近年、欧州のながれを組んで「スマートファクトリー(考える工場)」の普及が急速に進んでいます。それに伴い、工場の自動化において「画像検査」が主流になりつつあります。ただし、画像検査の仕組みや対応範囲などに関して詳しい人は、それほど多くないのではないでしょうか?
この記事では、画像処理の仕組みとしてポピュラーな「パターンマッチング」の仕組みや役割、具体的な検査事例やシステムの特徴について説明します。
パターンマッチングによる画像検査の流れ
パターンマッチングとは、画像によるデータ検索の際に、決められた文字や形状(パターン)の特徴を比較することで、検索される画像データと、検索する画像データの類似性から、目的の結果を得るためのシステムです。
ここではまず、パターンマッチングによる画像検査がどのような工程で実際に行われるのか、具体的な画像検査の流れと、各工程での処理内容について説明します。
データ圧縮
パターンマッチングを行うために最初に行う準備が、データ圧縮です。
パターンマッチングには、完全一致により画像検査を完了させるために元となる画像(モデル画像)が大量に必要になります。これらの画像のデータ容量が大きすぎると、実際の処理のためには膨大な時間がかかってしまいます。
そのため、事前にここで使用する画像の画素数を減らしておくことで、最終的な画像検査の処理速度の向上を目指します。
初回サーチング
ここからは、具体的な画像処理の作業に入ります。
まずは「初回サーチング」と呼ばれる作業で、パターン画像を一定間隔で移動させて類似率の高い部分をひとさらいします。この作業は、実際に類似しているというよりは、どちらかというと類似している可能性の高い箇所を抽出しておき、後々見比べる候補として登録する作業になります。
2回目サーチング
次に、初回サーチングで抽出した類似率の高い箇所を中心にして実際に検査を行います。ただし、この作業で比較する画像は、まだ圧縮レベルが多少落とされたもので、精度と処理速度の両立を図っています。ここでも類似率が高いもののみを残し、次の検査へと移行します。
最終検出
最後に、2回目サーチングで残された箇所に対して、未圧縮の現物データをつかって比較を行います。
ここでは、1px以下の超高精度の画像処理「サブピクセル処理」も実施し、最高精度での検査を実施します。ここで一致率が高いとされたものは、検出対象となり、最終アウトプットを行います。これが、画像検査における最終工程になります。
パターンマッチングでできる画像検査の役割
パターンマッチングによって可能になる画像検査にはどういったものがあるのでしょうか?ここでは、具体的な画像検査の役割を世の中の事例に合わせて説明します。
位置決め
生産ラインを自動化させるために必要な「産業用ロボット」には、正確な位置決めが必要になります。
ロボットアームがコンベアに流れる部品を正確に掴んだり、正確な場所に製品を置いたりするために制御したとしても、なんらかの都合によってそれが外れてしまった場合、せっかくの自動化システムを停止してロボットの調整をする必要があります。
そこで、画像検査によって位置決めを監視しておくことで、ずれのタイミングを早急に検出し、ずれの度合いを数値で把握しているので、アーム側にフィードバックしてそのままラインを稼働させることもできます。パターンマッチングがなければ、部品の異常やマシンの異常に気づかず、不良品を生産し続けることになってしまいます。
類似性検査
製品ラベルや文字などの画像をあらかじめ登録しておけば、それらと比較して目の前にあるものが似ているかどうかを正確に判定できます。
生産現場においては、それを製品の合否検査に組み込むことができます。正しく部品が組みついていなかったり、文字やラベルにカケやかすれなどがあれば、類似判定がされず、不良品として検査ではじくことができます。
寸法計測
測定が必要な対象のモデルをあらかじめ計測しておいて登録しておくことで、製品の寸法を計測し、合否判定を行うことができます。登録画像のモデルとモデルの間の距離を計算することで、製品の正確な寸法計測を行うことが可能です。
外観検査
製品の外観に異物や傷、汚れなどがあれば、あらかじめ登録した外観検査の基準データと比較することで合否判定を行うことができます。人の目では判断しにくい部分も明確に切り分けることができるため、より精度の高い検査工程となります。
ただし、カメラの影になる部分や、ライティングによって画像判定の結果が曖昧になってしまう場合などは、人間の目にかぎらずカメラでも処理が難しくなる場合もあるので、画像検査を過信せず、適切なケアや人力でのサポートが必要な場合もあります。
具体的なパターンマッチング画像検査システム
パターンマッチングの仕組みや役割に関しては理解いただけたかと思いますが、それだけでは具体的にパターンマッチングを使った画像検査システムを導入しようと思った場合、なにから選べばいいかわからないかと思います。
ここでは、具体的なパターンマッチングによる画像検査システムの商品例を紹介します。
オプテックス・エフエー:HVS-PMシリーズ
HVS-PMシリーズは、24bitフルカラーかつ高精細な画像抽出が可能であり、色差がわずかな対象物でも判別ができます。
高速かつ高精度なサーチが可能なアルゴリズムが使われており、位置情報の取得が高速かつ正確であることも特徴です。最大8000万枚の画像を登録でき、データベースと連動して目的となる画像を検出することもできます。
リンクス:HALCON
HALCONは、様々なパターンマッチングが使える画像処理ライブラリです。ディープラーニングによる複雑な解析が可能であり、フィルタや豊富な欠陥検査のおかげで、様々な使用環境に対応した高精度な検出が可能になります。
コグネックス:PATMAXREDLINE
PATMAXREDLINEは、処理速度を下げずに高解像度のまま高精度で検出可能なパターンマッチングシステムです。高速処理を生かし、角度や寸法の変化が著しい検査や、複数台同時に検査を行うような工程においても高速で処理が可能です。
VISCO:GradFinder®
GradFinder®は、幾何学パターンマッチングを実行可能な画像処理アルゴリズムであり、ボケやノイズ、方向のばらつきや濃淡が顕著な画像においても正確に位置決めを行うことができる画像検査システムです。0.2-0.5msの高速サーチが可能で、正規化相関サーチでの画像処理も可能です。
マーストーケンソリューション:MVF-500C
MVF-500は、センサ・レンズ・照明を1台のスキャナにすべて取り込み、「オールインワン」とすることで、読み取りだけでなく、深度も向上し、OCR(文字認識)や形状認識、バーコードなどの印刷物などの品質検査にも使用できます。
まとめ
画像検査は、工場の自動化において欠かせない技術です。基礎知識や仕組みをしっかり理解し、課題解決のために画像検査をうまく活用しましょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。