脱炭素とは
脱炭素とは、地球温暖化の原因であるCO₂の排出を減らし、最終的にゼロにすることを目指す取り組みです。
太陽光、風力、水力、地熱など、炭素を排出しない再生可能エネルギーの活用、電気自動車の普及、省エネルギーの推進、森林の保護などが具体的な手段です。パリ協定で掲げられた2030年までに「平均気温上昇を1.5℃以内に抑える」目標達成のため、国や企業、個人が協力し、持続可能な社会の実現を目指しています。
脱炭素とカーボンニュートラルの違いとは?
「脱炭素」と「カーボンニュートラル」は、どちらも気候変動対策としての取り組みを指しますが、意味やアプローチに違いがあります。
カーボンニュートラルとは、排出したCO2の量と、自然や技術で吸収したCO2の量を相殺することを指しており、排出自体をゼロにするのではなく、「排出する分を吸収または削減する仕組み」で帳尻を合わせる考え方です。
排出量そのものを減らすことは、脱炭素と同様の取り組みですが、そのほかに森林の植林や海洋の活用、土壌への炭素貯留など、CO2を吸収する手段の拡大や、他のプロジェクト(植林活動や再生可能エネルギー事業など)への投資で、排出量を相殺するカーボンオフセットなどが具体的な手段です。
脱炭素はCO2排出を減らすことに集中し、根本的な排出削減を目指します。
カーボンニュートラルは、排出削減に加えて、削減しきれない分を相殺する手法も取り入れます。
両者は対立するものではなく、むしろ補完的な関係にあります。理想的には、脱炭素を進めることでカーボンニュートラルに近づき、最終的には「真のゼロエミッション社会」を目指します。
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脱炭素が企業に求められる背景
脱炭素が企業に求められる背景には、気候変動の深刻化、国際的な規制の強化、そして社会的責任の高まりがあります。地球温暖化による自然災害の増加や異常気象は、経済や社会に深刻な影響を及ぼしており、CO₂排出削減が急務とされています。
国際的には、2015年のパリ協定を契機に、多くの国が脱炭素化目標を設定し、各国政府が企業に対し厳しい環境規制を導入しています。
さらに、投資家や消費者の意識も変化しており、環境への配慮が不足している企業は選ばれにくくなる時代となっています。特に、ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大する中、脱炭素への取り組みが企業価値の重要な要素として評価されるようになっています。また、ゼロエミッション社会に向けた技術革新や市場変化に対応できない企業は競争力を失うリスクも高まっています。
脱炭素はもはや環境対策の一環にとどまらず、企業の成長戦略や持続可能性を左右する要因となっており、早急な対応が求められています。
企業が脱炭素に取り組むメリットとは
コスト削減
再生可能エネルギーや省エネルギー設備を導入することで、電力や燃料の使用量が減少し、運用コストが削減されます。また、エネルギー効率を向上させることで、長期的な経済効果が期待できます。
ブランド価値の向上
環境意識の高い社会において、脱炭素への取り組みは消費者や取引先からの評価を高めます。持続可能な経営をアピールすることで、顧客ロイヤルティを向上させ、他社との差別化につながります。
投資家からの評価
ESG(環境・社会・ガバナンス)投資が拡大する中、脱炭素を推進する企業は投資家からの関心が高まります。環境配慮型経営を実践することで、資金調達の優位性を得られる可能性があります。
規制リスクの回避
各国でパリ協定目標や2050年カーボンニュートラルなど、排出規制が強化される中、先行して脱炭素を進めることで、規制対応コストや罰則リスクを軽減できます。規制をチャンスに変える柔軟性も備えられます。また、低炭素社会への移行が進む中で、化石燃料依存型のビジネスモデルを見直すことで、規制や市場変動によるリスクを最小化することができます。
新たなビジネス機会の創出
太陽光発電や風力発電、電気自動車(EV)など、脱炭素関連の新しい市場で事業機会が増加します。また、環境に配慮した製品やサービスを求める顧客が増え、これに応えることで新たな売上が期待できます。
サステナブルな未来への貢献
脱炭素への取り組みは、気候変動対策に貢献し、持続可能な社会の実現に寄与し、企業の社会的責任(CSR)やSDGs(持続可能な開発目標)に直結します。
企業が脱炭素に取り組むことは、社会的責任を果たすだけでなく、コスト削減、事業成長、競争力強化といったビジネス上の多くのメリットをもたらします。この取り組みは、持続可能な未来を築く鍵となるでしょう。
企業が取り組む脱炭素の方法
企業が脱炭素を進めるためには、具体的な行動が求められます。下記に、主要な取り組みをご説明いたします。
再生可能エネルギーの活用
太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーを導入することで、化石燃料への依存を減らします。自社の施設で発電するオンサイト型と、再生可能エネルギーを購入するオフサイト型があります。これにより、企業のCO₂排出量を大幅に削減できます。
サプライチェーンの最適化
脱炭素は自社だけでなく、取引先や物流業者を含むサプライチェーン全体で取り組む必要があります。原材料の調達、製品の輸送、廃棄物の処理に至るまで、環境負荷を最小限に抑える仕組みを構築します。具体的な策としては、物流DXによる配送効率化や製品輸送に使用する車両をEV(電気自動車)や燃料電池車(FCV)に切り替えるなどがあります。
オフィスや工場の省エネ化
エネルギー効率の高い設備の導入や、建物の断熱性能向上により、エネルギー消費量を削減します。ゼロエミッションビルディングの建設または既存施設の改修や、工場での廃熱利用や再利用可能な資源の活用などが挙げられます。
カーボンクレジットの活用
自社で削減できないCO₂排出については、カーボンクレジットを購入して相殺する取り組みを行います。森林の保護や再生可能エネルギーの支援を通じて、環境全体での削減効果を高めます。
デジタル技術の活用
AIを活用した需要予測や生産調整や、IoTセンサーでエネルギー使用状況をリアルタイムで監視するなど、IoTやAIを活用してエネルギー使用状況をリアルタイムで可視化し、無駄を減らします。さらに、デジタルツイン技術を用いて生産や物流の最適化を行うことで、排出量削減を図ります。
直接吸収技術の導入
CCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage)技術で、排出されたCO2を回収して利用または貯蔵したり、DAC(Direct Air Capture)で大気中のCO2を直接回収することで、大量のCO2削減が可能になります。
企業がこれらの方法を組み合わせて取り組むことで、持続可能な社会の実現に向けて大きく貢献することができます。
脱炭素の分野別の取り組みとは?
脱炭素の分野別の取り組みは、業界ごとに特有の課題に対応しつつ、温室効果ガス排出削減を目指すものです。以下に、主な分野ごとの取り組みを解説します。
製造業
製造業はエネルギー消費が多く、脱炭素への影響力が大きい分野です。
IoTやAIを活用して、エネルギー使用量や生産効率を最適化する、スマートファクトリー化や、工場での太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーの導入、電気炉の採用などの高効率の設備導入を進めています。
物流・輸送業
物流・輸送業は、CO2排出量の約20%を占めると言われる重要な分野です。
トラックや配送車をEV(電気自動車)やFCV(燃料電池車)に切り替えたり、鉄道輸送や船舶輸送へのシフトなどの電動化の推進や、AIを活用した最適配送ルートの設定や、共同配送や積載率向上による無駄削減など配送効率化を進めています。
建設・不動産業
建設分野では、建物のライフサイクル全体でのCO2排出削減が課題です。
省エネ技術と再生可能エネルギーを組み合わせ、建物のエネルギー収支をゼロにする、ゼロエネルギービルディング(ZEB)の建設や、セメントの製造時に排出されるCO2を削減する新技術の活用、IoTを活用したエネルギー管理システムの導入などのスマート建物管理が進められています。
取り組み企業の実例
トヨタ自動車「工場CO2ゼロチャレンジ」
2050年に世界中のトヨタ自動車の工場で、車をつくるときに排出するCO2をゼロにするための取り組みを進めています。
・車の生産にかかる工程や時間を短くしたり、最適な設備の導入や廃熱を利用するなど、工場で使う電気の量を少なくする工夫をしています。
・ソーラーパネルによる太陽光発電、風を利用した風力発電などの自然の力や水素などの環境に配慮した方法でつくった電気を使用しています。
出典)
https://global.toyota/jp/kids/environmentally-friendly/challenge2050/challenge3/
ソニーグループ株式会社「Road to Zero」
「環境負荷ゼロ」を実現するための環境計画です。
環境に関わる下記の4つの視点から事業活動と製品のライフサイクル全体を通じた目標を設定し、それに向けて活動しています。
1,気候変動
製品のライフサイクル全般で温室効果ガスの排出量を削減し環境配慮製品やサービスを開発・提供するとともに、事業所の省エネルギー化や再生可能エネルギーの導入を推進し製造委託先や部品サプライヤーにも温室効果ガス排出量削減を働きかけます。
2,資源
製品のライフサイクルを通して「投入資源の最小化」と「再資源化の最大化」を推進し、製品の軽量化や事業所の資源効率向上により投入資源を削減します。世界各地で回収した使用済み製品の再資源化を進めるリサイクラーと協業し、再生資源を活用し、製品への循環資源を追求します。
3,生物多様性
独自の化学物質管理基準を作り、製品の原材料や部品に含まれる化学物質を全世界で徹底的に管理しています。製造プロセスにおいて環境影響が懸念される物質を削減・代替する一方、サプライチェーンの製造プロセスに対してもソニー指定の物質の使用禁止を求めます。
4,化学物質
すべての生き物がバランスを保ちながら暮らしていくために、ソニーは自らの事業活動と地域貢献活動の両面から、生物多様性の保全に取り組んでいます。
SONYでは、環境中期目標を5年ごとに設定しながら、「環境負荷ゼロ」を目指しています。
気候変動目標については、2022年に、Scope1から3までを含むバリューチェーン全体でのネットゼロ目標を2050年から2040年へ前倒しし、また、Scope1、2の排出は2030年までにネットゼロを目指しています。
出典)
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/eco/RoadToZero/gm.html
Scope 1、Scope 2、Scope 3について詳しく知りたい方はこちらの記事もチェックしてみてください。
https://aidiot.jp/media/logistics/post-6994/
株式会社NTTドコモ
2040年までに会社およびサプライチェーン全体で温室効果ガス排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ」を目指しています。この目標達成に向け、下記の取り組みなどを推進しています。
・ネットワークの省電力化
2022年に基地局電力を効率化するため、スリープ機能を導入し、平均で最大30%削減を実現。
・ドコモショップをグリーン電力化する
ドコモショップへの再生可能エネルギー導入によりグリーン電力化を推進。2030年度までに全店舗のグリーン電力化する予定。
・パートナー企業との取り組み
ドコモショップにて不要になった衣類等を預かり、ジモティーすくすくバトンやフクウロを通じてリユースを行うことでCO2の削減をしています。
出典)
https://www.docomo.ne.jp/corporate/csr/ecology/environ_management/netzero/
まとめ
脱炭素は、地球温暖化という世界的な課題に対し、企業が果たすべき重要な役割のひとつです。今回紹介した事例は、再生可能エネルギーの活用や省エネルギー技術の導入、サプライチェーン全体での取り組みなど、さまざまな形で脱炭素に挑む企業の姿勢を示しています。
脱炭素は、一部の企業だけが取り組む課題ではなく、すべての企業が共通して取り組むべきテーマなのかもしれません。今回の事例を参考に、環境と経済の両立を目指す脱炭素の取り組みがさらに広がり、持続可能な社会の実現につながることを期待します。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。