J-クレジットの基本概要
J-クレジット制度とは、省エネ・再エネ設備の導入や森林管理等による温室効果ガスの排出削減・ 吸収量をクレジットとして認証する制度であり、2013年度に従来の国内クレジット制度(※1)とJ-VER制度(※2)を一本化して、経済産業省・環境省・農林水産省が共同で運営しています。
※1 中小企業が実施した温室効果ガス排出削減量を大企業が資金を提供して購入する制度です。2008年10月よりスタートし、2013年にJ-クレジット制度に統合されました。
※2 国内で実施される温室効果ガスの排出量削減や吸収プロジェクトによる削減・吸収量を、オフセット用クレジット(J-VER)として認証する制度です。2008年11月よりスタートし、2013年に国内クレジット制度と共にJ-クレジット制度に統合されました。
本制度により、中小企業・自治体等の省エネ・低炭素投資等を促進し、クレジットの活用による国内での資金循環を促すことで環境と経済の両立を目指しています。
企業がCO2排出量を削減する方法としては再生可能エネルギーの利用や省エネ設備の導入などがありますが、政府が運営する「J-クレジット制度」を利用すると、CO2排出量を取引によって実質的に削減することが可能になります。
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J-クレジット取引の仕組み
J-クレジットは、以下の流れで運用されています。
①CO2削減・吸収プロジェクト
J-クレジット創出者が、CO2を削減または吸収するための活動を行います。
J-クレジット創出者とは、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用、森林の保全や植林などでCO2を減らした企業や自治体のことです。
②CO2削減量・吸収量の計測と認証
これらのプロジェクトによって削減されたCO2の量や吸収されたCO2の量を計測し、政府や認定機関がその削減・吸収量を確認し、認定します。これにより、削減や吸収した分が「クレジット」として発行されます。
1クレジットは、1トンのCO2削減または吸収に相当します。発行されたクレジットは、削減した企業や団体の「成果」として評価され、売買できるようになります。
③クレジットの売買
発行されたクレジットは、市場で取引されます。J-クレジット購入者は、そのクレジットを購入して、自分たちの排出削減の実績に算入することができます。
CO2排出削減が難しい企業や団体は、クレジットを購入することで、自ら削減しきれなかった分を補填することができます。つまり、削減できない分を他者の削減成果で埋め合わせる形です。
クレジットを購入した企業は、それを自社のCO2削減目標に使用でき、このクレジットは削減したと見なされ、企業は環境に対する責任を果たしたことになります。使用したクレジットは、政府や認定機関に報告され、正式に削減分として認められます。
J-クレジットが認証されるまで
J-クレジットが創出されるまでには、CO2削減や吸収の成果を認証するために、いくつかの段階を経て正確に評価されます。このプロセスは、企業や団体が行った環境保護の取り組みを信頼性の高い方法で認定し、その結果を「クレジット」として形にすることが目的です。
以下、J-クレジットが認証されるまでの流れを、わかりやすく解説します。
①CO2排出量削減・吸収プロジェクトの立ち上げと登録
まず、企業や団体がCO2削減や吸収を目指すプロジェクトを立ち上げます。プロジェクトは、再生可能エネルギーの利用や省エネルギー設備の導入、森林の保全や植林などが対象です。
どのような方法で、どれだけのCO2を削減・吸収するかの具体的な計画を立て、次に、この計画をJ-クレジット制度に登録します。政府や専門の認定機関がこのプロジェクトを審査し、実行可能であることが確認されます。
②ベースラインの設定
次に、そのプロジェクトが実施されなかった場合、どれくらいのCO2が排出されていたかを示す「ベースライン」を設定します。このベースラインが、削減分を計算するための基準となります。
③CO2排出量削減・吸収プロジェクトの実施
プロジェクト計画に基づき、省エネルギー設備の導入や太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用、森林保全や植林など、実際にCO2の削減や吸収の活動を進めます。
④モニタリングとデータ収集
プロジェクトが進む中で、CO2がどれだけ削減されたのか、あるいはどれだけ吸収されたのかを、専用の計測機器やデータ収集方法で、定期的にモニタリングし、記録されたデータを分析し、ベースラインと比較することで、削減・吸収量を正確に算出します。
⑤第三者機関による検証
プロジェクトで報告された削減・吸収量は、独立した第三者機関によって検証されます。第三者機関がプロジェクトの現場を調査し、削減・吸収の実績が報告通りかどうかを確認し、また、プロジェクトで集めたデータや計測結果が正確であるかを確認し、ベースラインとの差分を検証します。
⑥クレジットの認証と発行
検証が終わると、削減・吸収された量に応じてクレジットが発行されます。これにより、削減や吸収の成果が「見える化」され、市場で取引できるようになります。
J-クレジットを購入する方法
J-クレジットを購入する方法には、「売買仲介」と「直接売買」の2つの方法があります。
売買仲介
J-クレジットは創出者と購入者の取引を仲介する「J-クレジット・プロバイダー」を通して購入できます。J-クレジット・プロバイダーとは、J-クレジット制度に基づき認証される温室効果ガス排出削減・吸収量の創出や活用の促進を目的として、クレジットの創出及び活用を支援できる事業者のことです。
活用ニーズに合致するクレジットの調達を仲介事業者に依頼でき、クレジットの購入価格は仲介事業者との相対取引で決定することになります。
直接売買
J-クレジット制度事務局のWebサイトでは、既に認証されたクレジットや認証予定のクレジットを掲載しています。この掲示板から希望するクレジットを選択し、創出者との直接取引で購入価格を決定します。
第三者(仲介業者)が関与せず、売り手と買い手が直接合意することで取引が行われます。
J-クレジット購入後の主な活用方法
温対法・省エネ法での活用
一定規模以上の事業者や工場には、
「温対法(地球温暖化対策の推進に関する法律)」
および、
「省エネ法(エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律)」
で、CO2を代表とする温室効果ガスの排出量についての報告が義務付けられています。
購入したJ-クレジットは、温対法の調整後温室効果ガス排出量や、調整後排出係数の報告に利用可能です。
また、省エネルギープロジェクトによるクレジットを省エネ法の共同省エネルギー事業の報告にも利用可能です。
2023年の省エネ法改正により、2024年度報告(2023年度実績)から非化石エネルギーの使用量の報告にJ-クレジットを使えることになりました。
カーボン・オフセットでの活用
カーボン・オフセットとは、日常生活や企業等の活動で、どんなに努力をしても発生してしまうCO2を、森林による吸収や省エネ設備への更新により、創出された他の場所の削減分で埋め合わせする取組みです。
企業が、削減目標に達しない分のCO2排出量を補うために、J-クレジットを購入し、このクレジットを使用することで、「他者が削減したCO2」を自社の削減分としてカウントでき、排出目標を達成することができます。
CDP・SBT・RE100での活用
CDPは、企業や自治体が気候変動への対策として、温室効果ガスの排出量や削減目標を公表し、その進捗を報告するための国際的な枠組みのことで、企業は自社のCO2削減目標を報告する必要がありますが、J-クレジットを使用することで、実際の排出量削減に加えて、他の企業や団体が削減・吸収したCO2分を補完することができます。
SBTは、科学的根拠に基づいたCO2削減目標を設定するための国際的な基準のことで、SBTに基づく目標では、企業が自らの排出量を削減することが重要です。自社で削減しきれない部分をJ-クレジットで補完することで、SBT基準に準じた高い削減目標を達成しやすくなります。
RE100は、100%再生可能エネルギー(Renewable Energy)で事業運営を行うことを目指す企業連合のイニシアチブです。RE100の目標を達成するためには、企業が再生可能エネルギーの導入を進める必要がありますが、再生可能エネルギーだけでは達成できない部分をJ-クレジットで補うことができます。
企業が注目するJ-クレジットのメリットとは
J-クレジットは、企業がCO2削減目標を達成するために活用できる仕組みで、CO2削減や吸収の成果をクレジットとして取引できる制度で、多くの企業が注目しています。
企業がJ-クレジットに注目する理由は、環境対策においてさまざまなメリットがあるためです。ここでは、企業がJ-クレジットを活用する主なメリットをわかりやすく解説します。
CO2排出量削減の補完
企業は自社のCO2排出量を削減する義務や目標を持っていますが、自社での削減努力だけでは十分に目標を達成できないことがあります。J-クレジットを購入することで、自社で削減できなかった分を他の企業や団体が削減・吸収した成果で補完することができ、CO2排出量の削減目標を効率的に達成できます。
環境への取り組みアピール
J-クレジットを活用することで、企業は「持続可能な社会の実現に貢献している」という姿勢を社内外にアピールできます。企業は環境保護の実績を広報やCSR(企業の社会的責任)活動に活用し、企業ブランドの向上や競争力強化につなげることができます。
カーボンニュートラル達成への近道
多くの企業は、CO2排出量を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」を目指しています。J-クレジットを使うことで、自社での排出削減に加えて、他者の削減成果を利用して目標を達成することが可能になります。
カーボンニュートラルを目指す企業にとって、J-クレジットは効果的な手段となり、脱炭素社会への貢献を強調できます。
法規制や国際基準への対応
日本国内外では、企業のCO2排出削減に対する規制が強化されています。また、SBT、RE100などの国際的な環境基準への対応も企業に求められています。
J-クレジットを活用することで、企業はこうした法規制や国際基準に対応し、罰則を回避しながら、グローバルな環境目標にも貢献できます。
地域活性化に貢献できる
J-クレジットは、地域の森林保全や再生可能エネルギーの導入など、地域でのCO2削減プロジェクトの成果をクレジットとして販売することができます。J-クレジットを通じて、地域の環境保護活動を支援し、地域社会への貢献を強調できます。
将来のビジネスチャンスの創出
環境意識が高まる中、持続可能なビジネスやサービスが求められています。J-クレジットの活用を通じて、環境に配慮した新しいビジネスチャンスや製品開発につながり、環境を重視する市場での競争力が高まります。
企業がJ-クレジットに注目する理由は、効率的なCO2排出削減を可能にし、環境対策のアピール、法規制への対応、さらにはカーボンニュートラル達成への貢献が期待できるからです。
また、地域活性化や将来のビジネスチャンス創出にもつながるため、企業にとって多角的なメリットを享受できる手段となっています。
まとめ
本記事では、日本国内でCO2などの温室効果ガスを削減・吸収した成果を「クレジット」として評価し、取引できる仕組み「Jークレジット」について解説しました。
多くの企業がこの仕組みに注目しており、持続可能な社会を目指すための重要なツールとして活用されており、企業が削減しきれなかったCO2排出量を補完し、環境目標を効率的に達成することができるため、注目が高まっています。
また、J-クレジットを活用することで、コスト効率を向上させつつ、環境に配慮した企業としてのブランドイメージを強化できます。特にカーボンニュートラルの達成や、法規制、国際的な環境基準への対応を進める上で、J-クレジットは効果的な手段となります。
さらに、地域の環境プロジェクトの支援や新しいビジネスチャンスの創出にもつながり、企業の社会的責任(CSR)を果たすことが可能です。
これにより、J-クレジットは、企業が環境保護に貢献しながら経済的なメリットも享受できる、持続可能な社会づくりの強力なツールとして、今後も多くの企業に活用され続けることでしょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。