ラストワンマイル問題とは?
ラストワンマイルとは、物流の最終工程である「倉庫や配送センターから顧客の手元に届くまで」のプロセスを指します。特に都市部では、交通渋滞や人手不足、配送コストの増加など、さまざまな課題が絡み合い、物流の効率化が求められています。
配送効率の低下
オンラインショッピングの普及により、小口配送の需要が急増していますが、個別配送は効率が悪く、ドライバーの負担増加につながっています。
労働力不足と人件費の上昇
配送業界は慢性的なドライバー不足に直面しており、特に都市部では長時間労働や過酷な労働環境が問題視されています。
交通渋滞と環境負荷
都市部では道路の混雑が激しく、配送遅延や燃料消費の増加を招いています。CO₂排出の削減も大きな課題です。
再配達問題
日本では、不在時の再配達が大きなコストと負担となっており、ラストワンマイルの非効率化を加速させています。
これらの課題を解決するために、ドローンや自動配送ロボット、共同配送システムなどの新技術の導入が進んでおり、持続可能な物流の構築が急務となっています。
ラストワンマイルを支える最新技術
ラストワンマイル(最後の配送区間)は、物流プロセスの中でもコストが最も高く、効率化が求められる部分です。近年、テクノロジーの進化によってこの課題を解決する革新的な技術が登場しています。以下では、ラストワンマイルを支える最新技術をわかりやすく解説します。
自動配送ロボット
歩道や車道を走行し、無人で荷物を届けるロボットの導入が進んでいます。AIによる最適ルートの選択や障害物回避機能を備え、安全かつスムーズな配送を実現します。
ドローン配送
上空を活用することで、渋滞や配送ルートの制約を回避し、スピーディーな配送が可能になります。緊急医療品の輸送や災害時の支援物資配送などで実用化が進んでいます。
スマートロッカー
不在時の再配達を削減するため、駅やコンビニ、マンションに設置されるスマートロッカーの普及が進んでいます。ユーザーは好きな時間に荷物を受け取れるため、利便性が向上します。
共同配送プラットフォーム
複数の配送業者や企業が協力し、同じ地域の配送をまとめて行うことで、トラックの積載率を向上させ、無駄な走行を減らす仕組みが導入されています。
AIとデータ解析
配送需要の予測や最適ルートの提案をAIが行うことで、ドライバーの負担を軽減し、効率的な配送が可能になります。
ラストワンマイル配送の効率化は、コスト削減と顧客満足度向上のために不可欠な要素です。自動運転車両やドローンといった革新的な技術は、持続可能な物流の実現に貢献すると同時に、AIやスマートロッカーによる利便性向上も加速しています。これらの技術は今後、さらに普及し、ラストワンマイル配送の未来を大きく変えることが期待されています。
デジタルツインとIoTによる配送ルート最適化
ラストワンマイル配送の効率化に向け、デジタルツインとIoT(モノのインターネット)の活用が進んでいます。これらの技術を組み合わせることで、物流の可視化とリアルタイムなルート最適化が可能となり、配送の遅延やコスト増を抑えることができます。
デジタルツインによる最適化
デジタルツインとは、現実世界の配送ネットワークをデジタル上に再現し、仮想空間でシミュレーションや最適化を行う技術です。物流拠点や配送ルート、天候や交通状況などをリアルタイムで反映しながら、より効率的な配送計画を策定できます。
活用例
・配送シミュレーション:道路の混雑状況や配送スケジュールをデータ化し、最適なルートを事前に計算。
・物流センターの効率化:倉庫内の在庫管理と連携し、出発前の積み込み作業を最適化。
・需要予測:過去の配送データを活用し、最適な車両数や配送エリアを自動で算出。
デジタルツインにより、物流全体を仮想的に管理できるため、よりスムーズな配送が実現できます。
IoTによるリアルタイム配送管理
IoT技術を活用することで、配送車両や荷物に取り付けたセンサーがリアルタイムで情報を取得し、効率的な配送をサポートします。GPSや温度センサー、荷重センサーなどのデバイスを活用することで、物流の可視化が可能になります。
活用例
・リアルタイム位置情報の把握:配送車両の現在地を追跡し、遅延が発生した場合に迂回ルートを提案。
・積載状況のモニタリング:トラック内の荷物の重量や空きスペースを把握し、最適な配送順序を決定。
・配送状況の通知:受取人に正確な到着時間を知らせ、再配達を減少。
IoTの導入により、リアルタイムな情報収集が可能になり、より柔軟な配送管理が実現できます。
デジタルツイン×IoTの相乗効果
デジタルツインで構築した仮想空間と、IoTで取得したリアルタイムデータを統合することで、ラストワンマイルの配送効率は大幅に向上します。たとえば、IoTが取得した現在の道路状況や荷物の状態をデジタルツインに反映させることで、より精度の高い配送ルートの最適化が可能になります。
この技術革新により、物流の無駄を削減し、環境負荷の低減にもつながるため、都市部の持続可能な物流の実現が期待されています。
国内外での成功事例
株式会社ZMP
株式会社ZMPが開発した配送ロボット「DeliRo(デリロ)」は、自動運転技術を活用し、荷物を自律的に配送するロボットです。「安全基準適合審査」に合格しているので、届出のみで公道走行が可能です。物流の人手不足解消や非対面で受け取りたい人のニーズに対応します。
最大50kgの荷物を運搬でき、1ボックス、4ボックス、8ボックスの3種類のボックスタイプから選択可能で、運ぶ荷物の大きさや形状に応じて柔軟に対応します。また、目と音声によるコミュニケーション機能を備え、人々に親しみやすいデザインとなっています。
2024年12月に、愛知県名古屋市中区栄地区にて、DeliRo(デリロ)を活用したラストワンマイル配送の実証実験を実施しています。 この取り組みは、岐阜県可児市で栽培されたイチゴを高速路線バスで名古屋市内まで輸送し、バス停から最終配送先であるホテルや百貨店などへのラストワンマイルを「DeliRo」が担うというものです。
出典)
https://www.zmp.co.jp/products/lrb/deliro
https://www.zmp.co.jp/news/pressrelease_20241120
KDDI株式会社×アイサンテクノロジー株式会社
2023年3月に長野県塩尻市の中山間地域で、自動運転車からドローンが離着陸し、ラストワンマイルの物流を行う実証実験に成功しました。
この実験では、荷物を載せたドローンが自動運転車上から離陸し、目的地まで飛行した後、再び自動運転車上に着陸することが確認されました。
この取り組みは、人口減少や労働力不足が深刻化する中、特に中山間地域における買い物困難者への支援や物流効率化を目指しています。今後、KDDIとアイサンテクノロジーは、2030年頃を目途に、自動運転車とドローンを組み合わせた自動荷物配送サービスの社会実装を目指しています。
出典)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000090.000050415.html?utm_source=chatgpt.com
Amazon
Amazonは、「デリバリー・サービスパートナー(DSP)プログラム」を展開しています。起業家が低コストで配送事業を立ち上げ、運営できるよう支援する取り組みです。このプログラムでは、Amazonが培ってきた物流ノウハウや技術、リソースを活用し、パートナーが独自の配送ビジネスを展開できます。ビジネス立ち上げ、オリエンテーションの実施、ツールの提供などのサポートが含まれています。
2024年には、日本のラストワンマイル配送とドライバーの労働環境改善のため、既存の投資に加え、さらに250億円以上を追加投資することを発表しました。 この投資は、配送ネットワークの拡大、ドライバーの安全対策とウェルビーイング向上、再配達の削減、そして配送プログラムの拡充の4つの分野に重点を置いています。
出典)
https://logistics.amazon.co.jp/marketing/opportunity
楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社は、自動配送ロボットによる小売店や飲食店の商品配送サービス「楽天無人配送」を、東京都中央区晴海全域、月島と勝どきの一部において、2024年11月6日(水)から提供開始します。自動配送ロボットによる配送サービスを都内で提供することは楽天として初の取り組みで、自動配送ロボットは人が随行せずに自動走行および遠隔操作で運行します。
お届け時間は、最短30分から最長6日先までの15分ごとの枠から指定が可能で、配送中は自動配送ロボットの現在地や到着予定時刻など配送状況を専用サイトで確認可能です。また、人との接触なく利用でき、到着時に自動音声電話とSMSにより通知される暗証番号を機体の操作パネルに入力することで商品を受け取ることが可能になっています。
使用する機体はCartken Inc.が開発し、三菱電機株式会社のグループ会社であるメルコモビリティーソリューションズ株式会社が本サービス向けに調整したもので、機体は高度なAIモデルやアルゴリズムを活用した自動走行機能や衝突回避機能を備えており、一般社団法人ロボットデリバリー協会の安全基準に基づく審査にも合格しています。
出典)
https://corp.rakuten.co.jp/news/press/2024/1106_01.html?year=2024&month=11&category=corp%20ec
https://www.mems.co.jp/product/cartken/
アスクル株式会社
アスクル株式会社は物流センター運営や配送を担うグループ企業ASKUL LOGIST株式会社とともにラストワンマイル配送で利用するEV5種14台を新たに導入し、2025年2月より順次走行を開始します。導入車両は0.3t~1.5tの積載重量で、当社ECサービスにおける都内の配送用として稼働します。選定にあたり、安全装備・積載量・操作性・航続距離の観点から日本特有の狭小路でも小回りが利き、実際の配送コースに適応できる実用性の高い車種を選択。環境配慮の視点としては、内燃機関車9台の削減となり、CO₂については3025.9kg-CO2/月の削減を見込んでいます。ドライバーへの影響としては、EV特有の静粛性による身体的負担の軽減があげられます。
出典)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000434.000021550.html
ラストワンマイルの未来展望
都市部の物流は、EC需要の拡大や人手不足の影響を受け、より効率的で持続可能な仕組みが求められています。その解決策として注目されているのが、フィジカルインターネットの導入と共同配送の推進です。これらを組み合わせることで、物流業界全体の効率化と環境負荷の軽減が期待されています。
フィジカルインターネットの導入
フィジカルインターネットとは、インターネットのデータ通信のように、物流ネットワークを最適化し、異なる企業間で荷物を共有・管理する仕組みです。デジタル技術を活用し、物流リソースを効率的に分配することで、都市部の配送課題を解決します。
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フィジカルインターネットのメリット
・共通の物流インフラ
物流事業者や荷主が統一されたデータフォーマットや基準で情報を共有し、トラックや倉庫を共同利用できます。
・リアルタイムな配送ルートの最適化
AIを活用して、交通状況や配送状況に応じた最適なルートをリアルタイムで決定し、配送効率を向上します。
・無駄のない積載率の向上
複数の企業の荷物を効率よく組み合わせることで、トラックの積載率を最大化し、運行回数を削減できます。
共同配送による効率化
都市部では、同じエリアに異なる企業が個別に配送するケースが多く、配送トラックの過剰な走行が課題となっています。共同配送は、これを解決する手段のひとつです。
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共同配送のメリット
・トラック台数の削減
企業間で配送ネットワークを共有することで、1台のトラックで複数の荷主の荷物を運ぶことが可能になり、走行台数を減らすことができます。
・配送効率の向上
配送センターから消費者への配送を、エリアごとにまとめることで、配送時間を短縮し、コスト削減にもつながります。
・CO₂排出量の削減
車両の走行距離と使用台数の削減により、環境負荷が大幅に低減されます。
ラストワンマイル配送は、今後も成長を続ける物流の重要な要素です。フィジカルインターネットや共同配送の導入が進むことで、効率化と環境負荷軽減を両立した持続可能な物流ネットワークが実現するでしょう。企業間の連携と新しい技術の活用が、ラストワンマイル配送の未来を切り拓いていく鍵となります。
まとめ
都市部のラストワンマイル物流は、EC市場の拡大や人手不足、環境負荷の問題など、さまざまな課題に直面しています。しかし、デジタル技術の活用や配送ネットワークの最適化により、より効率的で持続可能な物流システムが実現しつつあります。
特に、デジタルツインやIoTを活用した配送ルートの最適化、自動配送ロボットやドローンの導入、フィジカルインターネットによる共同配送の推進など、最新技術が物流の未来を大きく変えようとしています。こうした革新により、配送コストの削減や業務効率の向上だけでなく、CO₂排出の削減やドライバーの負担軽減といった社会的課題の解決にも貢献できます。
今後、物流事業者だけでなく、企業間の連携や行政のサポートも不可欠です。持続可能な都市部物流を実現するために、業界全体での協力とさらなる技術革新が求められています。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。