運送業のCO2排出量について
産業部門と比較すると大きな開きはあるものの、運送部門のCO2排出量は産業部門に次ぐ多さです。産業部門とともに、運送部門もCO2排出量削減に向けて取り組まなければいけません。ただ、運送部門はCO2排出量が年々減少傾向にあり、対策の効果が如実に表れています。
2022年度における日本の二酸化炭素排出量(10億3,700万トン)のうち、運輸部門からの排出量(1億9,180万トン)は18.5%を占めています。自動車全体では運輸部門の85.8%(日本全体の15.9%)、うち、旅客自動車が運輸部門の47.8%(日本全体の8.8%)、貨物自動車が運輸部門の38.0%(日本全体の7.0%)を排出しています。
2022年度の排出量は、自動車の燃費改善等により、2013 年度比で減少しています。ただし、前年度比では、新型コロナウイルス感染症で落ち込んでいた経済の回復等による輸送量が増加しこと等により、排出量増加となりました。
CO2削減に向けた運送業の主な取り組み
運送業界のCO2削減に向けた取り組みは、多岐にわたります。モーダルシフト、エコドライブの推進、ハイブリッド車・電気自動車の導入、物流ネットワークの効率化、再生可能エネルギーの活用、カーボンオフセットなど、技術革新や効率的な運用方法の導入により、環境負荷を減らす努力が進められています。
モーダルシフト
モーダルシフトとは、より少ない排出量の輸送機関への転換を図ることです。たとえば生産工場などから納品先などに製品を輸送する場合、これまではトラックだけで輸送するケースがスタンダードでした。ですが、トラックによる輸送はCO2排出量が多いため、転換拠点を経由して鉄道や船舶による輸送を間に挟みます。トラックによる輸送距離を短縮することで、従来よりもCO2排出量を削減できます。このモーダルシフトは、非常に大きな効果を期待されている取り組みです。
エコドライブの推進
エコドライブとは、アクセル操作の改善、アイドリングストップ、タイヤの空気圧を適正に保つなど、燃料消費を抑える運転方法を指し、CO2排出を減らすための基本的な取り組みです。エコドライブを行うことで、運転中の燃料効率を向上させ、排出ガスを減らすことができます。
物流ネットワークの効率化
物流ネットワーク全体の効率を高めることで、輸送の無駄を減らし、CO2排出を抑えることができます。
共同配送:同じ地域に複数の荷物を運ぶ場合、異なる会社間で共同配送を行うことで、トラックの走行距離を削減し、燃料消費を抑えます。
積載効率の向上:車両の積載量を最大限に活用し、空車での移動を最小限にすることで、燃費を改善します。
配送ルートの最適化:AIやGPSを活用し、最も効率的な配送ルートを計算することで、無駄な走行を減らし、燃料消費を抑えます。
ハイブリッド車・電気自動車(EV)の導入
従来のディーゼル車やガソリン車から、ハイブリッド車や電気自動車(EV)への切り替えが進んでいます。これにより、燃料の消費量を大幅に減らし、CO2排出を削減することができます。
電気トラック
小型の配送車や都市部の短距離輸送で、電気自動車(EV)を導入することで、走行時にCO2を排出しない環境にやさしい運送を実現しています。
ハイブリッドトラック
ハイブリッド車は、燃料と電気の両方を動力源とするため、従来の車両に比べてCO2排出が少なく、燃費効率が高いです。
再生可能エネルギーの活用
運送業界では、CO2排出を減らすために、再生可能エネルギーを活用した輸送手段やエネルギーの導入が進んでいます。特に、電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)など、再生可能エネルギーで充電や給電を行う車両の導入が増えています。
太陽光発電の活用:運送会社の営業所や倉庫に太陽光発電設備を設置し、そこで発電した電力をEVの充電や施設運営に利用することで、エネルギーコストとCO2排出を削減します。
水素燃料電池車の導入:水素を燃料とする燃料電池車(FCV)を導入することで、走行時にCO2を排出しない輸送が実現します。
カーボンオフセットの活用
運送業者は、自社の排出するCO2の一部を相殺するために、カーボンオフセットを活用しています。カーボンオフセットとは、CO2を削減するプロジェクトに投資することで、自社の排出分を帳消しにする仕組みです。
植林プロジェクトへの参加:運送会社が植林活動に投資することで、森林によるCO2吸収を促進し、自社のCO2排出量を実質ゼロにすることを目指しています。
CO2削減プロジェクトへの支援:再生可能エネルギーやエネルギー効率化プロジェクトに資金を提供し、そのプロジェクトによって削減されたCO2排出量を自社の排出量と相殺します。
これらの取り組みにより、運送業界は持続可能な発展と環境保全の両立を目指しています。
課題が山積みの運送業界
ここまで運送業のCO2削減に向けた取り組みを紹介してきましたが、実は課題が山積みになっている点も忘れてはいけません。カーボンニュートラルの難しさ・ドライバー不足・労働環境といった課題があります。どのような課題なのかを見ていきましょう。
トラックのカーボンニュートラルは難しい
運送業がトラックのカーボンニュートラルを実現するのは、口でいうほど簡単ではありません。一言にトラックといっても多種多様で、それぞれの業務ごとに用途が異なります。そのため何か1つの技術が開発されても、それですべて解決するわけではありません。トラックの特性に合ったカーボンニュートラルが求められています。
ドライバーが不足している
運送業はカーボンニュートラルにばかりに目が向きがちですが、トラックを運転するドライバー不足の課題を無視できない現状です。具体的には運送業の7割近い企業が、ドライバー不足を課題に挙げています。
しかも、トラックドライバーの高齢化も大きな不安材料です。今働いている高齢のドライバーが職を辞した後、さらに深刻なドライバー不足になることは容易に想像できます。他産業と比べて平均年齢が明らかに高いですし、非常に深刻な課題です。
ドライバーの労働環境が悪い
ドライバー不足の課題と関連しますが、ドライバーの労働環境が悪いのも見過ごせない課題です。個人宛の個別配送の荷物が急増し、ドライバーの負担は年々重くなっています。ドライバーは残業を含めた長時間労働を課せられるなど、労働環境が悪化しています。ドライバー不足を解消するには、まず労働環境の改善が必要不可欠です。
求められる運送業のDX
運送業を変えるために求められるのは、デジタル技術を導入するDXです。省エネ化・効率化・デジタル化をおこなうことが、運送業の改善に役立ちます。どんなDXが必要なのかを簡単に解説します。
配送ルートの最適化
配送ルートの効率を向上させるために、AIやGPSを活用して最適な配送ルートを計算することが求められています。これにより、無駄な走行を減らし、燃料消費を抑え、CO2排出量を削減できます。また、渋滞や交通規制をリアルタイムで反映することで、迅速な配送が可能になります。
トラックの稼働管理
トラックに取り付けられたセンサーやGPSを使って、車両の位置情報、燃費、走行距離、運転スタイルなどをリアルタイムで把握・監視します。これにより、車両の稼働状況、燃料消費、ドライバーの運転習慣などを詳細に把握し、効率的な運行管理やメンテナンスが可能になります。
在庫管理の自動化と可視化
スマートセンサーを導入し、倉庫内の在庫状況を自動的に検出・更新。在庫不足や過剰在庫をリアルタイムで把握し、適切なタイミングで補充や出荷を行うなど、倉庫や配送センターでの在庫管理を自動化し、在庫の状況をリアルタイムで把握することが求められています。IoT技術を活用して在庫情報を可視化することで、過剰在庫や欠品を防ぎ、適切なタイミングでの配送手配が可能になります。
顧客サービスの向上とパーソナライズ化
顧客のニーズに応じた配送サービスを提供するために、顧客管理システム(CRM)を活用して、顧客ごとの配送履歴やニーズを分析し、最適な配送時間やサービスを提案することが求められています。顧客の希望に応じた柔軟な配送オプションを提供することで、顧客満足度が向上します。
ドライバーの負担軽減と働き方改革
DXを通じて、ドライバーの労働環境を改善し、働き方改革を推進することも重要です。運行管理の自動化やスケジュール管理の最適化によって、過労を防ぎ、効率的な労働環境を提供します。また、デジタル技術を活用して、ドライバーの負担を軽減するシステムの導入も進んでいます。
AIとビッグデータの活用
AIやビッグデータを活用して、配送需要の予測や物流全体の最適化を図ることが求められています。AIを活用した需要予測モデルを導入し、天候やイベント、過去の出荷データを基に、どの地域でどの程度の荷物が発生するかを予測します。これにより、需要に応じたトラックや人員の最適配置を行い、無駄なコストや時間を削減することができます。
環境負荷の軽減とCO2排出削減
DXを通じて、環境に配慮した運送業務を行い、CO2排出量を削減する取り組みが求められています。燃費効率の高い車両の導入や、エコドライブの促進、再生可能エネルギーの活用を通じて、環境への負荷を軽減します。
まとめ
カーボンニュートラルが期待されている運送業の取り組みやDXについて紹介しました。運送業のCO2排出量は決して少なくないため、削減に向けてさまざまな取り組みが実施されています。モーダルシフトや、次世代トラックの採用などです。
また、運送業のDXも進んでいて、省エネ化・効率化・デジタル化がおこなわれてます。ドローン・ai・ペーパーレスなどが積極的に導入されています。運送業は課題もありますが、カーボンニュートラルの実現に向け全力で取り組んでいます。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。