脱炭素社会の実現に向けて〜カーボンプライシングとは?

脱炭素社会の実現に向けて〜カーボンプライシングとは?

カーボンプライシングとは?

カーボンプライシングとは、CO2などの温室効果ガスの排出に対して価格を付け、企業や個人の行動を環境に優しい方向に促す政策です。カーボンプライシングの目的は、排出量にコストをかけることで、排出削減のインセンティブを生み出し、持続可能な社会を目指すことにあります。

 

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カーボンプライシングの分類

一般的に、政府によっておこなわれる主なカーボンプライシングには、下記があります。

炭素税

企業などが燃料や電気を使用して排出したCO2に対して課税します。政府がCO2排出量1トンあたりに一定の税金を課します。日本では「地球温暖化対策のための税」として化石燃料ごとのCO2排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり289円に等しくなるよう、単位量当たりの税率を設定しています。

参照)

https://www.env.go.jp/policy/tax/about.html

排出量取引制度(ETS=Emission Trading Scheme)

企業ごとに排出量の上限を決め、それを超過する企業と下回る企業との間でCO2の排出量を取引します。

クレジット取引

CO₂削減量や吸収量を「クレジット」として認証し、企業間で売買する仕組みです。主に「J-クレジット制度」などを通じて、企業が削減したCO₂量をクレジット化し、市場で取引します。

J-クレジットについてはこちらの記事を参考ください。

https://aidiot.jp/media/carbon/post-6971/

このほかにも、「石油石炭税」などエネルギーにかけられる諸税、法律による規制などもカーボンクプライシングに含まれます。

政府主導のしくみ以外にも、企業が自社のCO2排出を抑えるために、炭素に対して独自に価格付けをし、投資判断などに活用する「インターナル(企業内)・カーボンプライシング」などの方法があります。

参照)

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/carbon_pricing.html

 

温室効果ガスの排出にコストを課すことで、企業や個人が排出量を意識して、削減に努めるよう促す政策ということです。

この制度により、温室効果ガスの排出量の削減を目指した結果、クリーンエネルギーの利用が増加し、環境に優しい製品やサービスの価値が高まることが期待されています。

また、さらなる脱炭素化への投資が促され、温室効果ガス削減に向けた最新技術の普及が進むことも見込まれています。

 

世界で導入されているカーボンプライシングとは

2023年4月時点で世界全体で73のカーボンプライシング施策が導入されています。パリ協定の目標と整合する水準のカーボンプライシングがカバーするのは、世界の排出量の5%未満で、カーボンプライシング施策による収入は、 2022年に世界全体で約950億ドルとなっています。

 

EUをはじめ、中国や韓国なども排出量取引制度(ETS)を導入しています。

EUでは、2000年に制度設計、2003年の法制化を経て、2005年から世界で初めて「排出量取引制度(EU-ETS)」を開始。大規模排出者に参加を義務付け、その取引量は、EU域内のCO2排出量の4割強をカバーしていると推計されます。

 

韓国では2015年から制度が開始されました。直近3年間平均のCO2排出量が12.5万トン以上の事業者など、約600社が対象となっており、これは韓国の年間排出量の約7割をカバーしています。GHG削減設備の導入や省エネ技術開発、中小企業支援等するなどしています。

 

また、世界でもっともCO2排出量の多い中国でも、2021年から電力事業者を対象に全国規模で制度を導入しています。年間CO₂排出量が2.6万トン以上の石炭・ガス火力を有する約2,000社が対象となっており、これは中国の年間排出量の約4割をカバーしています。2025年までに、石油化学、化学、建材、鉄鋼、非鉄金属、製紙、航空も対象に加える予定です。

参照)

諸外国におけるカーボンプライシングの導入状況等

カーボンプライシングのメリットは?

CO₂排出削減の促進

カーボンプライシング導入の最大のメリットは、CO2排出量の削減効果が期待できることです。カーボンプライシングは、CO₂の排出に直接コストをかけるため、企業や個人に排出削減のインセンティブを与えます。排出量の多い企業にはコストが増えるため、効率的な運営や再生可能エネルギーの導入が促進されます。

市場を活用した効率的な排出削減

排出量取引制度(ETS)では、企業間で排出枠を売買することで、コスト効率の高い排出削減が可能になります。排出削減を進めた企業は余剰枠を販売でき、逆に排出量の多い企業は市場で枠を購入することで柔軟に対応できます。

税収の活用による社会的効果

炭素税などの税収は、省エネルギー技術の導入支援や再生可能エネルギーの開発に使用されます。これにより気候変動対策を進めつつ、経済の持続可能な成長が実現されます。

グリーンイノベーションの促進

カーボンプライシングにより、企業は排出削減のための技術開発に投資するインセンティブが生まれるため新たな市場機会を創出し、競争力の向上につながります。

環境と経済のバランスを調整

カーボンプライシングは、経済活動と環境保全のバランスを取るための効果的な手段です。市場メカニズムを通じて排出量を管理することで、経済成長と環境負荷軽減の両立を目指します。

消費者の意識・行動の変革

企業が積極的に脱炭素活動を行うことで、企業の製品やサービスを利用している消費者の行動変容や意識改革にもつながります。特にZ世代をはじめとした若年層は、製品やサービスの環境背景を重視する傾向がありますので、そのような世代の後押しを積極的に行うことで、消費者の脱炭素行動をより拡大していく可能性があります。

カーボンプライシングの課題とは

カーボンプライシングは、温室効果ガスの削減に有効な手段ですが、炭素リーケージのリスク、企業や消費者への負担などの課題もあります。

炭素リーケージのリスク

カーボンプライシングを促進する中で、カーボンリーケージという問題が発生する可能性があります。カーボンリーケージとは、CO2排出量規制の厳しい国の企業が規制の厳しくない国へ生産拠点を移すことで、排出量削減から逃れることです。地球全体の排出削減効果が薄れ、逆に移転先で排出が増える恐れがあります。

対策としては、国際的な連携や、輸入品への炭素税が求められます。

企業へのコスト負担増大

企業がカーボンプライシングを導入するということは、CO2排出量に応じた金銭的コストを負うということです。炭素税や排出権購入により、エネルギー多消費型の企業のコストが増加します。特にサプライチェーンをグローバルに展開している企業は、コスト負担が大きくなる可能性が高いでしょう。

対策としては、省エネ技術の導入や政府による支援が求められます。

消費者への負担増

電力や燃料価格が上昇することで、消費者も経済的な影響を受けます。中でも、低所得層への負担が大きく、生活コストの上昇が懸念されます。

対策としては、税収の一部を使った低所得者層への補助などが必要です。

価格設定の難しさ

炭素価格が低すぎると削減効果が期待できず、高すぎると経済に悪影響を与えるため、最適な価格設定が難しく、企業や政府の試行錯誤が続きます。

市場の動向に応じた段階的な価格設定が求められます。

日本におけるカーボンプライシング

日本では、環境税として、化石燃料の利用に対して課税される「地球温暖化対策税」が導入されています。税率が低いため、企業の排出削減へのインセンティブが十分でないと指摘されています。炭素税の導入も検討されているものの、現状導入はされていません。

 

排出量取引制度についても、東京都と埼玉県と自治体レベルで実施されていますが、全国的な取引制度は未整備で、影響範囲が限定的となっています。

 

日本と諸外国とでは、CO2排出量1トンあたりの値段に大きな乖離が生じており、世界に大きく遅れをとっていることがわかります。

日本は2030年度の温室効果ガス46%削減、2050年度のカーボンニュートラル実現という国際公約を掲げていることから二酸化炭素の排出量削減は急務であり、そのための議論が進んでいます。

 

2023年5月に成立した「GX推進法(グリーントランスフォーメーション推進法)」は、脱炭素社会への移行を促進するための日本政府の法律で、気候変動への対応を進めると同時に、経済や社会の成長を目指す取り組みで、2050年までにカーボンニュートラルを実現するための基盤を整え、エネルギー転換や新技術開発を推進していくとしています。

 

GX推進法では、再生可能エネルギーの普及や、新技術の開発・導入、企業への脱炭素目標の設定や、成長志向型カーボンプライシングの導入などについて、定められています。

2050年カーボンニュートラル実現等の国際公約と、産業競争力強化・経済成長を共に達成していくため、今後10年間に150兆円超 の官民GX投資を実現・実行するとし、カーボンニュートラルと経済成長を同時に実現していくことを目的として、「先行投資支援」と「排出削減を促進する措置(賦課金と排出量取引)」を2つの柱に施策が考えられています。

参照)

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20231225/231225energy04.pdf

まとめ

カーボンプライシングは、温室効果ガスの排出にコストを課すことで、企業や消費者に環境に優しい行動を促す重要な政策です。炭素税や排出量取引といった仕組みにより、再生可能エネルギーへの転換やエネルギー効率化が加速し、脱炭素社会の実現を目指します。

企業にとっては、新たな技術開発や市場創出のチャンスとなり、経済全体では持続可能な成長への大きな一歩となるでしょう。

 

日本では、2030年に温室効果ガス46%の削減を掲げ、2050年にはカーボンニュートラルの達成を国際公約として掲げています。カーボンプライシングの導入状況において、世界に比べ遅れをとっている日本ですが、2023年のGX推進法の成立により、今後GXが加速していくことが考えられます。

企業、政府、国民が一体となって取り組むことで、持続可能な経済成長と環境保護の両立が期待されています。

 

この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

 

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