カーボンニュートラルシミュレーターとは?
カーボンニュートラルシミュレーターとは、自治体が脱炭素を達成するために役立つ効果的なサポートツールです。2021年9月30日に、千葉大学大学院社会科学研究院の倉阪秀史教授たちによって公開されました。
カーボンニュートラルの期限の2050年までに自治体がどのぐらいの規模で省エネ投資をおこなえば良いのかを、さまざまなデータをもとにシミュレーションできます。シミュレーションに使用するデータは、自治体の人口、世帯数、就業者人口などで、それらのデータから稼働する住宅、非住宅、自動車台数などを算出します。ただ、自治体が省エネ投資を実施しても、すべてのエネルギーをカバーできるとは限りません。残ったエネルギー需要に対し、再エネでまかなえるかどうかをシミュレーションします。
カーボンニュートラルシミュレーターは、自治体ごとに結果が異なります。脱炭素の難易度はすべて同じではありません。自治体が脱炭素の現実を知るとともに、脱炭素政策を練る際の参考にしてもらうのが目的です。
カーボンニュートラルシミュレーターの使い方
カーボンニュートラルシミュレーターの使い方は簡単です。まず最初に自治体コードを入力したら、あとは必要に応じて2050年の人口を変更すれば良いだけです。難しい操作は必要ありません。使い方についてもう少し詳しく解説します。
自治体コードを入力する
市区町村ごとにコードが割り振られていますので、まず該当する自治体コードを入力します。コードは1,741個用意されています。コードを入力した後に、脱炭素投資を一切しなかった場合の2050年の自治体の予測が出ます。予測の対象は、人口・建造物・自動車台数などです。さらに、それぞれのジャンルにおけるエネルギー需要が推計されます。ジャンルは民生・輸送・農林水産業の3つです。それぞれのジャンルでどのぐらいのエネルギーが必要なのかが、数値によって表示されるシステムです。
2050年の人口は変更可能
2050年の人口は、必要に応じて変更して構いません。最初に表示されるのは、今の人口から傾向を予測して算出された人口です。2050年に人口が増加する自治体がある一方で、減少する自治体もあるでしょう。人口予測に合わせて2050年の人口を変更することで、より正確なシミュレーション結果を期待できます。
自治体別の脱炭素のしやすさがわかる
カーボンニュートラルシミュレーターは、自治体別の脱炭素のしやすさがわかる便利なツールです。ZEH・ZEB・自動車量・電気自動車・目標再エネなどの取り組み比率の入力が可能です。それぞれの項目ごとについて解説します。
ZEHとZEB
ZEHはゼロエネルギーハウス、ZEBはゼロエネルギービルディングの意味です。ZEHとZEBとは、断熱性を高めて省エネ機器や再エネ機器を設置した結果、エネルギーの生産量が消費量よりも多い建物のことです。ですので太陽光発電装置などは、すべてZEHとZEBに含まれます。2050年にZEHとZEBをどのぐらいの割合にするのかを、建築する時期別に入力できます。
自動車量の削減比率
人口や労働者の減少による自動車量の減少は、すでにカーボンニュートラルシミュレーターの予測に組み込まれています。そのため新たに入力する削減比率は、公共交通機関の拡充や最先端モビリティの導入など、追加対策によって得られる効果の分が対象です。環境に優しいクリーンな移動方法を充実させる方針なら、削減比率の割合を大きくできます。
電気自動車導入比率
全自動車の中で、電気自動車の導入比率がどれくらいになるかを入力します。2050年までにどれだけ電気自動車を導入できるかが、導入比率の数字を左右します。脱炭素への力の入れ具合で数字が変わると認識しておきましょう。
目標とする再エネの比率
再エネとは、主に太陽光・風力・水力・地熱・木質バイオマス発電のことです。それぞれの発電方法で何%実現できるのかを客観的に分析し、その結果を入力します。
太陽光発電は、すでに開発されている土地が対象です。林地を開発する場合は対象にならないので注意してください。対象となるのは駐車場・空地・耕作放棄地・農地などで、建物はZEHとZEBに含まれます。
結果が表示される
該当する項目の数値を入力した結果に対して「カーボンニュートラル達成!」と表示されれば、カーボンニュートラルを実現できる見通しが立っています。まずは省エネを実施して必要なエネルギー量を減少させ、残ったエネルギー量を再エネでまかなうことが目標です。自治体によって難易度が異なりますし、カーボンニュートラルシミュレーターによるシミュレーションは今後の脱炭素政策を検討する際に役立ちます。
自治体と産業の理想的な役割分担とは
カーボンニュートラルを実現するには、自治体と各産業の連携が必要不可欠です。工場などの製造現場や発電のエネルギー転換における脱炭素は、基本的に産業を担う事業者の責任で実施します。ですが、自治体が傍観者となるのは良くありません。自治体は脱炭素を実施する事業者を、積極的にサポートする必要があります。また、多量排出事業者の報告制度を有効活用し、脱炭素の推進を働きかけることも自治体の役割です。
その一方で、家庭や商業ビル、農林水産や輸送に関する脱炭素は、自治体が主導権を握って脱炭素を推進していくべきだといえるでしょう。街づくりや公共交通機関の整備などは、改めていうまでもなく自治体の仕事です。さらに、カーボンニュートラルのことを多くの人に知ってもらえるように、広報活動にも力を注がなければいけません。
実際に脱炭素の行動を起こすのは事業者ですが、自治体の献身的なサポートも欠かせないのは確かです。
さまざまな金額の推計がわかる
カーボンニュートラルは、経済面のシミュレーションも可能です。2050年までの総投資額・総省エネ額・再エネの総販売額を推計できます。カーボンニュートラルを実現するためには、多額の費用がかかります。たとえば省エネ設備を導入するには相応の費用がかかりますし、発電のエネルギー転換もかなりのコストがかかるのは否定できません。
いくらカーボンニュートラルが重要な社会課題でも、お金を際限なく費やせるわけではないはずです。ですので、総省エネ額・再エネの総販売額も念頭に置き、経済面で窮地に立たされないように政策を練ることが大切です。さまざまな金額の推計も参考にしましょう。
人口が多い都市は地方都市との連携が必要
人口が多いとどうしてもCO2の排出量が増えるため、カーボンニュートラル実現の難易度は高くなります。ですから比較的人口が少ない地方都市との連携を図る必要があります。地方は人口が少なくて使える土地が多いため、再エネをたくさん生産しやすいです。現状は都市部ばかりが経済的に豊かな状況ですが、脱炭素社会への転換が地方を豊かにするきっかけになるかもしれません。大都市一極集中の状態を変えるチャンスだといえるでしょう。
高校でカーボンニュートラルシミュレーターを使用した授業を実施
九里学園高等学校で、カーボンニュートラルシミュレーターを使用した授業が実施されました。大人はもちろんですが、高校生にとって気候変動の問題は決して他人事ではありません。早い段階から脱炭素に興味を持ってもらうことで、カーボンニュートラルに関する正しい知識を広められます。
また、この授業をきっかけに、カーボンニュートラルシミュレーターを使用した教育を全国的に普及させていく予定です。これからの時代を担う若い世代に対し、積極的に働きかけています。
まとめ
自治体がカーボンニュートラルについてシミュレーションできる、カーボンニュートラルシミュレーターについて解説しました。カーボンニュートラルシミュレーターを使うことで、自治体がカーボンニュートラルを達成できる難易度を把握できます。その結果を参考に脱炭素政策を練れるので、非常に便利なツールです。
また、経済面の金額が推計できたり高校生向けに授業を実施したりなど、カーボンニュートラルシミュレーターは随所で有効活用されています。カーボンニュートラルのシミュレーションがしたい方は、ぜひとも使ってみてはいかがでしょうか。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。