施設の整備
〇空き家空き店舗活用
〇新病院建設(市立病院の建て替え)
〇地域需給バランス・取引 システムの構築
〇観光客向けEV充電器
〇EVカーシェア
〇新病院のZEB化
令和元年7月にSDGs未来都市及び自治体SDGsモデル事業に選定され、 同年8月にSDGs未来都市計画を作成し、同年11月には「ゼロカーボンシティ宣言」を行いました。令和4年3月には小田原市第6次総合計画が策定され、再生可能エネルギー導入量を5倍にすることを目標とし、現在は地域脱炭素化推進事業を推進しています。
兵庫県姫路市: 「観光まちづくり」 + 「カーボンニュートラル(ゼロカーボンキャッスル)」
概要
世界遺産・国宝「姫路城」におけるライトアップ設備のLED化や、駅から姫路城の区域における居心地よく歩きたくなるまちなかづくりの機会を捉え、 脱炭素先行地域の取組みによる再エネ施設整備、供給により、「ゼロカーボンキャッスル」を実現し、観光地としての魅力とブランド力を向上する。
〇駅前広場・歩道等の利活用
〇市の遊休地を活用した再エネ 電力の地産地消 (オフサイト型コーポレートPPAによる姫 路城及び駅周辺公共施設への再エネ供 給・蓄電池併用)
〇グリーン水素製造供給 (余剰電力の産業部門への活用)
〇省エネ設備による省電力化 (姫路城ライトアップ設備のLED化)
〇市民や観光客の行動変容に よるCO2削減
姫路市では、令和3年2月に「ゼロカーボンシティ宣言」を行い、同5月には「SDGs未来都市」に選定されるなど、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取組んでいます。
令和3年3月、姫路市ウォーカブル推進計画を策定し、中心市街地において歩行者優先の居心地が良く歩きたくなるまちなかに向けた取組みを進めています。
参照)
https://www.mlit.go.jp/toshi/kankyo/content/001602419.pdf
ゼロカーボンシティ構想が実現する未来とは
ゼロカーボンシティ構想が実現する未来は、環境への負荷を最小限に抑えつつ、人々の生活の質(QoL)を向上させる、持続可能で快適な都市の姿を描きます。以下に、ゼロカーボンシティ構想がもたらす具体的な未来像をわかりやすく解説します。
環境に優しい都市
・温室効果ガスの排出ゼロ
太陽光、風力、水力などの再生可能エネルギーが都市全体の電力を供給することで、エネルギーの無駄を最小限に抑え、排出ゼロを実現します。
・空気質と生態系の改善
化石燃料の使用が大幅に減少し、空気の質が改善され、都市部の緑化が進み、自然と調和した生活環境を提供します。
・地球温暖化の抑制
都市が温室効果ガス削減の中心となり、気候変動への対策を強化します。また、海面上昇や異常気象といったリスクの低減に貢献します。
スマートで効率的なインフラ
再生可能エネルギーの普及
屋根や壁面に設置された太陽光パネルで家庭やビルが自給自足が可能になり、スマートグリッドにより、電力の需給バランスがリアルタイムで調整され、エネルギーの浪費を防ぎます。
ゼロエネルギービル(ZEB)の標準化
商業施設や公共施設がエネルギーを効率的に使用し、余剰分は再生可能エネルギーで賄うようになり、建築設計に自然光や断熱材を活用し、省エネを実現します。
交通インフラの進化
電気自動車(EV)や水素車が主流となり、ガソリン車は姿を消していくでしょう。公共交通機関は完全に電動化され、都市間移動もカーボンフリーになります。
高品質で快適な都市生活
快適で健康的な生活環境
都市部の騒音や大気汚染が減少し、住民の健康が向上し、緑地や公園が増え、住民がリラックスできるスペースが拡大します。
デジタル技術による利便性向上
AIやIoTを活用して都市運営を効率化でき、スマートホームやデジタルツイン技術により、エネルギー使用状況や交通情報がリアルタイムで可視化されます。
災害に強い都市
再生可能エネルギーや蓄電技術により、災害時にも安定した電力供給が可能になります。また、デジタル技術を活用した迅速な災害対応で安全性を確保できます。
経済成長と持続可能性の両立
新しい産業と雇用の創出
再生可能エネルギーやスマート技術関連の産業が成長します。これにより、新たな雇用が生まれ、地域経済が活性化します。
コスト削減と効率化
エネルギー効率の向上により、企業と市民の電気料金が削減され、持続可能なエネルギー供給モデルが経済的な安定性をもたらします。
循環型経済の実現
廃棄物のリサイクル率が向上し、リソースの無駄がなくなり、物を作る、使う、再利用する「循環型経済」が標準化します。
ゼロカーボンシティ構想が実現する未来は、環境保全、経済発展、社会的包摂を同時に達成する理想的な都市の姿です。クリーンで快適な生活環境、効率的でスマートなインフラ、新たな産業や雇用の創出など、多くのメリットをもたらします。
このビジョンを実現するためには、技術革新だけでなく、市民、企業、政府が一体となった取り組みが必要です。ゼロカーボンシティは、私たちが地球と調和しながら豊かに暮らせる未来への道筋を示しています。
まとめ
ゼロカーボンシティ構想は、持続可能な未来社会を実現するための重要なステップです。気候変動への対策が世界的な急務となる中、温室効果ガスの排出を実質ゼロにするこの取り組みは、都市が果たすべき大きな役割を示しています。
しかし、その実現にはいくつもの課題が存在します。再生可能エネルギーの導入では、技術的な不安定さやインフラ整備の問題が、交通インフラの再編では電動化と効率化を進めるためのコストや住民意識の変革が求められています。また、デジタルツインなどの先端技術の活用により、都市運営をデータで可視化し、より効果的な脱炭素施策が実現可能であることも明らかになりました。
国内外の先進事例からは、再生可能エネルギーやスマート技術を活用した都市が、脱炭素と経済成長を両立させる道を切り開いていることが見て取れます。行政・企業・市民が一体となり具体的な施策を進めることが、ゼロカーボンシティ実現の鍵となるでしょう。
ゼロカーボンシティは単なる環境目標ではなく、私たちの生活そのものを豊かにし、都市をより快適で持続可能な場所へと導くビジョンです。技術革新、政策支援、そして私たち一人ひとりの意識と行動が未来を形作る力になります。課題を乗り越え、ゼロカーボンシティの実現に向けて、今こそ行動を起こすときです。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。