炭素繊維とは?
炭素繊維とは炭素原子を集めた繊維のことで、業界では「夢の素材」といわれています。機能材料が開発されるようになって広く普及し始めてから、炭素繊維はマーケットで注目の的になりました。炭素繊維は軽くて丈夫なのが特徴の機能材料で、航空機の機体や自動車の車体などに使用されています。
最新技術による進化が止まらない炭素繊維の生産と再利用は、地球環境を守ることにつながります。そのため今後さらに使われる機会は多くなるでしょう。カーボンニュートラルの実現に向け、欠かせない素材の1つです。
炭素繊維の特徴
炭素繊維がどんな特徴を持つ素材なのかを簡単に解説します。炭素繊維は丈夫かつ軽いので、乗り物を軽量化することが可能です。乗り物のCO2排出量削減を期待できるため、各業界で注目を集めています。
丈夫で軽い
炭素繊維は丈夫で軽いのが特徴です。強度は鉄以上ながら、アルミよりも軽いです。丈夫で軽い素材は、航空機や自動車などを製造する際に重宝されています。なぜならそれらを製造する場合、強度と軽さを両方とも求められるからです。今では航空機や自動車以外に風力発電装置やゴルフシャフトにも使われるなど、用途の幅は年々広がっています。
乗り物の軽量化が可能
航空機や自動車など乗り物に使う材料を従来の素材から炭素繊維に転換することで、大幅な軽量化が実現します。上記で説明した通り、軽量化しても強度が落ちることはありません。それどころか鉄よりも丈夫なので、少々の衝撃では壊れないのが大きな魅力です。
炭素繊維を使用するメリット
炭素繊維を積極的に使用することには、いくつかのメリットがあります。軽量化によるCO2削減効果はもちろんですが、電気自動車の走行距離を延ばせるなどのメリットもあります。メリットについて見ていきましょう。
軽量化によるCO2削減効果
長い距離を移動する航空機や自動車などの軽量化は、CO2排出量削減に効果的です。もちろん炭素繊維製造時のCO2排出量を上回る削減効果を期待されているため、航空機や自動車などへの導入が進んでいます。燃費の大幅な向上によって、カーボンニュートラルの実現を目指します。
電気自動車の走行距離を延ばせる
今はガソリン車から電気自動車への移行が活発化していますが、電気自動車には重いバッテリーを搭載しなければならないという課題があります。そのため電気自動車が1度の充電による走行距離を延ばすには、車体を少しでも軽量化させる必要があります。
炭素繊維を使用した電気自動車なら軽量なので、使用していない電気自動車と比べて走行距離を延ばせます。走行距離が延びれば充電回数も減るため、非常に効率的なのは間違いありません。炭素繊維を使用することで、車体が軽量化されます。
ハイペースでの生産が可能
これまでは炭素繊維の部材を製造するのに時間とコストがかかっていましたが、その状況が変わりつつあります。これまでモビリティ分野では、一部の高級車にしか使用されていませんでした。ですが、大量生産が可能な炭素繊維の部材が、ついに開発されました。その部材なら、プレス成形による量産にも対応できます。今までの成形方法だと約2時間ほどの時間を必要としていましたが、新しい部材だと最長でも5分前後しか必要としません。これによりハイペースでの生産が可能となりました。
また、強度を保ちつつコスト削減にも成功するなど、広く普及することを目指して日々改良を重ねています。普及が進めば、カーボンニュートラルに一歩近づけます。
複雑な形状にも対応可能
新しい炭素繊維の部材に使用されているのは、比較的短い繊維です。短い繊維の特徴は、設計の制限がほとんどないことです。そのため複雑な形状への対応も不可能ではありません。すでに、トヨタや日産など、大手メーカーの自動車で使用されています。各メーカーが思い描く自動車のデザインに対応できるため、今後も続々と使用されていくでしょう。設計の自由度の高さも、新しい炭素繊維の魅力です。
活用事例
炭素繊維を実際の製品に活用している事例は、すでに数多くあります。たとえば航空機・電気自動車・風力発電ブレードが、代表的な活用事例です。どのように活用されているのかをそれぞれ確認していきます。
航空機
航空機は過酷な環境の中で航行するため、トップクラスの品質を要求されます。最新の炭素繊維部材は、大きな負荷にも耐えられるだけの耐久性を誇ります。張力や圧縮に強いのはもちろんですが、浸食や変形や疲労にも強いのが魅力です。ナノレベルでの加工を施し、トップクラスの品質に仕上げています。その結果航空機だけに限らず、宇宙ロケットや人工衛星にも、炭素繊維部材が使用されています。炭素繊維部材は、航空宇宙産業を支える素材として期待されています。
電気自動車
車体が軽くなると走行距離を延ばせるため、電気自動車には炭素繊維部材が使用されている場合があります。電気自動車の性能に直結するので、使用しない手はありません。さらなる高性能化と普及を目指し、日夜研究が進められています。他の材料では替えがきかない点も炭素繊維部材の特徴で、これからの時代に必要不可欠だといえるでしょう。
風力発電ブレード
世界的なカーボンニュートラルの流れから再エネによる発電が脚光を浴びているため、風力発電ブレードの炭素繊維部材活用には期待が集まっています。風力発電ブレードの補強材として、炭素繊維部材を使用する活用方法です。従来のままだとブレードがたわんで支柱にぶつかり壊れるリスクがありましたが、炭素繊維部材で補強するとブレードのたわみを防げます。
数ある再エネ発電の中でも風力発電は世界的に拡大しているので、拡大とともに炭素繊維部材が普及してもおかしくありません。状況次第では、炭素繊維部材の市場が一気に広がる可能性もあります。
炭素繊維が抱える課題と対策
素材として万能な炭素繊維ですが、課題を何も抱えていないわけではありません。炭素繊維は、リサイクル面とコスト面で課題を抱えています。それらの課題と対策について確認していきましょう。
リサイクル
炭素繊維の課題としてよく挙げられるのがリサイクルですが、以前と比べて徐々に状況が改善されています。少しずつですが、研究と開発の成果が出てきました。たとえば廃棄物と化した炭素繊維を燃やす時に出てしまうガスをそのまま放置せず、リサイクルする技術の開発です。単に燃やして廃棄するのではなく、ガスを抽出して役立てようとする考え方です。この技術が広まれば、リサイクルの課題が解決します。
コスト
一部改善の傾向は見られるものの、炭素繊維素材の製造にはどうしても安くないコストがかかります。炭素繊維素材を従来の技術で製造しようとした場合、対炎化と加熱炭化が欠かせません。これらの処理をするのに、安くないコストがかかってしまうのです。しかも数多く合成することは難しいため、供給量がなかなか増加しないのも問題です。
ただ、最新の製造方法では、エネルギーの低減とコスト削減の両方が実現しています。もしも近い未来にこの最新の製造方法が普及すれば、コストの問題を解決できる可能性が見えてきます。これまでできなかった大量生産ができるようになり、製造コストの大幅な削減を期待できます。
まとめ
カーボンニュートラルで注目の素材と期待されている、炭素繊維について紹介しました。さまざまなメリットはもちろん、これから解決しなければいけない課題についても解説しました。炭素繊維は丈夫で軽いため、航空機や電気自動車などで使用されるようになってきています。軽ければCO2の排出量削減に効果的なので、今後さらに使用が拡大する可能性は十分あります。
ただ、リサイクルやコストといった課題も抱えているので、解決を急がなければなりません。エネルギーを低減させて大量生産ができる新しい製造方法が開発されていますので、今後の動向を注視していきましょう。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。