物流統括管理者(CLO)とは?
物流統括管理者(Chief Logistics Officer、以下CLO)とは何か?物流全体を統括するCLOの位置づけと、その役割の重要性について解説します。
CLOとは、物流の適正化・生産性向上に向けた取り組みの責任者を指します。「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律」の改正法によって、特定荷主企業に対して選任が定められた役職です。
特定荷主とは?
第⼀種荷主、第⼆種荷主及び連鎖化事業者に該当し得る者について、取扱貨物の重量が多い順に対象とし、指定された第⼀種荷主、第⼆種荷主及び連鎖化事業者の取扱貨物の重量(貨物⾃動⾞を使⽤して運送されたものに限る。)の合計が取り扱われる貨物の全重量の半分程度となる事業者を指定の対象とすることを想定、としています。
参照)
「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律 及び貨物⾃動⾞運送事業法の⼀部を改正する法律」 の施⾏に向けた検討状況について
CLOの定義とは?
フィジカルインターネットセンターは、「持続可能な社会と企業価値向上を実現するために、モノの流れを基軸としたサプライチェーンにおいて、経営視点で社内外を俯瞰した全体最適を図る役割を担う責任者」としています。
ちなみに、CLOという名称は米国では一般的なのですが、欧州などでは、「CSCO(Chief Supply Chain Officer)」という呼び方をされることもあるといいます。
ここからはCLOの主な役割について詳しく解説していきます。
CLOの主な役割とは
物流戦略の立案と実行
CLOは、輸送、保管、在庫管理など各物流プロセスの効率化を図り、コスト削減やスピードの向上を目指します。これは、製品の調達から顧客への配送までのすべての過程を計画・監督する役割です。
サプライチェーンの効率化
CLOは、サプライチェーン全体がスムーズに機能するように、各部門やパートナー企業と連携しながら業務の最適化を行います。これは安定したサプライチェーンの確立により、商品が確実に顧客に届き、会社の信頼や顧客満足度が高まるためです。
在庫の適正化や輸送コストの削減、流通経路の最適化など、サプライチェーンのどの部分でも効果的な改善が行えるように指導します。
コスト管理と効率化
物流には多額のコストがかかるため、CLOはコスト削減と効率向上の両立を目指します。物流ルートの見直しや輸送手段の効率化、保管コストの削減、配送計画の最適化など、コストを抑えつつ迅速な配送を実現するための施策を導入します。
サステナブルな物流の推進
環境への配慮が求められる現代、CLOには持続可能な社会の実現に向けた、職場の働き方改革や物流GX(物流に関するグリーントランスフォーメーション)の推進も求められます。
円滑なサプライチェーンを維持するために、職場の魅力的な環境作りやモーダルシフト、共同配送の推進といった取り組みが必要です。物流現場の担い手不足解消や物流の効率化を目指すと共に、環境負荷の軽減を図り、社会への貢献をリードする責務を負います。
リスク管理と危機対応
物流には輸送中の事故や遅延、災害などのリスクがつきものです。CLOは、これらのリスクに備えて計画を立て、緊急時には迅速な対応を行います。
様々な物流リスクを予測し、各種対策を講じるほか、トラブルが発生した場合に迅速に対応する体制を整えます。また、災害時に備えたバックアップルートの確保や、サプライチェーンの柔軟性を高める取り組みも行います。
最新テクノロジーの活用
CLOは物流の効率化や精度向上のために、AIやIoT、デジタルツインなどの最新テクノロジーを積極的に導入します。
輸送状況のリアルタイム追跡やAIを活用した需要予測、倉庫内での自動化など、デジタル技術を駆使して物流の精度とスピードを高めます。
CLOは、物流とサプライチェーン全体を効率的かつ効果的に管理する企業の重要な役職です。物流コストの管理からリスク管理、最新技術の導入、そして環境への配慮に至るまで、多岐にわたる役割を担います。企業が持続可能で効率的な物流を実現し、顧客満足度と企業競争力を高めるための不可欠な存在です。
CLOに求められるスキルと能力
CLOは、企業の物流部門全体を統括し、効率化やコスト削減、持続可能な運営を実現するために多様なスキルと能力が求められます。以下に、CLOとして効果的に業務を遂行するための具体的なスキルと能力について詳しく解説します。
物流に関わる知見
輸送方法による特性の違い、共同配送、 倉庫管理、ルーティング、トラッキングなど、商品や資材の輸送、保管、加工、配送などのプロセスなどの物流の知見が必要となります。
サプライチェーンマネジメント能力
物流はサプライチェーンの一部であり、他の部門や外部パートナーと緊密に連携する必要があります。サプライチェーンに関わる知見は、製品やサービスの生産から消費者への配送までの全体的なプロセスに関する理解を指します。
調達から配送までの最適化を図り、各部門と連携して一貫した物流体制を構築する能力や、運送業者、倉庫業者、サプライヤーなど外部の協力企業と良好な関係を築き、信頼性の高いサプライチェーンネットワークを形成する力が必要となります。
テクノロジーとイノベーションへの適応力
物流はテクノロジーの進化が著しい分野であり、新しいツールやシステムを柔軟に取り入れる力が求められます。
最新のマテハン技術や物流情報の標準化、データ分析やAIなど、最新のテクノロジーを積極的に学び、物流効率化に応用し、イノベーションに対する柔軟な姿勢を持ち、既存の業務プロセスに常に改善の余地を見出して効率を高める力が必要です。
戦略的思考力と問題解決能力
CLOは、企業全体の物流戦略を策定し、長期的なビジョンに基づいた判断が求められます。全体最適の視点で、物流プロセス全体を俯瞰し、最も効率的かつ効果的な物流戦略を立案します。
また、物流の現場では、予期しない問題やトラブルが発生しがちです。CLOは、問題の原因を迅速に特定し、最適な解決策を見出すスキルや、リスクを予測し、トラブルに備えた予防策や緊急時の対応計画を立てる能力も必要です。
環境意識と持続可能性への理解
物流業界も、脱炭素化や環境負荷の低減が求められているため、サステナブルな物流運営への取り組みが重要です。
CO2排出量の削減や、リサイクル可能な資材の使用など、サステナビリティを意識した物流戦略の立案や、電気自動車の利用、エネルギー効率の改善など環境への影響を最小限に抑えるために必要な技術や取り組みを理解する力も必要です。
物流CLOには、サプライチェーンマネジメントやデータ分析力、戦略的思考力と問題解決能力といった基礎的なスキルに加え、持続可能な物流を推進する環境意識や最新テクノロジーへの理解が必要です。これらのスキルを兼ね備えることで、CLOは企業の成長を支える物流戦略をリードし、変化する市場環境にも柔軟に対応できる人材となります。
CLOを目指すために必要なキャリアパスと教育
物流のCLOを目指すためには、物流オペレーションやサプライチェーンマネジメントなどの基礎的な業務経験や、マネジメント経験のほか、以下のようなキャリアパスや教育が必要とされています。
高度な専門知識の習得
デジタルトランスフォーメーション(DX)
物流業界のデジタル化が進む中、AIやビッグデータ、IoTなどを活用した業務改善や効率化が求められます。物流のDXに関する知識を習得し、実務に活かすことが重要です。
サプライチェーンのグローバル戦略
国際物流や貿易の知識を深め、グローバルなサプライチェーンを管理するためのスキルを身につけます。
リスクマネジメント
危機管理の視点から、サプライチェーンのリスク分析やリスク対応策の策定に携わる経験が役立ちます。
CLOに向けたスキルアップ教育
MBAや物流専門の修士課程
物流やサプライチェーン管理を学ぶための専門的な修士課程や、ビジネス管理を学べるMBAの取得を検討すると、戦略的視点を養うことができます。
資格取得
サプライチェーンマネジメント(SCM)や、CSCP、CPLなどの物流管理の認定資格を取得し、専門性を証明することも役立ちます。
リーダーシップトレーニング
上級管理職に求められるリーダーシップスキルを学ぶためのトレーニングやワークショップへの参加も有効です。
業界動向の把握とネットワーキング
業界カンファレンスやセミナー
物流業界の最新動向を把握するために、業界のカンファレンスやセミナーに積極的に参加しましょう。
業界団体への参加
物流関連の業界団体やサプライチェーン協会などに参加し、ネットワークを広げることも重要です。
CLO設置により期待される効果
物流DXの推進
CLO は、物流やサプライチェーンのデータを把握し、分析する役割を担っています。全体最適を目指す上でDXを推進することで、膨大なデータを迅速に分析して物流部門のニーズ・課題を正確に把握し、ビジョンの実現に向けた 具体的な計画を立てることが有効です。
AIやIoT、デジタルツインといったデジタル技術を活用すると、物流のスピードや精度が上がり、企業全体の成長を加速させることができ、データ分析に基づく意思決定を強化し、未来志向の物流モデルを構築できるでしょう。
標準化の推進
トラック輸送だけに頼らない物流の構築や、効率的でシームレスな輸送の実現には、物流の標準化が不可欠です。物流費の削減を目的に、これまで各企業が物流の個別最適化を行ってきました。全体最適化を目指すために、自動化やモーダルシフトに備えた規格の標準化が求められます。
企業間連携の促進
CLOを設置することで、CLO間の対話が生まれ企業同士が協力し合い、例えば企業間の共同配送など、互いの強みを活かして共通の目標を達成するための関係を築くことができます。それにより相乗効果が生まれ、企業単独では得られない競争優位性や新たなビジネス チャンスを獲得することが期待できます。
CLOが目指す物流の未来と課題
効率化と自動化の物流
CLOは、倉庫内の自動運搬車やドローン配送、AIによる在庫管理など、AIやロボティクス、IoTなどの最新技術を活用して、自動化された物流を目指しています。物流プロセスの多くを効率的に自動化することで、配送スピードと正確性が飛躍的に向上します。
課題:自動化には大きな初期投資が必要であり、特に中小企業にとっては負担が大きいことが問題です。また、システム導入や運用に必要なスキルを持った人材も不足しています。
環境に配慮したサステナブル物流
CLOは、脱炭素を目指し、エコな物流体制を構築しようとしています。具体的には、電動車両や再生可能エネルギーを活用した配送、効率的なルート選定によりCO2排出量を削減することが目標です。また、リサイクル資材を使った梱包も注目されています。
課題:電動トラックや再生可能エネルギーの活用には多額のコストがかかり、即座に導入するのは難しい企業もあります。また、エコな選択が配送スピードやコストに影響を及ぼすケースもあるため、バランスが重要です。
リスクに強い物流体制(レジリエント・サプライチェーン)
CLOは、自然災害や世界的な混乱にも強い物流体制を目指しています。複数の配送ルートや供給源を確保して、何かが起きても影響を最小限に抑えられる体制を構築します。
課題:複数のサプライチェーンを維持することはコストがかかるうえ、日々の管理も複雑です。また、サプライチェーンの透明性を確保するためにはデジタル技術が必要で、そのために、データの安全性やプライバシーも考慮しなければなりません。
デジタル化とDXの推進
AIによる需要予測、データ分析による業務の最適化、IoTを活用した在庫・輸送の監視などを目標に、デジタル技術を駆使して物流全体をリアルタイムで可視化し、データを基に最適な意思決定を行う「スマート物流」を実現します。
課題:DX推進には高度な技術と人材が求められ、従業員のITスキル向上や新たなシステムの導入が不可欠です。また、システムのサイバーセキュリティの確保も重要な課題です。
まとめ
本記事では、持続可能な物流を実現するために重要な役割を担う物流統括管理者(CLO)について、その基本的な役割から求められるスキル、キャリアパス、設置による効果、そしてCLOが目指す物流の未来と課題に至るまでを詳しく解説しました。
物流CLOは、単に物流オペレーションを管理するだけでなく、企業全体のサプライチェーンを戦略的にリードし、業務の効率化、顧客満足度の向上、リスク管理、そして環境に配慮した持続可能な物流体制の構築を推進する重要な存在です。
物流の複雑化とともに、デジタル技術の導入や環境保全の重要性が増す現代において、CLOには広範な専門知識とリーダーシップが求められます。
また、物流CLOの設置によって、企業は物流の効率化やコスト削減に加え、柔軟でリスクに強い物流体制を構築し、競争優位性を高めることが可能になります。将来の物流では、AIやIoTなどの先端技術を活用したスマート物流の実現や、エコロジカルな物流への転換が必要とされています。CLOがこうしたビジョンに向けてリードすることで、企業は成長と持続可能な社会への貢献を両立させることができるでしょう。
物流CLOの重要性は今後ますます高まると予測されており、持続可能な物流の未来を実現するために欠かせない存在となっています。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。