カーボンニュートラル実現へ建築業界の目業と取り組み事例を解説

カーボンニュートラル実現へ建築業界の目業と取り組み事例を解説

地球温暖化による気候変動災害を受けて、カーボンニュートラルという取り組みが世界中で広がっています。今回は、カーボンニュートラル実現へ向けて、建築業界が掲げている目標と取り組み事例について解説します。

 

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることです。温室効果ガスの排出量と、森林管理などによる温室効果ガス吸収量を同量にすることで、地球上の炭素(カーボン)の総量をニュートラルな状態に保つと定義づけられています。

2015年に行われたパリ協定を受けて、世界中のさまざまな国や地域は、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。

 

建築業界の目標

建築業界では、2009年12月に「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050〜建築のカーボン・ニュートラル化を目指して〜」というビジョンを提言しました。新築住宅、既築住宅の両方で、二酸化炭素を極力排出しないカーボンニュートラル化に取り組んでいます。

今後10〜20年の間に新築住宅のカーボンニュートラル化を推進して、2050年までに既築住宅も含めた建築分野全体のカーボンニュートラル化を目標としています。2021年8月には、国土交通省・経済産業省・環境省が「脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ対策等のあり方・進め方」について取りまとめました。国は、省エネ対策について、以下の3つの項目に取り組むことを定めています。

2025年度に住宅を含めた省エネ基準への適合義務化

遅くとも2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げ・適合義務化将来における設置義務化も選択肢の一つとしてあらゆる手段を検討し、太陽光発電設備の設置促進の取組を進める

引用元:経済産業省「2050年カーボンニュートラルの実現に向けた住宅・建築物の対策を取りまとめました」2021年8月23日

 

カーボンニュートラル実現へ建築業界の取り組み

国が定める住宅・建築物の対策や、建築業界が提言したカーボンニュートラル化に向けて、具体的にどのような取り組みがなされているのでしょうか。主に3つの観点から解説していきます。

最小限のエネルギー消費の設計

快適な生活を保ちながら、最小限のエネルギー消費で利用できる設計に取り組んでいます。建物で消費する年間エネルギーの収支をゼロにする建物をZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)やZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)といいます。ZEBやZEHを実現するために、断熱材を備えた壁や窓、家の中に外気が入る隙間を作らない高機密の設計などが進んでいます。

エネルギーを蓄える設計

太陽光・風力・地熱などの再生可能エネルギーを利用して、建物がエネルギーを生産して蓄える設計を目指しています。

原材料の見直し

建築に使用する原材料を見直して、カーボンニュートラルが実現できるように取り組んでいます。二酸化炭素排出量を削減できる原材料の開発にも力を入れています。

 

 

建築業界の取り組み事例

カーボンニュートラルに向けて取り組んでいる会社と、実際の事例について紹介します。

竹中工務店

竹中工務店では建築時だけでなく、資材の選定・製造・運用・解体や廃棄などの流れをカーボンニュートラル化させる取り組みを行っています。代表的なものは、耐火性能を持たせた集成木材「燃エンウッド」の開発です。燃エンウッドは国土交通大臣から耐火構造の認定を受けた技術を使って製造しています。住宅で火災が起こった場合、木材の断熱効果と吸熱効果によって、柱や梁を火災の熱から守る仕組みです。

他にも竹中工務店東京本店は2018年にリニューアル工事を実施して、二酸化炭素制御の導入や照明LED化を進めています。自社以外にも環境配慮型ビルの建築や、生ごみからバイオガス燃料を生成するメタファームシステムの導入にも力を入れています。

戸田建設株式会社

戸田建設株式会社では、自社の筑波技術研究所をグリーンオフィス棟へリニューアルしました。太陽光発電・地中熱利用・AIで制御された空調などを取り入れて省エネルギー化を図っています。

また、作業所から排出される軽油の利用削減について取り組んでいます。現場で使用する重機の軽油に燃料添加剤(KーS1)を添加して燃費を改善し、二酸化炭素の排出量削減を目指しています。植物性食用油を生成した再生燃料「バイオディーゼル燃料」の現場利用も拡大しています。2020年3月には、GTL燃料を都内作業所で初めて利用しました。GTL燃料とは、天然ガス由来の軽油代替燃料です。環境負荷が少なく、クリーンな燃料として注目されています。GTL燃料は、二酸化炭素排出量が軽油と比べて8.5%削減できます。

三井住友建設

三井住友建設では、2030年までの環境目標として「Green Challenge 2030」を掲げています。Green Challenge 2030の内容は、二酸化炭素排出量の削減率や、太陽光・小水力・風力などの再生可能エネルギー事業の推進、建設廃棄物のリサイクル率100%などです。

2050年カーボンニュートラル化に向けて、環境目標に沿った具体的な取り組みを進めています。主な取り組みは、快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間のエネルギー収支ゼロを目指すZEB・ZEHの提案営業活動の推進、関連技術開発です。太陽光発電所を水上に3箇所、陸上に2箇所建設して、再生可能エネルギーの利用に努めています。また、建築物の長寿命化に有効な超高耐久橋梁や超高耐久床板などの開発も進めています。

鹿島建設

鹿島建設は、二酸化炭素を吸い込むコンクリート「CO2-SUICOM(シーオーツースイコム)」を開発しました。CO2-SUICOMは、カーボンネガティブを実現する世界初のコンクリートです。カーボンネガティブとは、温室効果ガス排出量より温室効果ガス吸収量が多いことで、カーボンニュートラルよりさらに進んだ状態です。二酸化炭素を多く排出するセメントを、特殊混和材に変更して開発されました。特殊混和材は二酸化炭素と反応して硬化するので、セメントを固めるときに二酸化炭素を吸い込んでくれる仕組みとなっています。

特殊混和材によって二酸化炭素を吸収固定する技術は、コンクリートの大量打設へ向けてさらなる開発が進んでいます。

東急建設

東急建設では、温室効果ガスを削減するために長期的な取り組み目標を設定しています。取り組みの中でも特に力を入れているのがZEB(ゼロエネルギービル)の建築と提案です。ZEBプランナーの認定を取得しており、新築住宅やリフォームのZEB化を推進しています。

東急建設で設計する物件のZEB化を進めており、積極的な提案営業を行った15件のうち10件が実現しています。最適な提案を提供するために、東急建設ではZEB、ZEH-Mのゼロエネルギー化を進めるシミュレーションツールを開発・運用しています。今後はさらに機能を拡充し、顧客自身が自由に使用できるツールをサイトで公開する予定です。

また、自社の技術研究所をZEB化改修した功績を評価され、2019年度「かながわ地球環境賞」2020年度「令和2年度デマンドサイドマネジメント表彰」を受賞しています。

 

まとめ

今回は、カーボンニュートラル実現へ向けて、建築業界が掲げている目標と具体的な取り組み事例について解説しました。世界中で広がっているカーボンニュートラルへの取り組みは、住宅やビルなど私たちの身近なところでも推進されています。住宅の新築やリフォームを検討している人は、ぜひカーボンニュートラルに力を入れている建築会社を選んでみてください。

 

この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

脱炭素・カーボンニュートラルカテゴリの最新記事