ドローン物流の仕組みと基本的な活用方法
近年、物流の効率化やラストワンマイル配送の課題解決策として、ドローン物流が注目されています。ドローンを活用することで、従来の輸送手段では難しかったエリアへの配送が可能になり、物流業界に新たな可能性をもたらしています。
ドローン物流の仕組み
ドローン物流は、専用の無人航空機が荷物を積み、目的地まで自動または遠隔操作で飛行し、指定の場所に荷物を届ける仕組みです。GPSやAIを活用したルート最適化により、効率的な配送が可能になっています。また、5G通信を活用することで、リアルタイムの飛行監視や遠隔制御が行えるようになっています。
ドローン物流の主な活用方法
1. 過疎地域・離島への配送
道路網が未整備の山間部や離島など、従来の輸送手段では時間やコストがかかる地域に、迅速かつ低コストで物資を届けることができます。
2. 災害時の緊急物資輸送
地震や台風などの災害発生時、道路が寸断されても医薬品や食料などの救援物資を被災地へ迅速に届けることが可能です。
3. 医薬品・検体輸送
病院間の医薬品・血液・検体の輸送に活用され、輸送時間の短縮による医療の効率化が期待されています。
4. EC・食品配送
オンラインショッピングの発展に伴い、都市部では即日配送サービスの手段として、ドローンによる配送実証実験が進められています。
5. インフラ点検・監視
物流だけでなく、橋梁や送電線の点検、河川の監視などにも活用され、人手不足解消や安全性向上に貢献しています。
ドローン物流は、技術革新と規制緩和が進むことで、今後さらに活用の幅が広がることが期待されています。
ドローン物流が注目される背景とは?
近年、ドローンを活用した物流が注目を集めています。物流の効率化や人手不足の解決策として、多くの企業がドローン技術の導入を進めています。ここでは、ドローン物流が注目される主な背景を紹介します。
1. 深刻化する人手不足
物流業界ではドライバー不足が深刻化しており、特に長距離輸送やラストワンマイル配送の担い手が減少しています。ドローンを活用することで、人手に頼らず効率的な配送を実現できます。
2. 即日配送ニーズの高まり
EC市場の拡大により、迅速な配送が求められています。ドローンを活用すれば、交通渋滞の影響を受けずに、短時間での配送が可能になります。
3. 過疎地域・離島の物流課題
山間部や離島では、従来の輸送手段ではコストがかかり、配送頻度も限られています。ドローンを活用することで、効率的かつ低コストな輸送が可能になります。
4. 災害時の緊急物資輸送
地震や台風などの災害発生時には、道路が寸断されることが多く、物資輸送が困難になります。ドローンなら迅速に救援物資を届けることができます。
5. 技術の進化と規制緩和
GPSやAI、自律飛行技術の発展により、ドローンの精度や飛行距離が向上しています。また、政府による規制緩和が進み、実証実験が活発化しています。
ドローン物流は、こうした背景のもとで急速に発展しており、今後の物流のあり方を大きく変える可能性を秘めています。
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ドローン物流のメリット
ドローンを活用した物流は、従来の配送手段では解決が難しかった課題を克服する新しい技術として注目されています。ここでは、ドローン物流の主なメリットを紹介します。
1. 配送の迅速化
ドローンは道路渋滞の影響を受けず、直線的なルートで移動できるため、従来よりも短時間での配送が可能です。特に即日配送や緊急輸送に適しています。
2. 人手不足の解消
物流業界は 2024年問題(働き方改革による運転時間制限)によって、人手不足が深刻化しています。ドローンを活用することで、人手に頼らずに効率的な配送が可能になります。
3. 配送コストの削減
燃料費や人件費を抑えられるため、特にラストワンマイル配送(最終拠点から消費者への配送)や遠隔地への輸送においてコスト削減が期待できます。
4. 過疎地・災害時の輸送手段として有効
山間部や離島などのアクセスが困難な地域や、災害時に道路が寸断された場合でも、ドローンなら迅速に物資を届けることができます。
実際に、熊本地震や東日本大震災の被災地でドローンによる物資輸送の実験が行われ、災害支援に有効であることが確認されています。
5. 環境負荷の低減
トラックやバイクはガソリンを消費するため、CO₂排出の問題がありますが、電動ドローンを使用すれば、二酸化炭素(CO2)排出量を削減できるため、環境に優しい物流手段としても期待されています。
今後、再生可能エネルギー(ソーラーパネルなど)と組み合わせれば、完全にカーボンニュートラルな配送も実現可能です。
6. 多様な用途への応用
医薬品や食料品の配送だけでなく、緊急物資輸送、工業部品の運搬、農業分野での利用など、幅広い分野での活用が可能です。
ドローン物流は、従来の配送手段を補完しながら、より迅速で効率的な物流を実現する可能性を秘めています。今後の技術革新や法整備により、さらなる普及が期待されます。
ドローン物流の課題と規制
ドローン物流は、新たな輸送手段として期待されていますが、実用化にはさまざまな課題や規制のクリアが必要です。ここでは、それぞれのポイントを整理します。
課題
安全性の確保
ドローンは天候や通信障害の影響を受けやすく、落下や衝突のリスクがあります。耐候性の高いドローンの開発や、センサーやAIを活用した衝突回避機能の開発が求められています。
飛行距離とバッテリー性能
現在のドローンはバッテリー持続時間が短く、長距離輸送が難しいという問題があります。リチウムイオン電池の改良や代替エネルギーの研究など、より高性能なバッテリーの開発や、飛行中の充電技術の導入が必要です。
インフラ整備
ドローンの発着場や飛行ルートの整備が進んでいないため、安全に運用するための専用エリアの確保や管理システムの構築が重要です。
コストと運用モデル
商用ドローンの導入には 機体の購入・システム構築・運用スタッフの教育 などのコストが発生します。事業としての採算性をどう確保するかが課題となります。ドローン配送の共同利用モデル(シェアリングサービス)の導入したり、政府や自治体の補助金を活用したりするなど、導入コストを軽減することが必要です。
積載量の制限
一般的なドローンは 2〜5kg程度の荷物しか運べません。そのため食品や医薬品、小型部品などの軽量品に限られるという制約があります。10kg以上の貨物を運搬可能な大型ドローンの開発や、荷物を分散して複数のドローンで運搬する仕組みの構築などが必要になります。
規制
航空法や電波法の制約
日本では、ドローンの飛行には航空法や電波法の制限があり、特に都市部での飛行には許可が必要となります。2022年に施行された「レベル4飛行」の解禁 により、無人飛行が可能になりましたが、さらなる安全対策の整備が必要です。
第三者上空の飛行規制
ドローンが人の上を飛行する場合、厳格なルールが適用され、十分な安全対策が求められます。
プライバシーと住民の理解
ドローンにはカメラが搭載されており、ドローンが住宅地を飛行することで、プライバシーの侵害や騒音問題が懸念されており、住民の理解を得るための対応が必要です。
今後、技術革新と規制の整備が進むことで、ドローン物流の本格的な実用化が期待されます。
ドローン物流の最新事例
ドローン物流は、近年、物流業界における革新的なソリューションとして注目を集めています。特に、過疎地域や離島など、従来の物流手段では効率的な配送が難しいエリアでの活用が進んでいます。以下に、国内での具体的な導入事例をいくつかご紹介します。
楽天ドローン株式会社
楽天ドローン株式会社は、ドローン配送の実証実験、建物調査や空撮のサービス提供に加え、ドローンスクールでのパイロット育成や、ドローンの仕事とパイロットをつなぐプラットフォームの運営を行っています。
2022年11月、楽天ドローン株式会社は埼玉県秩父市にて、遠隔操作によるドローン配送の実証実験を行いました。この試験では、オペレーターが遠隔地からドローンを監視・操作し、現地の業務の一部を秩父市内の事業者が担当する体制を検証しました。使用されたドローンは最大積載量7kgで、弁当や飲料などを「道の駅大滝温泉」から約3km離れた「二瀬ダム管理所前」まで配送しました。
出典)
https://drone.rakuten.co.jp/cases/20221220/
佐川急便株式会社
2024年3月29日、佐川急便株式会社は、イームズロボティクス株式会社、一般財団法人日本気象協会、株式会社サンドラッグと共同で、東京都青梅市にてドローンレベル3.5飛行による宅配便配送の実証実験を実施しました。
この実験では、青梅市の山間地域において、ドローンを用いた宅配便の配送を行い、到着したドローンから受取人が自ら荷物を取り出す形式を採用しました。また、青梅市成木エリア(旧北小曾木ふれあいセンター)への配送実験では、災害による道路等の断絶時を想定した救援物資輸送の実証も行われました。
使用されたドローンは、イームズロボティクス社製の「LAB6150」で、飛行ルートは以下の通りです。
・二俣尾ルート:青梅市二俣尾二丁目運動広場から青梅市二俣尾五丁目南運動広場までの約1.8km。
・災害時対応検証ルート:青梅市二俣尾五丁目第二運動広場から旧北小曾木ふれあいセンターまでの約2.5km。
この実証実験により、ドローンレベル3.5飛行の有効性が確認され、地域住民へのアンケートでは、96%の方が今後もドローン配送を利用したいと回答しました。また、機上カメラの活用により、従来必要とされていた補助者や看板の配置が不要となり、人件費の削減にも成功しました。
出典)
https://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2024/0329_2224.html?utm_source=chatgpt.com
株式会社エアロネクスト
株式会社エアロネクストは株式会社ACSLとの共同で物流専用ドローンAirTruckを開発しました。4D GRAVITY®搭載の日本発の量産型物流専用ドローンです。
日本国内の複数のSkyHub®実装地域や実証実験で飛行実績があり、海外では2023年11月にモンゴルの標高1300m、外気温-15℃の環境下でも飛行に成功しています。
2025年1月28日、長野県木曽郡の上松町、大桑村、南木曽町において、災害時に孤立が予想される集落へのドローン配送の実証実験が行われました。この取り組みは、株式会社エアロネクストとその関連会社である株式会社NEXT DELIVERYが、地元自治体や木曽広域連合、長野県木曽地域振興局と協力して実施したものです。
実験では、エアロネクストが開発した物流専用ドローン「AirTruck」を使用し、各町村の拠点から孤立が想定される地域まで、災害支援物資を配送しました。例えば、上松町では「よろまいか駐車場」から「台生活改善センター」までの約4.6kmを約12分で飛行し、物資を届けました。
出典)
https://aeronext.co.jp/news/kisogun_poc/
秩父市でローソン店舗を活用したドローン配送の実証実施
KDDI株式会社、KDDIスマートドローン株式会社、株式会社ローソン、一般社団法人ちちぶ結いまち、埼玉県秩父市の5者は、2024年10月2日に、環境省の「令和6年度運輸部門の脱炭素化に向けた先進的システム社会実装促進事業」において、提案した「モビリティハブで実現する共同配送とドローン活用によるCO2削減」の取り組みが採択されました。
この実証では、2025年 1月以降(予定)に秩父市において、物流営業所から配送される荷物をローソン店舗や道の駅などの中継拠点(以下 モビリティハブ)に一時集約し、モビリティハブからは、ドローンでの直接配送や、ローソンの移動販売車両の活用により、ローソンの商品も含めて個人宅までのラストワンマイルを配送します。
ドローンを活用した配送は、人手不足が深刻化する物流業界の省人化と、買い物困難者へのラストワンマイル配送の実現が期待されており、日本のCO2排出量の約2割を占める物流業界において、少量の荷物でも効率的な配送が可能なドローンの活用により、CO2削減も期待されています。
今後5者は、本実証の効果を検証して有効性を評価し、2025年度以降のさらなるユースケースの検討およびドローン配送の複数エリアへの拡大を目指します。
出典)
https://kddi.smartdrone.co.jp/release/6906/
ドローン物流の未来展望
ドローン物流は、技術の進化と規制の整備により、今後さらに普及が進むと期待されています。特に、人口減少や過疎地域の増加に伴い、従来の輸送手段が十分に機能しないエリアでは、ドローンが重要な役割を果たすでしょう。
ドローン物流の発展が期待される分野
ドローン物流は、特定の用途において急速に進化しています。中でも、以下の分野での活用が期待されています。
・医療・緊急配送
遠隔地や災害時の医療物資・血液・ワクチンなどの緊急輸送で活用されています。交通渋滞の影響を受けず、短時間で必要な物資を届けることが可能です。
・離島・山間部への配送
人口が少なく輸送コストが高い地域への荷物配送をドローンで効率化します。日本では奥多摩や離島地域での実証実験が進んでいます。
・都市部でのオンデマンド配送
Amazon Prime Air、楽天のドローン配送などの、食品や日用品の即時配送サービスの実現。交通渋滞を避けることで配送時間の短縮が可能になります。
技術革新が進むドローン物流
今後、ドローン物流を支える技術の進化がさらなる発展を後押しします。
・自律飛行技術の向上
AIやセンサー技術の発展により、障害物回避や自動航行が可能になり、目視外飛行(レベル4飛行)の法整備により、長距離輸送が実現します。
・バッテリー技術の向上
飛行距離・稼働時間の延長により、配送範囲の拡大が可能になり、また、ソーラーパネルを活用したドローンの開発も進行中です。
・5G、通信技術の活用
低遅延・高信頼性の通信により、リアルタイムでドローンを制御します。遠隔操作による正確な運行管理が可能になります。
ドローン物流は、今後さらに発展し、社会に広く普及する可能性があります。AIやIoTを活用した倉庫・在庫管理との統合や、自動運転車・ロボットとの連携による無人配送の実現に向けて進化しています。また、フィジカルインターネットと融合し、トラックや鉄道輸送と連携することで、シームレスで効率的な物流ネットワークを構築します。
さらに、CO₂排出を削減する環境負荷の低い輸送手段として、グリーン物流の推進にも貢献します。今後、技術革新と規制整備が進むことで、よりスマートかつ持続可能な物流システムの実現が期待されます。
まとめ
ドローン物流は、物流の効率化や迅速化を実現する革新的な技術として注目されています。基本的な仕組みから活用方法までを見てきましたが、特に過疎地への配送や災害時の緊急輸送など、多様な分野でのメリットが期待されています。その一方で、飛行規制や安全性の確保、コスト面などの課題も存在し、法整備や技術の発展が不可欠です。
近年、国内外での実証実験や商用サービスが進み、フィジカルインターネットとの連携やAI・IoTの活用によるスマート物流の実現が加速しています。今後、環境負荷の低減や都市部でのドローン活用など、さらなる発展が期待されるドローン物流。持続可能な物流インフラの構築に向けて、その可能性はますます広がっています。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。