物流業界の環境問題と再生可能エネルギー導入の背景
物流業界は、輸送や倉庫運営に伴う膨大なエネルギー消費が特徴的であり、CO₂排出量の削減が急務となっています。
地球温暖化が進行し、カーボンニュートラルの実現が国際的な目標として掲げられる中、物流業界にも持続可能性を求める声が高まっています。
背景には、企業が環境負荷を減らす責任を果たしつつ、効率的な運営を維持するという課題が存在します。
そこで注目されているのが、再生可能エネルギーの活用です。
太陽光発電や風力発電などのクリーンなエネルギーを倉庫や配送拠点に導入することで、CO₂排出を抑えるだけでなく、長期的なエネルギーコストの削減にもつながります。
また、EVトラックや水素燃料電池車の導入といった輸送面での取り組みも進んでおり、こうした動きは業界全体の脱炭素化を後押ししています。
再生可能エネルギーの概要
再生可能エネルギーとは、自然界に存在する風力、太陽光、水力、地熱、バイオマスなどから得られるエネルギーのことです。
これらは、枯渇することなく持続的に利用できるため、環境負荷が少なく、地球温暖化対策において重要な役割を果たします。また、化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーとして、世界中で注目されています。
物流業界では、再生可能エネルギーを活用することで、CO₂排出量の削減とエネルギーコストの最適化を図る動きが進んでいます。
倉庫・物流施設での活用例や輸送分野での応用
再生可能エネルギーは、物流業界のさまざまな場面で活用が進んでいます。
倉庫・物流施設での活用例
・太陽光発電の導入
倉庫の屋根や駐車場の上部にソーラーパネルを設置し、施設で使用する電力を自家発電します。発電された電力を施設内の照明、空調、フォークリフト充電などの設備に利用でき、余剰電力を地域の電力網に供給することで、経済的効果を生み出します。
・風力発電の活用
物流施設の周辺に風力発電設備を設置し、施設運営のエネルギーを補います。特に風力が安定している地域では、長期的なエネルギーコスト削減が可能になります。
・バイオマスエネルギーの利用
倉庫や物流施設で出る廃棄物をバイオマスエネルギーに変換します。木材や食品廃棄物を活用して発電し、施設の電力供給を補います。
・グリーン倉庫の構築
再生可能エネルギーを最大限活用する省エネ型の倉庫で、エネルギー管理システム(EMS)を導入し、エネルギー消費を最適化し、高断熱素材や省エネ空調を採用しています。
輸送分野での応用
・電動車両の充電インフラ
再生可能エネルギーを利用した充電ステーションを設置し、ソーラーカーポート(太陽光パネル付き駐車場)で配送車両を充電します。
・燃料電池車(FCV)の活用
再生可能エネルギーから生成されるグリーン水素を燃料として使用した、燃料電池トラックやフォークリフトの運用が進行中です。
・モーダルシフトでの再生可能エネルギー活用
鉄道や船舶輸送の電力を再生可能エネルギーで賄う取り組みで、電動貨物列車や電気船が導入され、輸送中のCO₂排出を削減します。
環境面・経済面のメリットと課題
再生可能エネルギーは、CO₂排出を削減しながら物流業務の効率化を図る手段として注目されていますが、その導入には環境面と経済面の双方で下記のようなメリットと課題が存在します。
環境面のメリットと課題
再生可能エネルギーを導入することで、化石燃料への依存を減らし、物流拠点や輸送時のCO₂排出量を大幅に削減できます。電動トラックや燃料電池車を活用すれば、大気汚染防止にもつながります。
ただし、エネルギー生産設備の建設や運用に際し、エネルギーや資源が必要となり、短期的には環境への負荷が完全にゼロとは言えません。天候や自然条件に左右される不安定さも課題です。
経済面のメリットと課題
長期的には、再生可能エネルギーの導入によりエネルギーコストが削減される可能性があります。
例えば、倉庫に設置された太陽光発電システムが自家発電を可能にし、運営費の削減につながります。しかし、導入時の初期投資が高額であることや、設備のメンテナンス費用が中小企業にとって負担となる場合があります。技術革新が進む中で、新たな設備への対応が求められることも課題です。
海外・国内企業の取り組み事例
日本瓦斯株式会社
日本瓦斯株式会社は「エネルギーを通じた地域社会への貢献」を使命に関東各地の営業所(2024年6月末現在、89ヶ所)で、それぞれの地域に根差したサービスを提供しています。
2021年にバッテリー交換式EV自動二輪(2台)、 太陽光発電設備(7kW)、定置用蓄電池 (6kWh)、バッテリーステーション及び付帯設備を導入により、CO₂排出ゼロの車両運行を実現し、環境保護に寄与するとともに、非常時には自給自足で電源を確保できる体制を構築しました。
この取り組みにより、年間で約5トンのCO₂削減と約21万円のエネルギーコスト削減に成功しました。
出典)
https://www.nichigas.co.jp/sustainability/community/safety
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/enetoku/case/pdf/2023/enetoku-jirei-2023-47.pdf
プロロジス
プロロジスは、2040年までにバリューチェーン全体(スコープ1・2・3)で温室効果ガス排出のネットゼロを目指しています。この取り組みの一環として、所有する物流施設の屋根に太陽光発電パネルを設置し、再生可能エネルギーの活用を推進しています。
2009年に「プロロジスパーク座間1」で初めて太陽光発電パネルを導入して以来、現在までに日本全国で80MWの太陽光発電設備(建設中を含む)を有しています。
また、非化石証書の活用により、カスタマーの電力グリーン化もサポートしています。太陽光電力でカバーできない部分を非化石証書で補完し、施設内で使用する電力を実質的に100%再生可能エネルギー由来とすることで、CO₂排出量ゼロを実現しています。
出典)
https://www.prologis.co.jp/solutions/energy?utm_source=chatgpt.com
ヤマトホールディングス株式会社
ヤマトグループは「気候・エネルギー」を重要課題と位置付け、環境方針に基づき気候変動対策を強化しています。
2050年までの温室効果ガス(GHG)自社排出実質ゼロと、2030年までのGHG自社排出48%削減(2020年度比)を目標に、EV23,500台の導入、太陽光発電設備810基の設置、ドライアイスの使用ゼロ運用の構築、再生可能エネルギー由来電力使用率を70%まで向上などの施策を実施します。
出典)
https://www.yamato-hd.co.jp/csr/environment/climate_change.html
物流業界における再生エネルギーの今後の展望
物流業界では、脱炭素社会の実現と持続可能な運営を目指して、再生可能エネルギーの活用が急速に進んでいます。今後の展望としては、技術革新や輸送の効率化と脱炭素化、そして物流全体のエコシステム化が予想されます。以下に、具体的なポイントを解説します。
技術革新による再生可能エネルギーの拡大
・グリーン物流施設の標準化
倉庫や物流センターの屋根にソーラーパネルを設置し、太陽光自家発電を行う取り組みがさらに一般化し、AIやIoT技術を活用し、再生可能エネルギーの発電量と消費量をリアルタイムで最適化できるようになり、エネルギー管理システム(EMS)の高度化が進むでしょう。
・電動化の進展
電動トラックや電動配送車の開発が進み、再生可能エネルギーで充電が可能なインフラが整備されます。また、再生可能エネルギーから生成されるグリーン水素を活用した燃料電池トラックが、長距離輸送で活躍するようになるでしょう。
・再生可能エネルギーの安定供給
再生可能エネルギーを効率的に貯蔵し、夜間や需要ピーク時に使用可能な蓄電システムが進化し、太陽光、風力、バイオマスなど複数の再生可能エネルギーを組み合わせた供給モデルが採用され、再生可能エネルギーの安定供給が可能になるでしょう。
輸送の効率化と脱炭素化
・AIとデータ活用によるルート最適化
AIが天候や交通状況、需要予測を基に輸送ルートを最適化することで、燃料消費量を削減し、輸送効率を向上させます。
・モーダルシフトの加速
鉄道や船舶を活用した長距離輸送が拡大し、鉄道や船舶の動力源を再生可能エネルギーに切り替えることで、CO₂排出を削減します。
・ラストワンマイルの電動化
都市部の配送において、電動スクーターやドローンの導入が加速します。小型電動車両と再生可能エネルギーによる充電インフラが整備され、ゼロエミッション配送が実現するでしょう。
持続可能なサプライチェーンの構築
・トレーサビリティの向上
再生可能エネルギーを使用したサプライチェーンを可視化し、消費者に透明性を提供します。また、輸送や倉庫管理でのエネルギー使用データがリアルタイムで共有されます。
・共同配送の推進
物流企業間での連携により、車両の稼働率を向上させ、再生可能エネルギーで稼働する電動車両を共同利用するモデルが広がるでしょう。
スマート物流と再生可能エネルギーの融合
・デジタルツインの活用
物流プロセスを仮想環境で再現し、エネルギー消費の最適化をシミュレーションすることで、再生可能エネルギーの導入効果を可視化し、効率的な運用を実現します。
・スマートシティとの連携
都市部でのスマート物流システムと再生可能エネルギーの連携が進み、自動運転車両やドローン配送と再生可能エネルギーのインフラが整備されるでしょう。
物流業界における再生可能エネルギーの展望は、技術革新と政策支援によって大きく広がっています。電動車両やグリーン倉庫の導入、スマート物流の普及により、環境負荷の軽減と業務効率の向上が同時に進むと期待されています。
まとめ
再生可能エネルギーの活用は、物流業界が直面する環境問題の解決と持続可能な社会の実現に向けた鍵となっています。
本記事では、物流業界における再生可能エネルギー導入の背景やその仕組みを解説するとともに、具体的な活用事例を倉庫や輸送分野において紹介しました。また、環境面・経済面でのメリットだけでなく、現時点で直面する課題や将来的な可能性についても詳しく考察しました。
再生可能エネルギーの導入は、物流業界にとって単なる環境対応策にとどまらず、コスト削減や競争力強化、規制対応といった多面的なメリットを提供します。同時に、技術革新や政策支援が進むことで、課題の克服と導入のさらなる加速が期待されます。
物流業界における再生可能エネルギーの活用は、環境負荷軽減と業務効率向上を両立する取り組みです。これからの物流は、持続可能性を基盤としながら、再生可能エネルギーとデジタル技術を融合させることで、より効率的で未来志向のモデルへと進化していくでしょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。