物流業界が注目するカーボンニュートラルと脱炭素の違いをわかりやすく解説

物流業界が注目するカーボンニュートラルと脱炭素の違いをわかりやすく解説

カーボンニュートラルとは?

カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させ、実質ゼロにすることを指します。2020年10月、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を掲げました。

「排出を全体としてゼロ」とは、工場や車両などから排出されるCO₂などの温室効果ガスから、植林や森林管理による吸収分を差し引き、合計をゼロにすることを意味します。持続可能な社会の実現に向け、企業や自治体でも積極的な取り組みが進められています。

地球規模の課題である気候変動問題の解決に向けて、2015年にパリ協定が採択され、世界共通の長期目標として、

世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに(2℃目標)、1.5℃に抑える努力を追求すること(1.5℃目標)

今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること等に合意しました。

引用)環境省脱炭素ポータル

https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/about/

 

脱炭素に向けて取り組みたい方はこちらをチェック脱炭素に向けての取り組み

脱炭素とは?

脱炭素とは、地球温暖化の原因であるCO₂の排出を減らし、最終的にゼロにすることを目指す取り組みです。気候変動の主な原因とされるCO₂の排出を削減し、地球温暖化を防ぐことが目的です。

具体的な対策としては、太陽光・風力・水力などの再生可能エネルギーの活用、化石燃料から電気や水素へのエネルギー転換、省エネ技術の導入などが挙げられます。産業界では、製造工程の見直しやカーボンフリー技術の導入が進められ、輸送分野では電気自動車(EV)や水素燃料トラックの普及、モーダルシフト(鉄道・船舶輸送の活用)などの取り組みが加速しています。

脱炭素の推進は、企業にとっても環境負荷の軽減だけでなく、コスト削減やブランド価値向上につながる重要な要素です。国際的なカーボンニュートラルの目標に向けて、企業や自治体が積極的に取り組むことが求められています。

カーボンニュートラルと脱炭素の違い

カーボンニュートラルと脱炭素は、どちらも温室効果ガスの排出を抑えることを目的としていますが、目指すゴールや取り組み方には違いがあります。以下の表で詳しく解説します。

項目

カーボンニュートラル

脱炭素

定義

排出されたCO₂を植林や技術で吸収・相殺し、実質ゼロを目指す

CO₂の排出そのものを極力なくす取り組み

目標

排出量と吸収量を均衡させ、ゼロにする

CO₂を発生させない社会を構築する

主なアプローチ

再生可能エネルギーの活用、省エネ、CO₂回収技術、カーボンクレジットの利用

化石燃料の削減、再生可能エネルギーの全面活用、電動化

実現手段

排出削減と相殺(カーボンオフセット)を組み合わせる

CO₂の発生源そのものをなくす

物流業界での取り組み

EVトラック導入、省エネ、カーボンクレジット購入

モーダルシフト、ゼロエミッション車の導入、再生可能エネルギー利用

カーボンニュートラルは「排出量をゼロに見せる」考え方、脱炭素は「そもそも排出しない」ことを目指す点が大きな違いです。物流業界では、両者を組み合わせた戦略が重要になっています。

その他の似た用語との違い

カーボンニュートラルや脱炭素と並んで使われることが多い「ゼロカーボン」「カーボンフットプリント」「カーボンオフセット」ですが、それぞれの意味や目的は異なります。以下に詳しく解説します。

ゼロカーボン

ゼロカーボンとは、CO₂などの温室効果ガスの排出を完全になくし、実質ゼロではなく「排出ゼロ」を目指す考え方です。
例: すべての電力を再生可能エネルギーで賄う、100%電動車両を使用するなど、排出そのものを発生させない取り組みが該当します。カーボンニュートラルが「排出と吸収を均衡させる」のに対し、ゼロカーボンは「そもそも出さない」ことが目標です。

カーボンフットプリント

カーボンフットプリントとは、製品やサービスが原材料調達から生産、輸送、使用、廃棄までのライフサイクル全体で排出するCO₂の量を可視化し、数値化したものです。
例: 食品のパッケージや電化製品などに「この製品は〇〇kgのCO₂を排出しています」と表示することで、企業や消費者が環境負荷を意識し、削減行動につなげることができます。

カーボンオフセット

カーボンオフセットとは、どうしても排出されるCO₂を、植林や再生可能エネルギーへの投資などで相殺する仕組みです。企業や個人が排出したCO₂の量を金銭的に換算し、その分を削減プロジェクトに資金提供することで、排出量のバランスを取ります。
例: 航空会社が飛行機の燃料使用によるCO₂排出を相殺するために、乗客がカーボンクレジットを購入できる仕組みを導入するなどの事例があります。

それぞれの用語が目指すゴールの違い

脱炭素 排出を「減らす」ことが目的(排出量を削減)
カーボンニュートラル 排出した分を「相殺」して実質ゼロにする
ゼロカーボン 排出を完全にゼロにする(理想的な最終目標)
カーボンフットプリント 排出量を「見える化」し、削減施策を明確化
カーボンオフセット 他の削減活動で「補う」ことで実質ゼロを目指す

物流業界での実例

脱炭素 電動トラックや鉄道輸送へのモーダルシフト導入
カーボンニュートラル 再生可能エネルギーを活用した倉庫の運営
ゼロカーボン オール電化倉庫やCO₂ゼロの輸送ネットワーク構築
カーボンフットプリント 1配送あたりのCO₂排出量を可視化するシステム導入
カーボンオフセット 排出分を植林プロジェクトで相殺

短期目標としてのカーボンニュートラルと長期的な脱炭素化の関係性

カーボンニュートラルと脱炭素は、どちらも温室効果ガスの排出削減を目指す取り組みですが、その達成スパンやアプローチには違いがあります。短期目標としてのカーボンニュートラルと、長期的な脱炭素化は、相互に関係しながら持続可能な社会の実現に向かっています。

・カーボンニュートラルは短期的な目標
カーボンニュートラルとは、「排出されるCO₂を削減しつつ、植林やCO₂の回収技術を活用して吸収量と均衡させることで、実質ゼロにする」ことを指します。企業や自治体は、まずはCO₂排出量の可視化を行い、クレジット制度や再生可能エネルギーの導入を通じて、一定のバランスをとることが求められます。

・脱炭素化は長期的なゴール
一方で、脱炭素とは「そもそもCO₂を排出しない状態を目指す」取り組みです。カーボンニュートラルは排出と吸収のバランスを取る手法ですが、脱炭素は化石燃料を完全に排除し、再生可能エネルギーや水素エネルギーなどに置き換えることで、根本的にCO₂を出さない社会を目指します。

両者の関係性
カーボンニュートラルは、脱炭素社会へ移行するための重要なステップです。短期的には排出量の相殺を活用しながら、長期的にはエネルギー転換や技術革新を通じて、完全な脱炭素社会を実現する流れとなります。物流業界でも、現在はEVトラックや燃料電池車(FCV)の導入を進めながら、将来的には水素燃料の活用やカーボンフリーのインフラ整備を目指すなど、段階的な取り組みが必要です。

カーボンニュートラルの具体的な企業の取り組み

ヤマトホールディングス株式会社

1.電気自動車(EV)の導入

ヤマトグループは、2030年までには電気自動車(EV)23,500台の導入を目指しています。

これまでも、輸送方法や距離に合わせた環境対応車両への入れ替え対応を積極的に推進しています。

2023年度末時点で、EVは2,275台、環境配慮車両(LPG車、CNG車(天然ガス)、ハイブリッド車)は36,002台、電動アシスト自転車3,606台を保有しており、既にヤマト運輸(株)の集配車両うち84%が環境配慮車となっています。

この計画の一環として、2021年11月から日野自動車と共同で「日野デュトロZ EV」を用いた実証実験を実施し、GHG排出削減や業務効率化の効果を確認できたため、2022年8月より首都圏を中心に導入を開始しました。

出典)

https://www.yamato-hd.co.jp/investors/library/report/pdf/158_01_03.pdf?utm_source=chatgpt.com

2.再生可能エネルギーの活用

気候変動問題を重要課題と位置づけ、2030年までに再生可能エネルギー由来の電力使用率を70%に引き上げる目標を設定し、太陽発電設備810基を導入しました。

2023年度には再生可能エネルギー由来電力を37%使用しています。

出典)

https://www.yamato-hd.co.jp/csr/environment/climate_change.html?utm_source=chatgpt.com

3.カーボンニュートラル配送

カーボンニュートラル配送とは、配送で排出されるCO2量を可能な限り削減し、未削減排出量に対しては、同等の気候変動対策の事業に投資することで(カーボンオフセット)、カーボンニュートラルを実現している配送です。

温室効果ガスの排出を最大限に抑え、残る排出量はカーボンオフセットを利用して埋め合わせ、

「国際規格に準拠した正確なカーボンニュートラル」を推進していきます。

出典)

https://www.kuronekoyamato.co.jp/ytc/corp/csr/takkyubin_carbonneutrality/

日本郵便

1.電気自動車(EV)の導入拡大

日本郵便では、GHG排出量削減に向け、EV (電動車) を順次導入しており、2025年度までに、集配用車両の軽四 13,500台、二輪28,000台をEVに切り替える予定です。これにより2025年度には軽四の50%、二輪の40%が EVに切り替わる見通しです。さらに、EVを有効に活用するため、配達途中の郵便局でバッテリーを交換し、一時充電のために帰局すること なく配達を続ける「二輪充電リレー」や、EVの充電時間をシフトし、地域の電力需要が高い時間帯での充電を避ける実証実験などの取り組みも推進しています。

2.+エコ郵便局

日本郵便では、太陽光発電設備などの再生可能エネルギーや、CLT※の活用などにより環境に配慮した「+エコ郵便局」の設置を推進し、当社のGHG削減のみならず、地域のカーボンニュートラル化の推進に取り組んでいます。

※CLT:クロス・ラミネイティッド・ティンバー 長い板状の木材を縦横交互に張り合わせた厚型のパネルで、強度や断熱性に優れており、コンクリートや鉄に比べてCO2の発生を抑制。

3.エシカル配送の試行実施

2022年7月~8月、東京都豊島区及び練馬区内の96の郵便局で、沖縄産のマンゴー、パイナップルを題材としたエシカルなふるさと小包の試行販売を数量限定で実施しました。

通常価格のほか、通常価格に100円をプラスしたカーボンオフセット対応価格の2種類の価格を用意し、お客さまに選択していただくこととしました。カーボンオフセット分としてプ ラス100円する金額は、国が認証する「J-クレジット」という仕組みを活用し、森林保護プロジェクトの支援に充てました 。

出典)

https://www.japanpost.jp/ir/library/disclosure/2023/pdf/int_03.pdf

脱炭素の具体的な企業の取り組み

佐川急便株式会社

1.モーダルシフトの推進

CO₂排出量削減のため、トラック輸送から鉄道や船舶輸送への切り替えを積極的に行っています。特に、日本貨物鉄道と共同開発した電車型特急コンテナ列車「スーパーレールカーゴ」による貨物輸送では、1日あたり10tトラック56台分の荷物を輸送しています。

2.バイオディーゼル燃料の活用

2023年6月〜12月に株式会社ユーグレナと共同で、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」を使用した「サステナブル配送プロジェクト」を実施しました。この取り組みにより、約4.11トンのCO₂排出量削減を達成しています。 

出典)

https://www.sagawa-exp.co.jp/sustainability/environment/carbonfree.html?utm_source=chatgpt.com

武田薬品、三菱倉庫、JR貨物

武田薬品工業株式会社、三菱倉庫株式会社および日本貨物鉄道株式会社は、このたびCO2排出削減を目指し、武田薬品の国内特約店向け医療用医薬品輸送の一部をトラックから鉄道輸送へ切り替えるモーダルシフトの取り組みを開始することとなりました。

国内の鉄道輸送による医療用医薬品配送の可能性について各種検証を行った結果、温度管理可能な鉄道コンテナを用い、各種セキュリティ対策等を施すことで、医療用医薬品の品質を適正に管理しながら、医薬品の適正流通(GDP: Good Distribution Practice)ガイドラインに準拠した輸送が実現できるものと判断し、一部の国内特約店向けの輸送を10月より鉄道へ切り替えることといたしました。

東京から北東北地区への幹線輸送部分を鉄道へ切り替え、その前後の輸送のみをトラック輸送することで、当該輸送におけるCO2排出量を現行比約60%減※1となる削減効果を見込んでいます。加えて、長距離トラック輸送の軽減により、物流の2024年問題※2への対応にも大きく貢献してまいります。

出典)

https://www.mitsubishi-logistics.co.jp/news/2023/20230928_01.html

まとめ

近年、物流業界では環境負荷の低減が大きな課題となっており、「カーボンニュートラル」と「脱炭素」という2つの概念が注目されています。本記事では、それぞれの定義や違いを明確にし、物流企業がどのように取り組んでいるのかを具体的な事例とともに解説しました。

カーボンニュートラルは、CO₂排出量を削減しつつ、カーボンクレジットやCCUS(炭素回収・貯留)などを活用し、排出と吸収をバランスさせるアプローチです。一方で、脱炭素は、CO₂排出を根本から削減し、化石燃料に依存しない持続可能な物流体制を構築することを目指します。

短期的にはカーボンニュートラルの達成を目標とし、長期的には脱炭素社会への移行が求められています。記事内で紹介した企業の取り組みのように、電動トラックの導入やモーダルシフト、再生可能エネルギーの活用など、多角的なアプローチが進められています。

物流業界全体で環境負荷の低減に取り組むことで、持続可能な社会の実現が加速することが期待されます。カーボンニュートラルと脱炭素、それぞれの視点を理解し、企業ごとの戦略に活かしていくことが今後の競争力にもつながるでしょう。

 

この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

 

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