メディカル物流とは?
メディカル物流とは、医薬品・医療機器・検体などの医療関連物資を、病院や薬局、研究機関などへ安全かつ適切に輸送するための物流システムです。医療現場の命に直結する物流であり、正確性やスピード、品質管理が厳しく求められます。
一般的な物流と医療物流の違い
一般的な物流は、コストや効率を重視するのに対し、メディカル物流では「安全性」が最優先されます。
例えば、ワクチンの輸送では、温度変化による品質劣化を防ぐため、コールドチェーン(※)が必須です。また、医薬品や医療機器の管理には法規制があり、厳格な基準に基づいた輸送が求められます。
※コールドチェーンとは、食品や医薬品などの品質を保つために、生産から消費地まで一定の温度(低温、冷蔵、冷凍)で管理して流通させる仕組みです。低温物流や低温ロジスティクスとも呼ばれます。
医薬品・医療機器の配送に求められる要件
メディカル物流では、以下のような要件が求められます。
正確なトレーサビリティ:配送過程での品質管理を徹底するため、医薬品や医療機器の流通履歴を記録し、どの経路でどの状態で輸送されたかを可視化する必要があります。
安全な輸送:医療機器や特定の医薬品は、輸送中の衝撃や振動によって破損や品質劣化を引き起こす可能性があります。そのため、専用の梱包材やクッション材を使用し、配送時のリスクを最小限に抑える必要があります。
法規制の遵守:医薬品や医療機器の配送には、各国の法律や規制を遵守することが求められます。日本では、医薬品医療機器等法 や GDP(Good Distribution Practice:医薬品の適正流通基準) に準拠した管理が必要です。
このように、メディカル物流には特殊な要件が多く、専門的なノウハウが求められるのが特徴です。
メディカル物流が抱える課題とは?
メディカル物流は、一般的な物流とは異なり、品質や安全性を維持するために多くの課題を抱えています。ここでは、メディカル物流の代表的な課題について解説します。
1. 厳格な温度管理の必要性(コールドチェーン)
ワクチンや血液製剤、バイオ医薬品などの多くは一定の温度範囲で保管・輸送しなければなりません。温度管理が不十分だと、品質が劣化し、効果を失う可能性があります。
課題: 輸送中の温度変化を防ぐためのコールドチェーンの整備が必要。
対策: 冷蔵・冷凍設備の充実、リアルタイムの温度モニタリングシステムの導入。
2. 輸送中のリスク(品質管理・盗難・偽造医薬品)
医薬品は、振動や衝撃に弱いものが多く、適切な梱包や輸送方法が求められます。また、高価な医薬品は盗難のリスクもあり、偽造医薬品の流通防止も重要な課題です。
課題: 品質維持だけでなく、安全な輸送体制の確立が必要。
対策: RFIDやバーコードによるトレーサビリティ管理、専用梱包資材の活用、セキュリティ対策の強化。
3. 災害時や緊急時の供給問題
地震や台風などの災害時には、通常の物流網が寸断されることがあります。さらに、感染症の流行などの緊急時には、医薬品や医療機器の需要が急増し、供給が追いつかなくなることがあります。
課題: 物流網の途絶による供給不足や、緊急対応体制の確立が必要。
対策: 代替輸送手段(ドローン・ヘリコプターなど)の導入、緊急在庫の確保、地域ごとの分散型供給ネットワークの整備。
医薬品・医療機器を守る物流システムと最新技術
メディカル物流では、IoTやAI、ブロックチェーンなどの最新技術を活用することで、精度の高い物流システムの構築が進んでいます。ここでは、医薬品・医療機器の物流を支える最先端技術を紹介します。
1. IoTを活用した温度・湿度管理
医薬品やワクチンなどは、適切な温度・湿度のもとで保管・輸送する必要があります。IoTセンサーを活用することで、リアルタイムでの環境モニタリングが可能になり、異常が発生した際には即座に対応できます。
活用例: IoTデバイスを搭載した輸送コンテナや保冷ボックスを導入し、輸送中の温度・湿度を記録。異常が発生した場合はアラートを発信し、迅速に対処する。
2. AIとデータ解析による物流最適化
AIを活用することで、配送ルートの最適化や倉庫内の効率的な管理が可能になります。過去の物流データを分析し、最適な輸送手段を選択することで、コスト削減とリードタイムの短縮を実現できます。
活用例: AIによる需要予測により、医薬品の在庫を適正に管理。倉庫ロボットとの連携で、迅速なピッキングと出荷を可能にするシステムの導入。
3. ブロックチェーンによる医薬品のトレーサビリティ強化
偽造医薬品の流通防止や、品質管理の透明性向上のために、ブロックチェーン技術が活用されています。ブロックチェーンを用いることで、医薬品の製造から消費者に届くまでの全行程を追跡でき、不正流通や品質改ざんを防ぐことができます。
活用例: 各流通ポイントでのデータをブロックチェーンに記録し、医薬品の真正性を保証。関係者間でリアルタイムに情報を共有し、安全な医療供給体制を構築する。
メディカル物流の最新事例
日本通運株式会社
日本通運株式会社は、医薬品業界向けに高度な物流サービスを提供しています。同社は、GDP(Good Distribution Practice:医薬品の適正流通基準)認証を取得し、厳格な温度管理とセキュリティ体制を備えた医薬品専用の物流プラットフォームを構築しています。
国内主要4地域に最新の医薬品専用物流センターを設置し、サプライチェーン全体(調達・製造・販売・輸出入)を一元管理できる体制です。
医薬品センターの特徴
温度管理
・二温度帯管理
(20℃(±5℃)、保冷5℃(±3℃))
・超低温品への対応
(-20℃から-85℃)
セキュリティ
・24時間365日有人監視
・構内、倉庫内に段階的なセキュリティを構築
・入退場の記録保管
BCP
・停電時でも最大72時間の電源供給が可能
・免震構造
・2系統空調システム
停電や機器の故障時においても温度免脱を発生させない
出典)
https://www.nittsu.co.jp/industries/pharma.html
大隅物流有限会社
大隅物流有限会社は、アストラゼネカ製の新型コロナウイルスワクチンを台湾や東南アジア諸国へ輸送する際、郵船ロジスティクスの協力会社としてトラック輸送と温度モニタリングを担当。
2021年には成田国際空港で日本の陸運事業者として初めてCEIV Pharma認証を取得し、医薬品輸送における品質管理に貢献しています。
出典)
https://www.jgdp.co.jp/2021/08/vaccine_transportation/
株式会社エヌ・ティ・ティ・ロジスコ
株式会社エヌ・ティ・ティ・ロジスコの「メディカルライナー®」は、医療機器メーカー向けの専用共同配送サービスです。このサービスでは、メーカーごとに個別配送していた医療機器を、専用ルート便でまとめて配送することで、物流の効率化を実現しています。
主な特徴
1.医療機器の特性に合わせた適切な輸送環境を提供
2.教育を受けた専門ドライバーによる安全な配送
3.医療機器メーカーごとに個別配送していたルートを統合
4.共同配送による積載率の向上と、輸送コストの削減
5.配送状況のリアルタイム追跡により、確実な納品を実現
6.CO2排出量の削減
7.返却品回収による循環型物流の構築
出典)
https://www.nttlogisco.com/service/medicalliner/
SBS東芝ロジスティクス
SBS東芝ロジスティクスは、医療機器や医薬品の物流に特化したサービスを展開し、共同利用型のインフラやEC対応の仕組みを活用して、安全かつ最適なメディカル物流を提供しています。
医療機器を取り扱う上で不可欠な「医療機器製造業(管理医療機器、一般医療機器)」の認証を取得しているほか、GDPガイドラインに基づいた物流オペレーションを展開。また、医療機器は人命に関わる商材であるため、とりわけ在庫管理の適正化や精度向上が求められることから、当社では医療バーコードに対応したWMS(倉庫管理システム)を導入するなど、お客様が安心してサービスをご利用できる環境を整えています。
出典)
https://www.sbs-toshibalogistics.co.jp/sbstlog/logistics/industry/medical_logi/
メディカル物流の今後の展望と未来予測
医療の発展とともに、メディカル物流の重要性も年々増しています。安全かつ効率的な輸送を実現するため、最新技術の導入や環境対策が求められています。ここでは、今後のメディカル物流を支える3つのポイントについて解説します。
DX(デジタルトランスフォーメーション)による更なる効率化
医療品や医療機器の輸送は、厳密な温度・湿度管理やトレーサビリティが求められます。IoTセンサーやブロックチェーンを活用したデータ管理により、リアルタイムでの状況把握が可能になり、品質保持とリスク管理が向上し、AIによるルート最適化や需要予測も進み、無駄のない配送が実現します。
グリーン物流の推進と脱炭素化への取り組み
環境負荷の低減は、今後の物流業界において避けられない課題です。メディカル物流でも、電動トラックや水素燃料車の導入が進んでおり、CO₂排出量削減が期待されています。さらに、モーダルシフト(鉄道や船舶への輸送切り替え)や共同配送の拡大により、効率的な輸送が可能になり、サステナブルな物流体制が整備されつつあります。
自動運転・ドローン配送の可能性
都市部の渋滞回避や緊急時の迅速な配送手段として、自動運転車やドローンの活用が進んでいます。特に、山間部や災害時の緊急輸送では、ドローンによる小型医療品の輸送がすでに実証されており、今後はより広範囲での実用化が期待されています。自動運転トラックの活用による省人化も進み、物流の効率化が図られるでしょう。
災害時・緊急時対応の強化
新型コロナウイルスや地震災害の経験から、医薬品の安定供給が必須になり、パンデミックや地震などへの備えへの強化が予測されます。
BCP(事業継続計画)に対応した拠点の分散化や、自家発電・72時間稼働可能な医療物流センター、夜間・休日の即応体制など医薬品の緊急輸送ネットワークの構築などの対策が挙げられます。
医療×物流のプラットフォーム化の加速
供給・在庫・配送を「バラバラ」に管理するのは非効率でリスクが高いため、製薬会社・医療機関・卸業者・物流会社が連携した統合プラットフォームの拡大が予測されます。共通のWMS(倉庫管理システム)や在庫管理データの共有や、複数企業間での共同配送・保管の仕組み化が進むでしょう。
まとめ
本記事では、メディカル物流の概要や一般的な物流との違い、最新の物流システム、そして課題と今後の展望について解説しました。医薬品や医療機器の輸送には、厳格な温度管理やトレーサビリティが求められ、安全性と効率性の両立が不可欠です。
また、DXや技術革新が、物流の最適化と環境負荷の軽減に貢献しています。
今後、さらなる技術導入と法規制の整備により、より持続可能で高度なメディカル物流が実現されるでしょう。医療現場への安定供給を支えるこの分野の進化に、引き続き注目が集まります。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。