カーボンニュートラルと深く関係する言葉の1つに炭素税がありますが、炭素税のメカニズムや導入のメリットをよく知らない方もいるのではないでしょうか。そこで、炭素税の基本的な情報について紹介します。
炭素税とは
炭素税とは、地球温暖化や環境対策のための税金です。炭素税を説明する際のキーワードとなるのが、カーボンプライシングと呼ばれる炭素の価格付けです。これはCO2の排出に対して価格を付け、市場のメカニズムを活用して排出を抑える政策のことを指します。そのうちの1つが炭素税です。
炭素税の目的は、過去に例を見ない近年の異常な気候変動に対処するためです。誰もが肌で体感している通り、近年はゲリラ豪雨や大型台風の上陸が当たり前になりました。また、最高気温が40度を超える日がめずらしくなくなるなど、地球温暖化は歯止めがききません。これらの原因とされているのが、石炭や石油などの化石燃料です。そこで、石炭や石油などを原料とした製品には炭素税を課し、市場への流通や需要を抑制するのが狙いです。環境資源の無駄な消費を抑制するとともに、CO2の排出量削減効果が期待されています。
炭素税のメカニズム
炭素税の大まかなメカニズムですが、排出量に応じて課税されると考えてさしつかえありません。今は炭素税に焦点が集まっていますが、日本にはすでに地球温暖化対策税(温対税)が導入されています。1トンに対して289円の課税をする税金です。ヨーロッパ各国など諸外国は日本の何十倍もの額で課税されているので、課税額にはかなりの開きがあります。ただ、日本がヨーロッパ各国といきなり足並みを揃えようとすると負担が大きいため、少しずつ引き上げていく方針が取られました。
導入で見込まれる効果とは
炭素税の導入には、さまざまな効果が見込めます。商品価値の向上・消費者の認知・財源確保といった効果です。これらの効果に期待して、炭素税の導入が検討されています。どんな効果なのかを詳しく確認していきましょう。
相対的な商品価値の向上
もしも炭素税が導入された場合、相対的な商品価値の向上効果を見込めます。炭素税がそれほどかからないCO2排出量の少ない商品を開発すれば、それだけで価値が向上するのは想像に難くありません。つまり、より環境に配慮していて消費者に選ばれやすい商品の開発競争が激化します。これには新しい流通ルートの開拓も含まれます。企業は炭素税を削減すればその分利益が増加しますし、全体的に商品の質が高くなるでしょう。
消費者に認知してもらえる
消費税の導入や税率をアップした時の反応からもわかるように、新たな税の導入は世間で大きな話題となります。特に炭素税のような日々の消費活動に直結する税金なら、なおのこと注目を集めやすいです。導入をきっかけに、二酸化炭素やカーボンニュートラルのことが消費者に一気に認知される可能性は高いです。しかも、二酸化炭素削減に向けた購買行動などにも期待できるなど、消費者に幅広く認知してもらえます。
環境関連の財源を確保
炭素税という新たな収入源ができれば、いくらあっても足りない環境関連の財源を確保できます。カーボンニュートラルを目指して二酸化炭素を削減するには、再エネや省エネ設備の開発や導入などにたくさんのお金がかかります。その財源を炭素税の税収で確保できます。再エネや省エネ設備の開発や導入が進めば、カーボンニュートラルを達成しやすくなります。
企業はビジネスの転換が求められる
炭素税の導入が検討されていることからもわかるように、カーボンニュートラルや二酸化炭素の削減は国際的な課題です。企業が脱炭素を実施することが、取引の最低条件になりつつあります。そのため各企業にビジネスの転換が求められているのは間違いありません。脱炭素を踏まえた商品・サービス・ビジネス形態でなければ、周りの企業から取引されなくなってしまう可能性があります。これは世界的な潮流なので、逆らうのは得策ではありません。企業間で取り残されないためにも、脱炭素に対して早急に取り組む必要があります。
炭素税が抱える課題とは
炭素税の導入は世界的な潮流ですが、その一方で課題も抱えています。それはCO2削減をしにくいビジネスがある点と、脱炭素をするのにどうしてもお金と手間がかかる点です。看過できない2つの課題について、それぞれ掘り下げていきましょう。
CO2削減が難しいビジネスもある
ビジネスには、CO2削減が難しいものもあります。このパターンに該当する場合そのビジネスは負担ばかり増してしまい、事業が継続できなくなる恐れがあります。そうならないためには、導入前に代替方法を確立させておかなければいけません。もしも炭素税を導入する場合は、CO2削減が難しいビジネスへの配慮が必要不可欠です。
CO2削減設備の導入にお金と手間がかかる
炭素税の負担軽減を図るためのCO2削減設備を導入するには、お金と手間がかかります。まず、十分な計画を立ててから導入しないといけませんし、お金も確保する必要があります。今の産業構造やビジネスモデルに合った炭素税でなければ単に企業の負担が増すだけになってしまうため、とても慎重に検討されています。
地球温暖化対策のための税について
これまでの項目の中で伝えた通り、日本には温対税が導入されています。この税金は3段階に渡って引き上げられましたが、2016年からは1トンにつき289円になっています。温対税の税収は、エネルギー起源によるCO2排出量削減のために使われています。なぜならその排出量が、日本の温室効果ガスの90%を占めるからです。
炭素税と関わりが深い排出量取引について
炭素税と関連する制度の1つに、排出量取引があります。炭素税のことを理解するなら、排出量取引についても知っておきましょう。排出量取引とは何か、メリット・デメリットについて解説します。
排出量取引とは
各企業ごとにキャップと呼ばれる排出上限を設定し、排出権という名目で事業者に配分します。もしも排出量が上限を上回ってしまった場合は、下回る事業者と排出権を取引して調整する制度のことです。
日本の場合、東京都が2010年から導入されていますし、埼玉県も2011年から導入しています。
メリット
排出量取引を実施するメリットは、罰則をともなう制度設計なので実質的に排出量を制御できる点です。排出権は市場の中で融通され、適切な形で再分配されるシステムです。また、有償で割り当てた場合に政府が売却益を得られる点もこの制度のメリットです。
デメリット
デメリットは、誰がどう考えても納得するだけの排出量の公正な設定が困難な点です。たとえば海外では排出量の割り当てをめぐって国を相手取り訴訟が起こるなど、最悪の場合争いの火種になりかねません。
また、運用するにも制度を執行するにも設計が複雑なので、行政の管理および執行にかかるコストが高いのもネックです。それだけのリターンが確定しているわけではないですし、コストの分だけマイナスになってしまう可能性もあります。
さらに、価格は市場が決定しますが、それだけに排出権の価格が変動してしまい、ビジネスの見通しを立てにくいのもデメリットだといえるでしょう。
まとめ
カーボンニュートラルに関連した税金といえる、炭素税について掘り下げて紹介しました。排出量に応じて課税される炭素税のメカニズムや、導入によって見込まれる効果を解説しました。ただ、CO2削減が難しいビジネスのことや導入に手間とお金がかかるなど、課題についてもしっかり向き合わないといけません。
また、炭素税と関わりが深い排出量取引制度もあります。こちらもメリット・デメリットがあるので、手放しで称賛されている制度とはいえません。炭素税や排出量取引制度などカーボンニュートラルに向けた税金や制度がありますので、どんな内容なのかをしっかりと把握しておく必要があります。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。