昨今、製造業をはじめとする様々な分野において注目をあつめている「デジタルツイン」ですが、どのようなもので、どのようなメリットがあるのでしょうか？この記事では、デジタルツインに関する基本的な情報と、導入している企業や国の取り組みを紹介します。
デジタルツインとは？
そもそもデジタルツインとは、物理的な空間（現実）に実在するものを、デジタル空間（仮想空間）でリアルに表現したものを指すもので、現実世界の仕組みや稼働状況を仮想空間に構築し、リアルなシミュレーションを可能にする技術です。IoTが普及し、センサやサービス利用状況などのあらゆるデータの取得が可能になったことで、デジタルツインの技術も飛躍的に進化し、必要性が高まっています。
デジタルツインとシミュレーションの違いとは？
デジタルツインと混同しがちなものとして「シミュレーション」があります。これらの違いは大きく分けて２つあります。
１つは、「情報量」です。シミュレーションでは、決められた情報、例えば、建物やその周辺の地形のデータを入力しておき、それを仮想空間内で動かしたり眺めたりすることができます。一方、デジタルツインでは、現実空間のデータを基としているので、データの項目数が多く、現実世界の条件により近づきます。例えば、建物周辺の風の影響や天気、近くを通り過ぎる人の流れに関するデータなど、様々なデータが仮想空間上に再現されます。
デジタルツインとシミュレーションのもう一つの違いは、「リアルタイム性」です。シミュレーションでは、ある時点でのデータを切り取って再現しますが、デジタルツインでは現在の現実空間の情報であっても取り込んで再現可能です。それによって、より現実に近い現象を再現させることが可能になります。
デジタルツインの構成
デジタルツインの構築には、現実世界の情報をセンシング、情報をネットワークに送信・保管・加工・処理する情報基盤、分析結果の可視化が必要になります。具体的には、「IoT」「5G」「AI」「AR/VR」といった技術になります。
デジタルツイン導入のメリットとは？
ここまでで、デジタルツインの概要と構成に関しては理解いただけたかと思いますが、デジタルツインを導入することで得られるメリットはなんでしょうか？ここでは、具体的なメリットを3つに絞って紹介します。
コスト削減
現実世界において、製品を開発・導入後にどのような課題があるのかを検証するためには、試作を行い、評価設備を使って行う必要があります。実際にこれらを手配するためには、それなりの人件費や設備費、材料費が発生します。
そこで、デジタルツインがあれば、かなり現実に近い状態の仮想空間上で製品の動きや使われ方を再現させることができるので、試作に比べてかなり大きなコスト削減ができることになります。
業務効率化
製品を市場投入した後や、製造時に発生する問題については、発生時点で直ちに発生原因と発生箇所を把握する必要があります。そういった不具合解析において最も重要な「再現確認」の作業においては、検討の筋が悪いと闇雲に時間がかかってしまうことが多々あります。
ところが、デジタルツインを活用し、様々なデータを再現させて確認を行うことで、影響を及ぼす箇所の特定や再現性が得られるパターンを迅速に見つけることができます。結果的に、スピーディに改善策の考案ができるため、トータルで見ると業務効率化に寄与しています。
スムーズなメンテナンス
従来のシミュレーションであれば、出荷時点で検証を行なっているため、それ以前に発生しうるトラブルに関しては対応できています。しかし、納入後に発生したトラブルに関しては、改めてモデリングを行なってシミュレーションする必要があります。
そのため、メンテナンスなどのアフターサービスに関しては時間や費用が余計に発生してしまうことがあります。デジタルツインであれば、モデルはそのままに、入力するデータを最新版としたり、リアルタイムで使用状況などの情報も含めてサポートできるため、症状の検出も対応もスムーズに行えます。
デジタルツインを活用した企業例
AB InBev
AB InBevはバドワイザー、ミラーなどのビールブランドを抱える世界最大のビール会社です。AB InBevは、多数のセンサーを醸造所に設置してデジタルツインを導入しています。センサーを使って、醸造の化学反応の状況や温度をトラッキングし、品質を常に確認し、同時に電力利用の状況をトラッキングして、環境負荷の削減目標達成にも利用しています。
テスラ
電気自動車を製造するテスラでは、販売した全車両に対してクルマのデジタルツインを保有し、走行中の他の自動車や人の動きなどの車両周辺環境、道路の通過場所などの認識に関わる情報を常に収集しています。
これによって、車両周辺環境の分析やアルゴリズムのアップデート、道路のマッピング、新しい状況に対応する方法の設定などが可能になっています。さらに、充電ステーションの設置場所の最適化やバッテリー利用の最適化などを、事前にシミュレーションできます。
米GE
米GEでは、航空エンジン「GE90」のブレードをデジタルツインで再現し、時間経過によるエンジンブレードの損傷予測に利用しています。巨大な飛行機のエンジンはメンテナンスコストが高いため、デジタルツインの活用により、ボーイング社などGEの顧客はメンテナンス頻度を最適化してコストを削減することができます。
富士通
富士通では、カラーフィルターメーカーの工場では、設備や機器をすべてデータ化してツイン工場として再現しており、各機器の消費電力やコンディションを遠隔で監視しています。技術承継の課題に対応しようと、熟練工の視点を利用して技能を記録することにも取り組んでいます。
国でデジタルツインを活用？
イギリス
イギリスでは、政府が主導となって推し進めている「National Digital Twin Programme」があります。そのプログラムでは、建造物、自然物などのデジタルツインを多数のソースから集めて、「デジタルツインシステムのシステム」を構築することを目標としています。
例えば、下図のように移動手段である航空、鉄道、バスのデジタルツイン、太陽光/風力発電・送電などのデジタルツイン、そしてそれらの電力を保存する建物やEV車両などのデジタルツインを作成して、これらの間でどのようなデータを共有すべきか、何が連動しているのかなどを検討します。
併せてデータモデリングの安定化、セキュリティの確保、特定データへのアクセス権などにわたるデータ管理フレームワークを開発しています。
シンガポール
シンガポールでは「バーチャル・シンガポール」という国を挙げた取り組みが進んでいます。これは、都市そのものをデジタル化する試みです。
さまざまなデータをベースに、仮想空間で3Dモデルを構築し、そこにあらゆるリアルタイムデータを統合します。これにより、インフラの整備や渋滞の緩和、アクセシビリティの改善につなげようとしているのです。
現実世界では国民から批判を受けそうな施策でも、仮想空間で簡単に実験できるため、さまざまなシミュレーションにより、今よりはるかに暮らしやすい国が実現するかもしれません。
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まとめ
デジタルツインの基本情報やメリットに関して、理解いただけましたでしょうか？すでに積極的に取り組んでいる企業や国もいるようなので、有効な活用方法があれば、ぜひ活用していきたいですね。
この記事の執筆・監修者
Aidiot編集部「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。
