カーボンニュートラルを目指して〜日本におけるCCS事業の挑戦と可能性〜

カーボンニュートラルを目指して〜日本におけるCCS事業の挑戦と可能性〜

CCSとは?

CCS(Carbon Capture and Storage、二酸化炭素回収・貯留)技術は、気候変動対策の一環として注目されています。この技術は、発電所や工場などの施設で発生する二酸化炭素を大気に放出する前に回収し、地下の地質層に長期間貯留することにより、地球温暖化の主な原因である温室効果ガスの排出を削減する方法です。

CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)の活用は、2023年12月に公表されたCOP28合意文書でも、脱炭素化の方策として明記されており、日本では、2021年に閣議決定された「第6次エネルギー基本計画」の中で、2050年カーボンニュートラル実現のための具体的な方策のひとつにCCSがあげられています。

CCSのプロセスとは?

CCS技術は三つの主要なプロセスから成り立っています。

排出源においてCO2を回収し、輸送用に圧縮してから、厳選された安全な場所にある岩層の奥深くに圧入し、永久に貯留します。

1、回収

石炭および天然ガス火力発電所、製鉄所、セメント工場、精製所などの大規模な工業プロセス施設で生成されたガスからのCO2を分離、回収します。

2、輸送

CO2は分離された後、圧縮されてパイプライン、トラック、船、またはその他の方法で、地層貯留に適した場所へ輸送されます。

3、貯留

CO2は、通常1 km以上の深さの岩層に圧入されます。

(出典)経済産業省資源エネルギー庁

日本では、エネルギー消費が大きく、産業構造が複雑であるため、CCS技術の導入がカーボンニュートラル達成に向けた重要な選択肢の一つとされています。

特に、石炭火力発電所が多いことから、これらの施設でのCCSの活用が期待されています。

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2024年5月に成立した「CCS事業法」とは?

2024年5月に日本で成立した「CCS事業法」は、国内における二酸化炭素回収・貯留(CCS)事業の推進を目的とした画期的な法律です。この法律は、地球温暖化対策の一環として、産業施設から排出されるCO2を効果的に回収し、安全に地下に貯留するための法的・経済的基盤を整備することを目指しています。

「CCS事業法」により、政府はCCS技術の導入と運用におけるガイドラインを設定し、技術開発およびインフラ整備を支援します。

この法律には、民間企業がCCSプロジェクトを計画しやすくなるよう、財政的なインセンティブや補助金の提供も含まれており、CCS技術の商業的実用化が加速されることが期待されています。

さらに、「CCS事業法」は、貯留地の選定基準や安全管理のプロトコルを定めており、CO2の地下貯留における環境リスクを最小限に抑えるための厳格な規制枠組みを提供します。これにより、一般市民や地域社会の安全と環境保護が保障されます。

この法律の成立によって、日本はカーボンニュートラルを目指す国際的な取り組みにおいて、重要な役割を果たす可能性があり、CCS技術の発展と普及は、化石燃料依存の産業構造を持つ日本にとって、温室ガス削減の達成に不可欠な戦略となるでしょう。

海外でのCCS活用とは?

CCS技術は、特に先進国を中心に広がりつつあり、多くの国で具体的なプロジェクトが進行中です。

イギリスは2008年、EUは2009年、アメリカは2009年頃 に事業法が整備され、貯留層を利用する権利や事業者の責任範囲などが定められました。

ここでは、海外におけるCCSの活用事例を項目別に見ていきましょう。

ノルウェー 

ノルウェーはCCS先進国です。20年を超えるCCSの経験を誇ります。1996年に北海中央部、 ノルウェー沖の東スライプナー油田 の上部で、2008年にはバレンツ海、 ハンマフェストでCO2の貯蔵を開始しています。脱炭素の実現を2050年に向けて実施。

アメリカ

バイデン政権は2023年8月、石油開発大手オクシデンタル・ペトロリアム(本社:テキサス州ヒューストン)が主導するテキサス州南部コーパスクリスティ近郊の「サウステキサスDAC(直接大気分離回収)ハブ」と、東側の州境に接するルイジアナ州カルカシュー郡の「プロジェクト・サイプレス」の両CCS計画への支援を発表しています。支援額はそれぞれ上限5億ドル。計画では1基当たり年100万トン、仮に全30基が稼働すれば年間3,000万トンまでのCO2の回収が可能だそうです。

イギリス

2008年に、エネルギー法008にてCO2貯留を規制。2023年には、エネルギー法2023により、CO2貯留・輸送に事業規制を導入しました。

排出者のために200億ポンドの支援を決定し、一般産業向けには価格差に着目した予算支援、電力分野は需要家に対する賦課金による資金拠出を実施予定。

カナダ

カナダでは2018年からCO2削減に向けた連邦温室効果ガス汚染価格付け法という制度が施行されています。大規模事業所と一般市民に対してそれぞれ課せられています。

出典:https://www.pecj.or.jp/wp-content/uploads/2023/09/JPEC_report_No.230902.pdf

カナダのオイルサンド企業が集まったパスウェイズ連合ではCO2排出量を2030年までに年間2,200万トン削減し2050年までにCO2排出量を正味ゼロにする目標を掲げました。取り組みとしてはCO2を地下貯蔵する必要があるため、オイルサンド採取地から炭素貯留のハブまでCO2輸送ラインが敷設される予定です。

オランダ

オランダを拠点とする大規模なCCSプロジェクトPorthos (ポルトス)が進行中です。プロジェクトの一環で、ロッテルダム港にある複数の産業排出源から排出されるCO2が輸送され、北海海底の枯渇ガス田に貯留される計画です。2026年までの操業開始を目指し、2024年から建設が開始される予定で、プロジェクト完了後は、15年間あたり年間250万トンのCO2貯留を目指します。

 

これらの事例からも分かるように、世界各国でCCSは多様な形で導入され、地球温暖化対策の切り札としての役割を果たしています。日本もこれらの成功事例を参考に、独自の技術開発と政策推進が求められます。

国内初の大規模CCSプロジェクトの現状

国内で初めての大規模CCSプロジェクトの事例として、「苫小牧CCS実証プロジェクト」が挙げられます。実施場所は苫小牧港西港区で、苫小牧が選ばれた理由としては、実証試験を行うのに必要な環境や地層のデータがある事、近隣にCO2の大規模な排出源(工場・発電所など)がある事が挙げられています。

2012年から2015年に、実証試験設備の設計・建設・試運転等が行われ、2016年度から地中へのCO2圧入が開始されています。2019年には、目標である累計30万トンのCO2の圧入が達成されました。現在は圧入を停止していますが、安全点検を進行しています。

日本CSS調査株式会社(https://www.japanccs.com/)で苫小牧CCS実証プロジェクトの新着情報が公開されています。

CCS導入における技術的、経済的な課題とは?

CCS技術は、温室効果ガスの削減を目的としていますが、導入に際しては技術的および経済的な課題が存在します。

技術的課題

  1. 捕捉技術の高度化: 現在使用されているCO2捕捉技術は、まだ高コストかつエネルギー集約的であるため、より効率的な方法の開発が求められています。
  2. 輸送の安全性確保: 地下にCO2を輸送し貯蔵する過程で、漏洩リスクを最小限に抑える必要があります。これには、パイプラインの耐久性と監視技術の向上が不可欠です。
  3. 貯蔵地の選定とモニタリング: CO2を安全に地下深くに貯蔵するための地質学的適性地域を特定し、長期間にわたる環境影響を監視する技術が必要です。

経済的課題

  1. 初期投資の高さ: CCS設備の建設と運用には膨大な初期投資が必要であり、その投資対効果を正当化するためには、持続可能な資金調達策が求められます。
  2. 運用コスト: 捕捉したCO2を処理し、輸送し、貯蔵する過程で発生する運用コストは、現在のところ高額です。このコストを削減するためには技術革新が不可欠です。
  3. 政策との連携: CCSプロジェクトの経済的実行可能性を高めるためには、政府の補助金や税制優遇など、効果的な政策支援が重要です。

これらの課題に対する解決策が見つかれば、CCS技術は日本だけでなく、世界中でのカーボンニュートラル実現に大きく寄与することが期待されます。

CCS事業がもたらす経済効果と地域活性化

CCS事業は、CO2排出削減を通じて環境への負荷を低減するだけでなく、経済効果と地域活性化にも大きく寄与する可能性があります。以下にその主要な点を項目別に解説します。

経済効果

  1. 新産業の創出: CCS技術の導入には専門的な技術が必要であり、これに伴い新たなビジネスチャンスが生まれます。これにより、設備の設計、建設、運用に関連する企業が新たな市場を開拓できる機会が創出されます。
  2. 雇用機会の増加: CCSプロジェクトは、技術者から運営スタッフまで幅広い職種で人材を必要とします。プロジェクトの各フェーズで地元の雇用創出につながるため、地域経済にプラスの影響を与えることが期待されます。
  3. 関連産業への波及効果: 例えば、CCSにより安定した地下貯蔵施設が求められることから、地質調査や建設業に新たな需要が生まれます。また、継続的な監視が必要なため、センサーやデータ分析サービスなどの技術が活用される機会も増えるでしょう。

地域活性化

  1. 地域資源の活用: 日本の多くの地域は、CCSに適した地質的特性を有しています。これを活用することで、地域独自の資源を生かした新たな産業基盤を築くことができます。
  2. 地域エネルギー政策の推進: CCS事業は、地域が自らのエネルギーミックスを多様化し、持続可能なエネルギー供給体系を構築する手段となり得ます。これにより、エネルギーの自給自足率向上にも寄与し得ます。
  3. 地域ブランディング: 環境に配慮した革新的な取り組みを行っている地域として認知されることで、投資や観光など、他の分野への好影響をもたらすことが期待されます。

CCS事業の積極的な推進は、地球温暖化対策というグローバルな課題解決の一環でありながら、地域経済の活性化にも貢献する多面的な効果を持つ重要な戦略です。

まとめ

日本では、CCS技術が地球温暖化対策の一環として注目されており、苫小牧の実証プロジェクトをはじめとする多くの取り組みが進んでいます。

これらのプロジェクトは、CO₂の排出を抑えつつ、貯留や再利用を通じて環境負荷を減らす技術の実現を目指しています。今後、経済性やインフラ整備の課題を解決することで、さらに多くのCCSプロジェクトが実現し、日本の脱炭素社会の実現に貢献していくことが期待されています。

 

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この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。

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