カーボンニュートラル実現にはサプライヤーの脱炭素が必要不可欠
カーボンニュートラルを実現するには、サプライヤーの脱炭素が必要不可欠です。サプライヤーとは、製品部品などを供給する業者のことです。また、サプライヤーを含む製品の製造から消費までの流れは、サプライチェーンと呼ばれています。カーボンニュートラルを実現するにはサプライヤーの脱炭素はもちろん、サプライチェーン全体で取り組まなければいけません。
たとえば大手企業の日立製作所は、2019年度にサプライチェーンすべてで約1億1千万トンものCO2排出量削減に成功しました。本社だけが単独で取り組んでいたのでは、これほどまでCO2排出量を削減できません。日立製作所の例からもわかるように、CO2 排出量の削減にはサプライヤーの協力が欠かせないのです。
サプライヤーの脱炭素で重要なのはScope3
サプライヤーが脱炭素を実現するために重要なのは、Scope3への理解です。Scope3には、Scope1・Scope2・Scope3の3種類があります。それぞれがいったい何を示すのか、Scope3について簡単に解説します。
Scope1
Scope1は、事業者が自ら排出する温室効果ガスの直接排出量です。たとえば燃料を燃焼した際に排出される温室効果ガスや、工業の製造過程で排出される温室効果ガスはScope1に該当します。直接排出量なので比較的わかりやすいです。
Scope2
Scope1の直接排出量に対し、Scope2は間接排出量です。たとえば他社から供給された電気・熱・蒸気などにともなう間接的な温室効果ガスの排出量は、Scope2に該当します。つまり、直接か間接かでScopeの区分が異なります。
Scope3
Scope3は、Scope1にもScope2にも該当しない間接排出量です。事業者の活動には関連しているもののScope1やScope2でない場合は、Scope3に該当します。
Scope1・Scope2・Scope3を合計することで、すべての排出量を算出できます。
Scope3を算出することの利点
Scope3の算出は、企業にとってさまざまな利点があります。正確に算出することで、どの部分を率先して温室効果ガスを削減すべきなのか一目瞭然です。問題部分の特定が容易なので、効果的な対策を打てます。
また、カーボンニュートラルやSDGsに向けた取り組みに力を入れていることを対外的にアピールできる点も、Scope3を算出することの利点です。結果をサステナビリティレポートや自社サイトなどに掲載すれば、環境への意識の高さが自然と伝わります。今は環境保護に取り組んでいることが取引の前提条件となる場合が多いので、取り組んでいることを知ってもらうためのアピールは大切です。
SBT認定企業について
SBTとは、企業が決めた5年後から15年後の温室効果ガス排出量の削減目標のことです。パリ協定で定めた基準をクリアするように、企業は目標を立てないといけません。あまり知られていませんが、日本はSBTを定めている企業が多いです。アメリカやイギリスと肩を並べようかというほどのSBT認定企業数を誇ります。国内のさまざまな企業が、Scope3の目標設定をおこなっています。
日本の自動車サプライヤーのカーボンニュートラル取り組み事例
国内の一大産業といえば自動車業界ですが、数々の自動車サプライヤーがカーボンニュートラルに取り組んでいます。取り組み事例を紹介するのは、ヨロズ・アイシン・曙ブレーキ・豊田鉄工です。以下で詳しく見ていきます。
ヨロズ
ヨロズは自動車の各部品を製造するメーカーです。主に足回り周辺の開発から使用までを対象に、CO2排出量の評価制度を導入しています。
評価制度の結果を参考に、サスペンション部分で使用される素材をアルミから鉄に変更しています。アルミは製造過程でCO2排出量が多いため、鉄に変更することでCO2排出量を約3割も減少させています。
さらに、再エネの電力会社と協業し、ヨロズの工場で使用する電力を再エネへと切り替える方針を打ち出しています。実現すれば約5,000トンものCO2排出量削減効果を見込めるので、カーボンニュートラルの実現に確実に近付きます。
アイシン
アイシンは、モビリティやエナジーソリューションなどを手がける会社です。東邦ガスと協業し、自動車部品の製造時に使用する水素バーナーの実証実験を始めました。水素バーナーは、燃焼の際にCO2が発生しません。これまでの都市ガスと比べ、最大で年間2,000トンものCO2排出量削減効果を見込めます。2030年までに1,000億円以上のお金をかけ、CO2を削減させる見通しです。
曙ブレーキ
曙ブレーキは、ブレーキパッドなどの自動車部品を製造するメーカーです。ブレーキパッドの原材料から再検討し、製造工程の改善を試みました。加熱工程を極力少なくすることで、CO2排出量の削減に成功しています。
豊田鉄工
愛知県豊田市に本社がある豊田鉄工は、鋼板や樹脂などの自動車プレス部品を製造するメーカーです。カーボンニュートラルを目指し、冷間プレス機を増設させました。冷間プレス機は自動車のボディーなどを製造する際のエネルギー消費が多くないため、CO2排出量を削減できます。
再エネ転換の重要性について
工場のカーボンニュートラルが進んでいるのはヨーロッパで、たとえばドイツはすでにカーボンニュートラルを実現している企業がめずらしくありません。生産拠点の電力をすべて再エネで供給するなど、日本と比べて一歩先を進んでいる印象が強いです。
日本の企業も懸命に努力していますが、まだ国内は再エネ市場がそれほど成熟していません。電気自動車の普及が叫ばれていますが、再エネも同時に普及しないとカーボンニュートラルは実現しません。こうした状況から発電の再エネ転換が非常に重要だとわかります。
もしも電気自動車だけが一方的に普及した場合、むしろCO2排出量が増加することになりかねません。つまり、再エネ転換をいかにスピーディーにおこなえるかが今後のカギです。
サプライヤーと脱炭素の現状
サプライヤーが脱炭素に対してどのような意識を持っているのか、大手取引先から何を求められているのかなど、サプライヤーと脱炭素の現状について紹介します。サプライヤーの置かれている現状を知っておきましょう。
サプライヤーの脱炭素意識は高まっている
自動車サプライヤーのカーボンニュートラル取り組み事例で紹介した通り、サプライヤーの脱炭素意識は間違いなく高まっています。SBT参加企業数が右肩上がりに増加していることからもわかるように、国内のサプライヤーの脱炭素意識は世界的に見ても決して低くありません。大手企業はもちろんですが、中小企業にまで脱炭素意識がしっかりと浸透しつつあります。
これだけ脱炭素意識が当たり前の状況では、脱炭素意識が低いとそれだけで取引の対象外になりかねません。脱炭素意識を高く持つことが、ビジネスチャンスを呼び込む最低条件になりつつあるといえるでしょう。
サプライヤーは大手取引先から脱炭素を求められている
自発的に脱炭素に取り組むサプライヤーがある一方で、大手取引先から脱炭素を求められて対応を始めるサプライヤーもあります。たとえば電力源を100%再エネにするように大手取引先から要請されたり、Scope3での目標設定を求められたりなどです。
大手取引先はサプライチェーン全体のカーボンニュートラルを標榜に掲げているため、サプライヤーにも脱炭素を要請するケースがめずらしくなくなりました。サプライヤーにとってはプレッシャーですが、今後の時代の流れを考えれば早めに脱炭素を実現しておくのが得策です。脱炭素は周囲からの支持や賛同を得られやすいので、上手く協業しながら脱炭素を目指すサプライヤーもあります。
まとめ
大手企業の取引先のサプライヤーが取り組むカーボンニュートラルについて、いくつかの具体的な事例をまじえながら紹介しました。カーボンニュートラルの実現には、サプライヤーの脱炭素が必要不可欠です。Scope3の目標を設定する企業やSBT認定企業が増加しているのは、カーボンニュートラルを強く意識する企業が増えたからです。
サプライヤーも脱炭素に向け、多くの企業が取り組むようになりました。大手取引先からも、脱炭素を強く求められています。サプライヤーは脱炭素を実現するために、試行錯誤を繰り返しています。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。