最先端を行く!2050年に向けたカーボンクレジットの未来とは?

最先端を行く!2050年に向けたカーボンクレジットの未来とは?

カーボンクレジットとは?

カーボンクレジットとは、CO2など温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組みで、炭素クレジットとも呼ばれます。

地球温暖化をはじめ、環境問題の解決を目指して、多くの企業がカーボンニュートラルの実現へ向けて対策に取り組んでいます。

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から吸収量・除去量を差し引き、全体で実質ゼロにすることで、その際に、この「カーボンクレジット」を用いることで、取り組みを実施しやすくなります。

企業がCO2排出の削減を最大限努力したうえで、どうしても削減できない温室効果ガスの排出についてカーボンクレジットを購入します。それにより、自社のCO2排出量を相殺して埋め合わせる行為をカーボンオフセットといいます。

このシステムを利用することで、全体のCO2排出量削減を促進しつつ、経済的なインセンティブを企業に提供し、持続可能な環境保全に貢献しています。

 

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カーボンクレジットの基本的な流れ

①削減活動の実施

企業や組織が、工場のエネルギー効率を向上させる再生可能エネルギーの使用を増やす森林を保護・再植林するなどの活動を行います。

②クレジットの生成

①のような活動により、排出されるはずだったCO2が削減されます。この削減量が測定され、国際基準に基づいて認証されると、カーボンクレジットとして認定されます。

③クレジットの販売・交換

②で生成されたクレジットは市場で販売されることがあります。CO2の排出量を多く出してしまう企業は、自社の排出量を相殺するためにこれらのクレジットを購入します。

④CO2排出量の相殺

企業は購入したクレジットを使って、自社のCO2排出量の一部または全部を「相殺」できます。つまり、実際には排出してしまったCO2の責任を、他の場所での削減によって補うことができるのです。

このシステムは、環境保護を進めるためのインセンティブを企業に与え、全体のCO2排出量の削減を目指すものです。また、カーボンクレジットの市場は、環境を守る新しいビジネスチャンスとしても注目されています。

カーボンクレジット市場の急成長

カーボンクレジットの世界市場は、2028年までの予測期間中に29.4%の年間複合成長率(CAGR)を記録し、約1兆4,735億1,000万米ドル(約220兆円)の市場規模に達する見込みです。

国際的な規制の強化

国際的に気候変動対策の強化が求められる中、パリ協定などの国際的な合意に基づき、各国がカーボンクレジットを活用して温室効果ガス削減の目標を達成しようとしています。これにより、企業は自らの排出量を減らすだけでなく、他の手段でカーボンニュートラルを達成しようとしています。

企業の環境意識の高まり

企業の社会的責任(CSR)活動として、また企業価値を高める戦略として、カーボンオフセットへの関心が高まっています。多くの企業が自社のカーボンフットプリントを中和するためにカーボンクレジットの購入に積極的です。

技術進化

サテライト技術やAIの進化により、カーボンクレジットプロジェクトの効果測定が精確かつ透明性をもって行えるようになりました。これにより、投資家や企業の信頼を得て市場が拡大しています。

新興市場の台頭

発展途上国を中心に、カーボンクレジットを生成する森林保全や再生可能エネルギープロジェクトが増えています。これらのプロジェクトは、地元の雇用創出や生態系保護にも寄与し、二重のメリットを提供しています。

 

カーボンクレジット市場の成長は、これらの要因によって支えられ、今後もその重要性が増すことが予想されます。

日本でも、カーボンクレジット市場が注目されています。国内では、企業が再生可能エネルギーを導入し、余剰分を他の企業に売る「J-クレジット」制度が整備され、これを通じた取引が活発化しています。

また、2023年には、日本政府がカーボンクレジットの国際市場での取引拡大を目指し、規制の整備と市場の活性化を進めています。

新しいカーボンクレジットの形〜バイオ炭や海洋吸収技術の進化〜

カーボンクレジット市場は、気候変動対策の新たな手法として革新的なアプローチを取り入れています。特にバイオ炭技術や海洋吸収技術の進化が注目されています。

バイオ炭

バイオマス(木材や農業廃棄物など)を高温で加熱し、酸素の少ない環境で炭化することで作られます。このプロセスで二酸化炭素を大気に放出することなく、炭素を固定化し、土壌改良剤としても利用できます。

バイオ炭は土壌に長期間炭素を貯蔵し続けることができるため、カーボンクレジットの生成源として非常に有効です。また、土壌改良や農業の生産性向上といった二次的な効果もあり、持続可能な農業に貢献します。

海洋吸収技術

海洋は地球上で最大の炭素吸収源の一つであり、海洋吸収技術はこの自然のプロセスを強化することで、さらなるCO2の削減を目指します。

海藻養殖

海藻は急速に成長し、大量のCO2を吸収します。成長した海藻を収穫し、バイオエネルギーや肥料として活用することで、CO2を閉じ込めることが可能です。また、一部の海藻は海底に沈むことで、長期的に炭素を固定します。

海洋アルカリ化

海洋アルカリ化は、海にアルカリ性物質を添加し、海水のpHを高めることでCO2の吸収を増強する技術です。これにより、海洋が吸収できるCO2の量を増やし、気候変動対策に貢献します。

海洋ミネラル化

海水中に天然の鉱物を投入して、化学反応によってCO2を固定する技術です。特にカルシウムやマグネシウムを含む鉱物は、CO2と結びついて安定した炭酸塩を形成し、長期間にわたって炭素を固定します。

海洋は地球表面の70%以上を覆っており、その広大な面積を利用することで、大量のCO2を吸収する潜在能力があり、また、海洋吸収技術は、自然のプロセスを強化する形で行われるため、持続可能性が高く、環境に配慮した解決策として注目されています。

 

これらの技術は、気候変動対策の一環として大きな期待を集めており、持続可能なCO2削減を目指す一方で、土壌改良や海洋環境保護といった副次的な効果も期待できるため、未来の気候変動対策において重要な役割を果たすと考えられます。

一方で、技術的な課題やコストの問題もあり、商業的な規模での普及にはさらなる研究開発が必要です。

企業戦略におけるカーボンクレジットの活用法

Microsoft

Microsoftは2030年までに「カーボンネガティブ」を目指すと宣言しています。カーボンネガティブとは、CO2を排出するよりも吸収量の方が上回る状態の事です。

この目標の一環として、2024年の7月に米Microsoftは米石油大手オキシデンタル・ペトロリアムの傘下企業の1PointFiveが南部テキサス州に建設するプラントにて回収したCO2の枠を購入しました。空気から直接回収する技術を使った排出枠取引では過去最大になるといい、6年間にわたり計50万トン調達するそうです。

(参照) https://news.microsoft.com/ja-jp/2020/01/21/200121-microsoft-will-be-carbon-negative-by-2030/

住友商事

住友商事は、カーボンクレジット市場に積極的に参加し、東京証券取引所が開設したカーボンクレジット市場での「マーケットメイカー制度」を通じて、市場形成に貢献したベスト・マーケットメイカーとして受賞されました。
他にも三井住友フィナンシャルグループと住友商事の合弁会社「三井住友ファイナンス&リース株式会社」で2024年3月に「排出権付リース」というCO2排出量をJ-クレジットで相殺するサービスを開始しました。
三井住友商事ではカーボン・クレジットの開発・販売を通じて、カーボンニュートラル社会の実現に貢献しています。

(参照)https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/topics/2024/group/20240319

Apple

Appleもまた、カーボンニュートラルを目指した企業戦略の中でカーボンクレジットを活用しています。

カーボンニュートラルなApple Watchの各モデルは、製造と製品の使用に100パーセントクリーン電力を使用する、重量の30パーセントに再生素材または再生可能素材を使用する、輸送の50パーセントを航空輸送を使わずに行う、という厳格な基準を満たしています。

これらの取り組みの組み合わせにより、各モデルにおける製品の排出量を少なくとも75パーセント削減し、残ったわずかな排出量に対して質の高いカーボンクレジットを使うことで、カーボンニュートラルな製品のフットプリントを達成します。

 

自社の製品製造に関わるサプライヤーにもカーボンニュートラルな運営を求めており、再生可能エネルギーの使用やカーボンクレジットの活用を奨励しており、2020年に、2030年までに全サプライチェーンと製品のライフサイクルをカーボンニュートラルにするという目標「Apple 2030」を設定しました。

 

炭素を排出する活動を避け、自社事業とサプライチェーン全体における再生エネルギーの利用率を拡大し、再生素材と再生可能素材を使ったデザインを採用することで、2015年以降、現在までに総排出量を45パーセント以上削減してきました。一方で、同じ期間の売上高は65パーセント以上成長させています。

(参照)https://www.apple.com/jp/newsroom/2023/09/apple-unveils-its-first-carbon-neutral-products/

2050年に向けたカーボンクレジットの未来

2050年を目指して、カーボンクレジット市場は急速に進化し続けています。温暖化対策として国際的に重視される中、カーボンクレジットは炭素排出権の取引を通じて、企業や個人が地球温暖化の防止に直接貢献する手段として注目されています。

取引の透明性向上

ブロックチェーン技術などが導入され、取引の透明性が向上し、クレジットの信頼性が確保され、企業や国がカーボンクレジットを安心して活用できるようになります。

技術革新の進展

CO2を直接空気中から取り除く「Direct Air Capture(DAC)」や、二酸化炭素の回収と貯留を行う「Carbon Capture and Storage(CCS)」などの技術がさらに発展し、それらの技術を通じて得られるカーボンクレジットが増加するでしょう。これにより、特に排出削減が難しい産業でのCO2削減が進みます。

自然ベースの解決策の拡大

森林再生やブルーカーボン(海洋の生態系を活用して炭素を吸収する方法)など、自然を利用してCO2を吸収するプロジェクトが拡大します。バイオ炭や海藻養殖なども、カーボンクレジット市場で重要な役割を果たすようになるでしょう。

企業の取り組みの増加

多くの企業が2050年までにカーボンニュートラルやネットゼロを目指しており、自社で削減しきれない分をカーボンクレジットで補完します。特に、航空業界や製造業など、削減が難しい業界でのカーボンクレジットの利用が増えるでしょう。

気候目標達成への寄与

カーボンクレジットは、国や企業が気候目標を達成するために非常に重要な役割を果たします。CO2の削減や相殺を効果的に行うことで、地球規模の温暖化防止に大きく寄与するでしょう。

新たなイノベーションの機会

カーボンクレジット市場の発展により、新しいビジネスチャンスや技術革新が促進され、より効率的な削減技術や新たなプロジェクトが生まれます。企業はカーボンクレジットを活用しながら、持続可能なビジネスモデルの構築を進めることができます。

私たちにできること

カーボンクレジットに関連して、私たち個人ができることは意外と多く、日常生活の中での選択や行動がカーボンニュートラル(温室効果ガス排出量の実質ゼロ)を実現するための一助となります。以下に、個人がカーボンクレジットのために具体的にできることを解説します。

サステナブルな消費の選択

製造から廃棄までのライフサイクル全体で排出されたCO2をオフセットした、カーボンニュートラルな製品を購入したり、カーボンクレジットを利用してCO2排出を削減することで、サステナビリティに力を入れている企業の商品やサービスを選ぶことで、環境への負荷を減らせます。

エネルギー効率の向上

多くの電力会社が風力や太陽光エネルギーを使ったカーボンニュートラルなプランを提供しています。自宅で使用する電力を再生可能エネルギーから供給されるプランに変更することができます。

また、エネルギー効率の高い家電製品を使うことで、家庭内のエネルギー消費を減らすことができ、個人のCO2排出量を削減できます。

移動手段の見直し

自動車や飛行機などの移動は大量のCO2を排出しますが、移動手段を工夫することで排出量を大幅に減らすことができます。

自家用車ではなく、電車やバスといった公共交通機関を使うことで、移動時のCO2排出を減らせますし、短距離の移動を自転車や徒歩に切り替えることで、CO2排出をゼロに抑えることができます。

長距離旅行をする際には、航空会社や旅行会社が提供するカーボンオフセットプランを選び、旅行によるCO2排出量を補うこともできます。

 

このように、個人がカーボンクレジットに貢献する方法は多岐にわたり、日常生活の中でエネルギー消費を減らす選択をすることが可能です。これにより、個人の生活がより持続可能なものになり、環境への貢献も深まります。

また、企業や政府に対しても、環境に配慮した行動を求める力を強めることができます。個々の行動が集まることで、大きな変化を生むことができるのです。

2050年に向けて、カーボンクレジットはただの環境対策ツールではなく、地球環境を守るための積極的な手段として、私たちの生活に根付いていくことが期待されています。このような取り組みが、全世界でのカーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩となるでしょう。

まとめ

カーボンクレジット市場は、2050年を目指すカーボンニュートラルの実現に向け、急速に進化しています。最新技術の導入により市場の信頼性が向上し、個人や企業の参加が増えることが予想されます。

私たち個人も、日常のエネルギー消費を抑えることでこの市場の発展に貢献できます。カーボンクレジットは環境保護の強力なツールとして、未来の地球環境保全に大きな役割を果たすでしょう。

 

この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

 

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