カーボンクレジットとは?
カーボンクレジットとは、CO2など温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組みで、炭素クレジットとも呼ばれます。
地球温暖化をはじめ、環境問題の解決を目指して、多くの企業がカーボンニュートラルの実現へ向けて対策に取り組んでいます。
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量から吸収量・除去量を差し引き、全体で実質ゼロにすることです。
その際、この「カーボンクレジット」を用いることで、取り組みを実施しやすくなります。
企業がCO2排出の削減を最大限努力したうえで、どうしても削減できない温室効果ガスの排出についてカーボンクレジットを購入します。それにより、自社のCO2排出量を相殺して埋め合わせる行為をカーボンオフセットといいます。
このシステムを利用することで、全体のCO2排出量削減を促進しつつ、経済的なインセンティブを企業に提供し、持続可能な環境保全に貢献しています。
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カーボンクレジットの基本的な仕組み
1、排出削減プロジェクトの実施
企業や組織が、再生可能エネルギーの導入、森林再生、エネルギー効率の改善、廃棄物管理などのプロジェクトを実施し、その結果として温室効果ガスの排出を削減します。
2、クレジットの発行
1の排出削減の成果に基づいて、「1トンのCO2排出削減」に相当するカーボンクレジットが発行されます。これらのクレジットは、第三者機関によって検証・認証されることが一般的です。
3、取引と利用
カーボンクレジットは、企業や国が自らの排出目標を達成するために購入することができます。これにより、購入者は自身の排出量を削減する義務を果たす一方で、排出削減プロジェクトに資金を提供することができます。
カーボンクレジットの2つの取引制度とは
カーボンクレジットの取引制度には「ベースライン&クレジット制度(削減量取引)」と「キャップ&トレード制度(排出権取引)」の2つがあります。
これらの制度は、温室効果ガスの排出削減を促進するために異なるアプローチを取っています。以下に、それぞれの制度の概要と違いをわかりやすく解説します。
(出典元)https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220628003/20220628003-f.pdf
ベースライン&クレジット制度(削減量取引)
ベースライン&クレジット制度では、各企業やプロジェクトに対して「ベースライン(基準値)」が設定されます。このベースラインは、過去の排出量や特定の業界標準などに基づいて決定され、企業やプロジェクトがベースラインを下回る排出削減を達成した場合、その削減量に応じて「クレジット(削減量)」が発行されます。
このクレジットは、他の企業や団体に売却することができ、排出削減義務を果たすための手段として利用されます。
企業やプロジェクトごとに異なるベースラインが設定されるため、さまざまな産業や状況に対応できる柔軟な制度で、排出量をベースラインよりも低く抑えることができれば、クレジットを得て利益を上げることができるため、排出削減のインセンティブが働きます。
キャップ&トレード制度(排出権取引)
キャップ&トレード制度では、政府や規制当局が産業全体に対して「キャップ(総排出上限)」を設定します。この上限は、全体として許容される温室効果ガスの総量を制限するものです。各企業は、この上限の範囲内で排出できる量「排出権」を割り当てられます。
企業が割り当てられた排出権を超える排出を行う場合、追加の排出権を市場で購入する必要があります。逆に、排出量を削減して余った排出権は市場で売却することができます。
上限が設定されるため、全体としての排出削減目標が明確です。
また、排出権が市場で取引されるため、需要と供給に基づいて価格が決定されます。排出削減が難しい企業は排出権を購入し、削減が容易な企業は排出権を売却して利益を得ることができます。
違いのまとめ
目的の設定方法
ベースライン&クレジット制度:各企業やプロジェクトの過去の排出量や業界標準に基づいて「ベースライン」を設定し、それを基準として削減量を評価します。
キャップ&トレード制度:産業全体に「キャップ(上限)」を設定し、その上限内で排出量を調整します。
インセンティブの仕組み
ベースライン&クレジット制度:ベースラインを下回る排出削減を行った企業がクレジットを獲得し、それを売却することで利益を得るインセンティブがあります。
キャップ&トレード制度:排出権を超過した企業が追加の排出権を購入する必要がある一方、排出削減を行った企業は余剰排出権を売却して利益を得ることができます。
制度の適用範囲
ベースライン&クレジット制度:特定のプロジェクトや企業の排出削減活動に焦点を当てており、さまざまな業界に柔軟に適用可能です。
キャップ&トレード制度:産業全体または複数の産業を対象とし、全体としての排出削減を目指します。
「ベースライン&クレジット制度」と「キャップ&トレード制度」は、いずれも温室効果ガスの排出削減を目指すメカニズムですが、アプローチとインセンティブの仕組みが異なります。ベースライン&クレジット制度は、プロジェクトベースの削減活動に焦点を当て、キャップ&トレード制度は、全体の排出量を管理することに重きを置いています。
企業や政府は、それぞれの制度の特性を理解し、最も効果的な排出削減戦略を選択することが重要です。
カーボンクレジット導入で企業が得られるメリット
カーボンクレジットの導入は、企業にとって温室効果ガス(GHG)排出削減に寄与するだけでなく、さまざまなメリットをもたらします。以下に、カーボンクレジットを導入することで企業が得られる具体的なメリットをわかりやすく解説します。
コスト効率の向上
例えば、製造業の企業が生産プロセスを改善することで直接的なCO2削減を試みると、多額の設備投資が必要になるかもしれません。しかし、カーボンクレジットを購入することで、そのコストを抑えながら、規制を満たすことができます。これにより、企業は限られたリソースを効率的に使い、コストを削減できます。
このように、カーボンクレジットを購入することで、企業は自社の排出量を削減する代替手段を得ることができます。これは、自社で排出削減を行うよりも低コストで済む場合があります。
規制への準拠
多くの国や地域で温室効果ガスの排出に関する規制が強化されています。EUやカリフォルニア州などでは、企業に対して排出量の上限(キャップ)が設定されています。これを超える排出を行う企業は、罰金を払うか、排出権(カーボンクレジット)を購入する必要があります。カーボンクレジットを購入することで、企業は規制を遵守し、罰金を避けることができます。
カーボンクレジットを利用することで、企業はこうした規制に対応することができます。
ブランドイメージと顧客信頼の向上
企業がカーボンクレジットを活用してカーボンニュートラルを宣言することで、消費者やビジネスパートナーに対して環境責任を果たしていることをアピールできます。
環境問題への取り組みを積極的に行っている企業は、消費者や投資家からの信頼を得やすくなるので、カーボンクレジットの導入は、企業が環境に配慮していることを示す一つの手段となります。
競争力の向上
自動車メーカーや大手小売業者など、サプライチェーン全体でカーボンフットプリントを削減することを求める企業との取引を維持するために、サプライヤーがカーボンクレジットを導入して排出量を相殺することが求められる場合があります。
カーボンクレジットの導入は、企業が競争力を維持または向上させるのに役立ち、特に、環境に配慮した製品やサービスの提供が求められる市場では、カーボンニュートラルを達成することが差別化要因となります。
新たな収益機会の創出
再生可能エネルギープロジェクトやエネルギー効率改善プロジェクトを実施する企業は、その結果として得られる排出削減分をカーボンクレジットとして販売することができ、新たな収益源を得ることができます。特に、排出削減プロジェクトを通じてカーボンクレジットを生成し、それを市場で売却することが可能です。
イノベーションの促進
企業がエネルギー消費を減らし、カーボンフットプリントを削減するため、省エネ技術の導入や製造プロセスの最適化などの技術革新に投資することで、効率の向上とともにコスト削減を達成し、競争力を高めることができます。
これにより、企業はイノベーションの推進力を強化することが可能になります。
カーボンクレジットの導入は、企業にとってコスト効率の向上、規制遵守、ブランドイメージの向上、競争力の強化、新たな収益機会の創出、そしてイノベーションの促進といった多くのメリットをもたらします。
これにより、企業は持続可能な成長を実現し、長期的な競争優位を確保することができます。カーボンクレジットは、単なる環境対策だけでなく、企業戦略の一環として重要な役割を果たしているのです。
カーボン・クレジットの主要要件とは?
カーボン・クレジットを認証機関等が認証する際、カーボン・クレジットの品質を担保するため、 対象となるプロジェクトには一定の要件が設けられています。
①Real (実際に行われていること)
全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去活動は、真に行われ たことが証明されなければならない。
②Measurable (測定可能性)
全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去は、信頼できる排出 ベースラインに対して、認められた測定ツールを使用し て定量化されなければならない。
③Permanent (永続性)
・カーボン・クレジットは、恒久的な排出削減と炭素吸収・ 炭素除去を表すものでなければならない。
・プロジェクトに可逆性リスクがある場合、少なくとも、リスクを最小限に抑えるための適切な保護手段を講じ、反転(漏洩)が発生した場合に備えた保証メカニズムを導入する必要がある。
・なお、国際的に認められている永続性基準年数は100年間である。
④Additional (追加性)
・プロジェクトベースの排出削減・炭素吸収・炭素除去は、 そのプロジェクトが実施されなかった場合に発生したであろう排出削減・炭素吸収・炭素除去から、追加的なものでなければならない。
・カーボンファイナンスが利用できなければプロジェクトは行われなかったことを実証しなければならない。
⑤Independently verified (独立した検証)
全ての排出削減・炭素吸収・炭素除去は、認定された独立した第三者検証者によって検証されなければならない。
⑥Unique (唯一無二であること(二重カウントされていないこと))
・1トンの排出削減・炭素吸収・炭素除去量が、1トン分のクレジットを生み出す必要がある。
・カーボン・クレジットは、独立したレジストリーで管理され、無効化・償却されなければならない。
※一般的に現状のカーボン・クレジ ットの要件として知られている ICROA(International Carbon Reduction & offset Alliance)が定める「ICROA CODE OF BEST PRACTICE」6の要件から引用)
カーボンクレジット導入時の課題・デメリット
カーボンクレジットの導入には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題やデメリットも存在します。これらの課題は、企業がカーボンクレジットを効果的に利用し、持続可能な経営を実現するために克服すべき重要なポイントです。以下に、カーボンクレジット導入時の主な課題とデメリットについて具体的に解説します。
二重カウントのリスク
二重カウントとは、同じ排出削減が複数のクレジットとしてカウントされることを指します。例えば、同じ削減プロジェクトが複数のカーボンクレジットの取引プラットフォームで報告される場合、削減効果が実際よりも過大評価されることになります。
二重カウントが発生すると、カーボンクレジット市場の信頼性が損なわれ、規制当局からの監視や規制が強化される可能性があります。また、実際の削減効果が過大評価されることで、全体的な排出削減目標の達成が妨げられることもあるでしょう。
二重カウント防止については、カーボン・クレジット発行者が他者にカーボン・クレジット を移転した場合、その移転分の排出削減量は自ら主張することが出来ない(カーボン・クレジット移転分のオンセットが必要)という点に注意が必要です。
カーボンクレジットの品質と信頼性の問題
カーボンクレジットは、その発行元やプロジェクトによって品質が大きく異なる場合があります。
例えば、ある森林再生プロジェクトがカーボンクレジットを発行している場合、プロジェクトの削減効果が長期間にわたって維持されるのか(要件③Permanent (永続性))、そのプロジェクトが本当に新しい排出削減をもたらしているのか(要件④Additional (追加性))が問題になることがあります。
このようなケースでは、クレジットの信頼性が疑われ、企業の信頼性やブランドイメージに悪影響を与える可能性があります。
また、信頼性の低いクレジットに投資することで、期待された排出削減の成果が得られない場合、経済的損失を被る可能性があります。
価格変動の不確実性
カーボンクレジット市場は、需給バランスや政策の変更などにより、価格が大きく変動することがあります。例えば、特定の国がカーボン税を導入すると、カーボンクレジットの需要が急増し、価格が一気に上昇することがある一方、経済不況や政策変更により需要が減少すると、価格が急落するリスクもあります。
価格の変動が激しいと、企業はカーボンクレジットの購入予算を計画するのが難しくなり、予算超過のリスクが高まります。
また、価格の不確実性が高まると、企業はカーボンクレジットへの投資をためらい、長期的な排出削減戦略を立てにくくなります。
規制や政策の変更によるリスク
各国の環境政策や国際的な気候変動対策の枠組みが変わることで、カーボンクレジットの市場条件やルールが変更されるリスクがあります。
例えば、ある国がカーボンクレジットの取引を制限する新たな規制を導入した場合、企業はその国で取得したクレジットを使うことができなくなる可能性があります。また、国際的な気候協定の変更によって、カーボンクレジットの市場が影響を受けることもありえます。
新たな規制や政策変更により、企業が保有するカーボンクレジットの価値が下がったり、無効になるリスクや、政策変更に対応するために、企業は新しいクレジットを取得したり、代替手段を見つけるための追加コストが発生する可能性もあります。
グリーンウォッシングの懸念
「グリーンウォッシング」とは、カーボンクレジットの導入を通じて、企業が環境への取り組みを強調する一方で、実際には十分な排出削減を行っていない行為のことを指します。
例えば、企業がカーボンクレジットを購入するだけで自社の排出削減努力を行わない場合、表面的には環境に配慮しているように見えても、実際には環境へのインパクトを減少させていないことがあります。
グリーンウォッシングが発覚すると、企業は消費者や投資家からの信頼を失い、ブランドイメージが悪化する可能性があります。また、このようなグリーンウォッシングが広がると、規制当局が監視を強化し、企業に対する規制が厳しくなるリスクがあります。
カーボンクレジットの導入は、企業にとって温室効果ガスの削減を支援する効果的な手段ですが、その導入にはいくつかの課題とデメリットが伴います。
二重カウントのリスクやカーボンクレジットの品質や信頼性、価格変動、規制の変更、グリーンウォッシングなどの課題に対処するためには、企業は慎重に戦略を立てる必要があります。
これらの課題を理解し、適切に対応することで、企業はカーボンクレジットを効果的に活用し、持続可能な成長を実現することができます。
導入している大手企業の事例
株式会社日立システムズ
株式会社日立システムズは、石巻地区森林組合が管轄している森林を対象に、衛星を活用したGHG(温室効果ガス)排出量の測定技術を持つEverImpact社と連携して森林のCO2吸収量を可視化し、森林計画と組み合わせることで、カーボンクレジット創出量を算出する実証実験を行いました。これにより、年間2.25万トンのCO2吸収量、最大2.6億円相当のカーボンクレジットの創出可能性を確認しました。さらに、可視化した情報は今後の森林計画に生かすことで、CO2吸収量の向上を支援します。
日立システムズは今回の実証実験で得たノウハウを活用することで、カーボンニュートラルへ向けてカーボンクレジット創出から取り引きまでをトータルで支援し、自治体、森林組合、森林保有企業等のクレジット創出者・購入者双方に価値ある新サービスの提供を2024年度中に開始する予定です。
コベルコ建機株式会社
大手建設機械メーカーのコベルコ建機は、森林所有者からクレジットを購入しそのクレジットを付けたチェーンソーなどの林業機械を販売し、林業機械の購入者は、機械の稼動で生まれる温室効果ガスの一部をカーボン・オフセットできる仕組みです。
林業機械の購入者はクレジット購入先を指定できるため、希望する地域の森林整備に貢献することができます。
森林所有者はクレジットの売却益を森林整備に回すことができ、林業のエコサイクルが生まれるこの取り組みは、環境省、経済産業省、農林水産省が後援する『第5回カーボン・オフセット大賞』にて、農林水産大臣賞を受賞しました。
ANA(全日本空輸)株式会社
ANAのカーボンオフセットプログラムは、航空業界が抱えるCO2排出問題に対処するための効果的な取り組みです。このプログラムは、乗客がフライト中に発生する二酸化炭素(CO2)排出量をオフセットするために、カーボンクレジットを購入し、その収益を使って排出削減プロジェクトに投資することで、カーボンニュートラルな航空旅行を促進するものです。
乗客がフライトのCO2排出を相殺することで、気候変動への影響を軽減し、持続可能な社会の実現に寄与することができます。このような取り組みは、企業の環境責任を果たすだけでなく、顧客との信頼関係を強化し、持続可能な成長を目指すための重要な戦略となっています。
カーボンクレジットの未来について
カーボンクレジットの未来は、気候変動への対策が世界的に強化される中で、ますます重要な役割を果たすことが予想されます。
カーボンクレジット市場の拡大
今後、カーボンクレジット市場はさらに拡大すると予想されています。これは、パリ協定に基づく各国の排出削減目標の強化や、企業のカーボンニュートラル宣言が増加していることに起因しています。
現在、多くの国が2050年までにカーボンニュートラルを目指しており、それに向けて各企業も自主的に排出削減目標を設定しています。これにより、カーボンクレジットの需要も高まっています。
企業の需要の増加
企業は、自社の排出削減目標を達成するための手段としてカーボンクレジットを利用しています。再生可能エネルギーの導入やエネルギー効率の改善が進む一方で、短期的に達成が難しい排出削減目標を補うために、カーボンクレジットの購入が増加するでしょう。
カーボンクレジットは気候変動対策の中核的な役割を担うこととなり、企業や国がカーボンニュートラルを達成するための重要な手段として位置づけられるでしょう。持続可能な未来を実現するために、カーボンクレジット市場の発展がさらに加速することが期待されています。
まとめ
カーボンクレジットは、企業が自らの温室効果ガス排出量を削減し、持続可能な未来に向けた取り組みを進めるための重要な手段です。カーボンクレジットを導入することで、企業はコスト効率よく排出削減目標を達成し、規制遵守や投資家の期待に応え、ブランドイメージを向上させることができます。
また、環境に配慮した企業としての評価が高まることで、消費者やビジネスパートナーからの信頼を得ることも可能です。しかし、カーボンクレジットを効果的に活用するためには、その品質や信頼性を確保し、長期的な排出削減戦略の一環として位置づけることが重要です。持続可能な社会の実現に向けて、カーボンクレジットを賢く活用し、企業の競争力を強化することが求められています。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。