自治体でのAIの導入状況
日本各地の自治体では、行政サービスの質の向上と効率化を目指してAI技術の導入が進んでいます。
総務省が発表した「自治体におけるAI・RPA活用促進」によると、令和4年12月時点において、都道府県と指定都市では100%、その他の市区町村では45％がAIを導入済みです。
その他の市区町村ではAIの導入が遅れているように見えますが、令和元年度8％、令和2年度21％、令和3年度35％と、AIを導入する自治体が年々増えているのがわかります。
AIを活用することで、住民への対応スピードの向上、コスト削減、そしてより正確でパーソナライズされたサービスの提供が可能となります。ここでは、具体的な導入状況について詳しく見ていきましょう。
企業・自治体DXのためのAI導入・活用方法をチェック
自治体のAI導入増加の理由
自治体でのAI導入が増えている背景には、以下の要因があります。
業務効率化とコスト削減のニーズ
自治体は限られた予算と人員で多岐にわたるサービスを提供する必要があります。AIの導入により、業務の自動化や効率化が進み、コスト削減が実現できます。例えば、AIチャットボットを利用し、住民からの問い合わせ対応を自動化することで、職員の負担を軽減し、コストを抑えることができます。
住民サービスの向上
AI技術は、住民サービスの質を向上させるためのツールとして活用されています。24時間対応可能なAIチャットボットや、リアルタイムでの交通管理、健康管理サービスなど、住民の利便性を高めるサービスが提供されています。
高齢化社会への対応
日本は高齢化が進んでおり、自治体は高齢者向けのサービスを充実させる必要があります。AIを活用した健康管理システムや遠隔医療サービスは、高齢者の健康管理をサポートし、医療機関の負担軽減にも寄与しています。
デジタルトランスフォーメーションの推進
デジタル技術の進展に伴い、自治体もデジタルトランスフォーメーション（DX）を推進しています。AIはその中心的な技術の一つであり、行政手続きのデジタル化やデータ活用による政策立案の高度化が進められています。
防災・危機管理の強化
自然災害が多い日本では、防災・危機管理の強化が重要な課題です。AI技術を活用して、災害リスクの予測や迅速な対応が可能となり、住民の安全を確保するための取り組みが進められています。例えば、AIを用いた地震予測システムや避難所管理システムが導入されています。
政策の支援と補助金の提供
政府や地方自治体による政策支援や補助金の提供も、AI導入の増加を後押ししています。これにより、資金的な負担が軽減され、AI技術の導入がより現実的なものとなっています。具体的には、中小企業デジタル化支援事業などの補助金プログラムが活用されています。
これらの要因が組み合わさることで、自治体でのAI導入が急速に進んでいる背景があります。AI技術を適切に活用することで、自治体は効率的かつ効果的に住民サービスを提供し、地域社会の課題解決に貢献しています。
⾃治体のAIの機能別導⼊状況
情報提供
チャットボットを導入し、住⺠問い合わせ対応、庁内ヘルプデスク対応、観光情報提供を行っています。住民からの一般的な問い合わせに24時間365日対応可能となり、窓口での混雑軽減や職員の業務負担の削減に繋がっています。
業務ツール
音声認識AIで、会議録作成、多⾔語翻訳したり、⽂字認識AIでは、AI-OCR（申請書読取、調査票読込、アンケート読込）を行っています。
AIを用いた文書の自動仕分けやデータ入力作業の自動化も進められており、事務処理のスピードと正確性が向上しています。
業務効率化
保育所⼊所マッチングや、画像・ 動画認識AIで、道路損傷検出、固定資産(住宅)調査、歩⾏者・⾃転⾞通⾏量の⾃動計測 を行っています。
最適解表⽰
国保特定健診の受診勧奨、国⺠健康保険レセプト内容点検、⼾籍業務における知識 ⽀援、乗合タクシーの経路最適化。
また、AIを使い、次年度予算額の最適値推定や観光客⼊込状況の予測したりしています。過去のデータから学習を行うAIは、人口動態の変化、市民のニーズの変動などを予測し、より効果的な施策立案をサポートします。これにより、限られた予算をより効果的に活用し、市民の満足度を高めることが可能です。
これらの取り組みは、市民とのコミュニケーションの改善だけでなく、行政運営全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させています。
自治体が生成AIを活用するメリットとは
生成AIの活用は自治体の業務に革命をもたらす可能性を秘めています。この先進技術を利用することで、自治体は以下のような複数の重要なメリットを享受することができます。
効率化と迅速なサービス提供
生成AIは、文書作成、報告書の整理、公的記録の管理など、時間を要する事務作業を自動化することができます。これにより、職員はルーティンワークから解放され、より戦略的な業務や市民対応に集中することができるようになります。結果的に、サービスの提供速度と質が向上します。
正確なデータ分析と意思決定の支援
生成AIは膨大な量のデータを迅速に処理し、有益な洞察を提供することができます。これにより、自治体は人口動態、市民の健康状態、公共サービスの利用パターンなど、重要なデータを基にした精確な意思決定を行うことが可能になります。
コスト削減
AIを活用することで、人件費やオペレーションコストの削減が期待できます。特に、AIによる自動化が進めば進むほど、長期的に見て経費削減に寄与し、財政的な持続可能性を高めることができます。
市民とのコミュニケーション強化
生成AIを用いたチャットボットや自動応答システムは、24時間市民の問い合わせに対応可能であり、市民サービスのアクセシビリティと満足度を向上させます。これにより、市民からの信頼を得やすくなり、より良い市民生活の実現に貢献します。
生成AIの導入によって、自治体はより効率的かつ効果的な運営が可能となり、市民生活の質の向上に直結します。これらの技術を活用することで、未来の行政サービスがどのように変化するかを見極めることが重要です。
自治体でのAI導入事例
全国各地の自治体がAIを活用することで、行政サービスの質を向上させています。ここでは、具体的なAI導入事例を紹介し、これらの技術がどのように市民の生活を改善しているかを探ります。
横浜市のAIチャットボット「よこはまみらい」
横浜市は、AIチャットボット「よこはまみらい」を導入しています。このシステムは、市のウェブサイトを訪れた市民からの問い合わせに自動で応答し、市政情報、イベント、行政手続きの方法などを24時間提供しています。これにより、市民のアクセスの利便性が向上し、窓口での混雑軽減にも寄与しています。
川崎市のAIを利用した健康診断分析、防災システム
川崎市は、AIを利用して市民の健康診断データを分析し、生活習慣病のリスクを予測しています。この情報を基に、市民に向けた健康改善プログラムの提案や、予防対策の促進を行っています。これにより、市民の健康意識の向上と医療費の削減が期待されます。
また、川崎市は、AIを活用した防災システムも導入しています。このシステムは、地震や洪水などの災害リスクをリアルタイムで解析し、予測データを提供することで、迅速な対応を可能にしています。また、避難所の混雑状況をAIで予測し、住民に最適な避難経路を提供するサービスも行っています。
愛知県豊田市のインフラ管理
愛知県豊田市では、AIを使って漏水箇所の調査を実施しています。衛星画像データをAIで解析し、漏水可能性区域を抽出することで、短期間で効率的に調査できるようになりました。5年かけて調査する予定でしたが、AIの活用によって7ヶ月に短縮できています。
また、調査会社へ委託した場合にかかる数千万円の費用削減にもつながりました。
大阪府堺市のAIごみ収集サービス
大阪府堺市では、AIを活用したごみ収集サービスを導入し、ごみの分別と収集の効率化を図っています。AIが画像認識技術を使ってごみの種類を判別し、適切な収集ルートを自動で設定することで、収集コストの削減と環境負荷の低減を実現しています。
兵庫県神戸市のAI健康相談サービス
神戸市は、AIを活用した健康相談サービスを提供しています。このサービスでは、住民がAIチャットボットに健康に関する質問を入力すると、AIが過去のデータと照らし合わせて適切なアドバイスを提供します。特に高齢者向けの健康管理に役立っており、医療機関への過剰な負担を軽減する効果が期待されています。
福岡市のAIによる交通最適化プロジェクト
福岡市では、AIを活用して交通流の最適化を図っています。AI技術を用いて交通データを分析し、渋滞緩和や公共交通の利用促進を目指しています。この取り組みにより、市内の交通状況が改善され、市民の移動効率が向上しています。
これらの事例からわかるように、AIの導入によって自治体はより効率的で効果的なサービスを提供し、市民の生活の質を向上させることが可能です。これからの自治体業務では、さらなるAI技術の活用が期待されており、各地域のニーズに合わせたAI導入が進むことで、地域社会全体の改善が期待されています。
自治体におけるAI導入の課題とリスクとは？
AI技術が自治体業務を変革する一方で、その導入にはいくつかの課題とリスクが伴います。これらの課題を理解し、対策を講じることが、成功への鍵となります。
データプライバシーとセキュリティ
市民の個人情報を取り扱う自治体にとって、データプライバシーの保護は最重要課題の一つです。AI導入により大量のデータが集約されることで、データ漏洩のリスクが高まります。適切なデータ保護対策とセキュリティ技術の導入が不可欠です。
人材不足と専門知識の不足
普段の業務だけでも多忙な状態で、AIを導入する人材が不足している上、AI技術は高度で複雑なため、適切な運用には専門的な知識が求められます。自治体内に十分なAIスキルを持つ人材が不足している場合、その導入と維持管理が困難になります。継続的な研修や専門家の確保が重要となります。
公平性と透明性の確保
AIによる意思決定プロセスがブラックボックス化しやすいという問題があります。どのようにしてその決定が行われたかの透明性が不足すると、市民の信頼を損なう恐れがあります。AIのアルゴリズムとその意思決定基準を公開し、公平性を保証する措置が求められます。
予算制約
AI導入には初期投資として高額な費用がかかることがあり、限られた予算を持つ自治体にとっては大きな課題です。
「自治体におけるAI・RPA活用促進」によると、令和3年度の調査結果では、AI導入にかかる予算の確保について悩んでいる自治体が約800件もあります。同調査で、AIの導入にかかる費用が200万円以下と答えた自治体が大半でした。導入後の年間運用費用においても同様の結果であり、AI導入と運用には大きなコストがかかります。
コストと利益を慎重に評価し、長期的な投資としての効果を見極める必要があります。対策として有効なのは、別の自治体と共同でAI導入を進めることです。これによって、導入費用も削減できる可能性があります。
これらの課題に対処するためには、事前のリスク評価、市民とのコミュニケーションの強化、透明性の確保、持続可能な予算計画の策定が必要です。自治体はこれらの課題を克服することで、AIのポテンシャルを最大限に活用し、市民にとってより良いサービスを提供できるようになるでしょう。
まとめ
生成AIの導入により、行政サービスは大きな変革を遂げ、パーソナライズドサービスの提供や文書生成と管理の自動化、予測分析、公共安全と防災、健康と福祉の支援など、住民にとってより便利で効率的なサービスが提供されるようになります。これにより、行政の透明性と効率性が向上し、住民の満足度が高まることが期待されています。
しかし、データのセキュリティ、技術的複雑性、公平性の確保、予算制約などの課題も伴います。これらの課題を解決することで、AIは自治体のサービスを次のレベルへと引き上げる可能性を秘めています。
段階的な導入と専門家との協力により、リスクを管理しつつAIのメリットを最大化できます。これらの戦略を用いて、企業や自治体は効率的にコスト削減を達成し、市民へのサービス提供を迅速かつ効率的に行うことが可能になるでしょう。
この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。
