脱炭素社会とは?基本から知る最新トレンド
脱炭素社会とは、温室効果ガス(主に二酸化炭素)の排出を極力抑え、地球温暖化を防ぐために社会全体で排出量を実質ゼロにすることを目指す社会のことです。
これを「ネットゼロ」とも呼び、2050年までに達成することが多くの国や企業の目標となっています。
最新トレンドでは、太陽光や風力、地熱など自然界から得られる資源を利用して発電やエネルギー供給を行う再生可能エネルギーが注目されています。繰り返し利用できるため、地球環境に負荷をかけず、枯渇する心配がありません。
また、カーボンクレジットというCO2など温室効果ガスの排出削減量を、主に企業間で売買可能にする仕組みも話題です。
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2050年ネットゼロに向けた国際的な動向
2050年までにネットゼロを達成するため、各国と企業は積極的に脱炭素化の取り組みを進めています。
EU
EUは「欧州グリーンディール」を掲げ、ネットゼロを目指しています。
欧州グリーンディールは、欧州連合(EU)が掲げる気候変動対策と経済成長戦略のことで、EUは、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にし、持続可能な社会と経済を実現することを目指しています。
主要な施策には、再生可能エネルギーの普及促進、電気自動車(EV)や公共交通機関の利用促進したグリーン交通、建物の断熱性能を向上し、エネルギー消費を削減する建築物の省エネ化、重工業や製造業における排出量の削減を支援する産業の脱炭素化などがあります。
アメリカ
アメリカは、2050年ネットゼロに向けて米国インフレ抑制法が制定されました。この法案の目的は、インフレの抑制と経済成長の促進、そして気候変動対策の強化を同時に実現することです。
2022年に成立した経済・気候変動対策法で、インフレ抑制を目的としながら、再生可能エネルギーの導入や脱炭素化に向けた投資を大規模に支援する内容です。
法案では、総額3690億ドル(約54兆円)を投じています。
参照)
https://ondankataisaku.env.go.jp/carbon_neutral/topics/feature-06-2.html#in-eu
2050年ネットゼロに向けた日本企業の取り組み
トヨタ自動車株式会社
トヨタ環境チャレンジ2050は、2050年までにCO2排出を実質ゼロにすることを目指し、環境保護と持続可能な社会の実現を推進するトヨタ自動車株式会社の取り組みです。このチャレンジは6つの目標から構成されており、気候変動、資源循環、生物多様性など幅広い環境問題に対応しています。
新車のCO2ゼロ
2050年までに新車からの二酸化炭素排出をゼロにすることを目指し、電動車の設定車種を増やしたり、大容量で効率の良い電池や水素などの燃料を使ったクルマの研究・開発を進めています。
ライフサイクルでのCO2ゼロ
製造から廃棄までの車両のライフサイクル全体において、CO2排出量を削減することを目指します。部品製造や物流の効率化、リサイクルの強化が重要なポイントです。
工場のCO2ゼロ
車の生産に関わる時間を短くしたり、車をつくるときにできる廃熱を利用する再生可能エネルギーの導入を推進する。環境負荷のない製造プロセスを構築することで、工場全体の脱炭素化を目指します。
水環境への貢献
工場で使った排水は、ゴミを取り除きバクテリアに汚れを食べさせるなど清浄化して自然環境を守ります。また、雨水を使用して、車をつくるときに使う水の量を少なくする工夫もしています。
資源の循環利用
廃棄物ゼロを目指し、リサイクル可能な部品や素材の活用を強化。使用済みのクルマをリサイクルしやすくするために、解体するときに部品を取り外しやすい設計にしています。
人と自然の共生
環境保護活動を通じて、生物多様性の維持に貢献します。WWF(世界自然保護基金)やIUCN(国際自然保護連合)などの国際機関の自然保全活動に協力しています。
参照)
https://global.toyota/jp/kids/environmentally-friendly/challenge2050/
三井不動産株式会社
三井不動産株式会社は、2050年のネットゼロ達成に向けた取り組みを加速させています。具体的には、温室効果ガスの削減目標として、2030年度までに2019年度比で40%削減、2050年までにグループ全体でのネットゼロ達成を掲げています。
東京ミッドタウン六本木と日比谷でのネットゼロに向けた取り組み
三井不動産株式会社は、東京ミッドタウン六本木と日比谷でのネットゼロに向けた取り組みを積極的に進めています。2024年10月から、東京電力エナジーパートナーとの提携を通じ、これらの施設の共用部に再生可能エネルギーを供給しています。供給される電力は、茨城県に新設された2つの太陽光発電所(谷向太陽光発電所、碁石沢太陽光発電所)からのもので、国内最大級の「オフサイトフィジカルコーポレートPPA(電力購入契約)」を採用しています。
この取り組みにより、2030年までに年間約2億kWhの再生可能エネルギーを供給することが計画されており、これにより年間8.5万トンのCO2排出削減が見込まれます。このような施策を他の商業施設にも拡大する計画を進めており、ネットゼロの実現に向けた長期戦略の一環としています。
参照)
https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2024/1001_01/
再生可能エネルギーの拡大
再生可能エネルギーは、2050年のネットゼロ達成に向けた鍵を握っています。太陽光や風力、地熱、バイオマスなど、自然の力を活用することでCO2排出を抑えたクリーンなエネルギーが世界中で注目されています。電力供給の脱炭素化は、エネルギー転換の中心的な課題となっています。
再生可能エネルギー拡大の重要性
持続可能なエネルギー供給は、自然から無限に供給され、枯渇しません。また再生可能エネルギーは発電時にCO2を排出しないか、非常に少ないことから、再生可能エネルギーの拡大は、脱炭素社会の実現に不可欠です。従来の化石燃料(石油・石炭・天然ガス)はCO2排出の大きな原因となるため、再生可能エネルギーへの転換が急務とされています。
再生可能エネルギー拡大の課題と課題解決のための技術
再生可能エネルギー拡大の裏にはいくつかの課題もあります。
太陽光や風力は天候や時間帯に左右されるため、電力供給が不安定であること、太陽光パネルや風力タービンの設置には、初期投資が必要なこと、発電した電力を効率的に供給するための送電網のアップグレードなどが挙げられますが、これらの課題を解決に導く、新たな技術も進んでいます。
発電した電力を蓄えて安定した供給ができる、蓄電池技術(バッテリー)や、AIを活用して電力の需給を最適化するスマートグリッド、再生可能エネルギーから作られる「グリーン水素」を燃料として活用する水素エネルギーなどがあります。
カーボンニュートラルを支える技術革新
カーボンキャプチャー&ストレージ(CCUS:Carbon Capture, Utilization, and Storage)は、脱炭素社会の実現に向けた重要な技術です。
CCUSは、工場や発電所などから排出されるCO2を回収し、それを地中に貯蔵するか、他の産業用途に活用することで、大気への排出を抑えます。
CCUSの仕組み
CO2を工場の排ガスから直接分離し、液体や圧縮ガスとして貯蔵します。これを海底や地中の枯渇油田、ガス田、深層帯水層などに注入する長期間貯留「ストレージ」や、燃料や建材などへの再利用(ユーティライゼーション)が行われます。
技術の実用化と課題
すでに世界各地でCCUSの実証プロジェクトが進められており、ノルウェーは、世界で初めてCCSを実現させた国です。1996年に操業開始した「スライプナープロジェクト」では、ノルウェー沖のスライプナーガス田で天然ガスを採掘する際に、二酸化炭素を分離して地中に貯留し、2008年には「スノービットプロジェクト」を操業開始し、300万トン以上の二酸化炭素を圧入しています。
日本では、日本で初めてとなるCCSの大規模実証実験を北海道苫小牧市で行い、2012年度から2015年度にかけて、実証実験設備の設計や建築、試運転などが行われ、2016年度からは地中への二酸化炭素圧入を開始しました。
しかし、CCUSの大規模普及には、技術のコスト削減とインフラ整備が課題となっています。
また、J-POWER(電源開発株式会社)、ENEOS株式会社およびJX石油開発株式会社は、国内CCSの事業化に向けた準備を加速するため、合弁会社「西日本カーボン貯留調査株式会社」の設立を決定し、CO2排出量削減を図るべく、国内での大規模なCCSの事業化調査に共同で取り組んでいます。
2030年のCO2圧入開始を目指し、地域、地方自治体および国・関係機関の理解と協力を頂きながら、J-POWER(電源開発株式会社)とENEOSの排出源が立地しCO2貯留ポテンシャルが見込まれる西日本地域において、CO2貯留候補地選定のための探査・評価などの事業化に向けた準備を推進していくとしています。
参照)
https://www.jpower.co.jp/news_release/2023/01/news230126.html
CCUSのメリットとは?
温室効果ガスの削減
CO2の大規模削減が可能で、工場や発電所などから排出される二酸化炭素を直接捕捉し、再生可能エネルギーの普及だけでは削減しにくい、セメント製造・鉄鋼業などの産業排出を抑える重要な手段となります。
カーボンニュートラル達成を支援
CCSは、化石燃料を完全に排除できない現実を考慮した「過渡的な技術」として活用され、脱炭素社会への移行をスムーズにします。また、バイオマス発電と組み合わせることで、排出以上にCO2を吸収する「カーボンネガティブ※」の実現も目指せます。
※カーボンネガティブとは、二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量が、森林や植林による吸収量よりも下回っている状態のこと。
サステナブルな経済発展の推進
CCS技術の導入により、パリ協定などの温室効果ガス削減目標を達成するための国際規制に対応できます。規制に準拠することで、国際競争力が向上し、新しいビジネス機会や雇用を創出します。
CCUSの発展は、再生可能エネルギーと並ぶ未来のカーボンニュートラル実現の鍵となります。技術革新と国際的な協力によって、持続可能な社会へと一歩ずつ近づいています。
脱炭素社会の未来展望
ゼロエミッション社会の実現
2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、電力だけでなく、交通や建築分野も再生可能エネルギーを活用します。
エネルギー自給自足社会
自然エネルギーを地域で生産し、消費する「地産地消」モデルが普及するでしょう。
持続可能な経済成長の実現
再生可能エネルギー分野での雇用創出と経済の活性化が期待されています。
再生可能エネルギーの拡大は、脱炭素社会を実現するための鍵です。安定供給の課題はありますが、技術の進化と政策支援により、持続可能でクリーンなエネルギー社会が到来する未来が期待されています。
脱炭素社会を目指すために私たちができること
脱炭素社会の実現には、私たち一人ひとりの行動が不可欠です。日常生活の中で意識的に選択を変えることで、地球温暖化を防ぐ取り組みに貢献できます。
エネルギーの使い方を見直す
家庭で使う電力を再生可能エネルギー由来のものに切り替えましょう。電力会社が提供する「グリーン電力プラン」に加入することで、化石燃料に依存せず、脱炭素に貢献することができます。また、こまめな節電もCO2排出削減に役立ちます。
サステナブルな交通手段を選ぶ
できる限り公共交通機関や自転車を利用することで、日々の移動からのCO2排出を抑えましょう。電気自動車(EV)やカーシェアリングの活用も有効な選択肢です。
消費行動の見直し
環境負荷が少ない商品やサービスを選ぶことも重要です。エコ製品やリサイクル素材を使った商品を購入することで、製造から廃棄までのCO2削減に貢献できます。また、食事では地元産の食材を選ぶ「地産地消」やフードロスを減らす工夫も効果的です。
再利用・リサイクルの促進
使い捨てを減らし、持続可能な暮らしを目指しましょう。衣類や家具のリユース、プラスチック製品のリサイクルを心がけることで、資源の無駄遣いを防ぐことができます。
これらの小さな取り組みを積み重ねることで、私たちは脱炭素社会の実現に向けた大きな力となれます。2050年のネットゼロ達成は、私たち一人ひとりの行動から始まります。
まとめ
2050年のネットゼロ達成に向けた道のりは、再生可能エネルギーの普及と脱炭素技術の進化が鍵を握っています。太陽光や風力といった再生可能エネルギーが主力電源となる未来では、カーボンニュートラルが経済成長と共存する新たなビジネスモデルを生み出します。
また、CCUS(カーボンキャプチャー&ストレージ)や水素エネルギーの技術革新により、CO2排出が難しい分野にも脱炭素の道が開かれています。
さらに、個人・企業・政府が連携し、電力の自給自足やスマートシティの導入を進めることで、環境負荷の少ない社会の実現が見えてきました。「持続可能な未来」はもはや遠い目標ではなく、技術革新と社会の意識変革が融合することで実現できる現実のものです。
2050年ネットゼロを目指すこの取り組みは、次世代に誇れる地球環境を残す責任であり、私たち全員が共に歩むべき重要な課題です。今こそ、再生可能エネルギーを中心に据えた新しい社会構築への第一歩を踏み出し、持続可能な未来へ向かって進んでいきましょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。