2024年の改正物流効率化法の施行により、物流の“しわ寄せ”を荷主企業側が是正する動きが加速しています。これまで物流業者任せになりがちだった「待機時間」「荷役作業」「積載効率」などの課題に対し、国は大口荷主を中心に“特定荷主”としての責任を明確化。特定荷主に指定された企業には、物流実態の把握と改善の取り組みに関する報告義務が課され、従わなければ勧告・企業名の公表・罰則といったリスクも生じます。
本記事では、特定荷主の定義や該当基準、報告義務の具体的な内容、そして企業活動やサプライチェーンに及ぼす影響について、わかりやすく解説します。今後の実務対応に向け、荷主企業が取るべき準備とは何か、押さえておくべきポイントを整理します。
特定荷主とは?まずは定義を理解しよう
2024年からの物流効率化法改正を受けて、物流に関わる企業の間で「特定荷主」という言葉が注目されています。これは一部の大手荷主に対し、物流の現状や改善の取り組みについての「報告義務」を課す制度ですが、そもそも“荷主”とは誰を指すのか、なぜこのような制度が導入されたのか、基本から整理しておくことが重要です。ここでは、「荷主」の定義から、「特定荷主」制度の概要までを順に見ていきます。
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荷主とはそもそも誰を指すのか
荷主とは、物流業務において“貨物を出荷・配送してもらう側”の企業や団体を指します。製造業であれば完成品を運ばせるメーカー、小売業であれば商品を仕入れて店舗に届ける企業が該当します。つまり、物流会社に対して運送を依頼する立場にある事業者が荷主です。
物流効率化法における「特定荷主」の法的定義
国が定めた「特定荷主」とは、「一定以上の貨物を継続的に取り扱う大口荷主」のこと。
年間荷量が一定基準3,000トンキロ以上を超える企業が指定されます。これにより、物流の効率化や適正取引に向けた報告義務が発生します。
特定荷主制度が導入された背景と目的
この制度の背景には、深刻化する「物流の2024年問題」があります。トラックドライバーの時間外労働が規制される中、輸送能力の低下が懸念されており、物流効率化は業界全体の急務です。とりわけ、大量の荷物を扱う大企業が改善の取り組みに積極的に関与することが、サプライチェーン全体の最適化に欠かせないと判断されました。そのため「特定荷主」に対して、荷待ち・荷役時間の改善、共同配送の推進、運賃の適正化といった取り組み内容の提出が義務づけられたのです。
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特定荷主の該当基準とは?
2024年の物流効率化法改正により、一定規模以上の荷主企業には「特定荷主」としての報告義務が発生します。ここでカギとなるのが、「どこからが“特定”になるのか」という該当基準です。貨物量の算出方法や、なぜ9万トンという数値が設定されたのか、その根拠を押さえておくことで、自社が対象となるかどうかを正しく判断できます。
トラックで輸送される貨物量が9万トン以上の荷主が、特定荷主と定義される見込みで、自社全体の貨物の重量ではなく、第一種・第二種いずれかの立場による貨物の重量が9万トンを超える場合、特定荷主の基準を満たします。
特定第一種荷主
取扱貨物の重量:9万トン以上
貨物自動車運送事業者又は貨物利用運送事業 者に運送を行わせた貨物の年度の合計の重量
特定第二種荷主
取扱貨物の重量:9万トン以上
次に掲げる貨物の年度の合計の重量
①自らの事業に関して、運転者から受け取る貨物
②自らの事業に関して、他の者をして運転者から受け取らせる貨物
③自らの事業に関して、運転者に引き渡す貨物
④自らの事業に関して、他の者をして運転者に引き渡させる貨物
9万トンという基準値の根拠と例
基準値の根拠としては、国土交通省「全国貨物純流動調査(物流センサス)報告書」(令和5年3月)及び 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス – 活動調査」(令和5年6月27日)を元に試算し、第一種荷主、第二種荷主及び連鎖化 事業者の取扱貨物の重量が多い順に対象とし、 50%をカバーする基準値及び対象事業者数を算出。
引用)
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shomu_ryutsu/distribution/pdf/002_02_02.pdf
たとえば、1日あたり約250トンを出荷する企業(=10トントラック25台分)であれば、年間で9万トンを超える計算になります。製造業や食品・日用品メーカー、大規模小売事業者などでは、この基準を超える企業も多く、報告義務への対応が現実的な課題となっています。
特定荷主になると何が求められるのか?
「うちは対象かもしれない」と気になっている企業が、次に知っておくべきなのは、特定荷主としてどのような義務が課せられるのかということです。物流効率化法改正により、単なる報告だけでなく、持続可能な物流を目指す取り組みが企業に求められるようになります。ここでは、その中身を具体的に整理してみましょう。(※2025年4月の検討状況)
中長期計画の作成
「一回の運送ごとの貨物の重量増加」、「運転者の荷待ち時間・荷役等時間の短縮」に関する実施措置や実施時期、目標などを記載する必要があります。計画に変更がない場合は提出する必要はありませんが、その場合でも5年に1度、提出いただくことが必要です。
記載内容は、判断基準を踏まえつつ「運転者一人当たりの1回あたりの運送における貨物の重量の増加」「運転者の荷待ち時間の短縮」「運転者の荷役等時間の短縮」 の3つが定められました。それぞれに対し、①実施する措置 ②具体的な措置の内容・目標等 ③実施時期等 ④参考事項の4点の記載が必要となります。
物流統括管理者の選任
物流効率化に向けては、トラックドライバーの荷待ち時間等の短縮及び積載効率の向上等を促進するための関係部門(調達、生産、保管、販売等)や取引先等との調整が求められます。そこで、自社における物資の流通全体を統括管理し、事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者を経営幹部から選任する必要があります。
定期報告の作成
特定荷主の指定を受けた翌年度から、毎年度、物流効率化法で定められている努力義務の実施状況に関して国に報告する必要があります。
定期報告の記載内容は主に以下の予定です。
◼国が省令で定める判断基準についての事業者の遵守状況(チェックリスト形式)
◼判断基準に関して、物流事業者や納品先など他事業者と連携した取組状況(自由記述)
◼荷待ち時間等の状況
特に、荷待ち時間等の状況の報告については、特定荷主又は特定連鎖化事業者自身が荷待 ち時間等の現状を計測・把握し、どの程度改善する必要があるかを認識してもらうことが狙いとなっています。
対応しない場合の罰則・行政指導
業種ごとに求められている「荷待ち時間の短縮」や「積載効率の改善」などの努力を、国が定める基準と比べてあきらかに不十分と判断された場合、国から「こうした取り組みをしてください」と勧告されることがあります。
その勧告に従わないと、企業名などが公表されることがあります。さらに、正当な理由がないまま取り組みを行わなかった場合には、国から取り組みを強制する命令が出される可能性があります。
もしその命令にも違反した場合は、100万円以下の罰金が科されることもあります。
出典)
https://www.revised-logistics-act-portal.mlit.go.jp/
今、特定荷主がすべきこととは?
【1】自社が「特定荷主」に該当するかを確認する
まずは、自社が「特定荷主」(第一種または第二種)に該当するかを確認します。
【2】自社の物流実態を把握する
荷待ち時間、荷役時間、積載率、再配達率などを数値で把握し、荷主としての指示や契約条件が、物流業者に過剰な負担をかけていないかチェックします。
【3】物流改善のための取り組みを開始する
・荷待ち・荷役の時間短縮(予約システムの導入、作業効率化など)
・積載効率の向上(モーダルシフト、共同配送など)
・納品条件・発注頻度の見直し(小口配送の抑制、週単位のまとめ発注など)
【4】関係部門やパートナー企業と連携体制を構築
調達・営業・生産など、物流に関わる社内部署と横断的な体制づくりも重要です。物流パートナー(運送会社、倉庫事業者など)との改善会議・情報共有の場を設けましょう。
【5】報告義務への備え
物流改善の取り組み状況を国に報告する義務が発生します。そのため、日頃から改善施策とその効果を記録・可視化しておくことが重要です。
特定荷主に求められるのは、「物流のしわ寄せを是正し、サプライチェーン全体での持続可能性を確保する姿勢」です。法施行を受け身で待つのではなく、先手で改善に取り組むことが、企業の社会的信頼・競争力にもつながります。
まとめ
本記事では、「特定荷主」という新たな制度の概要から、対象基準、求められる報告義務や対応内容までを解説しました。物流のひっ迫が深刻化する中で、荷主企業にも「運ぶ責任」が求められる時代に入りつつあります。
特定荷主に該当するかどうかのチェックとともに、積載率の向上や荷待ち時間の削減といった自社の物流実態の把握と改善が、これからの企業活動において欠かせない視点です。
制度を単なる義務として捉えるのではなく、持続可能なサプライチェーン構築のきっかけと捉え、前向きに取り組む姿勢が問われています。
この記事の執筆・監修者

「BtoB領域の脳と心臓になる」をビジョンに、データを活用したアルゴリズムやソフトウェアの提供を行う株式会社アイディオットの編集部。AI・データを扱うエンジニアや日本を代表する大手企業担当者をカウンターパートにするビジネスサイドのスタッフが記事を執筆・監修。近年、活用が進んでいるAIやDX、カーボンニュートラルなどのトピックを分かりやすく解説します。