はじめに 〜 脱炭素社会におけるテクノロジーの重要性
地球温暖化や気候変動への対応が世界的な課題となる中、「脱炭素社会」の実現は避けて通れない目標です。その鍵を握るのが、最新のテクノロジーです。特にAIやIoTの進化は、エネルギー効率化や炭素排出削減に向けた取り組みを加速させています。
AIは膨大なデータを解析し、エネルギー消費の無駄を見つけたり、最適な運用計画を立てたりすることが得意です。
IoT技術を使えば、センサーが機器や施設の状態をモニタリングし、エネルギー消費を詳細に把握することが可能になります。
これらのテクノロジーがもたらすのは単なる環境改善だけではありません。エネルギーコストの削減や、持続可能なビジネスモデルの構築、さらには規制への対応など、多くのメリットが期待されます。脱炭素社会の実現に向けて、テクノロジーは今後さらに重要な役割を果たしていくでしょう。
本記事では、AIとIoTを中心に、脱炭素に向けた最新のテクノロジーの役割と可能性について解説します。
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AIがもたらすエネルギー効率の向上
脱炭素社会におけるAIの役割は、エネルギー消費の最適化と効率向上を通じて、温室効果ガスの排出削減を支援する点にあります。AI技術は、多量のデータをリアルタイムで分析し、最適なエネルギー利用方法を導き出すことで、エネルギーの無駄を削減し、効率化を実現します。
以下に、AIがもたらすエネルギー効率の向上について解説します。
エネルギー消費の最適化
太陽光や風力発電は、天候や気候に左右されるため、供給の安定性が課題です。
天気予報や過去の発電データを分析して、発電量を正確に予測します。発電とエネルギー供給のバランスを調整することで、過剰なエネルギー消費や不足を防止します。
建物や工場のエネルギー効率化
AIを活用した「スマートビルディング」や「スマートファクトリー」では、エネルギーの使用状況をリアルタイムで監視し、最適化が行われます。
照明、空調、設備の稼働状況をAIが監視・制御し、必要なエネルギーだけを使用したり、過剰なエネルギー使用や機器の故障を早期に発見したりします。
工場では、AIが生産ラインを分析し、稼働効率を向上させることが可能になります。
モビリティと交通の最適化
輸送部門は、CO2排出量の大きな要因となっていますが、AIを活用して効率化が進んでいます。AIが交通状況や道路の混雑を分析し、最短かつ効率的なルートを提案します。
また、自動運転技術と組み合わせて燃料消費を抑制し、車両データを解析して、燃費効率を高めることができます。
スマートグリッドの運用
スマートグリッドとは、AIを活用して電力網を効率的に管理する次世代型の電力インフラのことで、電力需要をAIがリアルタイムで分析し、供給を調整し、エネルギーの流れを最適化し、無駄なエネルギー消費を抑制します。
また、配電網の異常を早期に検知し、迅速に修復します。
AIは、単なる効率化ツールではなく、エネルギーの使用方法そのものを変革する力を持っています。企業や社会全体でのAI活用は、脱炭素社会の実現に向けた大きな一歩となるでしょう。
IoTが支えるスマートなエネルギーマネジメント
IoTは、さまざまなデバイスをネットワークでつなぎ、リアルタイムでデータを収集・分析する技術です。この技術を活用することで、エネルギーの管理がよりスマートになり、脱炭素社会の実現に向けた大きな力となります。
以下に、IoTがもたらすエネルギーマネジメントの具体例を解説します。
エネルギー使用状況のリアルタイムモニタリング
センサーを活用して、施設や設備のエネルギー消費データをリアルタイムで収集。必要な場所だけにエネルギーを供給します。無駄なエネルギー消費を即座に発見し、改善策を講じることが可能です。
スマートグリッドとの連携
IoTは、地域や施設の電力需要と供給を最適化する「スマートグリッド」の中核技術です。
再生可能エネルギーの利用を最大化しながら、需要ピーク時のエネルギー供給を調整することで効率的な電力管理を実現します。
スマートシティの実現
都市全体でIoTを活用し、エネルギーの使用を最適化します。
IoTセンサーが歩行者や車を検知し、必要なときだけ点灯する、スマート街路灯や、信号機や公共交通機関がIoTで連携し、エネルギー消費を最小化します。
自動化されたエネルギー制御
IoTデバイスがエネルギー管理システムと連携し、照明や空調の自動制御を実施。使用状況に応じたエネルギー配分で効率化を図ります。
異常検知と予防保全
IoTセンサーが機器の状態を監視し、異常や劣化を検知。早期対応によるエネルギー効率の低下を防ぎます。発電機や空調設備の異常を事前に察知し、適切なメンテナンスを実施します。
IoTは、エネルギー使用をリアルタイムで把握・管理し、自動化と効率化を進める鍵となる技術です。これにより、エネルギーの無駄を削減し、持続可能な未来を支える基盤が整備されます。
成功事例から学ぶ企業の脱炭素戦略
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイグループは、2030年度までにグループ全体の店舗運営に伴うCO2排出量を2013年度比で50%削減、2050年度には実質ゼロを目指しています。
1.再生可能エネルギーの拡大と新会社設立
2024年8月、再生可能エネルギーの調達拡大を目的として、小売電気事業会社「株式会社セブン&アイ・エナジーマネジメント」を設立しました。これにより、グループ全体の再生可能エネルギー比率を2030年度までに約40%に引き上げることを目指しています。
出典)
https://www.7andi.com/company/news/release/202408140900.html?utm_source=chatgpt.com
2.オフサイトPPAによるグリーン電力を一部店舗に導入
2021年4月から、国内初のオフサイトPPA(電力購入契約)を通じて、NTTグループが所有する太陽光発電所から電力供給を受けています。これにより、セブン‐イレブン40店舗とアリオ亀有の店舗運営において、100%再生可能エネルギーの使用を目指します。
オフサイトPPAの仕組み
出典)
- 電気自動車用充電器の設置
「セブン‐イレブン」「イトーヨーカドー」「Ario」などの店舗に、電気自動車(EV)・プラグインハイブリッド自動車(PHV)用の充電器を設置し、有料充電サービスを提供しています。
電気自動車の導入は2024年2月末時点で約130店舗、約2,300台と設置されています。
出典)
キリンホールディングス株式会社
キリンホールディングス株式会社は、脱炭素社会の実現に向けて多角的な取り組みを展開しています。主な事例は以下のとおりです。
1,温室効果ガス(GHG)排出削減目標の設定と達成状況
キリングループは、2050年までにバリューチェーン全体のGHG排出量をネットゼロにする長期目標「SBTネットゼロ」を認定取得しました。(2022年7月に世界の食品産業で初)
また、2030年までに2019年比でScope1+2で50%減、Scope3で30%減を目指す「SBT1.5℃」目標も承認取得もされています。
2.再生可能エネルギーの導入
2024年1月から全国各地の全工場・全営業拠点で購入する電力を再生可能エネルギー100%にしています。具体的には、2022年から仙台工場・名古屋工場で、2023年から福岡工場・岡山工場・取手工場で、2024年から北海道千歳工場・横浜工場・滋賀工場・神戸工場・全営業拠点で再生可能エネルギーを導入しています。
3.大規模太陽光発電設備の導入
キリンビールの9工場(うち8工場はPPAモデル)に大規模太陽光発電設備を導入しています。キリングループロジスティクス、協和発酵バイオ、信州ビバレッジでも、敷地や建物の屋根の一部を大規模太陽光発電設備事業会社に賃貸して、自社資産の有効活用と自然エネルギーの普及促進に貢献しています。
4.容器包装の軽量化によるGHG排出削減
キリンビールとキリンビバレッジは、容器包装の軽量化を進め、1990年から2023年までの累計で533万トンのCO₂排出削減を達成しています。
出典)
https://www.kirinholdings.com/jp/impact/env/3_4a/?utm_source=chatgpt.com
佐川急便株式会社
1.バイオディーゼル燃料「サステオ」の活用佐川急便株式会社は、株式会社ユーグレナと協力し、次世代バイオディーゼル燃料「サステオ」をトラックに使用しています。「サステオ」は、食料との競合や森林破壊といった問題を起こさない持続可能性に優れたバイオマスを原料とするバイオ燃料であり、バイオマス原料を活用することから、化石燃料由来の燃料と相対的に比較した場合にCO2削減効果が期待されています。
これにより、浜松営業所の車両約100台で約8,000リットルの「サステオ」を使用し、4.11トン相当のCO2排出量を削減しました。これは樹齢40歳の杉の木が1カ月に吸収できるCO2量の約5,500本分に相当するそうです。CO2削減効果について、第三者機関の検証を受け透明性を確保した報告書を佐川急便株式会社から株式会社ユーグレナに発行もしています。
2.再配達削減の取り組み「スマートクラブ」を開発
「スマートクラブ」は、荷物の配達や受け取りに関するさまざまな機能を提供するWebサービスです。スマートクラブを利用することで、配達日時を簡単に変更したり、再配達、置き配指定などを依頼することができます。これにより受け取り時の利便性が向上し配送の効率化とCO₂排出の削減に寄与しています。お客様情報を入力するだけで簡単に利用することが可能です。
出典)
https://www2.sagawa-exp.co.jp/newsrelease/detail/2024/0424_2243.html
https://www.sagawa-exp.co.jp/service/smartclub/
脱炭素社会への課題と解決策
脱炭素社会を実現するためには、さまざまな課題が存在しますが具体的な解決策を講じることで、持続可能な未来への道が開かれます。
再生可能エネルギーの導入と安定供給
課題: 再生可能エネルギーの供給不安定性。太陽光や風力発電は天候や季節に依存し、安定的な供給が難しく、発電量の変動により、エネルギー供給が不足したり過剰になったりしてしまう。
また、エネルギー需要が急増する地域や時間帯に対応するため、化石燃料に依存するケースがまだ多い。
解決策:
・高性能な蓄電池やグリッドバッテリーを活用し、余剰電力を蓄えて需要に応じて供給するなどの、エネルギー貯蔵技術の開発。
・スマートグリッドやエネルギー貯蔵技術を活用し、供給の安定性を確保。
・太陽光、風力、水力、地熱など、異なる発電方法を組み合わせ、季節や気候に依存しないエネルギーミックスを実現。
インフラ整備の遅れ
課題: 再生可能エネルギーの発電施設や電力網の老朽化、地域格差が脱炭素化を妨げています。
また、電気自動車(EV)の普及に伴い、充電インフラの不足も問題となっています。
解決策:
・インフラ整備に向けた補助金や税制優遇措置の導入。
・民間企業と自治体が協力して、発電施設や充電ステーションを共同整備。
・地域ごとに発電と消費を完結させる「分散型エネルギー」の構築。
技術革新の必要性
課題: 脱炭素技術の多くは、効率性やコストの面でまだ発展途上であり、既存の化石燃料インフラを完全に代替するには技術革新が必要です。
解決策:
・水素エネルギーやCCUS(Carbon Capture, Utilization, and Storage:二酸化炭素の回収・利用・貯蔵)の開発など、政府や企業がR&D(研究開発)に積極投資する。
・AIやIoTを活用し、エネルギー利用の最適化を実現。
国民・企業の意識向上
課題: 環境意識の低さや、脱炭素化へのコスト負担への抵抗があり、消費者や企業の間で、コストや利便性を重視する意識が根強い。
解決策:
・学校教育にSDGs(持続可能な開発目標)を取り入れるなど、環境教育を通じて、脱炭素の重要性を広める。
・EV購入者への補助金、再生可能エネルギー契約での割引など、環境配慮型の選択をした個人や企業に対してポイント還元や税制優遇。
・サステナブルなパッケージやリサイクル素材の採用といった、環境に優しい製品をより手頃な価格で提供する。
高コストと経済的負担
課題: 再生可能エネルギー設備やEV、カーボンキャプチャー技術(CCUS)の初期投資が高額で、企業や自治体、個人の導入が進みにくい。
解決策:
・技術普及により生産量が増えるとコストが下がる、技術のスケールメリットを活用
・再生可能エネルギーや省エネ機器に対する補助金の利用や、税制面で優遇措置など、初期コストの負担を軽減。
・炭素税や排出権取引などカーボンプライシングの導入で化石燃料の使用コストを引き上げ、再生可能エネルギーの競争力を向上させます。
脱炭素社会の実現には、技術革新、政策の整備、そして全社会的な協力が必要です。課題ごとに解決策を進めることで、持続可能な未来に近づくことが可能です。
未来の展望 〜AIとIoTが導くエネルギー効率化の社会〜
脱炭素社会の実現には、AIとIoTの進化が欠かせません。この2つのテクノロジーが融合することで、エネルギーの利用が効率化され、環境負荷を大幅に削減する未来が描かれています。
AIは膨大なデータを解析し、エネルギー消費の無駄を見つける能力に優れています。一方、IoTはセンサーを通じてリアルタイムでエネルギー使用状況を監視し、即座にデータを提供します。この連携により、電力や水資源、燃料などの消費を最適化することが可能です。
これらの技術は、単にエネルギーの効率化を図るだけでなく、企業活動や地域社会全体のカーボンニュートラル実現を後押しします。AIとIoTの力で、より持続可能で効率的な未来が構築されつつあります。
まとめ
脱炭素社会の実現には、AIとIoTというテクノロジーが重要な役割を果たしています。脱炭素への取り組みは、地球規模の課題であると同時に、私たち一人ひとりにとっての未来をつくる挑戦です。AIとIoTの力を活用し、より良い未来を築くために、企業・政府・個人が協力して行動を起こすことが求められています。
この記事の執筆・監修者
「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。